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アイイロモンペ

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第十六章 里帰り、あの人達は…

第473話【閑話】私は窮地に追い込まれた…

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 血の繋がった妹であるカズミに勧められ風呂場にやって来たのは良いが…。
 自分で体を洗えないと言っては呆れられ、服を脱ぐのに手間取っていたら呆れられで。
 兄としての面目が丸潰れであったのだが…。

「仕方がない人ですね…。」

 カズミはため息交じりにそう言うと、私の服を脱がせ始めたのだ。
 この時、私は自分の不甲斐なさを恥じ入るばかり、重大な事を忘れていたよ。

 それは何かと言うと、夕食を食べてから、どうにも体の調子がおかしかったのだ。
 いや、毒を盛られたとか、腹を下したとかでは無なくて。
 むしろ、体調が良すぎると言うか、…。
 体がカッカと火照って、体の一部が無駄に元気になっておったのだ。

 私はそのことをすっかり失念して、カズミのするがままに身を任せておった。
 上半身、シャツまで脱がすと、カズミはしゃがんで私のズボンを脱がしにかかった時のことだ。
 ベルトを解いてズボンを下げると…。

 私の意思では制御不能になった物体が、勢い良く飛び出したのだ。

「………」

 脱衣所を沈黙が支配したよ。

 目の前に屹立する物体に、カズミはしばし唖然としてたが…。

 私の顔を見上げると。

「お兄様…。」

 カズミは、問い詰めるようにその一言だけを発したのだ。
 その時のカズミの目は、まるで汚物でも見ているかのようだった。
 それまでは「カズヤ様」だったのが、いきなり、「お兄様」呼びに変わっていたよ。

「いや、これは、決して邪まなことを考えておった訳では無いぞ。
 自分でも良く解からぬが、夕食を食べてからずっとこうなのだ。」

 私が言い訳にもなっていない、言い訳を口にすると。

「お兄様も、お盛んな年頃でしょうから仕方がないですね。
 私は気にしておりませんから…。
 お兄様もお気になさらず、先に浴室に行ってください。
 私も後から参りますので。」

 口では気にしていないと言いつつも、カズミはムチャクチャ不快そうな表情をしておったよ。

       **********

 私はこれ以上カズミの機嫌を損ねたら拙いと思い、言い付け通り浴室で待っておったのだが…。
 少し遅れて浴室に入ってきたカズミは、生成りのワンピースのようなモノを身に着けていたのだ。

「カズミ、その服はいったい?」

「これですか?
 これは浴衣と言います。
 元々は、公衆浴場で女性が着用していたものです。
 男女混浴だったので、殿方に素肌を晒さないために。」

 浴衣の着用は、異性に肌を晒したくないという羞恥心からだけではなく。
 嫁入り前の女性は男性に素肌を見せるべきではないと言う倫理観。
 更には、劣情を掻き立てられた男性が性犯罪に走るのを防ぐ目的からもなされていたらしい。

 反面、浴衣を着ていると体が洗い難いし。
 布が肌にべったり張りついて着心地もあまり良くないとのことで。
 この家のお風呂に入る時は、浴衣を着用していなかったとカズミは言っていたのだ。
 隻眼隻腕のカズト殿が一人で入浴するのは難儀するだろうとのことで。
 カズミはなるべくカズト殿と一緒に入浴することにしているそうなのだが。
 その際も浴衣は着用していないそうなのだ。

「高齢のせいかもあるかとは思いますが。
 父は娘に劣情を抱くような節操無しでありませんから。
 今まで、浴衣の必要は感じなかったのです。
 ですが、お兄様はそうではないようですので。
 お兄様の煩悩をあまり刺激しないようにと思いまして…。」

 それは、私が妹に劣情を催す節操無しだと?
 身の危険を感じて浴衣を着用したと言う事かな。

「おっ、そうか。
 気を遣わせてしまって悪かったな。」

 甚だ心外ではあるが、そう返答するしかなかったよ。
 思いっ切り膨らませていたのだから、どんな言い訳をしても説得力がないからな。

 それからカズミは、湯船から手桶でお湯を汲んでくると、洗い布をお湯に浸して泡立て始めた。
 洗い布が良く泡立ったところで、カズミは最初に私の腕を洗い、次に背中を流してくれたよ。
 最後に、私の髪を丁寧に梳くように洗ってくれたよ。

 そして髪に付着した泡を完全に洗い流すと…。

「さあ、洗い難いところは洗って差し上げましたよ。
 後は、ご自分で洗えるでしょう。
 私が変に刺激すると差し障りがあるでしょう。」

 私に洗い布を渡して、後は自分で洗えと告げたのだ。
 まあ、体の前半分なら自分の手が届くからな。
 最後にキツイ嫌味を言っていたようであるが…。 

 ところが、これが意外と簡単ではなくて。
 私が体を洗うのに悪戦苦闘をしていると…。

「お兄様、何をしてらっしゃるのですか。
 呆れた…。
 公衆浴場へ行けば五歳やそこらの子供でも、ちゃんと自分で洗っていますよ。
 ほら、貸してください。」

 私の様子に焦れたカズミは、洗い布を取り上げて私の首筋から洗い始めたのだ。
 今度は、私の前に回って。

 カズミは黙々と私の体を洗っているので気付いていないようだが。
 その時のカズミはと言うと、私の髪や背中を洗ったことで浴衣は濡れて肌に張り付き…。
 薄布の浴衣は透け透けとなって、その美しい肢体を曝け出していたのだ。

