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アイイロモンペ

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第十六章 里帰り、あの人達は…

第500話 とうとう、引導を渡されちゃったね

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 仕事をサボりたい王様が、適当に権限を放り投げて汚職の温床になってたみたい。
 それを唆していたのが、エロスキー子爵だと暴露しちゃった王様はモカさん達から白い目で見られていたよ。

「私は陛下と歳が近いこともあり。
 幼少の頃に陛下の遊び相手を申し付かって、お側に上がりました。
 その頃からあれほど申し上げていたではございませんか。
 お付き合いする相手は、慎重に選ばないとダメだと。
 エロスキー子爵の如き愚物と付き合われてはいけないと。」

 エロスキー子爵は、大した役職にも付いておらず、知行地も大したことが無いそうなの。
 にもかかわらず、羽振り良く散財していたみたいでね。
 モカさんは、子爵が何か良からぬことに手を染めているのではと常々思っていたんだって。
 王のお世話係としてそれを進言していたらしいけど、王様は耳を貸さなかったそうなの。

「煩いわ、余の意向を酌んでくれたのは子爵とその仲間達だけではないか。
 お前など、父上に引き合わされたその日に、いきなり王宮三周も走らせおったのだぞ。
 遊び相手とか言っておるが、その遊びは剣術の稽古や乗馬、それに王宮周回駆けっこだ。
 そんなしんどい遊びを、五歳かそこらの子供が喜ぶと思うのか。
 それが終わると、今度は国の地図を広げて、部分部分を指差し。
 領地と領主の名前、それにその地の特産品を覚えろと言う。
 それの何処が遊びなのだ。」

 厳格な騎士の家に生まれ育ったモカさんにとって、遊びとは武芸の稽古や体力作りだったみたい。
 王様もいざという時は先頭に立って戦うものだと聞いていたモカさん。
 子供心に、王様も自分と一緒に体力作りをした方が良いと思ったみたい。
 また、王都の外へ出たことが無かった子供の頃のモカさん。
 国の地図を眺めて、広い世界に憧れていたらしいの。
 王都から離れた町や村にはどんな景色があって、どんな特産品があるか。
 それを知るのが楽しみで、自分のワクワクを王様にも分けてあげようと思ったらしいよ。

 でも、王様にはそんな高尚な趣味は無かったようで…。

「余はお前と遊ぶのが苦痛以外の何物でもなかったわ。
 その点、エロスキー子爵は余を楽しませてくれたのだ。
 着替えを覗きに女官の更衣室に忍び込んだり。
 王宮の厨房に摘み食いに忍び込んだりもした。
 お前の目を盗んで、初めて風呂屋に連れて行ってくれたのも子爵だった。
 カードやサイコロを使った遊びだって教えてくれたのは子爵だ。
 大分、授業料を巻き上げられたがな。
 余は子爵とその仲間達と過ごす時間が、一番楽しかったのだぞ。」

 切々としょうもないことを語る王様。
 カードやサイコロを使った遊びって…、それ博打じゃない。
 しかも、初心者なのを良いことに、子爵たちのカモにされてたみたいだし…。

 でも、おいら、思ったよ。
 そんなロクでもない輩を王様の側に近付けるなよと。

 王様が本当に小さい頃は、モカさんを始め選ばれた少数の者だけだったみたい。
 王様の遊び相手として、側に居られる子供は。
 でも、王様が十二歳になる頃、譜代の子供なら誰でも王宮へ遊びに来れるようなったらしいの。
 それは、次期王として譜代を掌握するために、同年代の譜代の子供と交流を図る目的だったみたい。
 当時の大人達も、殿下に悪い遊びを教える悪ガキが居るとは思いもしなかったみたい。

      **********
  
「だいたい、お前らは、やれ予算書だ、やれ新しい法令だと大量に仕事を上げてくるし。
 挙げ句、騎士の選定は余が直接するものだとか、地方巡幸は毎年欠かさず行えだとか言いおって。
 余に働かせようとするではないか。
 お前らの言う通りにして居ったら、体が幾つあっても足らんぞ。」

 王様は宰相達三人に対してそんな不満をぶつけたんだけど。

「はて、私めは、予算案にしても、法案にしても万事整えて陛下に奏上しておりますが。
 私は陛下に常々、奏上したものを隅から隅まで目を通し裁可してくださいとお願いしているだけで。
 何かご無理を言ってましたかな?
 政務の最終決裁者は陛下なのですから、万事把握しておくのは当然でございましょう。
 先王陛下は、隅々まで目を通され、些細な疑問点でも質してこられましたぞ。」

「騎士は、国を、王族を、民を護る大事な仕事なのですぞ。
 陛下が候補者の人となりを十分に把握し、納得のいく者を選ばずしてどうなさるのです。
 もし、陛下が戦場に出た時、人となりが分からぬ者に背中を預けることが出来ますか?
 陛下が即位されてから創設された番外騎士団、あのような愚か者共に背中を預けられますか?」

「この国は陛下のモノなのですよ。
 国内を回らずして、如何に国勢を把握すると言うのですか。
 何らかの要因で民が困窮していた場合、早期に発見することが出来ますし。
 貴族や代官が公金横領や税の着服と言った不正を成す事への牽制にもなるのです。
 現に歴代の国王は欠かさずにしておられたではないですか。」

 三人から一斉に反論が返って来たよ。

「うるさい、うるさい、うるさい。
 お前ら、何かと言えば歴代の王はしてきたと申すが…。
 先王は激務に忙殺された挙句、早死にしてしまったではないか。
 余の目には、父上が国王ではなく、国に使役される奴隷に見えたわ。
 エロスキー子爵は常々言っておったのだ。
 政務なんて全て下の者に放り投げて、王はサインだけすれば良いのだと。
 そして、『万事良きに図らえ』とだけ言っていれば良いとな。
 奴こそは、王の本質を理解しておってわ。」

