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第十六章 里帰り、あの人達は…

第491話 突入準備が整ったよ

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 モカさんが手勢を集める間、アルトはクッころさんに清潔な布と羽織れる服を沢山用意するように指示していたの。
 そして、何故か騎士の姉ちゃん達じゃなく、シフォン姉ちゃんに色々と指示を出していたよ。

「ああ、また、あの仕事ですか。
 もう慣れっこですから、お易い御用です。
 カヌレちゃん、ミラベラちゃんにも手伝ってもらいます。」

 クッころさんちの使用人が用意してくれた布や服を受け取りながら、シフォン姉ちゃんが了解してた。

 ほどなくして、モカさんの子息以下近衛騎士が集まると、アルトの積載庫に乗せてもらって出発したの。
 やって来たのは、王都を囲む城壁の外、馬車でも大した時間の掛からない場所だった。

 街道から少し入った森の中に、それはそれはあったの。
 四方を壁に囲まれた広いお屋敷。王都の外なので土地が安いのか、とんでもなく広い敷地だったよ。
 堅固な造りの門は開かれた状態で、その前には屈強な門番が二人立っていた。

 もう日没間近だと言うのに。
 薄暗い森の中の道を、四頭立ての立派な馬車が一台、また一台と屋敷に向かっていたよ。
 門番は、その一台、一台を止めて、馬車に乗る人物を確認している様子だった。
 
 門を潜って立派な館に向かうと、玄関前の車寄せは執事風の老紳士が待ち構えてるの。
 馬車の中から人が降りてくると。

「これは、これは、伯爵様、ようこそお越しくださいました。
 今日はご子息様もお連れでございますか。
 今宵も、良い娘をご用意させて頂きました。
 朝までごゆるりとお寛ぎください。」

 伯爵と呼ばれた人物は馴染みの様子で、老紳士は丁重にお迎えしてた。

「うむ、世話になる。
 堪能させてもらうことにしよう。
 ところで、今日は初物は入っているだろうか。」

「はい、もうそれは勿論でございます。
 本日は伯爵様が来られると事前に伺っていましたから。
 初物好みの伯爵さまのために。
 仕事を探して王都に来たばかりの娘をご用意致しました。
 伯爵様好みの童女いおぼこい娘でございますよ。
 ちょうど薬が回ってほど良い具合になったところです。」

 『ご用意致しました』って、多分、それ拉致って来たんだよね。
 しかも、『薬』を使ったことを隠しもしてないし。

「おお、それは楽しみだ。
 ここは良いのう、きちんと好みの娘を用意してくれる。
 おい、倅よ、久々に一緒にその娘を戴くこととするか。」

「三人プレイですか…、父上もお好きですね。
 たまにならそれも良いですが、私は前を頂きますよ。
 あっちは私の趣味ではありませんので…。」

 老紳士の返事に期待を膨らませた伯爵の誘いに、子息は苦笑いを浮かべて承諾してたよ。
 こんな感じで、ポツリ、ポツリと身形みなりの良い人物が館を訪れていたんだ。
 訪れる人は皆馴染みの様子で、出迎えの老紳士と気安い感じで一言二言会話して建物の中に入っていくの。

 そして、すっかり日が沈んで辺りが夜の帳に包まれると。

「今いらした、伯爵様で最後ですね。
 門番に伝えなさい。
 門を固く閉ざし。
 朝まで、ネズミ一匹中に入れるなと。」

 老紳士がそう指示すると、伝令の若者が門番の方に走っていったよ。
 気が付くと、庭の隅にある馬車溜りには十台以上の馬車が停まってたの。
 その全てが、庶民の手にはとうてい届きそうもない四頭立ての立派な馬車だった。

 そして、門番に伝令に行った若者が建物に入り、庭にいるのが門番だけになると。

「まったく、話を聞いていればしょうもない連中ばかりね。
 まあ、今日で年貢の納め時でしょうけど…。
 これを知った昼行灯(国王)がどんな顔をするか見ものだわ。
 じゃあ、マロン、オラン、打ち合わせ通り頼むわよ。
 私は馬車を頂戴して来るから。」

 老紳士と来客の会話を聞いていたアルトは、その馬鹿さ加減に呆れたよ。
 アルトはおいらと一緒に『特別席』の中から辺りを窺っていたんだ。

 アルトは、行き掛けの駄賃に馬車をもらって帰る腹積もりみたいだよ。
 アルトの森に住んでいる耳長族の移動手段にもってこいだって。

       **********

 アルトの積載庫から降ろされたおいらとオランが門番に近付くと。 

「うん? 何だ、このガキ共は?
 一体何処から入りやがった?」
 
 門番が訝し気に声を上げてたよ。

「ねえ、ちょっと確認するけど。
 ここ、エロスキー子爵の別邸で良いんだよね。
 夜な夜な、貴族を招いてパーティを開いてるって聞いたんたけど。
 ご禁制のアブナイ葉っぱを使ってるって。」

