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第十六章 里帰り、あの人達は…

第485話 うちに招待してみたよ

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 王都の社交でも鼻つまみ者だと言うエロスキー子爵のどら息子。
 風呂屋で遊ぶだけの目的で、わざわざ王都からやって来たみたい。
 辺境にあるこの町まで、馬車で十日以上掛ると言うのによくやるよ。

 そんなどら息子に執着されてしまったのが、風呂屋で泡姫をしているウララ姉ちゃん。 
 妾になれとしつこく言い寄られてるんだって。

 そんなウララ姉ちゃんが、どら息子の家臣らしきゴロツキと揉めているところに出くわしたんだ。
 ゴロツキ三人が素直に引かないものだから、おいら、つい撃退しちゃったよ。
 なるべく穏便に済ませたかったんで、殴り掛かって来た拳を軽く払っただけなんだけど。
 クリティカルのスキルが働いて手首を粉砕しちゃった。

 お忍びで来ているので、おいらの素性は明かしたくないし。
 かと言って平民が貴族の家臣を負傷させたとなると大事になっちゃう。
 それで、騎士団に何とかしてもらおうと思って、詰め所に引き摺って来たの。

 詰め所に三人を突き出して、連隊長のペンネ姉ちゃんに事情を説明したんだけど。
 ペンネ姉ちゃんったら、どら息子を殺っちゃえなんておいらを唆したんだ。
 自分は面倒なことに巻き込まれたくないからって。

 いや、おいらだって面倒なことに巻き込まれるのはゴメンだよ。

「先ずは、あの三人を尋問してみましょうか。
 どら息子から、どんな指示を受けていたのかを確認しないと。」

 拉致しろと命じられていたのなら、どら息子共々この領地の法で裁けるからとペンネ姉ちゃんは言ってたけど。
 まあ、余程の粗忽者じゃなければ、拉致するつもりだったとは言わないよね。
 この領地で拉致が罪になると知ってれば、「丁重にお連れするつもりだった。」と言い張るのが普通だと思う。

 三人の尋問においらも同席しようかと思っていると。

「ねえちゃ、ねえちゃ、みんめい、おうちかえゆ。」

 三人組を打ち倒した時は、楽しそうにはしゃいでいたミンメイだけど。
 詰め所で大人しくしているのは退屈なようで、帰りたいと言い出したんだ。

「あっ、ミンメイちゃん、退屈しちゃいましたよね。
 それじゃ、あの三人組は私達で何とかしますので。
 マロンちゃんはお帰りになって良いですよ。」

 流石に、これからプチっと殺りに行けとは言わないか…。
 おいらは、ゴロツキ三人をペンネ姉ちゃんに預けて帰ることにしたんだ。

 ただ、その前に…。 

「ねえ、ウララ姉ちゃん、念のため今日はお仕事お休みしたら?
 どら息子の手下が他にもいるかも知れないから、今日は家にも帰らない方が良いと思う。
 よかったら、うちに泊まりに来ない?」

 乗り掛かった舟なので、ウララ姉ちゃんを誘ってみたんだ。
 社交界で執念深いと悪評が立つくらいなら、簡単に諦めるはずがないものね。
 他の手下が家の前で待ち構えているかも知れないし。

「でも、急にお店を休むと迷惑を掛けちゃうわ。
 今日も指名が入っているでしょうし… 。」

 ウララ姉ちゃんは、責任感が強いのか仕事を休むことに難色を示したの。

「ああ、それなら、騎士団の方で支配人さんに伝えますよ。
 今日の件を説明して、念のため一日こちらで保護すると。
 お店に損害が発生するようなら、どら息子に負担させるよう伝えますよ。
 マロンちゃんの家に居れば安全だし。
 きっと、マロンちゃんが上手く片付けてくれますよ。」

 ペンネ姉ちゃん、おいらにどら息子を押し付ける気満々だね。
 本当に関わりになりたくないみたい。
 損害金を負担させるって、それ取り立てるのもおいらにさせるつもりじゃないの?
 大丈夫なの? 領民の安全を守る騎士がそんな事で…。

 それはともかく、ペンネ姉ちゃんの説得もあってウララ姉ちゃんはうちにお泊りする事になったんだ。

        **********

「まーま、たらいま!」

 玄関の扉を開けてあげると、元気の良い声を上げながら家の中へ駆け出すミンメイ。
 そんなミンメイを微笑ましそうな目で見ながらも。

「マロンちゃん、凄いお屋敷に住んでいるのね…。
 お金持ちのお嬢様だったんだ。」

 ウララ姉ちゃんは驚いた顔をしてたよ。
 おいらもミンメイも何処にでもいる町娘の格好をしているから。
 普通はお金持ちのお嬢様だとは思わないだろうね。

「元からお金持ちだった訳じゃないよ。
 一年半ほど前までは鉱山住宅に住んでいたもん。
 一部屋と土間しかない家で、父ちゃんと二人、同じベッドで寝てたの。
 父ちゃんがお嫁さんを貰ったんで、広い家が必要になってね。
 しばらく魔物狩りを頑張って、この家を買ってくれたんだよ。」

