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第十六章 里帰り、あの人達は…
第501話 やっぱり、働きたくなかったんだね…
しおりを挟む国王としての務めを半ば放棄している王様に、宰相は呆れ果てたって表情で退位を勧めたんだ。
それに同調する公爵とモカさん。
エロスキー子爵が起こした不祥事で取り巻き貴族の多くを失った王様は追い詰められちゃった。
「嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ。
お前ら、余が退位したら余を亡き者とするつもりであろう。
誰が退位などするものか、余はこれからも面白おかしく生きて行くのだ。」
しょうもないことを言って退位を拒む王様に。
「はて、何故、私達が陛下を亡き者にせねばならないのですか?
仰る意味を理解しかねますが。」
「お前ら、何を惚けているのだ。
王は即位する際に、前王からレベルを引き継ぐものではないか。
余は、病の床にある父王から短剣を握らされてそう言われたぞ。
お前らだって常々言っておるではないか。
王は国で最強でなければならないのだから鍛錬せよと。
国の一大事には王が先頭に立って戦うものだと。」
王様の言ったことはある意味正しくて。
通常、王位は終身制なんだ。
老いや病で死の床に伏した王は、王太子に自分を殺害させ王位と共にレベルを譲り渡す習わしになっているの。
それは、老いや病による自然死では、『生命の欠片』は顕在化せずに持ち主の命と共に消えて仕舞うから。
『生命の欠片』って難儀なもので、殺して奪い取らないと引き継げないんだよね。
そもそも、何でそうなっているかと言うと。
王様が言った通りで、国が脅かされる事態があれば国王が率先して戦わないといけないから。
この大地では、厄災なんて呼ばれる魔物に襲われることがあるからね。
対抗するためには、レベルを分散させるより一人の強者に集めた方が良いと昔の人は考えたみたい。
魔物の脅威から国を護って、他国の侵略から国を護って、先頭に立って戦う者が国王だった訳だね。
だから、通常、この大地に存する国では国王が一番高レベルなんだけど…。
この国の場合は、それが形骸化しているんだよね。
一番高レベルの者が王であるべきなんて言っちゃうと、目の前にいる公爵が国王のはずだもの。
二百年前の愚王が、アルトの森に攻め入って返り討ちにされてしまい。
国王をはじめ高レベル者の生命の欠片が、アルトに奪い取られちゃったからね。
王族ではたった一人、末の王子だけがアルトに命乞いして助かったんだけど。
その時、末の王子のレベルは、十とも、二十とも言われているの。
一方の公爵家は、アルトの森への侵攻に加わらなかったらしくてね。
現在、この国で一番高いレベルを受け継いでいると言われているんだ。
ただし、レベルを口にするのはご法度だから、実際のところは分からないんだけどね。
それにおいらの見立てでは、つい最近までこの国で一番強かったのはモカさんだと思うんだ。
公爵に会ったのは今日初めてだけど、見た目には如何にも文官と言った感じだもの。
全然鍛錬して無さそうだし、幾らレベルだけ高くてもね。
それに引き換えモカさんは鍛錬を欠かしてないみたいだし。
モカさんの家も、アルトの森への侵攻には加わっていなかったようだからね。
実は、レベルも相当高いんじゃないかと思っているの。
そんな訳で、一番強い者、一番レベルの高い者が王になるべきなんて言っちゃうと…。
ぶっちゃけ、今の王様が国王ってのは有り得ないことなんだ。
以前、聞かされた話だと。
王家のレベルが失われた時、公爵やモカさんのご先祖は王家に成り代わろうとは思わなかったそうなの。
忠誠心が強かったかどうかは分からないけど、そんな事をすれば国が乱れると考えたかららしいよ。
この国、小国を統一して間もなかったので、簒奪などやろうものなら国が分裂しかねなかったし。
王家が弱ったことに付け込まれて、周囲の大国から攻め込まれるかも知れないからね。
公爵やモカさんのご先祖は王家に成り代わるより、王家を支えて国の安定を保つ方を選択したんだって。
そんな家臣たちの忠孝に応えるべく、ここ二百年の国王は非常に勤勉だったそうで。
政務に専念する傍ら、失われたレベルを回復すべく定期的に魔物の領域に足を踏み入れていたみたい。
まあ、実際、働き過ぎでここ二百年の王様は皆、若死にだったのは間違いないみたいだけどね。
**********
「陛下はそのような事を気にしてらしたのですか。
安心召されよ。
陛下が退位なされても、王太子殿下に手は出させませんよ。
陛下が気ままな隠居生活をし、天寿をまっとうされることをお約束いたします。」
王様の懸念を払拭させるように、宰相が答えると。
「はい、陛下、私もお誓い申し上げます。
陛下が退位されても、決して陛下を手に掛けることは致しません。
陛下は心安らかに、隠居生活を楽しんでください。」
カズヤ殿下も王様を宥めるようとしたのだけど。
「嘘じゃ! お前ら、そうやって余をたばかって。
退位したら直ぐにでも一服盛るつもりであろうが!
