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第十六章 里帰り、あの人達は…
第487話 お願い、アルト
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一緒にお風呂に入って、ウルシュラ姉ちゃんが貴族を嫌う理由が良く解かったよ。
父親がロクでもない貴族で、これまたロクでもない貴族のどら息子に付きまとわれたら貴族を蛇蝎のように嫌悪するのも仕方がないね。
翌朝、日課のトレント狩りに行くと、カズヤ殿下達が既に訓練を始めていたの。
真面目にトレント狩りを続けるなんて、立派、立派、感心しちゃうよ。
朝のノルマ、トレント十体を倒し終えたおいらは、先に訓練を終えて休憩しているクッころさんに尋ねてみたんだ。
「昨日、エロスキー子爵の家臣に絡まれてさぁ。
殴り掛かって来たもんだから、返り討ちにして騎士の詰め所に突き出したんだけど。
エロスキー子爵って、どんな人、それなりに影響力のある人なのかな。」
「あら、エロスキー子爵の家臣がこの町に来ているの?
何でまた、こんな辺境に…、いったい何の用かしら。
マロンは、エロスキー子爵の立ち位置が知りたいのね。
一言で言えば、虎の威を借る狐。
いえ、狐でもまだ過大評価ですわね。
ネズミが良いとこでしょうか。
歴史はありますが、資産も、役職も大したことありませんわ。
でも、当代はヨイショが上手くて、王に上手く取り入ってますの。
王のお気に入りなのを良いことに、やりたい放題だと聞きますわ。」
エロスキー子爵は今の王様の取り巻きの一人なんだって。
凡庸で事務処理能力に欠け、大した仕事は任せていないらしいけど。
王の威光を笠に着ていて、そこそこの数の下級貴族を従えてるらしいよ。
モカさん辺りは眉を顰めていて、「付き合う相手は選ぶように。」と王に進言しているそうだけど。
エロスキー子爵は王の耳に心地良いことばかり言うものだから、モカさんの進言を聞き入れてくれないんだって。
まあ、類は友を呼ぶって言うし、ダメな王様にはダメな貴族が群がるんだろうね。
「うん? エロスキー子爵が何かあったのか?」
ちょうどノルマを終えたカズヤ殿下が、カズミ姉ちゃんとネーブル姉ちゃんを伴なってやって来たの。
「うんにゃ、何かあったのは子爵じゃなくて、そのどら息子。
風呂屋に入るためだけに、遥々王都からやって来たらしいよ。
それで、ウララ姉ちゃんを気に入ったようでね。
無理やり妾にしようとしてたんだ。
ウララ姉ちゃんが子爵家の家臣と揉めてるところに出くわしたの。」
「なに、ウララ嬢が子爵のどら息子に目を付けられただって!
それで、ウララ嬢は無事なのかい。
子爵の息子と言えば、女癖が悪いので有名だぞ。」
おいらの話しを聞いて、カズヤ殿下は慌てた様子で尋ねてきたの。とても心配しているみたいだった。
「あら、カズヤ様、私と言うものが有りながら、他の女性のことが気になりますか?」
「痛てて…。」
「お兄様、ネーブル様と言う素敵な婚約者がいらっしゃるのに。
まだ、お風呂屋さんの泡姫さんにご執心なのですか。
それは、余りに不誠実なのでは。」
ネーブル姉ちゃんが、カズヤ殿下の脇腹を抓りながら詰問していたよ。
カズヤ殿下、カズミ姉ちゃんからも冷ややかな目で非難されてた。
「いや、誤解だ、何も含むところは無いぞ。
子爵の息子は王都でも有名な鼻つまみ者ゆえ。
見知った者が、毒牙にかかるのを捨てておけないだけだ。」
婚約者と義妹に詰め寄られてカズヤ殿下はタジタジだったよ。必死で言い訳してた。
しかし、王太子殿下の耳に入るほどの鼻つまみ者って…、どんだけ素行に問題があるんだろう?
