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第十六章 里帰り、あの人達は…
第495話 王都はパニックになってたよ
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ワイバーンの始末をして建物の中に戻ってくると、近衛騎士達が押収した物品の分別をしていたよ。
お手柄だったのは、膨大な量のアブナイ葉っぱを押収で来たことだった。
この建物には地下室があり、乾燥させた葉っぱを大量に保管していたらしいの。
モカさんはとても喜んでいた。
ワイバーンの襲来という緊急事態とは言え、証拠の薬草畑を消しちゃったからね。
アブナイ葉っぱの現物が無ければ、貴族の屋敷にガサ入れするには証拠が弱かったって。
でも…。
「ねえ、騎士さん達。
何処かに娘さんが捕らえられてなかったかな?
アルトの話では、今保護した娘さん達、捕えられて間もないみたいなの。
随分前から娘さんを拉致してたみたいだから、他にも捕らわれてる娘さんが居るはずなんだけど。」
辺りを見回すと娘さんは一人もいなかったので、不思議に思って近衛騎士達に尋ねてみたんだ。
「いえ、この建物にある部屋は全て検めましたし。
隠し部屋が無いかも、慎重に探索しました。
ですが、娘が捕らわれていた形跡は何処にも見つかりませんでした。」
騎士からは、娘さんなど見当たらなかったと返答されたの。
「こいつなら、何か知っているんじゃない。」
アルトは、『積載庫』から一人の老紳士を出したの。
それは、この建物の玄関前で貴族のお迎えをしていた執事風の老人だった。
やって来た貴族達とも顔馴染みの様子なので、支配人みたいなものじゃないかと言ってたよ。
おいらは、拉致した娘さんの行方を、老人に尋ねてみたけど。
老人は、一瞬狼狽した表情を見せたきり、口を噤んだまま一言も話さなかったの。
するとアルトは、ガラの悪い用心棒らしき男を積載庫から出して。
無慈悲にも、いきなりビリビリを放ったの。しかも、かなりキツメなヤツを。
耳障りな悲鳴を上げた男の髪の毛はちぢれ、、服は焼け焦げて煙を上げてたよ。
男は意識を手放して地面に転がったの、多分、もう廃人状態になってると思う。
「お爺さん、せっかく長生きしたのですもの。
残りの人生を全うしたいでしょう。
こうなりたくなければ、素直に話した方が身のためよ。」
男を一人見せしめにして、アルトが脅すと老人は諦めの表情で話し始めたの。
この屋敷を使った夜のパーティは十日周期になっているそうだよ。
エロスキー子爵の仲間内で完全会員制にして、外に噂が漏れないようにしてるんだって。
会員の貴族本人とその子息だけが、この建物の中に入れるそうだよ。
偶々、その日は周期の初日に当たったみたい。
初日は仲間内でも伯爵クラスの上位貴族を招待するそうなんだ。
そこでは、拉致したばかりの手垢の付いていない娘さんを提供するんだって。
それから後の六日間は初日と同じ娘を提供するそうだけど。
二日目、三日目と招待する貴族の格が下がっていくらしいよ。
仲間内全員が一通り遊んだ後の八日目、娘さん達は競売に掛けられるらしい。
その七日間で招かれた貴族が集まり、気に入った娘さんがいたら競り落としていくそうだよ
『薬』で壊れたら、自由に返品できるという条件でね。
そして、九日目においらが尋ねた核心が隠されていたの。
八日目の競売で売れ残った娘さんと壊れて返品された娘さんが集められて、とあるショーが催されるだって。
そのショーの内容はと言うと…。
仲間内にスナッフ男爵と言う性格破綻者が居て、集められた娘さんを相手に何かをして見せるそうだけど…。
話の途中で、いきなりトルテ姉ちゃんに耳を塞がれちゃって、内容を聞き取ることは出来なかったよ。
ただ、ロクでもないショーだと言うことだけは分かったよ。
老人の証言を聞くうちに、騎士のお姉ちゃん達の顔色が青褪めて行くんだもん。
「うら若い娘の命を弄ぶスナッフ男爵なる者、絶対に赦してはおけません。
