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第十六章 里帰り、あの人達は…
第490話 またしばらくお別れだよ、辺境の町
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エロスキー子爵のどら息子を捕えてから十日後、おいらは休暇を終えて辺境の町を去ることになったの。
そうそう、ウルシュラ姉ちゃんの件だけど、ミントさんは快く迎え入れてくれたそうだよ。
「あら、カズヤも、お楽しみが増えて良かったわね。
でも、最初はネーブルちゃんに子を産ませないとダメよ。
煩い宮廷雀に付け込まれる口実を与えちゃうからね。
ネーブルちゃんが懐妊するまでは、アレを使いなさい。
アルト様にお願いして分けてもらえば良いわ。」
そんな事を言ってたらしいよ、ミントさん。
ミントさん、ウルシュラ姉ちゃんの出生についても聞いたそうで。
母親が貴族から受けた無体な仕打ちを知らされると、ニヤッと笑みを浮かべたそうだよ。
何か企んでいるような顔をしていたって。
それと、風呂屋も円満に辞めることが出来たそうだよ。
ミヤビ姉ちゃんに続き、売れっ子が二人も急に辞めたら困るだろうと思ったけど。
エロスキー子爵のどら息子から押収したお金が沢山あったみたいで。
迷惑料として銀貨五千枚ほど渡したら、風呂屋の支配人は快く退職を認めてくれたらしいよ。
この町を去る間際。
「カズト様、名残り惜しゅうございますが。
今回はこれで失礼します。
また、必ず参りますので、それまで息災でいてくださいね。」
にっぽん爺に抱き付いたミントさんが、ほっぺにチューしながら別れを惜しんでたよ。
次に来る時は、この町で出産して二年くらいゆっくりするつもりだなんて言ってた。
その時、お腹を撫でてたけど…、幾ら何でも冗談だよね。
ミヤビ姉ちゃんにウルシュラ姉ちゃん、来た時より二人メンバーを増やして辺境の町を後にしたんだ。
あっ、ネーブル姉ちゃんも来た時は居なかったか…、ホント、これから何処に居候するつもりなんだろう。
**********
その日の昼前、ライム姉ちゃんの屋敷で…。
「ライム、レモン、これから王都へ行くわよ。ついてらっしゃい。」
ライム姉ちゃんの顔を見るなり、アルトが王都へ連れて行こうとしたの。
ライム姉ちゃんは訳が分からないで困ってたよ。
「あの、アルト様、そんな急に申されても…。
私にも仕事がございますし。
第一、何の御用で私達が王都へ?
しかも、レモン様まで連れて行くなんて…。」
ライム姉ちゃんが用件を尋ねると、アルトは肉の塊を『積載庫』から放り出したの。
「い、いたいんだなぁ。
な、何でこんなひどいことをするんだなぁ。
ボ、ボクはえらい貴族なんだなぁ。
あ、あんまり、ぶ、無礼な事をすると。
パ、パパに言い付けるんだなぁ。」
醜い肉塊の分際で、なんかブーブー言ってるよ。
「アルト様、何ですか、この醜い者は?
