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アイイロモンペ

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第十六章 里帰り、あの人達は…

第499話 往生際が悪いにもほどがあるよ…

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 王様は、これ以上貴族達を処刑することに難色を示し、事件をなあなあで済まそうとしたの。
 娘さんの殺害など揉み消してしまえなんて暴言も吐いていたよ。
 自分の取り巻き貴族を処断する事で、宮廷での発言力低下を恐れたみたい。

 そんな王様の態度はその場にいた人達のヒンシュクを買い、モカさんや宰相から諭されていたよ。

「ならば、余にどうしろと言うのだ。そなた等は。」

 モカさんと宰相から強く反対された王様は、追い詰められたような表情で問い掛けたの。

「陛下が民の前で宣下された通りの事をすれば良いのです。
 まずは、一連の不祥事に関わった者の処刑ですな。
 『ラリッパ草』で自由を奪われ、監禁されていた娘達への賠償もせねばなりますまい。」

「宰相の仰せの通りですな。
 私情を挟まず、粛々と宣下通りにすることが大切です。
 後、殺害された娘達の詳細の公表と供養もせねばなりません。
 部下の報告では、大分時間を要する見込みですが。」

 宰相とモカさんから発せられた言葉は、広場で行った宣下通りにしろだった。
 つまりは、今捕えられた貴族を全員処刑しろと言うことだね。

「しかし…、今日処刑したのは皆、永年王家に仕えて来た譜代の貴族であるぞ。
 今しがた宰相から渡されたこのリストを見ても、捕縛された者のほぼ全てが王家譜代の貴族だ。
 その当主や奥方、更には子息を公開の場で処刑するなど、貴族達が黙ってはおるまい。」

 尚も、捕縛した貴族を厳しく処罰することに難色を示す王様だけど。

「誰が、黙っていないのですかな?
 譜代の貴族筆頭の私は何も異存はございませんぞ。
 もとより、今回捕縛された貴族共は国に巣食う寄生虫のようなものばかりです。
 ロクに仕事もせずに俸禄を食んでいたのですから。
 そのくせ、声高に既得特権ばかり振りかざす度し難い愚物共でしたし。」 

 それまで、黙って話を聞いていた公爵がそんな事を口にしたの。

「譜代の貴族?」

 聞きなれない言葉が出て来たので、隣にいたクッころさんに尋ねると。

「マロンちゃんは知ってましたっけ?
 その昔、この国のある周辺は小国が分立していたのを。
 それを今の王家が統一して、今の姿になったのです。
 この国がまだ小国であった頃から王家に仕えてきた貴族を譜代と呼んでます。
 譜代の一部には公爵のように大きな領地を持っている貴族もおりますが。
 大部分の貴族は領地を持たず、王宮へ出仕する事で俸禄を得ています。」

 クッころさんの説明では、ハテノ男爵を始め領地を持つ貴族の殆どが元は小国の王だったらしい。
 但し貴族として残っているのは、この国が周辺の小国を統一する際に、戦わずしてこの国に服従した国だけね。
 抵抗した小国の王家は、ことごとく根絶やしになっているらしいから。
 そして、滅ぼした小国の領地は、一部は有力な譜代の貴族に分け与え、大部分は王領になってるんだって。

「ふーん、今の公爵の話ではロクに仕事もしないと言ってたけど…。
 それで、俸禄がもらえるの?」

「ああ、それは、譜代貴族に特有の俸禄があって…。
 譜代貴族は知行地と呼ばれる村や町を持っています。
 一方で、譜代貴族の多くは王宮に役職を持ってまして。
 その役職に伴う俸禄と知行地から得られる俸禄の二つが収入となります。
 今回捕縛した連中は、形ばかりの役職か無役の者ばかりのようで。
 もっぱら、知行地からの俸禄で生活しているようですね。」

 また知らない言葉が出て来たので、領地と知行地ってどう違うのかも尋ねてみたよ。
 知行地というのはあくまで王領で、譜代貴族はその統治権を持たないんだって。
 領地なら独自の法や税を定めたり、騎士団を組織したりできるけど、知行地はそれが出来ないらしい。
 家禄として、知行地から得られる税収の半分を毎年国から支給されるそうなんだ。国が続く限り永久にね。

 ただ、まともな役職についていれば、役職に伴う俸禄の方が、知行地からの俸禄よりも多いそうだよ。
 今回捕縛された貴族達は、公爵が寄生虫と呼んでいたことから分かる通り。
 貴族としての仕事もせずに、知行地からの収入を貰って生活していた貴族が多いようなんだけど。
 中には俸禄を増やすために、王様に取り入って形ばかりの役職を作ってもらった貴族も居たそうだよ。
 しかも、結構高額な俸禄の役職をね。
 そこまでやったら、本当に寄生虫だよね。
  
 公爵は、そんな貴族達を快く思ってなかったそうで。
 数代に渡って役職についていない貴族からは、知行地を取り上げるべきだとか。
 形だけで機能してない役職は廃止とし、また、王様が勝手に役職を作るのは禁止すべきだとか。
 そんな意見を王様に具申したり、宰相に王様を説得するようにと持ち掛けたりしていたそうなの。

 でも、その対象となる貴族に限って王様の取り巻きになってて、激しい抵抗にあってたらしいんだ。
 公爵は捕縛された貴族のリストを見てほくそ笑んでいたみたい。これで、寄生虫を一掃できるって。