 エロスキー子爵は、怠け者の王様にそんな事を唆していたらしいよ。
 実際、騎士の選任や地方王領の統治を子爵達に丸投げしちゃったらしいからね。
 それで子爵は、騎士や代官の任命に関与して、私腹を肥やしていた訳だ…。

 王様もそんなに仕事をしたくないなら、王様をやめちゃえば良いのに。

      **********

「分かりました、陛下。
 そうまで仰るのであれば、退位なされ。
 今回の一件、エロスキー子爵の如き愚物を野放しにした陛下の責任は重う御座います。
 にもかかわらず、一件に関与した者を毅然とした態度で裁けないのであれば。
 臣下や民の信を失うのは必定、もはや、陛下に国を治めるのは難しいと思います。」

 宰相もおいらと同じ感想を持った様子で、王様に退位を勧めたよ。

「宰相、何を申すか。
 余は、世継ぎを成すまで退位なんぞせんぞ。
 余が退位したら、誰が王位を継ぐのだ?
 正当な王位継承者は居らんのだぞ。」

 いや、そのセリフは失礼だよ。同じ部屋に王太子のカズヤ殿下とミントさんも控えているのに。

「陛下、何を異なことを申されるのですか。
 立派な王太子殿下がここにおられるではないですか。
 正式に王太子となられたカズヤ殿下を前に、そのお言葉は正気を疑いますぞ。」

 すかさず、宰相が王様を諫めたんだけど…。

「ふざけるな、そんな何処の馬の骨の子供か分からん奴に王位を譲れるか。
 今は、建前で王太子に据えておるが、余の血を引く子が出来た暁には廃位してやるわ。」

 王様、言っちゃいけない本音をぶちまけたよ。
 すると…。

「ほう、王太子殿下を廃位すると仰せですか。
 ですが、陛下、何処の誰が陛下の血を引く子を産むのですかな?
 陛下、お手元にあるに捕縛者名簿を良く御覧なされ。」

 自分の孫を『何処の馬の骨か分からない』と貶された公爵が、意味ありげに王様に告げたんだ。
 捕縛した者達の報告書に改めて目を通す王様。

「これが、何だと申すか?
 余の子を産むのは二妃か三妃に決まっておろう。
 こんなものを見るまでも無いであろうが。」

「陛下、きちんと目を通さないと駄目で御座いましょう。
 公爵の仰ることが理解できませんか。
 二妃、三妃共に実家の当主が捕縛されているのです。
 両家とも、薬漬けにされて監禁されていた町娘複数と大量の『ラリッパ草』が発見されていますぞ。
 二妃の実家に至っては、摘発に入った際、当主、夫人、長男の三人が『ラリッパ草』の服用中であったそうです。」

 パラパラと適当に流し見していた王様を諫めた宰相が、迂闊な王様に重要な説明をしてたよ。
 事の重大さが理解できない王様に対して。

「まだわかりませんか。
 二妃、三妃の実家共に、当主は公開処刑、お家は取り潰しになります。
 これほどの重罪を犯した貴族の娘を、王妃に据えておく訳には参りませんし。
 当然、その娘が産んだ子を王族と認める訳には参りません。
 陛下は、果たして誰に子を産まそうと言うのですかな。」

 宰相は、二妃、三妃から妃の位を剥奪して王宮から追放することになると告げたんだ。

「陛下、ここは潔く退位なされませ。
 陛下は、捕縛した貴族の処刑に難色を示しておられますが。
 『ラリッパ草』の流通に手を染めた以上、断罪しなければ示しが付きません。
 甘い処罰で済ませれば、またぞろ真似をする愚か者が出てきますぞ。
 そして、王家に近い貴族が二百人近く罪人として処刑されるのです。
 更には、今後エロスキー子爵の一味により殺害された娘の数も公表されます。
 そうなると、陛下に対する批判が強まるのは必定です。
 ここで対応を間違えると、それこそ暴動に発展しますぞ。」

 今度はモカさんが王様を説得しようとしたの。
 甘い処罰に安心して『ラリッパ草』を栽培する愚か者が出たらどうする積もりだと。
 今度ワイバーンが襲って来た時に、ハテノ領の騎士やおいらが居るとは限らないぞと脅してた。

「だが、カズヤは…。」

 それでも王様は、意地でもカズヤ殿下に王位を継がせたくないって様子だったよ。

「陛下、まだそんなことを申しておるのですか。
 カズヤ殿下は正式に王太子になられているのですぞ。
 既に正当な次期国王で、これを覆すことは出来ません。
 それに、カズヤ殿下のお妃は大国シタニアールの王女なのです。
 カズヤ殿下が王になれば、王家は盤石ではないですか。
 更に言えば、カズヤ殿下は昨日のワイバーンを多数討伐しており。 
 ワイバーン撃退の立役者です。
 このことは既に王都の民に周知されており、今やカズヤ殿下は英雄です。
 王が責任と取ってカズヤ殿下に譲位すれば、民の非難を抑えることが出来ますぞ。」

 モカさんが、カズヤ殿下に王位を譲るメリットを説くと、宰相と公爵は無言で頷いていたよ。
 実は王宮に来る前、公爵とモカさん、それにミントさんとの協議で王様に退位を迫ることは決まってたんだ。
 忠義者のモカさんも、今度という今度は王様に愛想が尽きたみたいなんだ。
 宰相には、王様が処刑に立ち会っている間に、公爵から説明してもらってはあったの。
 宰相が口火を切るとは思わなかったけど。

 三人から退位を迫られた王様は言葉に詰まっちゃったよ。 
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