脂ぎってベトベトしてますし、なんか臭いますよ。
出来れば仕舞ってもらえれば、有り難いのですが…。」
ライム姉ちゃんは悪臭を吸い込まないように、鼻にハンカチを当てながら訴えてたよ。
無理ないよ、シャワーもトイレも無い『獣舎』に放り込んでたんだろうからね。
元々、汗っかきで、脂性みたいだから、十日も放り込んでおいたら酷いことになってた。
「あら、ごめんなさいね。すぐに仕舞うわ。
こいつ、辺境の町でとんでもないことを仕出かしたの。
自分で言ったように、これでも貴族の端くれみたいだから。
あの昼行灯に告発するのは、領主のライムが適任だと思ってね。」
アルトは速攻で王宮に押し入って王様を吊るし上げるつもりかと思ってたんだけど。
どうやら、今回はライム姉ちゃんを表に立てるつもりらしい。
アルトは醜い肉塊を積載庫へ戻すと、代わりにペンネ姉ちゃんを出して辺境での出来事を説明させたよ。
「あら、あの者、本当に貴族でしたのね…。
わざわざこんな辺境まで来て、悪さを仕出かすなんて嘆かわしい。
しかし、ご禁制の薬物ですか…、また厄介なモノを…。
ペンネ隊長、お手柄でした。
私と共に王都へ赴き、報告を手伝ってください。」
事情を聴いたライム姉ちゃんは、レモン兄ちゃんに王都へ向かう支度をするように伝えると。
ペンネ姉ちゃんに詳しい状況を聴きながら、告発状を作成してたよ。
それを待つ間、こちらでは…。
「お母様、お爺様、短い間でしたが一緒に過ごせて楽しかったです。
マロン陛下はまた来年も辺境の町の別宅にお越しになるとの仰せですので。
私もお供で参ることになると思います。
その時、またお目に掛かれればと思いますので。
それまで、お元気でお過ごしください。」
「プティーニ、私もあなたと過ごせて嬉しかった。
もう二度と一緒に過ごすことは叶わぬと諦めていたのに。
一緒に温泉に浸かったり、ご飯の用意をしたり。
そんなことが出来るなんて夢のようだったわ。
あなたも元気でね。
また来てくれるのを待ってるから。」
プティー姉が、パターツさん、グラッセの爺ちゃんと別れを惜しんでいたよ。
あの母娘、最初はぎこちなかったけど、一緒に過ごすうちに打ち解けることが出来たみたいだね。
そんな二人を見て、グラッセの爺ちゃんも安心したんだろうね。
パターツさんが最後にプティー姉を抱きしめた時、グラッセの爺ちゃんは穏やかな笑みを浮かべていたよ。
ここで、パターツさん、グラッセの爺ちゃんを残して、王都へ向けて出発。
アルトのアドバイスで、騎士の姉ちゃん達はそのまま一緒に連れて行くことになったよ。
ミントさん、カズヤ殿下の護衛に就いていた三人とどら息子を捕えたペンネ姉ちゃん達、併せて十人。
場合によっては手勢が必要になるからって、アルトが主張したものだから。
**********
翌日、王都に着いたおいら達がその足で向かったのは…。
「アルト様、王后陛下と王太子殿下を送って下さったのですか。
有り難うございます。
…とは言え、何故、王宮ではなく、私共の屋敷に?
見れば、ハテノ男爵と私の娘も一緒のようですが。」
王宮での仕事を終えて屋敷に戻って来たモカさんが、そんな疑問を口にしてたよ。
ミントさんとカズヤ殿下を送るのなら、直接王宮へ行くのが自然だものね。
「王宮へ行ったら、台無しになるじゃない。
何処に聞き耳を立てているネズミがいるやも知れないのだから。
モカ、聞きなさい、これから大捕物をするわよ。」
アルトがそう告げると、ライム姉ちゃんは告発状をモカさんに手渡したの。
モカさんは告発状に目を通したんだけど、読み進めるうちに顔色が悪くなってきたよ。
「あの、ハテノ男爵、こちらに記されていることは真でございますか。
これが真実だとすると、国を揺るがす一大事になるのですが…。
出来れば、もう少し詳しく状況を説明してはくださいませぬか。」
告発状を読み終えると、モカさんは脂汗を流しながらお願いしてきたの。
そこから先は、実際に摘発したペンネ姉ちゃんが詳細な説明をしたんだ。
でも、モカさんたら、それを聞いても信じられない、いや、信じたくないって顔をしてたんだ。
だから、おいら。
「証拠もちゃんと押さえてあるよ。
ほら、子爵の息子が隠しもせずに持ってた葉っぱ。
『イケイケ草』、『クラクラ草』、『ラリッパ草』の三種類だよ。」
モカさんの目の前にご禁制の葉っぱを並べてあげたよ。
おびただしい量の葉っぱ、特に『ラリッパ草』がぎっしり詰まった大きな布袋を目にして、モカさんは目を丸くしてた。
「まだ信じられない?
何なら、ここに捕縛した連中を出しましょうか。
モカが直接尋問すると言うならば。」
「いえ、もう、十分です。
これは早々に片付けないといけないですね。
アルト様、ハテノ男爵、協力に感謝致します。」
「そう、納得してもらえて良かったわ。
それでどうする?
良い頃合いだと思うけど。」
モカさんの返事に満足そうに頷いたアルトは、王都の西に沈み行く夕陽を見ながら問い掛けたの。
「これからですか?