余は、お前らの言う事など信用せんぞ。」
類は友を呼ぶと言うけど、エロスキー子爵とかロクでもない奴の言葉はすぐに信用するのに。
真っ当な人の言葉は信用しないんだね。
「陛下、お二方の言葉を信用しても大丈夫でございますよ。
陛下のレベルは、カズヤ殿下にとってもう必要なものでは無いのです。
先ほどの話を聞いておりましたでしょう。
カズヤ殿下は昨夜、ワイバーン九体を討伐しておるのですぞ。
既に、陛下のレベルは端数程度の意味しか無くなっております。」
カズヤ殿下にとって王様のレベルは必ずしも重要でないと、おいらも分かっていたんだけど。
王様は気付いていない様子なので、モカさんが説明していたよ。
「はい、クレーム騎士団長の言う通りです。
陛下の『生命の欠片』を私にくださる必要はございません。
陛下が天に召される時、そのまま、天に持って行ってくださって結構です。
それでも、私達を信用できないと言うのであれば…。
何処か、私達の手の届かない遠い地で暮らされてもかまいませんよ。
楽隠居できるだけの予算は用意しますので。」
カズヤ殿下の『楽隠居できるだけの予算は用意する』と言う言葉を聞いて。
王様はピクっと反応したかと思ったら。
「カズヤ、それは真か?
余の命は狙わぬ、楽しい隠居生活を送らせてくれると誓えるか?」
案の定、食いついたよ。
やっぱり、王様、仕事したくなかったんだね。
「そう、それじゃ、私がその誓いの証人になってあげるわ。
妖精の前で成した誓約は、半永久的に絶対よ。
誓約を違えることの怖ろしさは、あんたが一番良く解かっているでしょう。」
珍しくアルトが協力を申し出て来たよ。
更に。
「陛下が退位すると仰せなら。
二妃と三妃をお世話係として付けようではございませんか。
本来は貴族身分を剥奪の上、追放処分が妥当なのですが。
妃と貴族の身分は剥奪しますが、平民の使用人として採用致します。」
宰相が一つ餌をぶら下げたんだ。
身分は無くなるけど、今まで通り二妃と三妃を側に置いてよいと。
実のところ、宰相は二妃と三妃のことを気に掛けていたらしいの。
お家取り潰しの上、王宮から追放となると路頭に迷うのが目に見えているから。
妃と貴族の身分さえ剥奪しておけば、王様の側に置いておくのも良いと思ったみたい。
それさえしとけば、万が一、身籠っても王位継承権は発生しないからね。
「おお、お前が証人になってくれるのなら有り難い。
そうだな、命を狙われることのない安全な場所を用意してくれ。
そこで、二妃、三妃と共に不自由の無い暮らしができるのであれば退位しても良いぞ。」
やっと、王様は退位を受け入れる気になってくれたよ。
王様の要望に従って、カズヤ殿下は王様の命を狙わないと誓いを立ててたよ。
加えて、王様が要求した安全な住居と不自由のない暮らしを保証することも。
こうして、問題ばかり起こしていた王様の退位が決まったんだ。
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