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アイイロモンペ

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第十六章 里帰り、あの人達は…

第482話 自信満々のネーブル姉ちゃん

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 アルトがシタニアール国から連れて来ちゃったネーブル姉ちゃん。
 「もう、カズト様に寂しい思いはさせないわ。」なんて言ってるけど…。

 まっ、それはひとまず置いといて。
 ネーブル姉ちゃんは部屋の中にタロウが居ることに気付くと。

「そうそう、そこの冴えないお兄さん。
 花嫁衣装を注文したいので、シフォンさんを呼んでくれないかしら。」

 シフォン姉ちゃんを呼べと指示したんだ。
 おいらの即位式のドレスに、シーリン姉ちゃんがお嫁入りの時に着ていたドレス。
 共にシフォン姉ちゃんの作なんだけと、ネーブル姉ちゃんは両方ともとても気に入ったようでね。
 自分のお嫁入りの時もシフォン姉ちゃんに依頼したいと、以前から言っていたんだ。 

「連れて来るのはかまわないけど。
 デザインしたのはシフォンじゃないぞ。
 この屋敷の主の爺さんだ。
 あんたも、会ったことがあるだろう。」

「そう言えば、そんな事を聞いた覚えがあるわ。
 あのお爺ちゃん、異国の生まれで。
 とても斬新なデザインをなさるのよね。
 何でも、故郷ではポピュラーなデザインだとか。」

 タロウに指摘されたネーブル姉ちゃんは、シフォン姉ちゃんも交えてにっぽん爺に相談するって言ってたよ。
 それで、今更ながらそこがにっぽん爺の屋敷だと気付いた様子だった。
 「お爺ちゃん、随分と立派な屋敷に引っ越したのね。」なんて、言ってたよ。

「それでは、シフォンさんが来られる前にお父さんを起してきます。
 この時間じゃ、まだ寝ているでしょうから。」

 そう言って、カズミ姉ちゃんはにっぽん爺を起こしに部屋を出て行ったよ。
 にっぽん爺、まだ寝ているんだ…、もう日が高いのに。

           **********

 シフォン姉ちゃんが着いて間もなく、にっぽん爺も起きて来たよ。
 もちろん、ミントさんも一緒にね。

 こんな遅くまで寝てたのに、にっぽん爺は少しお疲れの様子だったの。
 しかも…。

「ねえ、にっぽん爺、どこか具合が悪いの?
 少し、やつれているみたいだし。
 首筋に、虫刺されみたいな、痣? が幾つもあるよ。
 これ、飲んでおいた方が良いかも。」

 おいらが『妖精の泉の水』を差し出しながら尋ねると。
 気拙そうな表情を見せたにっぽん爺は、返答に窮した様子を見せ。

「あっ、いや、なんだ、これはだな…。
 まあ、水は有り難く頂戴しておくよ。」

 言葉を濁しつつも、カップを手に取り水に口を付けたの。

 おいらの問い掛けに何か問題があったのか、周りのみんなも気拙そうな顔をしていたよ。
 おいらの言葉のせいで、部屋の中がシーンとしちゃった。

 もっとも、『妖精の泉』の水はいつもながら抜群の効き目で。
 水を飲みほすと、にっぽん爺は顔色も良くなり、首筋の痣も綺麗に消えたの。

「マロン、有り難う。
 自分では気付かなかったが、大分疲れが溜まっていたようだ。
 ミントさんに会えた嬉しさに、年甲斐も無く張り切り過ぎてしまった。
 これからは、年相応に自重することにしよう。」

 何を張り切っていたのか知らないけど、…。
 にっぽん爺の言葉を聞いて、この屋敷に滞在するみんながウンウンと頷いていたよ。
 どうやら、みんな、にっぽん爺に自重して欲しいと思ってたみたいだね。
 
「まあ、カズト様ったら、嬉しいことを仰ってくださいます。
 私も、カズト様にお目にかかれて我を忘れてしまいましたわ。
 私としたことが、カズト様にご無理をさせてしまったみたいですね。
 今晩からは私も少し自重することに致しますわ。」

