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第十六章 里帰り、あの人達は…
第502話 最後の最後で役に立ったよ…
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トアール国の王様が退位を決めてから、早一月が過ぎ…。
何故か、おいらはまだトアール国の王都にいるよ。
先日、この町に着いた宰相に大目玉を食らっちゃったよ。
一月の休暇の予定が倍以上に伸びちゃったからね。
それに、突然、トアール国の王都まで宰相を呼び寄せちゃったから。
何故、そんな事になっているのかと言うと…。
「マロンちゃん、有り難うね。
ネーブルへ贈って下さったドレス、とっても素敵だったわ。
あの輝くグリーンの生地、普通じゃ手に入らないのですってね。」
「お義母さんにも、喜んでもらえたようで良かったよ。
あれ、魔物の領域にしかいないイモムシの繭玉から出来ているの。
しかも、そこに森を持つ妖精がイモムシを保護してるから。
今まで、人の手には入らなかったんだ。
偶々、大発生したイモムシを間引くのを手伝ったら分けてもらえたの。」
「本当に貴重な物だったのね。
でも助かったわ。
急に輿入れが早まったものだから、十分な準備が出来なくてね。
ネーブルがこの国の貴族に侮られるのではと心配してたのよ。
でも、アルト様から頂戴した『妖精絹』で仕立てた純白のウエディングドレスから。
輝くようなライトグリーンのドレスへのお色直しはインパクトがあったわ。
この国の貴族達、感嘆していましたもの。
それに、マロンちゃんのおかげで十分な『生命の欠片』も用意できたし。」
そう、実はネーブル姉ちゃんのカズヤ殿下への輿入れが急遽行われることになってね。
アルトが、その連絡と国王夫妻のお迎えのため、シタニアール国へに行ってしまったの。
それで、おいらはウエニアール国へ帰れなくなっちゃたんだ。
カズヤ殿下が前王の血を引いていないことは、公然の秘密になっていて。
その王位継承権が、王太后のミントさんに由来する事は貴族であれば誰もが知っていることなんだ。
前王の取り巻き貴族連中の殆どは、カズヤ殿下が前王の血を引いてないことを良く思っていないみたいでね。
おいらが女王に即位した時と同様に、反対派を黙らせる後ろ盾を見せ付ける必要があるのではと言うことになったの。
それで、カズヤ殿下の即位に併せて、ネーブル姉ちゃんが輿入れすることになったんだ。
王太子になった時に、二人の婚約は公表されているけど、婚約は破棄することもできるからね。
ネーブル姉ちゃんに正式に嫁入りしてもらい。
それにあわせて、シタニアール国の国王夫妻がカズヤ殿下の即位式に臨席する。
それによって、両王家の結び付きの強さを示そうと考えたの。
おいらもその片棒を担いでいるの。
オランを通して、おいらもカズヤ殿下と親戚になるからね。
二人の結婚式とカズヤ殿下の即位式に臨席して、ウエニアール国の女王との結び付きも示したの。
アルトがいないと、おいら、即位式までにこの町とウエニアール国を往復できないからね。
馬車じゃ、急いでも一月近く掛かるから。
それで、おいらはこの町に留まることにしたんだ。
アルトが偶々この町の上空を通り掛かった妖精を捕まえてくれたよ、ウエニアール国への伝言係として。
宰相は、おいらの伝言を受け取って急ぎ駆け付けてくれたんだ。お祝いの品を携えてね。
お義母さん(シタニアール国の王后)が言ってた『生命の欠片』云々はというと。
ネーブル姉ちゃんが持参するお金とか物品については、輿入れが早まってもどうってことなかったそうだけど。
困ってしまったのは、ウェディングドレスと『生命の欠片』。
ウェディングドレスは、シフォン姉ちゃんと耳長族のお針子さんが涙目で徹夜仕事を続けてた。
ウエディングドレスとおいらが頼んだドレスが出来上がったのは、式の数日前だったよ。
王侯貴族の輿入れでは、『生命の欠片』を持参金の一部として持って行く習慣があるんだけど。
『生命の欠片』は、大国シタニアールでも余裕がないそうなんだ。