私がこの手で成敗してやります。」
塞がれた耳が開放されると、クッころさんが怒り狂っていたよ。
スナッフ男爵って、相当酷い事をしていたみたいだね。
クッころさんがあんなに怒った姿は初めて見たもん。
しかし、周囲から性格破綻者と言われてる人物を放置してるって、それどうなのよ…。
因みに、十日目は色々と汚れた館内をきれいさっぱりと片付ける日なんだって。
特に、九日目のショーは部屋の中が凄く汚れるらしいの。
また、パーティをしない八から十日目に新しい娘さんを仕込むんだって。
「おい、今の証言は聞いておったな。
お前ら、今すぐこの屋敷の裏にある森の中を見てこい。
投棄するための穴が掘られているはずだ。」
老人の証言を聞いたモカさんが、近衛騎士達に屋敷の裏に広がる森の中の探索を指示していたよ。
なるほど、拉致された娘さんが見当たらないのは、そういう訳なんだ…。
**********
しばらくして、森へ行った騎士達が青い顔をして戻って来たよ。
騎士はおいらやハテノ領の騎士達を顔色を窺うと、モカさんにこそっと耳打ちしてた。
どうやら、報告内容は女子供に聞かせて良いものではなかったみたい。
報告を聞いたモカさんは、手勢十人の半数をここに残すことにしたみたい。
王都へ戻ったら追加で応援を送るので、森を隈なく探索するように指示してた。
エロスキー子爵の別邸のガサ入れはそこまでにして、おいら達は王都へ戻ることにしたんだ。
アルトの積載庫に乗せてもらって王都に戻ってくると。
まだ夜明け前だと言うに、街には沢山の人が出ていて騒然としてたよ。
加えて、王都を囲む城壁の上には武装した騎士達が臨戦態勢でずらりと並んでいたの。
王都の中央広場には有事の際の指揮所と思われる天幕まで張られてたよ。
天幕の前では、豪奢な騎士服に身を包んだ騎士が周囲の騎士に指示を飛ばしてた。
「おい、ワイバーンはどうなった?
王都を襲撃してくる兆候はみられないか?
それと、近衛騎士団長のクレーム子爵は、まだ連絡が取れんのか?
緊急事態だと言うのにあやつは何処をほっつき歩いているのだ。」
どうやら、モカさんと同格の人らしいね、王都に駐在する騎士団の団長かな。
するとアルトは、その騎士の前にモカさんを降ろしたよ。
一緒に、カズヤ殿下にハテノ領の騎士、ついでにおいらもね。
「これは何の騒ぎかね、第一騎士団長。」
「おおっ、近衛騎士団長、そなたいったい何処から現れおった。
いや、それより、何の騒ぎではないだろうが。
そなた、今まで何処をほっつき歩いていたのだ。
昨夜の宵の口以来、王都の外で怪しげな光が輝くわ。
多数のワイバーンが飛来するわで、王都は大騒ぎであったのだぞ。」
今頃、のこのこと現れたモカさんに第一騎士団長が噛み付いたよ。
アルトが煌々と輝く光の玉を夜空に浮かべていたからね。
不吉なモノじゃないかと、心配した人々が道に出ていたそうなんだ。
その光に引き付けられるようにワイバーンが飛んできたので、王都はパニック状態だったらしいよ。
「それは、悪いことをした。
昨夜は、この国を揺るがす程の大捕物があってな。
あのワイバーンは、その悪党共が呼び寄せたものだ。」
それじゃ、あそこにいた貴族達がワイバーンを呼び寄せたように聞こえるよ。
まあ、子爵が栽培してた『ラリッパ草』に惹かれてやっていたのだから間違いじゃないけど…。
「な、なんと、それでワイバーンはどうなったのだ。」
その第一騎士団長の問い掛けに対して。
モカさんは、騎士団長に返答するのではなく、広場に詰め掛けてる民衆に向かってお披露目したんだ。
「親愛なる王都の民よ、安心するが良い。
昨夜、襲来したワイバーンは全て討伐した。
討伐したのは、王太子殿下と後ろに並ぶ騎士達である。
皆も、王太子殿下と騎士達の健闘を讃えてはくれまいか。」
モカさんの堂々とした声が広場に響き渡ると、広場に集まった人達の緊張が緩んだのが分かったよ。
そして、モカさんの呼びかけに応えて、パチパチと手を叩く音が聞こえたの。