「それは安心して良いよ。
絡んでいた家臣はおいらが退治しておいたし。
ウララ姉ちゃんは、おいらが保護しているから。
昨日は風呂屋を休ませて、うちに泊ってもらったの。」
おいらの返事を聞いて、カズヤ殿下はホッとした顔をしていたよ。
そんなカズヤ殿下を、二人は白い目で見てた…。
**********
朝のトレント狩りを終えたおいら達。
カズヤ殿下のグループは町へ帰って行ったけど、おいらはアルトを訪ねたんだ。
「ここが、アルト様の森ですか…。
不思議な感じですね、森の中にポツンと村があるなんて。
それに、妖精さんや耳長族の方が沢山…。」
目の前に広がる耳長族の村を前に、呆気に取られているトルテ姉ちゃん。
驚くのも無理がないよ。
鬱蒼した森の中、細い道を進むと突然視界が開け、耳長族の村がある広場に出くわすからね。
「あら、マロン、おはよう。
ここに来るのも久しぶりね。
スライムとか、アワアワの実とか、補充していけば良いわ。」
おいらに気付いたアルトが声をかけてくれたの。
「おはよう、アルト。
お言葉に甘えてもらっていくよ。
それでね、アルト、ちょっとお願いできない。」
おいらは昨日あったことをアルトに話して、協力を頼んだの。
「そのどら息子を『積載庫』に閉じ込めて…。
マロンが国へ帰る時に、あの昼行灯の前へ突き出せば良いのね。
そのくらいなら、お安い御用よ。
どうせ、后と王太子を送る必要があるからね。」
そう、エロスキー子爵のどら息子は、今日中に何とかするつもりだけど。
あんな素行の悪い者を放置している王様には、一言釘を刺しておかないとね。
とは言え、せっかくの休暇だもの。
そんな事のために、わざわざ王都まで行くんじゃ、時間の無駄だからね。
おいらが、帰る日までどら息子はアルトの『積載庫』に収監しておいてもらおうと思ったんだ。
アルトの協力を取り付けたおいらは、その足で騎士団の詰め所に行ったの。
「おはよう、ペンネ姉ちゃん。
あの三人、何て言ってた?
どら息子から拉致って来いと命じられていたかな。」
ペンネ姉ちゃんの執務室に入るなり、おいらは真っ先に尋ねたの。
「あっ、マロンちゃん、いらっしゃい。
こんなに早く訪ねて来るなんて、…。
マロンちゃん、早々にケリをつけるつもりね。
でもね…、期待に添えなくてゴメンなさい。
尋問が捗ってないのよ…、話しが噛み合わなくてね。」
ペンネ姉ちゃん、うんざりした表情で愚痴っぽく言ってたの。
自分の目で確かめれば良いと言って、ペンネ姉ちゃんはおいらを三人のもとに連れて行ったんだ。
詰め所の一画に設けられた留置所に行ってみると…。
「おい、騎士、そのガキをとっ捕まえろ。
そのガキ、若様からの御命令を遂行中の我々を邪魔したのだぞ。
それどころか、貴族の家臣である我らにこんな怪我を負わせたのだ。
王都の騎士団に突き出して、そのガキを死罪にしてもらうのだ。」
おいらの顔を見た瞬間に、そんな戯言を吠えたんだ。
そんなエロスキー子爵家の家臣三人に、ペンネ姉ちゃんはうんざりした様子で。
「ねえ、一事が万事こんな感じなのですよ。
のっけから、貴族の家臣である自分達を牢に入れるなどけしからんですし。
三人がした事が領法では重罪に当たると説明すると、そんなのは法がおかしいと怒鳴るしで。
一言目には速やかに釈放しろで、こちらの尋問に応じようとしないんです。」
そんな状況説明をしてくれたの。
なるほど、話しが噛み合わないって、そういう事なんだ。
連中のやっていることが違法行為だと説明しても、自分達の非を認めようとしないんだ。
これじゃ、ウルシュラ姉ちゃんが貴族を嫌いになる気持ちも分かるよ。
貴族なら、平民相手に何をしても良いと思っているんだもの。
すると…。
「煩いわね、躾のなってない駄犬共ね。
キャンキャン吠えて。」
おいらの隣に浮かんでいたアルトがそんな事を言ったかと思うと…。
バリ、バリ、バリッ!