ネーブル姉ちゃんの婚約が決まってから、王様が公務の隙間を見て魔物狩りに出掛けていたそうだけど。
本来の輿入れまで半年近く日がある現時点では、目標数に達してなかったの。
お義父さん、お義母さんが着いてすぐに、『生命の欠片』を持ってないかと尋ねられたんだ。
余裕があれば、少し分けて欲しいとね。
もちろん、相談に乗ったよ。エロスキー子爵の別邸で討伐したワイバーンが落した欠片があったからね。
レベル四十相当分を譲ったのだけど、お礼に離宮が一つ建つくらいの銀貨を貰っちゃった。
それでも、お友達価格で、相場より大分少なめなんだって。
もっと払うと言ってたけど、それ以上もらえなかったよ。
貰った分だけでも、マイナイ伯爵領に建てた離宮の建設費よりも多いんだもの。
**********
そんな訳で、今はカズヤ殿下の即位式典に続き、ネーブル姉ちゃんとの結婚式が終わったところ。
この一月で何があったかと言うと。
エロスキー子爵の別邸にガサ入れしてから数日後。
捕えた者達の尋問が終了し、王都の中央広場で今回の事件の概要が公表されたの。
そこで、捕えた者達の氏名や罪状も全て、民に向けて詳らかにされたんだ。
保護された娘さん達の数や賠償の支払い、今後の処遇などもね。
この時点では、殺害された娘さん達の数や身元はまだほとんど明らかにはなってなかったの。
五百人を上回る遺体が収容され、今後、何倍にも増える見通しだってことだけが伝えられてた。
例によって、アルトが設えてくれた舞台の上で公表したんだけど。
黒山の人だかりができた広場は、王侯貴族を糾弾する声で包まれたよ。
捕縛した貴族の全員を死罪とし、順次公開処刑に付すと発表しても非難の声は納まらず。
一歩間違えれば、暴動になりそうな不穏な空気に包まれたの。
その時。
「皆の者、聞いてくれ。
余の不徳の致すところで、貴族達の暴走を許してしまい誠にすまなかった。
貴族達が増長し、民を顧みることが無かったのは。
余の監督不行き届きに負うところが大きいと反省している。
余はこの不祥事の責任を取って退位することとした。
皆の者、頼む。
ここに居る王太子に、貴族の腐敗を正し、国を立て直す機会を与えてはくれまいか。」
舞台の真ん中に立った王様が、そう言って深々と頭を下げたの。
王様の言動を見て、広場はシーンとしちゃったよ。
みんな、驚いて声も出なかったみたい。
それまで、国王は間違いを認めてはならず、絶対に頭を下げないものだと言われていたからね。
なのに、自らの非を認めて、国王が民に対して頭を下げたんだから。
でも、これ、宰相と公爵の仕込みだよ。
王様は、頭を下げるのは嫌だとごねたんだ。
仕事もしない癖にプライドだけは高いからね、他のダメ貴族と同じで。
でも。
「今回の件は、バカ貴族を野放しにしたあんたの責任なんだからね。
安穏とした隠居生活が送りたければ、後始末くらいきちんとしなさい。
そんな頭の一つや二つ下げる事なんてどうってこと無いでしょう。
どうせ、帽子を乗っけるくらいしか役に立たないのだから。」
そんな言葉を口にしながら、アルトが青白い光の玉を出して王様を脅したところ。
小心者の王様は、それに怯えて渋々承諾したんだ。
そんな訳で、最初はやる気なさそうに舞台に立っていたんだけど。
民衆の不穏な空気を感じ取って、流石にヤバいと感じたみたいなんだ。
当初、王様の態度が悪くて、却って民の怒りに油を注ぐんじゃと一抹の不安を感じてたけど。
さすが小心者、民の怒りをぶつけられてはならじと、プライドをかなぐり捨てて平身低頭してたよ。
平謝りの王様を目にして、民衆は留飲を下げたみたい。一転して不穏な空気が晴れたんだ。
この王様、最後の最後で初めてお国の為に役立ったね。
その流れを引き継いで、カズヤ殿下が王位に就く挨拶をして。
今後、貴族の横暴を厳しく取り締まっていくと宣言すると、民衆の間に歓声が上がっていたよ。
既にワイバーンを撃退した英雄と周知されていたこともあって、民衆に歓迎された様子だった。
**********
それで、捕えられていた人達だけど。
カズヤ殿下は十分な補償と仕事の斡旋を指示したんだ。