それは、一つ、二つと増えて行き、「王太子殿下万歳!」なんて叫ぶお調子者が出ると…。
「「「「「王太子殿下万歳!」」」」」
それに唱和する者も現れ、やがて広場は喝采に包まれたんだ。
カズヤ殿下は、今まで表に出ることが無かったけど、一躍時の人になったよ。
「近衛師団長、色々と聞きたいことがあるのだが。
何故、王太子殿下が都合良くワイバーン襲来に出くわしたのか、とかな。
もちろん、聞かせてもらえるのであろうな。」
広場の喝采が止むと、第一騎士団長は訝し気にモカさんに詰め寄ったの。
「もちろん、詳しく説明させてもらおう。
実は、私もそなたに協力を仰ごうとしていたのだ。
第一騎士団が臨戦態勢にあるなら都合が良い。
臨戦態勢のまま、私の屋敷に移動させてはくれまいか。」
第一騎士団って、千人くらいいると以前聞いたことがあるけど。
モカさん、それ丸々動員して、捕物の後半戦をするつもりなんだ…。
**********
第一騎士団長も加えてモカさんの屋敷に戻ってくると。
「皆さん、お疲れさまでした。
朝まで掛るなんて、さぞかし疲れたでしょう。
クレーム騎士団長、お疲れのところ申し訳ございません。
もう、私の父が参っておるのですが。」
「えっ、王后陛下? それに公爵閣下も。」
出迎えてくれたのはミントさん、そして後ろには初めて見る初老の紳士が立っていたの。
意外な人物の登場に、第一騎士団長は目を丸くしてたよ。
「公爵をお待たせしてしまい、申し訳ございません。
摘発はすんなりと済ませたのですが。
ワイバーンの襲来と言う予定外の出来事がありまして。
その討伐に朝まで掛かってしまいました。
ですが、お喜びください。
王太子殿下が多数のワイバーンを討伐し、名を馳せることが出来ましたぞ。」
「おお、カズヤがワイバーンの討伐を成したとな。
それは素晴らしい。
今まで日陰に甘んじてたカズヤの存在を誇示できるではないか。」
モカさんの言葉に公爵が喜びを露わにしていたよ。
「はい、不安に駆られて広場に集まった民衆へ向けて、既にその旨を広めてあります。
民衆は安堵すると共に、王太子殿下の偉業を讃えておりました。」
「うむ、モカよ、機転を利かせて良くやってくれた。
その働きに感謝するぞ。」
孫のカズヤ殿下の活躍を広めたモカさんに対し、公爵は心から感謝しているように見えたよ。
それから、おいら達は、ミントさん、公爵、第一騎士団長を交えて昨晩の報告と今後の検討をすることになったの。
お手柄だったのは、膨大な量のアブナイ葉っぱを押収で来たことだった。
この建物には地下室があり、乾燥させた葉っぱを大量に保管していたらしいの。
モカさんはとても喜んでいた。
ワイバーンの襲来という緊急事態とは言え、証拠の薬草畑を消しちゃったからね。
アブナイ葉っぱの現物が無ければ、貴族の屋敷にガサ入れするには証拠が弱かったって。
でも…。
「ねえ、騎士さん達。
何処かに娘さんが捕らえられてなかったかな?
アルトの話では、今保護した娘さん達、捕えられて間もないみたいなの。
随分前から娘さんを拉致してたみたいだから、他にも捕らわれてる娘さんが居るはずなんだけど。」
辺りを見回すと娘さんは一人もいなかったので、不思議に思って近衛騎士達に尋ねてみたんだ。
「いえ、この建物にある部屋は全て検めましたし。
隠し部屋が無いかも、慎重に探索しました。
ですが、娘が捕らわれていた形跡は何処にも見つかりませんでした。」
騎士からは、娘さんなど見当たらなかったと返答されたの。
「こいつなら、何か知っているんじゃない。」
アルトは、『積載庫』から一人の老紳士を出したの。
それは、この建物の玄関前で貴族のお迎えをしていた執事風の老人だった。
やって来た貴族達とも顔馴染みの様子なので、支配人みたいなものじゃないかと言ってたよ。
おいらは、拉致した娘さんの行方を、老人に尋ねてみたけど。
老人は、一瞬狼狽した表情を見せたきり、口を噤んだまま一言も話さなかったの。
するとアルトは、ガラの悪い用心棒らしき男を積載庫から出して。