久し振りに問答無用の一撃が出たよ。
戯言を言ってた三人の一人だけを的確に捉え、致命傷にならないギリギリのお仕置きをしたんだ。
耳障りな悲鳴を上げた男は、アルトがビリビリが止んだ時には髪がチリチリになってたよ。
所々服が焼け焦げて、プスプスと燻ぶってた…。
「テメエがやったのか!
この羽虫、何てことをしやがる!」
仲間が殆ど廃人と化したのを目にして、アルトに噛みつく愚か者がいたけど。
「あんた達、まだ、自分の立場が分からないの?
こっちはね、尋問する相手が一人残れば良いのよ。
今、私を羽虫と呼んだあんた。
次はあんたがあんな風になってみる?」
アルトはプスプスと燻ぶる男を指差して、残りの二人を脅したんだ。
すると…。
「まっ、待ってくれ!
言う、何でもしゃべるから、そんな無体なことは勘弁してくれ。」
さっきまで悪態を吐いていたのに、急に命乞いをし始めたよ。
なので、おいらは尋問を始めることにしたの。
「理解してもらって助かったよ。
じゃあ、教えて。
おじさん達は、子爵のバカ息子から、どんな指示を受けてきたの?」
「俺達は、若様からウララって泡姫を連れて来いと言われたんだ。」
「それは、昨日聞いたよ。
でもさ、ウララ姉ちゃんは、はっきりと断ったんでしょう。
バカ息子に面と向かって。
おじさん達が連れて来いと命じられても、ウララ姉ちゃんはウンと言わないでしょう。
実際、おいらが出くわした時には断られていたし。」
「口の悪いガキだな。
若様に向かって、バカ息子だなんて…。
確かに、若様は年相応な分別が備わっていない気がするが。
平民が若様を罵るなんて、無礼にもほどがあるぞ。」
おいらの言い方に、家臣の一人が腹を立てたけど…。
「ひっ…、悪かった。
確かに、そのお嬢さんのおっしゃる通り、若様はバカ息子だ。
だから、それは引っ込めてくれ。」
おいらの隣でアルトが、青白い光の玉を発生させて見せると手の平をひっくり返したよ。
「若様は、ウララが四の五の言ったら、力尽くでも引っ張ってこいと命じたんだ。
男三人もいれば、縄を打って袋詰めにしても担いで来れるだろうってな。
部屋に連れ込んじまえば、後はどうとでもなるってな。
抵抗できなくなる薬をキメて、従順になるまで姦りまくるって言ってたんだ。」
「薬? 抵抗できなくなる薬と言ってましたか?