 嘘は言ってないよ、その後のことは言ってないだけで。

「へえ、良いお父さんなのね。
 こんな大きなお屋敷が買えるなんて。
 さぞかし腕利きの冒険者なのでしょうね。」

「うん、とっても良い父ちゃんなんだ。
 おいら、父ちゃんが大好き!」

 父ちゃんのことを褒められたのが嬉しくて、おいらはそれを肯定するように返答したんだけど。
  
「そう、良いお父さんで良かったわね…。」

 そう呟いたウララ姉ちゃんの表情は曇ってたよ。
 おいら、何か、気に障ることでも言ったかな。

「マロンちゃん、お帰りなさい。
 ミンメイから聞いたけど、街で悪い人に絡まれたんだって。
 怪我が無くて良かった、余り危ない真似をしたらダメよ。
 そちらが、絡まれていたお嬢さんかしら?」

 ミンメイを抱っこしたミンミン姉ちゃんが奥から出て来て、迎えてくれたよ。
 しかし、あのミンメイの舌足らずの言葉で、良くそこまで分かったね…。
 母娘ならではの意思の疎通法でもあるんだろうか。

「うん、ウララ姉ちゃん、悪い人に付きまとわれててね。
 今日は念のため、ここに泊ってもらうの。
 明日には、何とかするつもりだから。」

「そう、ウララさんと言うのね。いらっしゃい。
 私はミンミン。マロンちゃんの義理のお母さんなの。
 マロンちゃんのお父さんのお嫁さんね。
 何かトラブルに巻き込まれているみたいだけど。
 マロンちゃんが明日中に解決してくれるみたいだから安心して。
 今日は、気を楽にして泊っていってね。」

「はっ、はあ? 
 突然お邪魔して申し訳ございません。
 今日はお世話になります。」

 ウララ姉ちゃんは困惑していたよ。
 ミンミン姉ちゃんが確信を持って、おいらが明日中に解決するなんて言うものだから。
 ペンネ姉ちゃんも、ミンミン姉ちゃんも、小っちゃなおいらに信頼を寄せているのを不思議に思ったんだろうね。

        **********

「そんな訳で、ウララ姉ちゃん、エロスキー子爵のどら息子に狙われているの。
 一人にしておくと心配だから、うちにお招きしたんだ。」

 この館に滞在している皆が顔を揃えた夕食の席で、おいらはウララ姉ちゃんの紹介を兼ねて事情を説明したの。

 すると…。

「マロンちゃん、ゴメンなさい。
 私、ウララって名前じゃないの。
 ウララはお店に出る時の名前で、本当の名前はウルシュラよ。
 入店の時に、指導役のお爺ちゃんが付けてくれたの。
 ミヤビちゃんも、本名はミラベラよ。
 私、お店と関係ない場所でウララとは呼んで欲しくないの。」

 ウララ姉ちゃん、改め、ウルシュラ姉ちゃんが言ったんだ。
 何でも、にっぽん爺の故郷では水商売のお姉さんが、本名でお店に出ることはないそうなの。
 この国ではそんな習慣はないらしいけど、支配人はにっぽん爺の話に乗ったんだって。
 泡姫を止めた後に、泡姫だった過去を隠して暮らして行けるようにって。
 ウララ、ミヤビの他にも、ナギサとか、シノブとか、にっぽん爺が泡姫さんに名付けていたみたい。

「しかし、ウルシュラさんも災難だったね。
 そんな質の悪い貴族に目をつけられるなんて。
 全部が全部って訳じゃないけど。
 貴族の中には、貴族の義務も果たさない癖に。
 威張りくさって、平民を人とも思ってない奴が居るからな。
 そいつも、そんなバカ貴族の一人なんだろう。」

 おいらから事情を聴いて、父ちゃんはエロスキーのどら息子に呆れていたけど。
 ウルシュラ姉ちゃんは表情を険しくして。

「貴族なんて、みんなロクなモンじゃありませんわ。
 特に貴族の男共は最低です。
 民の娘を欲望の捌け口に使う道具くらいにしか思ってないのですから。
 しかも、民の娘は自分達の言いなりになるものだなんて勘違いしてるし…。」

 吐き捨てるように言ったの。
 何か、貴族に恨みでもあるのかな?

 ウルシュラ姉ちゃんはこの辺の生まれではないそうで、ハテノ男爵領の評判を聞いてやって来たらしいよ。
 領主が女性で、女性が生き易い領地を作ろうとしているって噂になっているみたい。
 女性と男性を対等に扱っているとか、女性に対する数々の暴力を法で禁止しているとか。

「しかし、そのエロスキー子爵のどら息子とやら。
 貴族の風上にも置けない愚物ですな。
 しかも、手下がマロンお嬢様に危害を加えようとしたなんて。
 万死に値する所業です。
 手下の仕出かしたことの落とし前を付けてもらわないといけませんね。
 マロンお嬢様、明日カチコミに行かれるのでしょう。
 是非私にお供させてください。
 その愚物、剣の錆にしてくれましょう。」

 ジェレ姉ちゃんが、そんな不穏な事を言ってたよ。
 ダメだよ、他国の貴族を殺したら問題になっちゃうから。 
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