無慈悲にも、いきなりビリビリを放ったの。しかも、かなりキツメなヤツを。
耳障りな悲鳴を上げた男の髪の毛はちぢれ、、服は焼け焦げて煙を上げてたよ。
男は意識を手放して地面に転がったの、多分、もう廃人状態になってると思う。
「お爺さん、せっかく長生きしたのですもの。
残りの人生を全うしたいでしょう。
こうなりたくなければ、素直に話した方が身のためよ。」
男を一人見せしめにして、アルトが脅すと老人は諦めの表情で話し始めたの。
この屋敷を使った夜のパーティは十日周期になっているそうだよ。
エロスキー子爵の仲間内で完全会員制にして、外に噂が漏れないようにしてるんだって。
会員の貴族本人とその子息だけが、この建物の中に入れるそうだよ。
偶々、その日は周期の初日に当たったみたい。
初日は仲間内でも伯爵クラスの上位貴族を招待するそうなんだ。
そこでは、拉致したばかりの手垢の付いていない娘さんを提供するんだって。
それから後の六日間は初日と同じ娘を提供するそうだけど。
二日目、三日目と招待する貴族の格が下がっていくらしいよ。
仲間内全員が一通り遊んだ後の八日目、娘さん達は競売に掛けられるらしい。
その七日間で招かれた貴族が集まり、気に入った娘さんがいたら競り落としていくそうだよ
『薬』で壊れたら、自由に返品できるという条件でね。
そして、九日目においらが尋ねた核心が隠されていたの。
八日目の競売で売れ残った娘さんと壊れて返品された娘さんが集められて、とあるショーが催されるだって。
そのショーの内容はと言うと…。
仲間内にスナッフ男爵と言う性格破綻者が居て、集められた娘さんを相手に何かをして見せるそうだけど…。
話の途中で、いきなりトルテ姉ちゃんに耳を塞がれちゃって、内容を聞き取ることは出来なかったよ。
ただ、ロクでもないショーだと言うことだけは分かったよ。
老人の証言を聞くうちに、騎士のお姉ちゃん達の顔色が青褪めて行くんだもん。
「うら若い娘の命を弄ぶスナッフ男爵なる者、絶対に赦してはおけません。
私がこの手で成敗してやります。」
塞がれた耳が開放されると、クッころさんが怒り狂っていたよ。
スナッフ男爵って、相当酷い事をしていたみたいだね。
クッころさんがあんなに怒った姿は初めて見たもん。
しかし、周囲から性格破綻者と言われてる人物を放置してるって、それどうなのよ…。
因みに、十日目は色々と汚れた館内をきれいさっぱりと片付ける日なんだって。
特に、九日目のショーは部屋の中が凄く汚れるらしいの。
また、パーティをしない八から十日目に新しい娘さんを仕込むんだって。
「おい、今の証言は聞いておったな。
お前ら、今すぐこの屋敷の裏にある森の中を見てこい。
投棄するための穴が掘られているはずだ。」
老人の証言を聞いたモカさんが、近衛騎士達に屋敷の裏に広がる森の中の探索を指示していたよ。
なるほど、拉致された娘さんが見当たらないのは、そういう訳なんだ…。
**********
しばらくして、森へ行った騎士達が青い顔をして戻って来たよ。
騎士はおいらやハテノ領の騎士達を顔色を窺うと、モカさんにこそっと耳打ちしてた。
どうやら、報告内容は女子供に聞かせて良いものではなかったみたい。
報告を聞いたモカさんは、手勢十人の半数をここに残すことにしたみたい。
王都へ戻ったら追加で応援を送るので、森を隈なく探索するように指示してた。
エロスキー子爵の別邸のガサ入れはそこまでにして、おいら達は王都へ戻ることにしたんだ。
アルトの積載庫に乗せてもらって王都に戻ってくると。
まだ夜明け前だと言うに、街には沢山の人が出ていて騒然としてたよ。
加えて、王都を囲む城壁の上には武装した騎士達が臨戦態勢でずらりと並んでいたの。
王都の中央広場には有事の際の指揮所と思われる天幕まで張られてたよ。
天幕の前では、豪奢な騎士服に身を包んだ騎士が周囲の騎士に指示を飛ばしてた。
「おい、ワイバーンはどうなった?
王都を襲撃してくる兆候はみられないか?
それと、近衛騎士団長のクレーム子爵は、まだ連絡が取れんのか?