今滞在している宿には、そんな薬を持ち込んでいるのですか?」
「ああ、若様は何時でも持ち歩いてるんだ。
気に入った娘がいれば、一服盛って戴いちまうのが常套手段だからな。」
何でも、稀代の醜男と評判のどら息子が言い寄っても、なびく娘さんなんていないそうで。
家臣が力尽くで拉致して、薬で抵抗できなくしてから、どら息子が悪さをするのが常なんだって。
「マロンちゃん、ナイスです。
これで鼻つまみ者、エロスキー子爵のどら息子を、堂々と捕縛できますよ。
そういった類の薬は国法で厳禁となっています。
他人に無理やり服用させることは、死罪まであり得る重罪です。
これから、ガサ入れしましょう。」
パッと嬉しそうに表情を緩めて、ペンネ姉ちゃんが声を上げたよ。
おいら、どら息子が拉致を命じたと分かった段階で捕えることが出来ると思ったんだけど。
薬の方がもっとヤバいことだったみたい。
ペンネ姉ちゃん、とっても意気込んでいたよ。
何としてでも『薬』を見つけ出して、貴族社会から永遠に葬り去ってやるって。
父親がロクでもない貴族で、これまたロクでもない貴族のどら息子に付きまとわれたら貴族を蛇蝎のように嫌悪するのも仕方がないね。
翌朝、日課のトレント狩りに行くと、カズヤ殿下達が既に訓練を始めていたの。
真面目にトレント狩りを続けるなんて、立派、立派、感心しちゃうよ。
朝のノルマ、トレント十体を倒し終えたおいらは、先に訓練を終えて休憩しているクッころさんに尋ねてみたんだ。
「昨日、エロスキー子爵の家臣に絡まれてさぁ。
殴り掛かって来たもんだから、返り討ちにして騎士の詰め所に突き出したんだけど。
エロスキー子爵って、どんな人、それなりに影響力のある人なのかな。」
「あら、エロスキー子爵の家臣がこの町に来ているの?
何でまた、こんな辺境に…、いったい何の用かしら。
マロンは、エロスキー子爵の立ち位置が知りたいのね。
一言で言えば、虎の威を借る狐。
いえ、狐でもまだ過大評価ですわね。
ネズミが良いとこでしょうか。
歴史はありますが、資産も、役職も大したことありませんわ。
でも、当代はヨイショが上手くて、王に上手く取り入ってますの。
王のお気に入りなのを良いことに、やりたい放題だと聞きますわ。」
エロスキー子爵は今の王様の取り巻きの一人なんだって。
凡庸で事務処理能力に欠け、大した仕事は任せていないらしいけど。
王の威光を笠に着ていて、そこそこの数の下級貴族を従えてるらしいよ。
モカさん辺りは眉を顰めていて、「付き合う相手は選ぶように。」と王に進言しているそうだけど。
エロスキー子爵は王の耳に心地良いことばかり言うものだから、モカさんの進言を聞き入れてくれないんだって。
まあ、類は友を呼ぶって言うし、ダメな王様にはダメな貴族が群がるんだろうね。
「うん? エロスキー子爵が何かあったのか?」
ちょうどノルマを終えたカズヤ殿下が、カズミ姉ちゃんとネーブル姉ちゃんを伴なってやって来たの。
「うんにゃ、何かあったのは子爵じゃなくて、そのどら息子。
風呂屋に入るためだけに、遥々王都からやって来たらしいよ。
それで、ウララ姉ちゃんを気に入ったようでね。
無理やり妾にしようとしてたんだ。
ウララ姉ちゃんが子爵家の家臣と揉めてるところに出くわしたの。」
「なに、ウララ嬢が子爵のどら息子に目を付けられただって!
それで、ウララ嬢は無事なのかい。
子爵の息子と言えば、女癖が悪いので有名だぞ。」
おいらの話しを聞いて、カズヤ殿下は慌てた様子で尋ねてきたの。とても心配しているみたいだった。
「あら、カズヤ様、私と言うものが有りながら、他の女性のことが気になりますか?」
「痛てて…。」
「お兄様、ネーブル様と言う素敵な婚約者がいらっしゃるのに。
まだ、お風呂屋さんの泡姫さんにご執心なのですか。
それは、余りに不誠実なのでは。」
ネーブル姉ちゃんが、カズヤ殿下の脇腹を抓りながら詰問していたよ。
カズヤ殿下、カズミ姉ちゃんからも冷ややかな目で非難されてた。
「いや、誤解だ、何も含むところは無いぞ。
子爵の息子は王都でも有名な鼻つまみ者ゆえ。
見知った者が、毒牙にかかるのを捨てておけないだけだ。」
婚約者と義妹に詰め寄られてカズヤ殿下はタジタジだったよ。必死で言い訳してた。
しかし、王太子殿下の耳に入るほどの鼻つまみ者って…、どんだけ素行に問題があるんだろう?