 そう言ったミントさんは、艶々のテカテカで全然疲れた様子が見えないんだけど…。
 そんなミントさんに何か含むところがあるようで、カズヤ殿下は白い目で見てたよ。
 
        **********

 おいらがにっぽん爺に体の具合を尋ねてから、室内に気拙い雰囲気が漂っていたんだけど。

「あら、誰かと思えばネーブルちゃんじゃない。
 お久しぶりね、会えて嬉しいわ。
 今回はカズヤに会いに来てくれたのかしら。」

 ネーブル姉ちゃんの存在に気付いたミントさんが沈黙を破ったの。

「ミントお義母さま、ご無沙汰しております。
 はい、アルト様からカズト様がこちらに滞在中と伺いまして。
 是非ともお目に掛かりたいと、アルト様に無理を言って連れて来て頂きました。
 それに、こちらのお爺様とシフォンさんにもお願いしたこともありましたので。」

 姿勢を正してお行儀良く挨拶をしたネーブル姉ちゃん。

 すると、…。

「うん? 婚約者のカズト殿下に会いたいと言う気持ちは分かるが。
 私のような老いぼれにどんなご用がお有りかな?」

「はい、カズト様との婚礼が半年後に迫っておりまして。
 私の花嫁衣裳を仕立てて頂きたく存じます。
 素敵な衣装をデザインしてくださいませんか。」

 自分を指名されて意外な顔をするにっぽん爺に、ネーブル姉ちゃんはドレスの作成を依頼したの。
 そして、アルトに預けてあった『妖精絹』の生地、一着分を出してもらってた。
 この布地は、シーリン姉ちゃんの嫁入りの際に、王室に献上した品の一つなんだって。

「まあ、素敵な生地! カズト様、私からもお願いしますわ。
 嫁いで来るネーブルちゃんに素敵なドレスを仕立ててくださいませ。」

 光沢のある『妖精絹』に感嘆したミントさんも、にっぽん爺に頼み込んでいたよ。

 それじゃ、ついでに。

「にっぽん爺、おいらからも一つお願いがあるんだ。
 これで、一着、ネーブル姉ちゃんにドレスを作って欲しいの。
 お色直し用のパーティードレスになるのかな。」

 おいらは、マイナイ伯爵領で手に入れた『グリーンシルク』の生地一着分を差し出したよ。
 いっぱい手に入ったから、ネーブル姉ちゃんにもお裾分けしようと思ってたんだ。

「なに、これ、マロンちゃん! こんなキレイな布地見たこと無い!」

「これ、ウエニアール国のごく一部に生息するイモムシの魔物が作り出す糸で織ったんだ。
 魔物の領域にしか住んでないし、そこに住む妖精さんが護っていたから。
 今まで人が手に入れることが出来なかったんだ。
 イモムシが増え過ぎちゃったんで、特別に分けてもらうことが出来たの。
 ネーブル姉ちゃんの結婚祝いに贈ろうと思ってたんだ。」

「うわー! マロンちゃん、有り難う! 
 私、良い義妹を持って幸せだわ!」

 そんな言葉を発すると、ネーブル姉ちゃんは満面の笑みを浮かべて抱き付いて来たの。
 喜んでもらえたようで、おいらも嬉しいよ。

 もちろん、にっぽん爺も、シフォン姉ちゃんも凄い乗り気で引き受けてくれたよ。 
 さっそく、二人は打ち合わせに入ったの。
 ネーブル姉ちゃんとカズヤ殿下の要望を細かく聞きながらね。
 
       **********

 ドレスの打ち合わせが一段落すると。

「ねえ、ネーブルちゃん、今夜から何処に滞在するのかしら?」

 何故かミントさんがそんなことを尋ねたの。
 おいらは、当然、この屋敷に滞在するものだと思っていたのだけど。
 ネーブル姉ちゃんはカズヤ殿下に会いに来たのだし、婚約者なのだから。