緊急事態だと言うのにあやつは何処をほっつき歩いているのだ。」
どうやら、モカさんと同格の人らしいね、王都に駐在する騎士団の団長かな。
するとアルトは、その騎士の前にモカさんを降ろしたよ。
一緒に、カズヤ殿下にハテノ領の騎士、ついでにおいらもね。
「これは何の騒ぎかね、第一騎士団長。」
「おおっ、近衛騎士団長、そなたいったい何処から現れおった。
いや、それより、何の騒ぎではないだろうが。
そなた、今まで何処をほっつき歩いていたのだ。
昨夜の宵の口以来、王都の外で怪しげな光が輝くわ。
多数のワイバーンが飛来するわで、王都は大騒ぎであったのだぞ。」
今頃、のこのこと現れたモカさんに第一騎士団長が噛み付いたよ。
アルトが煌々と輝く光の玉を夜空に浮かべていたからね。
不吉なモノじゃないかと、心配した人々が道に出ていたそうなんだ。
その光に引き付けられるようにワイバーンが飛んできたので、王都はパニック状態だったらしいよ。
「それは、悪いことをした。
昨夜は、この国を揺るがす程の大捕物があってな。
あのワイバーンは、その悪党共が呼び寄せたものだ。」
それじゃ、あそこにいた貴族達がワイバーンを呼び寄せたように聞こえるよ。
まあ、子爵が栽培してた『ラリッパ草』に惹かれてやっていたのだから間違いじゃないけど…。
「な、なんと、それでワイバーンはどうなったのだ。」
その第一騎士団長の問い掛けに対して。
モカさんは、騎士団長に返答するのではなく、広場に詰め掛けてる民衆に向かってお披露目したんだ。
「親愛なる王都の民よ、安心するが良い。
昨夜、襲来したワイバーンは全て討伐した。
討伐したのは、王太子殿下と後ろに並ぶ騎士達である。
皆も、王太子殿下と騎士達の健闘を讃えてはくれまいか。」
モカさんの堂々とした声が広場に響き渡ると、広場に集まった人達の緊張が緩んだのが分かったよ。
そして、モカさんの呼びかけに応えて、パチパチと手を叩く音が聞こえたの。
それは、一つ、二つと増えて行き、「王太子殿下万歳!」なんて叫ぶお調子者が出ると…。
「「「「「王太子殿下万歳!」」」」」
それに唱和する者も現れ、やがて広場は喝采に包まれたんだ。
カズヤ殿下は、今まで表に出ることが無かったけど、一躍時の人になったよ。
「近衛師団長、色々と聞きたいことがあるのだが。
何故、王太子殿下が都合良くワイバーン襲来に出くわしたのか、とかな。
もちろん、聞かせてもらえるのであろうな。」
広場の喝采が止むと、第一騎士団長は訝し気にモカさんに詰め寄ったの。
「もちろん、詳しく説明させてもらおう。
実は、私もそなたに協力を仰ごうとしていたのだ。
第一騎士団が臨戦態勢にあるなら都合が良い。
臨戦態勢のまま、私の屋敷に移動させてはくれまいか。」
第一騎士団って、千人くらいいると以前聞いたことがあるけど。
モカさん、それ丸々動員して、捕物の後半戦をするつもりなんだ…。
**********
第一騎士団長も加えてモカさんの屋敷に戻ってくると。
「皆さん、お疲れさまでした。
朝まで掛るなんて、さぞかし疲れたでしょう。
クレーム騎士団長、お疲れのところ申し訳ございません。
もう、私の父が参っておるのですが。」
「えっ、王后陛下? それに公爵閣下も。」
出迎えてくれたのはミントさん、そして後ろには初めて見る初老の紳士が立っていたの。
意外な人物の登場に、第一騎士団長は目を丸くしてたよ。
「公爵をお待たせしてしまい、申し訳ございません。
摘発はすんなりと済ませたのですが。
ワイバーンの襲来と言う予定外の出来事がありまして。
その討伐に朝まで掛かってしまいました。
ですが、お喜びください。
王太子殿下が多数のワイバーンを討伐し、名を馳せることが出来ましたぞ。」
「おお、カズヤがワイバーンの討伐を成したとな。
それは素晴らしい。
今まで日陰に甘んじてたカズヤの存在を誇示できるではないか。」
モカさんの言葉に公爵が喜びを露わにしていたよ。
「はい、不安に駆られて広場に集まった民衆へ向けて、既にその旨を広めてあります。
民衆は安堵すると共に、王太子殿下の偉業を讃えておりました。」
「うむ、モカよ、機転を利かせて良くやってくれた。
その働きに感謝するぞ。」
孫のカズヤ殿下の活躍を広めたモカさんに対し、公爵は心から感謝しているように見えたよ。
それから、おいら達は、ミントさん、公爵、第一騎士団長を交えて昨晩の報告と今後の検討をすることになったの。
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