これから、近衛騎士を動員して摘発に動くのは難しいですね。
第一、一定数以上の近衛騎士を動かすには王の承認が要ります。
そんな、直ちになんて無茶ですよ。」
常識人のモカさんは、手続き上、すぐに摘発に動くことは出来ないと言うんだ。
だけど、アルトは…。
「あの昼行灯の承諾?
ダメよ、今回の黒幕、昼行灯の取り巻きの一人でしょう。
あいつのことだから逡巡するに決まっているわ。
そして、迂闊なあいつは情報を漏らしちゃう。
摘発に動く前に証拠を隠滅されるわよ。」
王様に事前に相談するなんて冗談じゃないって言ったの。
「では、どうしろと?
ハテノ男爵からの告発ですし、証拠もありますから。
私の独断で摘発に入ることも出来ますが…。
王に内緒で動かせるのは、精々二班十名ですよ。」
近衛騎士団の指揮権自体はモカさんにあるらしいけど。
近衛は基本国王の側に侍り、国王の命で動くものだから、モカさんの独断で動かせる人数は少ないと言うの。
「それだけいれば、十分だわ。
そもそもモカの手勢に頼む必要も無いのよ。
そのためにハテノ領の騎士を連れて来たのだから。」
アルトは、モカさんを訪ねて来た訳を説明したんだ。
王都にいる騎士を大規模に動員するとなると、準備に時間が掛かるし。
それによって、ターゲットに気付かれるかも知れない。
更には、騎士の中にも、相手に通じている者が居る恐れもあるって。
アルトはそれを懸念し、実働要員としてハテノ領の騎士を連れて来たんだけど。
地方領主の騎士が、領地の外で勝手に動くとそれこそ拙いからね。
下手をすると反乱を起こしたのかと思われちゃう。
建前上は、モカさんの依頼と指揮で、ハテノ領の騎士が動くことにして欲しいんだって。
要は、モカさんが風除けになってくれれば、あとはこっちで勝手にするってことだね。
「まあ、仕方がありませんな…。
アルト様が王を一睨みすれば、難癖を付けられることは無いでしょうし。
何よりも、この王都でご禁制の薬が乱用されているのは由々しき事態ですからな。
では、私は計画を明かさずに信頼できる部下を十名ほど集める事としましょう。
何とか日没前には決行できるように致します。」
アルトの説明に納得してくれたようで、モカさんは摘発に入る準備をすぐ始めたよ。
モカさんの息子さんとその部下を集めると言ってた。
そうそう、ウルシュラ姉ちゃんの件だけど、ミントさんは快く迎え入れてくれたそうだよ。
「あら、カズヤも、お楽しみが増えて良かったわね。
でも、最初はネーブルちゃんに子を産ませないとダメよ。
煩い宮廷雀に付け込まれる口実を与えちゃうからね。
ネーブルちゃんが懐妊するまでは、アレを使いなさい。
アルト様にお願いして分けてもらえば良いわ。」
そんな事を言ってたらしいよ、ミントさん。
ミントさん、ウルシュラ姉ちゃんの出生についても聞いたそうで。
母親が貴族から受けた無体な仕打ちを知らされると、ニヤッと笑みを浮かべたそうだよ。
何か企んでいるような顔をしていたって。
それと、風呂屋も円満に辞めることが出来たそうだよ。
ミヤビ姉ちゃんに続き、売れっ子が二人も急に辞めたら困るだろうと思ったけど。
エロスキー子爵のどら息子から押収したお金が沢山あったみたいで。
迷惑料として銀貨五千枚ほど渡したら、風呂屋の支配人は快く退職を認めてくれたらしいよ。
この町を去る間際。
「カズト様、名残り惜しゅうございますが。
今回はこれで失礼します。
また、必ず参りますので、それまで息災でいてくださいね。」
にっぽん爺に抱き付いたミントさんが、ほっぺにチューしながら別れを惜しんでたよ。
次に来る時は、この町で出産して二年くらいゆっくりするつもりだなんて言ってた。
その時、お腹を撫でてたけど…、幾ら何でも冗談だよね。
ミヤビ姉ちゃんにウルシュラ姉ちゃん、来た時より二人メンバーを増やして辺境の町を後にしたんだ。
あっ、ネーブル姉ちゃんも来た時は居なかったか…、ホント、これから何処に居候するつもりなんだろう。
**********
その日の昼前、ライム姉ちゃんの屋敷で…。
「ライム、レモン、これから王都へ行くわよ。ついてらっしゃい。」
ライム姉ちゃんの顔を見るなり、アルトが王都へ連れて行こうとしたの。
ライム姉ちゃんは訳が分からないで困ってたよ。
「あの、アルト様、そんな急に申されても…。
私にも仕事がございますし。
第一、何の御用で私達が王都へ?