薬漬けにされて監禁されていた娘さん達は、『妖精の泉』の水で薬は抜けたものの。
監禁されて色々悪さをされた事で、精神的にまいっている人が多かったの。
そんな娘さん達は、心身ともに健康な状態に回復するまで国が保護することにしたよ、
また、エロスキー子爵の別邸には、そこで生まれた奴隷がいたんだ。
生まれながら奴隷として使われていた人達は、外の世界を知らないからね。
一般常識も教えないで放り出したら、問題を起こすのが目に見えるようだったので。
国が一定期間、生きて行くための知識を教えることにしたんだ。
そのために、取り潰した貴族の屋敷一つを、保護施設として利用することになったの。
そこで暮らしてもらって、その間の衣食住は無償で支給するって。
娘さん達は健康状態が回復するまで、奴隷達は一定の知識が身に付くまでね。
今回取り潰した貴族八十九家から没収した私財の一部を、基金にして一連の被害者救済に当てるそうだよ。
殺害された娘さんについては、まだ子爵の別邸裏の森を探索しているよ。
既に、三千体分を超える遺骨が見つかったけど、終わりが見えてこないらしいの。
古い人骨の身元特定は難しいって。
ただ、最近の人に関しては、薬草畑で奴隷にされた娘さんの証言から少しだけ身元が分かって来たの。
奴隷の娘さんと一緒に王都に出て来て、共に子爵別邸に連れ込まれた娘さんの名前が分かったから。
奴隷にされた娘さんの他は、全員が薬漬けにされた訳だからね。
生きて保護された二百三十人の中に居なければ、殺されてしまったのだろうと推測できたんだ。
ただ、それは精々が百人に満たないと言うことだよ。悲しいね…。
カズヤ殿下は、身元の分かった娘さんの家族には、連絡と共に十分な見舞金を送るよう官吏に指示していたよ。
そして、今日。
「マロンちゃん、そろそろ行きましょう。
義理の娘の晴れの日ですもの。
遅刻する訳にはいきませんわ。」
義理の娘って、おいらじゃなくて、ライム姉ちゃんだよ。
そう、ご禁制の薬草の摘発とワイバーン退治に協力したことに対する褒賞が授与されるんだ。
対象は、ライム姉ちゃんとクッころさん達ハテノ領騎士団の八人。
それは、どんなものかと言うと…。
何故か、おいらはまだトアール国の王都にいるよ。
先日、この町に着いた宰相に大目玉を食らっちゃったよ。
一月の休暇の予定が倍以上に伸びちゃったからね。
それに、突然、トアール国の王都まで宰相を呼び寄せちゃったから。
何故、そんな事になっているのかと言うと…。
「マロンちゃん、有り難うね。
ネーブルへ贈って下さったドレス、とっても素敵だったわ。
あの輝くグリーンの生地、普通じゃ手に入らないのですってね。」
「お義母さんにも、喜んでもらえたようで良かったよ。
あれ、魔物の領域にしかいないイモムシの繭玉から出来ているの。
しかも、そこに森を持つ妖精がイモムシを保護してるから。
今まで、人の手には入らなかったんだ。
偶々、大発生したイモムシを間引くのを手伝ったら分けてもらえたの。」
「本当に貴重な物だったのね。
でも助かったわ。
急に輿入れが早まったものだから、十分な準備が出来なくてね。
ネーブルがこの国の貴族に侮られるのではと心配してたのよ。
でも、アルト様から頂戴した『妖精絹』で仕立てた純白のウエディングドレスから。
輝くようなライトグリーンのドレスへのお色直しはインパクトがあったわ。
この国の貴族達、感嘆していましたもの。
それに、マロンちゃんのおかげで十分な『生命の欠片』も用意できたし。」
そう、実はネーブル姉ちゃんのカズヤ殿下への輿入れが急遽行われることになってね。
アルトが、その連絡と国王夫妻のお迎えのため、シタニアール国へに行ってしまったの。
それで、おいらはウエニアール国へ帰れなくなっちゃたんだ。
カズヤ殿下が前王の血を引いていないことは、公然の秘密になっていて。
その王位継承権が、王太后のミントさんに由来する事は貴族であれば誰もが知っていることなんだ。
前王の取り巻き貴族連中の殆どは、カズヤ殿下が前王の血を引いてないことを良く思っていないみたいでね。