「それは安心して良いよ。
絡んでいた家臣はおいらが退治しておいたし。
ウララ姉ちゃんは、おいらが保護しているから。
昨日は風呂屋を休ませて、うちに泊ってもらったの。」
おいらの返事を聞いて、カズヤ殿下はホッとした顔をしていたよ。
そんなカズヤ殿下を、二人は白い目で見てた…。
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朝のトレント狩りを終えたおいら達。
カズヤ殿下のグループは町へ帰って行ったけど、おいらはアルトを訪ねたんだ。
「ここが、アルト様の森ですか…。
不思議な感じですね、森の中にポツンと村があるなんて。
それに、妖精さんや耳長族の方が沢山…。」
目の前に広がる耳長族の村を前に、呆気に取られているトルテ姉ちゃん。
驚くのも無理がないよ。
鬱蒼した森の中、細い道を進むと突然視界が開け、耳長族の村がある広場に出くわすからね。
「あら、マロン、おはよう。
ここに来るのも久しぶりね。
スライムとか、アワアワの実とか、補充していけば良いわ。」
おいらに気付いたアルトが声をかけてくれたの。
「おはよう、アルト。
お言葉に甘えてもらっていくよ。
それでね、アルト、ちょっとお願いできない。」
おいらは昨日あったことをアルトに話して、協力を頼んだの。
「そのどら息子を『積載庫』に閉じ込めて…。
マロンが国へ帰る時に、あの昼行灯の前へ突き出せば良いのね。
そのくらいなら、お安い御用よ。
どうせ、后と王太子を送る必要があるからね。」
そう、エロスキー子爵のどら息子は、今日中に何とかするつもりだけど。
あんな素行の悪い者を放置している王様には、一言釘を刺しておかないとね。
とは言え、せっかくの休暇だもの。
そんな事のために、わざわざ王都まで行くんじゃ、時間の無駄だからね。
おいらが、帰る日までどら息子はアルトの『積載庫』に収監しておいてもらおうと思ったんだ。
アルトの協力を取り付けたおいらは、その足で騎士団の詰め所に行ったの。
「おはよう、ペンネ姉ちゃん。
あの三人、何て言ってた?
どら息子から拉致って来いと命じられていたかな。」
ペンネ姉ちゃんの執務室に入るなり、おいらは真っ先に尋ねたの。
「あっ、マロンちゃん、いらっしゃい。
こんなに早く訪ねて来るなんて、…。
マロンちゃん、早々にケリをつけるつもりね。
でもね…、期待に添えなくてゴメンなさい。
尋問が捗ってないのよ…、話しが噛み合わなくてね。」
ペンネ姉ちゃん、うんざりした表情で愚痴っぽく言ってたの。
自分の目で確かめれば良いと言って、ペンネ姉ちゃんはおいらを三人のもとに連れて行ったんだ。
詰め所の一画に設けられた留置所に行ってみると…。
「おい、騎士、そのガキをとっ捕まえろ。
そのガキ、若様からの御命令を遂行中の我々を邪魔したのだぞ。
それどころか、貴族の家臣である我らにこんな怪我を負わせたのだ。
王都の騎士団に突き出して、そのガキを死罪にしてもらうのだ。」
おいらの顔を見た瞬間に、そんな戯言を吠えたんだ。
そんなエロスキー子爵家の家臣三人に、ペンネ姉ちゃんはうんざりした様子で。
「ねえ、一事が万事こんな感じなのですよ。
のっけから、貴族の家臣である自分達を牢に入れるなどけしからんですし。
三人がした事が領法では重罪に当たると説明すると、そんなのは法がおかしいと怒鳴るしで。
一言目には速やかに釈放しろで、こちらの尋問に応じようとしないんです。」
そんな状況説明をしてくれたの。
なるほど、話しが噛み合わないって、そういう事なんだ。
連中のやっていることが違法行為だと説明しても、自分達の非を認めようとしないんだ。
これじゃ、ウルシュラ姉ちゃんが貴族を嫌いになる気持ちも分かるよ。
貴族なら、平民相手に何をしても良いと思っているんだもの。
すると…。
「煩いわね、躾のなってない駄犬共ね。
キャンキャン吠えて。」
おいらの隣に浮かんでいたアルトがそんな事を言ったかと思うと…。
バリ、バリ、バリッ!