しかも、レモン様まで連れて行くなんて…。」
ライム姉ちゃんが用件を尋ねると、アルトは肉の塊を『積載庫』から放り出したの。
「い、いたいんだなぁ。
な、何でこんなひどいことをするんだなぁ。
ボ、ボクはえらい貴族なんだなぁ。
あ、あんまり、ぶ、無礼な事をすると。
パ、パパに言い付けるんだなぁ。」
醜い肉塊の分際で、なんかブーブー言ってるよ。
「アルト様、何ですか、この醜い者は?
脂ぎってベトベトしてますし、なんか臭いますよ。
出来れば仕舞ってもらえれば、有り難いのですが…。」
ライム姉ちゃんは悪臭を吸い込まないように、鼻にハンカチを当てながら訴えてたよ。
無理ないよ、シャワーもトイレも無い『獣舎』に放り込んでたんだろうからね。
元々、汗っかきで、脂性みたいだから、十日も放り込んでおいたら酷いことになってた。
「あら、ごめんなさいね。すぐに仕舞うわ。
こいつ、辺境の町でとんでもないことを仕出かしたの。
自分で言ったように、これでも貴族の端くれみたいだから。
あの昼行灯に告発するのは、領主のライムが適任だと思ってね。」
アルトは速攻で王宮に押し入って王様を吊るし上げるつもりかと思ってたんだけど。
どうやら、今回はライム姉ちゃんを表に立てるつもりらしい。
アルトは醜い肉塊を積載庫へ戻すと、代わりにペンネ姉ちゃんを出して辺境での出来事を説明させたよ。
「あら、あの者、本当に貴族でしたのね…。
わざわざこんな辺境まで来て、悪さを仕出かすなんて嘆かわしい。
しかし、ご禁制の薬物ですか…、また厄介なモノを…。
ペンネ隊長、お手柄でした。
私と共に王都へ赴き、報告を手伝ってください。」
事情を聴いたライム姉ちゃんは、レモン兄ちゃんに王都へ向かう支度をするように伝えると。
ペンネ姉ちゃんに詳しい状況を聴きながら、告発状を作成してたよ。
それを待つ間、こちらでは…。
「お母様、お爺様、短い間でしたが一緒に過ごせて楽しかったです。
マロン陛下はまた来年も辺境の町の別宅にお越しになるとの仰せですので。
私もお供で参ることになると思います。
その時、またお目に掛かれればと思いますので。
それまで、お元気でお過ごしください。」
「プティーニ、私もあなたと過ごせて嬉しかった。
もう二度と一緒に過ごすことは叶わぬと諦めていたのに。
一緒に温泉に浸かったり、ご飯の用意をしたり。
そんなことが出来るなんて夢のようだったわ。
あなたも元気でね。
また来てくれるのを待ってるから。」
プティー姉が、パターツさん、グラッセの爺ちゃんと別れを惜しんでいたよ。
あの母娘、最初はぎこちなかったけど、一緒に過ごすうちに打ち解けることが出来たみたいだね。
そんな二人を見て、グラッセの爺ちゃんも安心したんだろうね。
パターツさんが最後にプティー姉を抱きしめた時、グラッセの爺ちゃんは穏やかな笑みを浮かべていたよ。
ここで、パターツさん、グラッセの爺ちゃんを残して、王都へ向けて出発。
アルトのアドバイスで、騎士の姉ちゃん達はそのまま一緒に連れて行くことになったよ。
ミントさん、カズヤ殿下の護衛に就いていた三人とどら息子を捕えたペンネ姉ちゃん達、併せて十人。
場合によっては手勢が必要になるからって、アルトが主張したものだから。
**********
翌日、王都に着いたおいら達がその足で向かったのは…。
「アルト様、王后陛下と王太子殿下を送って下さったのですか。
有り難うございます。
…とは言え、何故、王宮ではなく、私共の屋敷に?