おいらが女王に即位した時と同様に、反対派を黙らせる後ろ盾を見せ付ける必要があるのではと言うことになったの。
それで、カズヤ殿下の即位に併せて、ネーブル姉ちゃんが輿入れすることになったんだ。
王太子になった時に、二人の婚約は公表されているけど、婚約は破棄することもできるからね。
ネーブル姉ちゃんに正式に嫁入りしてもらい。
それにあわせて、シタニアール国の国王夫妻がカズヤ殿下の即位式に臨席する。
それによって、両王家の結び付きの強さを示そうと考えたの。
おいらもその片棒を担いでいるの。
オランを通して、おいらもカズヤ殿下と親戚になるからね。
二人の結婚式とカズヤ殿下の即位式に臨席して、ウエニアール国の女王との結び付きも示したの。
アルトがいないと、おいら、即位式までにこの町とウエニアール国を往復できないからね。
馬車じゃ、急いでも一月近く掛かるから。
それで、おいらはこの町に留まることにしたんだ。
アルトが偶々この町の上空を通り掛かった妖精を捕まえてくれたよ、ウエニアール国への伝言係として。
宰相は、おいらの伝言を受け取って急ぎ駆け付けてくれたんだ。お祝いの品を携えてね。
お義母さん(シタニアール国の王后)が言ってた『生命の欠片』云々はというと。
ネーブル姉ちゃんが持参するお金とか物品については、輿入れが早まってもどうってことなかったそうだけど。
困ってしまったのは、ウェディングドレスと『生命の欠片』。
ウェディングドレスは、シフォン姉ちゃんと耳長族のお針子さんが涙目で徹夜仕事を続けてた。
ウエディングドレスとおいらが頼んだドレスが出来上がったのは、式の数日前だったよ。
王侯貴族の輿入れでは、『生命の欠片』を持参金の一部として持って行く習慣があるんだけど。
『生命の欠片』は、大国シタニアールでも余裕がないそうなんだ。
ネーブル姉ちゃんの婚約が決まってから、王様が公務の隙間を見て魔物狩りに出掛けていたそうだけど。
本来の輿入れまで半年近く日がある現時点では、目標数に達してなかったの。
お義父さん、お義母さんが着いてすぐに、『生命の欠片』を持ってないかと尋ねられたんだ。
余裕があれば、少し分けて欲しいとね。
もちろん、相談に乗ったよ。エロスキー子爵の別邸で討伐したワイバーンが落した欠片があったからね。
レベル四十相当分を譲ったのだけど、お礼に離宮が一つ建つくらいの銀貨を貰っちゃった。
それでも、お友達価格で、相場より大分少なめなんだって。
もっと払うと言ってたけど、それ以上もらえなかったよ。
貰った分だけでも、マイナイ伯爵領に建てた離宮の建設費よりも多いんだもの。
**********
そんな訳で、今はカズヤ殿下の即位式典に続き、ネーブル姉ちゃんとの結婚式が終わったところ。
この一月で何があったかと言うと。
エロスキー子爵の別邸にガサ入れしてから数日後。
捕えた者達の尋問が終了し、王都の中央広場で今回の事件の概要が公表されたの。
そこで、捕えた者達の氏名や罪状も全て、民に向けて詳らかにされたんだ。
保護された娘さん達の数や賠償の支払い、今後の処遇などもね。
この時点では、殺害された娘さん達の数や身元はまだほとんど明らかにはなってなかったの。
五百人を上回る遺体が収容され、今後、何倍にも増える見通しだってことだけが伝えられてた。
例によって、アルトが設えてくれた舞台の上で公表したんだけど。
黒山の人だかりができた広場は、王侯貴族を糾弾する声で包まれたよ。
捕縛した貴族の全員を死罪とし、順次公開処刑に付すと発表しても非難の声は納まらず。
一歩間違えれば、暴動になりそうな不穏な空気に包まれたの。
その時。
「皆の者、聞いてくれ。
余の不徳の致すところで、貴族達の暴走を許してしまい誠にすまなかった。
貴族達が増長し、民を顧みることが無かったのは。
余の監督不行き届きに負うところが大きいと反省している。
余はこの不祥事の責任を取って退位することとした。
皆の者、頼む。
ここに居る王太子に、貴族の腐敗を正し、国を立て直す機会を与えてはくれまいか。」
舞台の真ん中に立った王様が、そう言って深々と頭を下げたの。
王様の言動を見て、広場はシーンとしちゃったよ。