「このガキ! 何でそれを!
 それを知られちゃ、ガキと言えども生きて返す訳にはいかねえな。」

 おいらが単刀直入に尋ねると、一瞬狼狽した門番はすぐに剣を抜いて斬り掛かった来たんだ。
 こいつらもロクな人間じゃないね、幼気な子供をマジで殺しに来るなんて。

「おぬしら、そう無闇に剣を振り回すものではないのじゃ。
 子供に向かって剣を向けることを、少しは恥ずかしいと思わないのかのう?」

 オランはそんな言葉を掛けながら、自分に向かって来た門番を鞘に納めた剣で殴り飛ばしていたよ。
 おいらは、向かって来た門番の剣を持つ腕を軽くへし折って無力化したんだ。

「マロン、オラン、お疲れさま。
 こういう時は、子供のあなた達を使うのが一番ね。
 下手に騎士なんか出そうものなら、大声で援軍を呼ばれて。
 中のターゲット達にも気付かれちゃうものね。」

 馬車を貰って上機嫌のアルトが、おいら達の許にやって来て門番を積載庫に放り込んでた。
 再びおいら達を積載庫に乗せると、アルトは館の中の様子を窺うことにしたみたい。

 光の漏れる窓から中を覗いて回り…。

「なに、この部屋、紫煙でけぶって部屋の中が霞んでいるじゃない…。
 こんな部屋に突入したら、摘発に入った騎士までラリっちゃうわ。」

 ある部屋の窓から中を覗いた時、アルトの呟きが積載庫の中にいるおいらにまで聞こえたの。
 そこは大きな部屋だった、恐らくはパーティーホール。

 アルトの言葉通り、煙っていて中が良く見えないんだけど。
 沢山の人間らしきモノが集まっているように見えたよ。
 どうやら、ソファーや寝台が沢山並べられているみたいで、集まった人の多くが寝そべってた。

 ただ少し妙なことがあって…。
 みんな、肌色一色で、まるで服を着ていないように見えるんだ。
 ソファーや寝台の上に人らしき影が見えけど、二、三人で絡み合ってもぞもぞ動いてるの。
 他人目ひとめがあるのに服も着ないで、一体何をしてるんだと目を凝らして確認しようとしたら…。

「いけない、いけない、呆気に取られて視界を遮るの忘れてたわ。」

 そんなアルトの声と共に、窓の外の景色が真っ暗になったよ。
 どうやら、おいらが見てはダメなことが行われているみたいだね。

        **********

 ほどなくして、おいら達はアルトの積載庫の中、唯のだだっ広い空間に集められたの。
 おそらく、捕えた者を入れておく『獣舎』だと思うけど。
 アルトの積載庫には、これが幾つもあるようで、捕らえたエロスキー子爵家の者は誰もいなかったよ。
 今まで使っていなかった様子で、きれいだし、嫌な臭いもしなかった。

「さて、これから突入するけど。
 少し事情が変わったわ。
 モカの手勢に突入してもらおうかと思っていたけど。
 中に捕らわれている娘達が、男の目に晒して良い姿じゃないのね。
 だから、ハテノ領の騎士が突入して罪人の捕縛と拉致された娘の救出を行うわ。
 モカの手勢は建物の周囲に分散して、逃げようとする者を捕縛してちょうだい。
 一人たりとも逃がすんじゃないわよ。
 モカ、それで良いかしら?」

 アルトがモカさんに確認すると…。

「アルト様のおっしゃる通り、若い男ばかりの近衛騎士には少々不向きな現場ですな。
 刺激が強過ぎる。
 ここは、アルト様の指示に従うことと致しましょう。」

 モカさんの居た部屋からも館の中の様子が窺えたようで、素直にアルトに従ってたよ。

 そして、ハテノ領の騎士と近衛騎士、それにシフォン姉ちゃん達を積載庫から降ろすと。

「じゃあ、エクレア、ここの指揮は任せたわよ。
 私達は親玉を捕まえに行くから。」

「はい、承知しましたと言いたいところですが…。
 あの煙どうすれば良いのでしょうか?
 あれ、全てご禁制の薬を焚いたものですよね。
 あの中に突入したら我々も拙いことになるのでは?」

 クッころさんが、アルトに煙の対処法を尋ねると…。

「それは、心配いらないと言ったでしょう。
 さあ、今すぐ、突入の態勢を整えなさい。」

 アルトは、クッころさんの問い掛けに答えもせずに、突入準備を急かしたんだ。
 パチパチと禍々しい火花を放つ青白い光の玉を宙に三つも浮かべて…。

 アルトったら強襲する気満々だね。
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