「はあ?
 これから、しばらく、カズヤ様と同じ部屋に滞在できればと…。
 カズヤ様も色々溜まってらっしゃるご様子なので。
 お役に立てればと思っているのですが。」

 ネーブル姉ちゃんも、何故そんなことを尋ねられるのかが理解できない様子で答えたのだけど。
 すると、ミントさんは今までの笑顔とは打って変わって真剣な表情になり。

「それはダメよ。
 ネーブルちゃんには、申し訳ないけど。
 清い体で嫁いで来てもらわないと困るのよ。
 良く聞いてちょうだい、うちの王宮には口さがない貴族共が沢山いるの。
 婚礼の翌朝、純潔を散らした証のシーツをお披露目出来ないと何と言われるか。」

 何でも、それが出来ないと不貞の娘扱いされて、後ろ指を指されるだって。
 ミントさんは、王室に嫁いで来た時にそれが出来なくて肩身が狭い思いをしたって愚痴ってたよ。
 何でも、ミントさん自身は公爵家で貞淑にと育てられ、嫁ぐまで純潔を守ってきたそうだけど。
 肝心の王様が、粗末すぎてミントさんの純潔を散らせなかったんだって。
 王様は自分のせいなのを棚に上げて、ミントさんを不貞の娘と罵ったそうだよ。
 王様の取り巻きの貴族達も、寄って集ってミントさんを責めたんだって。

 ミントさんは嫁いで早々に、王様に愛想が尽きたって愚痴ってた。

 純潔っていったい何なの? それの証って? 何を言ってるのか分かんない…。

 ミントさんは言うの。
 例え今日ここでカズヤ殿下を相手に純潔を散らしたとしても、他に人に対してそれを証明できないって。
 宮廷には、黒髪のカズヤ殿下を不貞の子と蔑み、好意的でない貴族も多いらしいんだ。
 婚礼の翌朝に証を示せないと、格好の攻撃材料になりかねないんだって。
 たちまち、悪い噂が宮廷中に広まるだろうって。
 不貞の子が不貞の娘を嫁にしたとか、生まれてくる子供が誰の子か分からないとか。

 すると、ネーブル姉ちゃんは手許にあるバッグから一冊の本と取り出したの。

「ご安心ください、お義母様。
 そんなヘマはやらかしませんので。
 私には、強い味方がありますから。
 この本は隅から隅まで、一字一句漏らさずに熟読しました。
 純潔の証を傷つけることなく、殿方を鎮める方法は幾らでもあるではございませんか。
 カズヤ様が泡姫などに頼らなくても済むよう、私が鎮めて見せますわ。」

 ネーブル姉ちゃんは自信満々といった表情で、『男女和合の極意』を掲げたんだ。

「そう言えば、ネーブルちゃんも頂いていたのでしたね。
 なるほど、それなら、同衾しても大丈夫そうですね。
 じゃあ、しばらくの間、カズヤをお願いできるかしら。
 私も心配だったのよ、カズヤが悪い遊びに病み付きになるのではと。
 カズヤ、心優しいネーブルちゃんに感謝するのよ。
 くれぐれもネーブルちゃんの純潔の証には傷つけないようにね。」

 ミントさんは『男女和合の極意』を目にして納得した様子で。
 ネーブル姉ちゃんがカズヤ殿下の部屋に滞在することを許可していたよ。

 でも良いのかな、肝心の家主二人の許可を取らないで…。

 と思っていると。

「ふう、仕方ありませんね…。
 王族の方が次々といらっしゃるとは思いませんでしたが。
 お兄様の劣情を処理して頂けるのなら歓迎です。
 大したおもてなしも出来ませんが、ごゆるりとご滞在ください。
 私、この屋敷の主の娘でカズミと申します。」

 カズミ姉ちゃんが、ネーブル姉ちゃんの滞在を受け入れていたよ。
 あんまり、乗り気じゃない感じだったけど。
  
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