久し振りに問答無用の一撃が出たよ。
戯言を言ってた三人の一人だけを的確に捉え、致命傷にならないギリギリのお仕置きをしたんだ。
耳障りな悲鳴を上げた男は、アルトがビリビリが止んだ時には髪がチリチリになってたよ。
所々服が焼け焦げて、プスプスと燻ぶってた…。
「テメエがやったのか!
この羽虫、何てことをしやがる!」
仲間が殆ど廃人と化したのを目にして、アルトに噛みつく愚か者がいたけど。
「あんた達、まだ、自分の立場が分からないの?
こっちはね、尋問する相手が一人残れば良いのよ。
今、私を羽虫と呼んだあんた。
次はあんたがあんな風になってみる?」
アルトはプスプスと燻ぶる男を指差して、残りの二人を脅したんだ。
すると…。
「まっ、待ってくれ!
言う、何でもしゃべるから、そんな無体なことは勘弁してくれ。」
さっきまで悪態を吐いていたのに、急に命乞いをし始めたよ。
なので、おいらは尋問を始めることにしたの。
「理解してもらって助かったよ。
じゃあ、教えて。
おじさん達は、子爵のバカ息子から、どんな指示を受けてきたの?」
「俺達は、若様からウララって泡姫を連れて来いと言われたんだ。」
「それは、昨日聞いたよ。
でもさ、ウララ姉ちゃんは、はっきりと断ったんでしょう。
バカ息子に面と向かって。
おじさん達が連れて来いと命じられても、ウララ姉ちゃんはウンと言わないでしょう。
実際、おいらが出くわした時には断られていたし。」
「口の悪いガキだな。
若様に向かって、バカ息子だなんて…。
確かに、若様は年相応な分別が備わっていない気がするが。
平民が若様を罵るなんて、無礼にもほどがあるぞ。」
おいらの言い方に、家臣の一人が腹を立てたけど…。
「ひっ…、悪かった。
確かに、そのお嬢さんのおっしゃる通り、若様はバカ息子だ。
だから、それは引っ込めてくれ。」
おいらの隣でアルトが、青白い光の玉を発生させて見せると手の平をひっくり返したよ。
「若様は、ウララが四の五の言ったら、力尽くでも引っ張ってこいと命じたんだ。
男三人もいれば、縄を打って袋詰めにしても担いで来れるだろうってな。
部屋に連れ込んじまえば、後はどうとでもなるってな。
抵抗できなくなる薬をキメて、従順になるまで姦りまくるって言ってたんだ。」
「薬? 抵抗できなくなる薬と言ってましたか?
今滞在している宿には、そんな薬を持ち込んでいるのですか?」
「ああ、若様は何時でも持ち歩いてるんだ。
気に入った娘がいれば、一服盛って戴いちまうのが常套手段だからな。」
何でも、稀代の醜男と評判のどら息子が言い寄っても、なびく娘さんなんていないそうで。
家臣が力尽くで拉致して、薬で抵抗できなくしてから、どら息子が悪さをするのが常なんだって。
「マロンちゃん、ナイスです。
これで鼻つまみ者、エロスキー子爵のどら息子を、堂々と捕縛できますよ。
そういった類の薬は国法で厳禁となっています。
他人に無理やり服用させることは、死罪まであり得る重罪です。
これから、ガサ入れしましょう。」
パッと嬉しそうに表情を緩めて、ペンネ姉ちゃんが声を上げたよ。
おいら、どら息子が拉致を命じたと分かった段階で捕えることが出来ると思ったんだけど。
薬の方がもっとヤバいことだったみたい。
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