見れば、ハテノ男爵と私の娘も一緒のようですが。」
王宮での仕事を終えて屋敷に戻って来たモカさんが、そんな疑問を口にしてたよ。
ミントさんとカズヤ殿下を送るのなら、直接王宮へ行くのが自然だものね。
「王宮へ行ったら、台無しになるじゃない。
何処に聞き耳を立てているネズミがいるやも知れないのだから。
モカ、聞きなさい、これから大捕物をするわよ。」
アルトがそう告げると、ライム姉ちゃんは告発状をモカさんに手渡したの。
モカさんは告発状に目を通したんだけど、読み進めるうちに顔色が悪くなってきたよ。
「あの、ハテノ男爵、こちらに記されていることは真でございますか。
これが真実だとすると、国を揺るがす一大事になるのですが…。
出来れば、もう少し詳しく状況を説明してはくださいませぬか。」
告発状を読み終えると、モカさんは脂汗を流しながらお願いしてきたの。
そこから先は、実際に摘発したペンネ姉ちゃんが詳細な説明をしたんだ。
でも、モカさんたら、それを聞いても信じられない、いや、信じたくないって顔をしてたんだ。
だから、おいら。
「証拠もちゃんと押さえてあるよ。
ほら、子爵の息子が隠しもせずに持ってた葉っぱ。
『イケイケ草』、『クラクラ草』、『ラリッパ草』の三種類だよ。」
モカさんの目の前にご禁制の葉っぱを並べてあげたよ。
おびただしい量の葉っぱ、特に『ラリッパ草』がぎっしり詰まった大きな布袋を目にして、モカさんは目を丸くしてた。
「まだ信じられない?
何なら、ここに捕縛した連中を出しましょうか。
モカが直接尋問すると言うならば。」
「いえ、もう、十分です。
これは早々に片付けないといけないですね。
アルト様、ハテノ男爵、協力に感謝致します。」
「そう、納得してもらえて良かったわ。
それでどうする?
良い頃合いだと思うけど。」
モカさんの返事に満足そうに頷いたアルトは、王都の西に沈み行く夕陽を見ながら問い掛けたの。
「これからですか?
これから、近衛騎士を動員して摘発に動くのは難しいですね。
第一、一定数以上の近衛騎士を動かすには王の承認が要ります。
そんな、直ちになんて無茶ですよ。」
常識人のモカさんは、手続き上、すぐに摘発に動くことは出来ないと言うんだ。
だけど、アルトは…。
「あの昼行灯の承諾?
ダメよ、今回の黒幕、昼行灯の取り巻きの一人でしょう。
あいつのことだから逡巡するに決まっているわ。
そして、迂闊なあいつは情報を漏らしちゃう。
摘発に動く前に証拠を隠滅されるわよ。」
王様に事前に相談するなんて冗談じゃないって言ったの。
「では、どうしろと?
ハテノ男爵からの告発ですし、証拠もありますから。
私の独断で摘発に入ることも出来ますが…。
王に内緒で動かせるのは、精々二班十名ですよ。」
近衛騎士団の指揮権自体はモカさんにあるらしいけど。
近衛は基本国王の側に侍り、国王の命で動くものだから、モカさんの独断で動かせる人数は少ないと言うの。
「それだけいれば、十分だわ。
そもそもモカの手勢に頼む必要も無いのよ。
そのためにハテノ領の騎士を連れて来たのだから。」
アルトは、モカさんを訪ねて来た訳を説明したんだ。
王都にいる騎士を大規模に動員するとなると、準備に時間が掛かるし。
それによって、ターゲットに気付かれるかも知れない。
更には、騎士の中にも、相手に通じている者が居る恐れもあるって。
アルトはそれを懸念し、実働要員としてハテノ領の騎士を連れて来たんだけど。
地方領主の騎士が、領地の外で勝手に動くとそれこそ拙いからね。
下手をすると反乱を起こしたのかと思われちゃう。
建前上は、モカさんの依頼と指揮で、ハテノ領の騎士が動くことにして欲しいんだって。
要は、モカさんが風除けになってくれれば、あとはこっちで勝手にするってことだね。
「まあ、仕方がありませんな…。
アルト様が王を一睨みすれば、難癖を付けられることは無いでしょうし。
何よりも、この王都でご禁制の薬が乱用されているのは由々しき事態ですからな。
では、私は計画を明かさずに信頼できる部下を十名ほど集める事としましょう。
何とか日没前には決行できるように致します。」
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