      **********

「宰相の私としても、捕えた者を極刑に処すことに異存はございません。
 王家譜代の貴族がこれほどまでに堕落しているとは、嘆かわしい限りです。
 もとより、今回捕えた者共は一人として重責を担う者は居りませんので。
 全員、極刑にしたところで、政務が滞ることはございませんし。
 王宮内で異存を唱える者も少ないのではと存じます。
 むしろ、無駄飯食いが減る分だけ国の財政に余裕が出来て良ろしいかと。」

 公爵に続いて、譜代貴族の重鎮らしい宰相も厳格な対応を支持したんだ。

「だが、名門貴族家の当主であるぞ。一門の者が黙っておるまいが。」

 王様はまだ捕縛者を死罪に処することに納得してないみたい。

「陛下は何を言っているのですかな。
 あわや王都がワイバーンに襲われると言う不祥事を起こしたのですぞ。
 当主が捕縛された貴族は私財没収の上、お家取り潰しに決まっているでは御座いませぬか。
 一門の者も全て貴族籍を剥奪されるのですぞ。
 貴族でもない、一文無しにどんな難癖を付けることが出来ると言うのですか。」

 でも、渋っている王様にすかさず公爵が突っ込みを入れたよ。

「公爵のおっしゃる通りですな。」

「お家取り潰しに関し、情状酌量の余地はございませんな。」

 公爵の言葉に宰相とモカさんも賛同し、王様に厳しい目を向けてたよ。

「うっ…。
 お家取り潰しとな…。
 そこまでせぬとならんのか、少し厳しすぎやしないか?」

 三人から向けられた鋭い視線に、たじろぐ王様だけどまだ決心がつかない様子なの。

「陛下、一応申し上げておきますが。
 首謀者のエロスキー子爵ですが。
 『ラリッパ草』をはじめご禁制の薬草三種の栽培。
 ご禁制の薬草の販売に、自らの服用。
 更には、夥しい数の婦女子の拉致監禁、薬物投与、強姦、売買、殺害。
 また、意図せざることですが、ワイバーンを招き王都を危機に晒しております。
 これは、私財没収、お家取り潰しで済む罪過ではございませぬぞ。
 私としては、一族根切り処分が妥当と思料しますが。」

 お家取り潰しと聞いて渋っている王様に、宰相はもっと厳しい処分を提案したんだ。
 それも、王様の一番の腹心と言われているエロスキー子爵の一族全員を処刑すると。

「ならん、あやつは余が一番気を許せる者だったのだ。
 あやつとあやつが可愛がっておった息子を死罪とした時も、余は断腸の思いだったのだぞ。
 余が王位に就いて間もない頃、騎士の選考に夜なべをしておったら。
 あやつが言ってくれたのだ、騎士の選考など王の仕事ではないと。
 誰かに任せてしまえば良いし、平穏なこの国なら適当に選んでおけば良いと。
 そういって、あやつは面倒な騎士の選考を買って出てくれたのだ。
 そんな忠義者の一族を根絶やしにするなど、余には出来ん。」

 王様は、エロスキー子爵がどれほどの忠義者だったかを滔々と語っていたよ。
 従来の王様は国の隅々まで視察して回っていたんだって。
 一年の四分の一は王都を離れて、地方を回っていたらしいよ。
 とは言え、王様の仕事が減る訳じゃないから、その分、夜遅くまで執務をするのが常だったらしいの。
 でも、この王様、その慣例を破ったんだって。
 広いトアール国中を乗心地の悪い馬車で長いこと回るのは苦痛だとか。
 国内視察を止めれば王宮での執務に取る時間が増え、夜なべ仕事をする必要なくなるとか。

 国王は隅々まで国情を把握しておかないと、民の困窮や貴族の不正を見逃すことになる。
 そう主張して、公爵や当時の宰相が諭したらしいけど。
 エロスキー子爵が取り巻き貴族を集めて、国王の全国視察廃止の運動をしたそうだよ。
 地方の事は領主や代官に任せておけば良いとか、至高の存在である国王の体にそんな無理を強いることは出来ないとか。
 そんな理屈をつけて。
 王様を擁護する声が大き過ぎて、当時の宰相は王様の主張を飲むハメになったらしいの。

「あれも、これも、エロスキー子爵の入れ知恵でしたか。
 王がなされた騎士の選考権限の委譲、王領における代官の権限の強化。
 今では共に汚職の温床ではないですか。」

 騎士の選考を役人に任せ、王様は承認するだけにしてしまった結果何が起こったか。
 選考係の役人が賄賂を要求したり、力の強い貴族が役人を脅して自分の子息を無理やり騎士のねじ込んだり。
 心身ともに、およそ騎士には相応しくない者が騎士に任官するケースが増えたんだよね。
 あんまり酷い騎士が多かったから、番外騎士団なんて掃き溜めみたいな騎士団を創るハメになったの。

 代官の汚職は初めて聞いたけど。
 この王様になってから地方の王領視察を取り止め、代官に権限を丸投げしたらしいの。
 結果、代官による公金横領や税のちょろまかしが横行したらしいよ。

 そして、騎士の選考係、地方王領の代官、共にエロスキー子爵が王様に推薦した情実人事だったみたい。 
 王様、今までエロスキー子爵の名前は出していなかったみたい。

 王様の暴露で、エロスキー子爵家の一族根切りを求める圧力はますます強まったよ。
 
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