みんな、驚いて声も出なかったみたい。
それまで、国王は間違いを認めてはならず、絶対に頭を下げないものだと言われていたからね。
なのに、自らの非を認めて、国王が民に対して頭を下げたんだから。
でも、これ、宰相と公爵の仕込みだよ。
王様は、頭を下げるのは嫌だとごねたんだ。
仕事もしない癖にプライドだけは高いからね、他のダメ貴族と同じで。
でも。
「今回の件は、バカ貴族を野放しにしたあんたの責任なんだからね。
安穏とした隠居生活が送りたければ、後始末くらいきちんとしなさい。
そんな頭の一つや二つ下げる事なんてどうってこと無いでしょう。
どうせ、帽子を乗っけるくらいしか役に立たないのだから。」
そんな言葉を口にしながら、アルトが青白い光の玉を出して王様を脅したところ。
小心者の王様は、それに怯えて渋々承諾したんだ。
そんな訳で、最初はやる気なさそうに舞台に立っていたんだけど。
民衆の不穏な空気を感じ取って、流石にヤバいと感じたみたいなんだ。
当初、王様の態度が悪くて、却って民の怒りに油を注ぐんじゃと一抹の不安を感じてたけど。
さすが小心者、民の怒りをぶつけられてはならじと、プライドをかなぐり捨てて平身低頭してたよ。
平謝りの王様を目にして、民衆は留飲を下げたみたい。一転して不穏な空気が晴れたんだ。
この王様、最後の最後で初めてお国の為に役立ったね。
その流れを引き継いで、カズヤ殿下が王位に就く挨拶をして。
今後、貴族の横暴を厳しく取り締まっていくと宣言すると、民衆の間に歓声が上がっていたよ。
既にワイバーンを撃退した英雄と周知されていたこともあって、民衆に歓迎された様子だった。
**********
それで、捕えられていた人達だけど。
カズヤ殿下は十分な補償と仕事の斡旋を指示したんだ。
薬漬けにされて監禁されていた娘さん達は、『妖精の泉』の水で薬は抜けたものの。
監禁されて色々悪さをされた事で、精神的にまいっている人が多かったの。
そんな娘さん達は、心身ともに健康な状態に回復するまで国が保護することにしたよ、
また、エロスキー子爵の別邸には、そこで生まれた奴隷がいたんだ。
生まれながら奴隷として使われていた人達は、外の世界を知らないからね。
一般常識も教えないで放り出したら、問題を起こすのが目に見えるようだったので。
国が一定期間、生きて行くための知識を教えることにしたんだ。
そのために、取り潰した貴族の屋敷一つを、保護施設として利用することになったの。
そこで暮らしてもらって、その間の衣食住は無償で支給するって。
娘さん達は健康状態が回復するまで、奴隷達は一定の知識が身に付くまでね。
今回取り潰した貴族八十九家から没収した私財の一部を、基金にして一連の被害者救済に当てるそうだよ。
殺害された娘さんについては、まだ子爵の別邸裏の森を探索しているよ。
既に、三千体分を超える遺骨が見つかったけど、終わりが見えてこないらしいの。
古い人骨の身元特定は難しいって。
ただ、最近の人に関しては、薬草畑で奴隷にされた娘さんの証言から少しだけ身元が分かって来たの。
奴隷の娘さんと一緒に王都に出て来て、共に子爵別邸に連れ込まれた娘さんの名前が分かったから。
奴隷にされた娘さんの他は、全員が薬漬けにされた訳だからね。
生きて保護された二百三十人の中に居なければ、殺されてしまったのだろうと推測できたんだ。
ただ、それは精々が百人に満たないと言うことだよ。悲しいね…。
カズヤ殿下は、身元の分かった娘さんの家族には、連絡と共に十分な見舞金を送るよう官吏に指示していたよ。
そして、今日。
「マロンちゃん、そろそろ行きましょう。
義理の娘の晴れの日ですもの。
遅刻する訳にはいきませんわ。」
義理の娘って、おいらじゃなくて、ライム姉ちゃんだよ。
そう、ご禁制の薬草の摘発とワイバーン退治に協力したことに対する褒賞が授与されるんだ。
対象は、ライム姉ちゃんとクッころさん達ハテノ領騎士団の八人。
それは、どんなものかと言うと…。
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