 男盛りの私としては、カズミの肢体に目が釘付けとなるのは必然であった。
 その形の良い胸に目を奪われて、つい気が緩んでしまったのだ。

 ボウッと見惚れている間に、カズミは首筋から胸へ、胸から腹部へと洗い進み。
 やがて…、不意に体の中を猛スピードで心地良い感触が通り過ぎたのだ。

「えっ…。」

 驚きと共に絶句し、呆然とした表情をしているカズミ。
 無理もない、泡塗れのカズミの手が僅かに触れた瞬間、決壊してしまったのだから。
 今日会ったばかりで、カズミの人となりは知らないが。
 潔癖そうな印象ゆえ、恐らくソレを目にするのも初めであったろうし。
 無心で私の体を洗っている最中に、不意打ち的にソレが噴き出せばさぞかし吃驚したことだろう。

 再び気まずい空気が二人の間に漂ったよ…。
 それから、湯船に浸かって体を温めたのだが。
 その間、カズミは終始無言で、しかも、必要以上に私から距離を取っていた。

 その日、私は決意したのだ、翌日からはちゃんと一人で風呂に入れるようになろうと。
 まあ、市井の民から見れば、いい歳した大人が何を子供みたいな事を言ってるのかと失笑モノだろうがな。

         **********

 しかし、いったい、あの日の夕食は何だったのだろうか。
 不本意なこととはいえ、カズミに一度処理してもらったのに体の火照りは治まらなかったのだ。
 その晩は、ベッドに潜り込んでも、体の一部が元気いっぱいで寝付けなかったよ。

 しかも、母上がやらかしてくれた。
 永年恋焦がれてきたカズト殿と再会できて嬉しいのは理解できるが…。
 もう、四十過ぎのいい歳なのだから、少しは慎みを持てば良いのに。

 館中に響き渡るような嬌声を上げながら、夜明け前まで睦事に耽っていたようなのだ。
 悩ましい声が止む頃には、空が白々としてきていたよ。
 老齢のカズト殿に徹夜などさせてポックリいかないか、他人事ながら心配になったぞ。

 その間、私はと言えば…。
 ただでさえ、夕食のせいで悶々としているのに。
 そこへ母上の悩ましい声に加え、脳裏には浴室で見たカズミの瑞々しい肢体が浮かび。
 正直、私は我慢の限界を迎えていたよ。

 このままでは、妹のカズミを襲ってしまうかも知れない。
 いや、カズミは我慢できても、モカの娘やもう一人の年端の行かない騎士を襲ってしまうかも。
 近衛騎士団長のモカは王宮内に於いて数少ない私の味方である。
 その娘に手を出そうものなら、それこそ大事になり、私の立場が危うくなるではないか。

 私はベッドの中で悶々としながら決意したのだ。
 夜が開けたら、風呂屋に行って処理して来ようと。

 しかし、それもすんなりとは行かなかった。
 この館に男性は、主のカズト殿と私の二人だけ。
 護衛の騎士ですら全員女性なのだから、「風呂屋に行ってくる。」とは言えないではないか。

 夕刻まで待った私は、皆には内緒で、こっそり屋敷を抜け出して風呂屋に行こうとしたのだが。
 それをモカの娘、騎士エクレアに見つかってしまったのだ。

 何処に行くつもりかと尋ねると共に、護衛としてお供すると主張する騎士エクレア。
 ただ、騎士エクレアの言い分ももっともではあるのだ。
 私は王太子で、ハテノ男爵領に公式訪問しているのだから。
 もし私の身に何かがあれば、ハテノ男爵に咎が及ぶのは想像に難くない。

 私の側を片時も離れず護衛することが、騎士エクレアの職務上の義務なのは理解できる。
 だがしかし、風呂屋に行くのに護衛として女性騎士を伴なうことなど出来ようか。

 私は屋敷を出るところで、騎士エクレアとしばらく押し問答をすることになったよ。
 騎士エクレアは一歩も引こうとせず、困った私は率直に言ったのだ。

「これから向かう所は、ご婦人を伴なっていてはいささか不都合なところなのです。
 騎士クレーム、昨夜の嬌声はあなたの耳にも届いたでしょう。
 一晩中聞かされたアノ声のせいで、これ以上理性を保っていられないのです。
 正直言って、私は切羽詰まってます。
 あなたや私の妹、ともすると、幼子のような騎士スフレにすら手を出しかねないほど。
 ですから、ここは見なかったことにして、私を通してくださいませんか。」

 視線を下げた騎士エクレアは、膨張した私のズボンに気付いた様子で、気まずそうに俯いていたよ。
 ちょうどその時、私に助け舟を出してくれる者が居たのだ。
 私は、暗闇の中に一筋の光を見出した気がしたよ。
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