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第十六章 里帰り、あの人達は…

第480話 日課のトレント狩りに行ってみれば…

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 辺境の町に里帰りしてから五日ほど経った朝のこと。
 オランや護衛の姉ちゃん達と日課のトレント狩りに行こうとしていると。

「おっ、マロン、おはようさん。
 これからトレント狩りに行くんだろう。
 俺も連れて行ってくれないか。」

 隣りの屋敷の庭からタロウが声をかけてきたよ。

「タロウ、今日は早いじゃない。
 こっちに来てから、遅くまで寝ているようだし。
 すっかり、サボり癖が付いたのかと思ってたよ。」

 タロウもトレント狩りを毎朝の日課にしてたのだけど。
 この町に着いてからは、毎日昼前まで寝てて狩りをお休みしてたんだ。

「別にサボっていた訳じゃないぞ。
 結婚すると、夜にも大事なお努めがあるんだよ。
 この屋敷には広い風呂場があるだろう。
 シフォンとカヌレが、風呂場でいたすのがお気に入りなもんだから。
 朝まで、寝かしてもらえなかったんだよ。
 それでも、家庭円満のためには疎かに出来ないんだぜ。
 朝のトレント狩りより、優先順位は高いんだ。」

 どんな『お努め』か知らないけど、このところタロウが眠るのは夜明け前だったと言ってた。
 特に風呂屋から連れて来ちゃったミヤビ姉ちゃんが加わった一昨日は、昼夜関係なかったそうなの。
 流石に昨日の晩には、お嫁さん三人とも早々に力尽きたみたいでね。
 早い時間に眠れたんで、狩りに行けるだけの体力が回復したんだって。

「ふーん…。夜のお努めって何なの?
 おいら、オランと結婚しているけど、夜は早々に寝ちゃうよ。
 もちろん、オランも一緒に。」

「マロンの言う通りなのじゃ。
 夜は体力回復のために、十分な睡眠をとらないといけないのじゃぞ。
 夜更かしは体に悪いし、真夜中に体力を消耗するなど問題外なのじゃ。」

 おいらとオランの言葉に、タロウは気拙そうな顔をすると…。

「いや、まあ、マロン達には少し早いかな…。
 あと五年もすれば分かるさ。
 それに、迂闊な事を言うとアルト姐さんに殺されちまうからな。」

 あからさまにはぐらかして、『お努め』の内容は教えてくれなかったよ。
 そして、話題を変えるように…。

「嫁さん三人を養うんだから、少しでも多く稼がないといけないし。
 それに嫁さんが三人もいるんじゃ、体を鍛えておかないときついからな。
 そもそも、あんまりサボっちゃ、ギルドで使う木炭が工面できないじゃないか。」

 そんな事を口にしたタロウ。
 今朝は、おいらが出て来るのを待ち構えていたんだって。
 ここ数日、アルトが来ないので、おいらに収穫物を運んでもらいたいらしい。

 この町に着くと、すぐにアルトは何処かへ飛んで行ってしまったんだ。
 アルトはこの町の近くにある妖精の森の長だから、森に帰るのは当たり前なのだけど。
 アルトが居ないとタロウは、狩りの収穫物を持ち帰る術が無いからね。
 なので、『積載庫』のスキルを持っているおいらに便乗しようと庭で待っていたんだって。

「お嫁さんを養うためとか、ギルドで使う木炭のためとか。
 タロウも、随分と責任感が出て来たね。感心、感心。
 じゃあ、おいらとオランがバニーに乗るから。
 タロウは、ラビに乗ってちょうだい。」

「おう、助かるよ。
 狩場まで走ってついて来いって言われなくて良かったぜ。」

 そんな意地悪言わないよ…。
 結構な距離があるから、そんな事をさせたら狩場に行くまでに疲れちゃうじゃない。

       **********

 タロウも仲間に加えてトレントの狩場に行くと…。

「お兄様、背中がお留守ですよ。
 気を抜くと怪我をするので、集中してください。」

「うわっ、危なっ…。
 助かったよ、カズミ。
 しかし、背後からも襲って来るなんて…。
 騎士達は、良く一人で討伐できるもだのだな。」

 ハテノ男爵領の騎士団が日課のトレント狩り訓練をしていたんだけど。
 何故か、カズヤ殿下も騎士に混じって訓練をしてたの。

「おはよう、みんな。
 いつも朝早くから、お疲れさま。」

「ごきげんよう、マロン。
 マロンもお疲れさま。
 やんごとなき立場になっても、鍛錬は欠かさないのね。
 とても立派な心掛けだわ。」

 おいらが声を掛けると、騎士団長のクッころさんが返事をして褒めてくれたよ。
   
「ところで、王太子のカズヤ殿下にトレント狩りなんてさせても良いの?
 怪我をさせちゃったら、大変なことになるんじゃない?」

「平気ですよ、マロン様。
 お兄様には、昨日十分な『生命の欠片』を差し上げたので。
 慣れれば、トレントごときには後れを取らないはずです。
 そのために、今日から朝の訓練に加わって頂きました。
 レベルを上げても、向上した身体能力を使いこなせないと意味ありませんからね。
 それに、お兄様は少し『元気』を持て余し気味なので。
 少し、体を動かして発散して頂こうかと。」

 おいらの問い掛けに答えてくれたのはカズミ姉ちゃん。
 カズミ姉ちゃんの言葉には、少しトゲがあるみたいに聞こえたんだけど…。
 一緒にカズヤ殿下の護衛任務に就いているクッころさんとスフレ姉ちゃんも、ウンウンと頷いていたよ。

「そんな訳で、私も今日から訓練に同行することにしたのだ。
 初っ端からトレント狩りは、多少厳しいものがあるが…。
 朝からこうして体を動かすのは清々しいし。
 私としても、少しでもカズミに見直して欲しいからな。」

 何をしたのかは知らないけど。
 カズヤ殿下は、何かやらかして護衛の三人から白い目で見られているようだね。
 良い所を見せて少しでも名誉挽回したいと、カズヤ殿下は考えているみたい。

 まあ、それなりにレベルを上げているみたいだし、本人がやる気ならかまわないか…。
 
         **********

 おいらが日課にしているトレント十体を倒し終えた時、カズヤ殿下が地面にへたり込んでいたよ。

「カズヤ殿下、どうかしたの?
 怪我をしたのなら『妖精の泉』の水を上げるよ。
 どんな怪我でもたちどころに治るの。」

「いや、何処か怪我をしたって訳じゃないんだ。
 日頃の運動不足が祟ってね。
 トレント三体狩ったところでギブアップさ。
 マロン陛下は凄いですね。
 そんなに小さなお体なのに、易々とトレントを狩っていて。
 私なんて、カズミにフォローしてもらってやっとなのに。」

 まあ、おいらの場合は反則みたいなスキルがあるからね。
 『完全回避』と『クリティカル発生率百%』。
 これが無かったら、三年前にワイバーンに襲われた時に死んでたよ。

 もっとも、十分レベルが上がった今じゃ、スキルに頼らなくてもトレントくらいは何とでもなるけど。

「カズミ姉ちゃんから、『生命の欠片』を貰ったんでしょう。
 だったら、後は慣れるだけだよ。
 みんな、最初はカズヤ殿下と同じで危なっかしかったもん。
 慣れるまで鍛錬を続ければ、カズミ姉ちゃんみたいに危なげなく倒せるようになるよ。」

 今は難無くトレントを狩っているタロウだって、最初は泣き言を零しながら狩っていたもんね。

「そうか、では、私もここに滞在している間に、一人でトレントを狩れるようになってみせるぞ。
 何時までも、大きな子供ではいられないからな。」

「いえ、お兄様、そう思うのなら一人でお着替えを出来るようにしてください。」

 カズヤ殿下が決意を口にすると、訓練を終えて戻って来たカズミ姉ちゃんがツッコミを入れてたよ。
 出会った頃のクッころさんが一人では着替えが出来ず、おいらにやらせていたけど。
 やっぱり、王侯貴族って着替えも一人ではできないんだね。   
 
 全員が各自で課したノルマを終えて、町に戻ってくとみんなで冒険者ギルドの買取所に寄ったんだ。
 毎朝のトレント狩りは大事な訓練なのだけど、同時にみんなの小遣い稼ぎにもなっているの。
 トレント狩りを終えて戻ってくると、ギルドの買取所で収穫物を換金しているの。

 そうして換金も済んで、にっぽん爺の屋敷まで戻り…。

「はい、お兄様、これ今日の取り分です。
 トレント三体分の『ハチミツ壺』と『スキルの実』の売却代金です。
 私と二人で協力して狩ったので、取り分は半分ですが。」

 カズミさんがカズヤ殿下の前に大きな布袋を置いたの。
 袋の中を覗いたカズヤ殿下はというと…。

「おい、カズミ、これって多過ぎないか?
 一体いくら入っているのか、数えられないぞ。
 朝のたったわずかな時間でこの稼ぎは無いだろう。
 貴族だって、一日あたりの収入はこんなに多くないぞ。」

「はあ…、これでもひと頃よりは大分少なくなったのですよ。
 私達騎士が訓練で毎朝凄い数を狩るものですから…。
 ハニートレントが落す収穫物の値段が暴落しちゃいました。
 今や、この領地がハチミツを一番安く買える領地だそうですよ。」

 悪いことにこの町の近くに生息しているトレントは2種類だけ。
 レベル三の『トレント』とレベル四の『ハニートレント』だけなんだ。
 通常の『トレント』は、ドロップするのが『スキルの実』だけであまり旨味が無いの。
 なので、朝の訓練は『ハニートレント』の生息地でしてるのだけど。

 毎朝、騎士は狩るし、稽古の一環で『STD四十八』の連中は狩るしで…。
 『ハチミツ壺』とスキルの実二種類『野外移動速度アップ』、『野外採集能力アップ』は供給過剰になってるんだって。
 それで、かつての半額くらいに値が下がっているらしいよ。

 おいら達が居る時は、それを避けるためアルトが『積載庫』に乗せて遠出してくれたんだ。
 この町から遠く離れた『シュガートレント』や『メイプルトレント』の狩場へ連れて行ってくれたの。
 アルトが空を飛べば、大した時間もかからずに到着するからね。

「これで、少なくなったって…。
 この領地の騎士は、どんだけ稼いでいたのだ。」

「お兄様、良かったですね。
 それだけあれば、毎日お風呂屋さんに通っても大丈夫ですよ。
 ご執心のウララさん、しばらく買占めしちゃったらどうですか?」

「おい、カズミ、人聞きの悪いことを言うな。」

 カズミ姉ちゃんがトゲのある声で言うと、カズヤ殿下が狼狽してたよ。
 どうやら、カズト殿下はあのお金で風呂屋に行こうと思っていたみたいだね。
 図星を差されて焦ったって表情をしてたよ。
 ウララさんって、この間、風呂屋の支配人の部屋でカズヤ殿下に寄り添っていた泡姫さんかな。
 何で、カズミ姉ちゃんが知っているんだろう、カズト殿下がご執心って?

「あら、面白い話をしているのね。
 是非、私にも詳しい話を聞かせてもらいたいわ。」

 振り向くとそこにアルトが浮かんでいたよ。
 なにやら楽し気な笑みを浮かべてね。
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