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第十六章 里帰り、あの人達は…

第470話【閑話】湯けむりの中で

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 さて、そんな訳で、『おっき』しているのがバレてしまったのだが…。
 ミント様は私を軽蔑した様子も無く、むしろ、目を輝かせて嬉しいとまで零していたのだ。

 ミント様は上機嫌なまま、私の手を引いて浴室へいざなってくれたよ。

「片腕では、体を洗うにご不自由でしょう。
 私が洗って差し上げますね。」

 ミント様は、私を洗い場の椅子に座らせるとそんな申し出をして来たのだ。
 ちなみに、私の家の風呂場にある椅子は、やや特殊な椅子でな…。

 ここで初めてカズミと一緒に風呂に入った時に、

「お父さん、この椅子は何故、座面の中央に溝が切り込んであるのですか?
 溝は縦に長いし、結構な幅もありますしで…。
 これでは座り難いのではありませんか。」

 と、洗い場の椅子を見て疑問を投げかけて来たよ。

「ああ、これは、以前に知り合いから椅子の製作を依頼されてな。
 その時に試作品で作ったモノだ。
 捨てるのも勿体ないので、取っておいたのだ。」

 私は、何の答えにもなっていない答えを返して惚けたよ。
 依頼されたモノなので、詳しい使い方までは知らんと言わんばかりに返答し。
 使い方にはそのものには触れなかったのだ。
 もちろん、依頼人が冒険者ギルド系列の風呂屋だとは言わなかったぞ。
 幾ら初心うぶなカズミでも、ふしだらな用途だと気付いてしまうだろうからな。

「そうなんですか…。
 でも、この椅子、余り実用的とは言えませんね。
 今度時間のある時にでも、新しい椅子を買って来ましょう。」

 いや、ある意味、とても『』な椅子なのだが…。
 私は用途を突っ込まれると困るので口を噤んでおいたよ。

 ともかく、椅子に座らされた私をミント様が洗ってくれることになったのだ。
 この世界の風呂にカランやシャワーなんて文明の利器はないからな。

 かけ流しになっている湯船から手桶でお湯を汲んで体を洗うのに使うのだ。
 当然、柔らかく吸水性の良いタオル地なども望むべくも無く。
 日本の和手拭いのような布地を手桶に浸し、アワアワの実を良く泡立てて体を洗うのだよ。

 ミント様もそれに倣い、手桶にお湯を汲んでくると先ずは掛け湯をしてくれ。
 再度汲んできたお湯を使って良く泡立てた布地で、私の腕から洗い始めたのだ。
 正直なところ、これはとても助かるよ。
 隻腕の私は、自分の腕を洗うことが出来ないのでな。

 時折、公衆浴場で鉢合わせになるとマロンが洗ってくれたのだが。
 それも、さほど頻繁にあった訳では無いのでな。
 ちゃんと風呂に入っていても腕に垢が溜まっているような不快感があったのだ。
 カズミと一緒に住み始めるまではな。

 腕を洗い終えると、次にミント様は背中を流し始めたのだが。
 明らかに先ほどまでの布地とは違う感触がして…。
 まごうこと無き、「あててんのよ!」な感触を覚えたのだ。

 私が思わず振り向きそうなると。

「振り向かないでください。
 殿方をこのように洗うのは初めてですので、恥かしいです。」

 ミント様は私が振り向くのを制止して背中を洗い続けたのだ。
 どうやら、私の想像通りのことをしているようだった。

 しかし、ミント様はそんなプレイを何処で覚えたのだろうか。
 お風呂の習慣が一般的ではないこの国では、お風呂でのプレイはあまり一般的とは思えないのだが。
 私が数日王宮に滞在した時も、部屋に置かれた猫足のバスタブで入浴していたので。
 そんな事が出来る環境ではないと思うのだ。

 私が背中を流してもらいながら、そんな事を考えていると。

 さわッ…。

 不意打ちのように、全身を心地良い感触が駆け抜けたのだ。
 その快感は、腰掛けた椅子の座面の下から発せられたモノだった。

 見ると、ミント様の白魚のように美しい指がサワサワと動き。
 私のデリケートなところへ、優しく心地良い刺激を与えてくれていたのだ。
 今度こそ、ミント様の方へ振り返ると。

「ふふ、驚きましたか?
 この椅子、このように使うのでしょう?」

「何故、この椅子の使い方をご存じなのですか?」

「読みましたよ、『男女和合の極意』。
 カズト様が記されたのでしょう。
 実践するのは初めてですけど…。
 こんな機会があればして差し上げようと思い。
 暗記するほど読み込んだのです。」

 聞けば、マロンの即位の式典に招待された際に、滞在中シフォンさんと懇意になり。
 私が書き上げた泡姫さん用の指南書をシフォンさんから渡されていたらしい。

 そのころ、マロンの口から私の消息を聞かされ。
 こうして私の許を訪れることを、決意したとのことで。
 私と再会したら、指南書に記されていることを実践しようと思ったそうだよ。

 日夜、暇を見つけては指南書を読みながら、虎視眈々と機会を窺っていたらしい。

        **********

 ミント様は椅子の溝を利用してサワサワと刺激を続けていたのだが、その最中にあるモノに目を付けたのだ。

「ここには、マットもあるのですね。
 私、あの使い方も覚えました。
 カズト様、お相手してくださいませ。
 実践するのは初めてですが、指導してくださいますよね。
 帰るまでには、完璧にマスターして見せます。」

 蠱惑的な笑みを浮かべて、私の耳元でそんなことを囁くミント様。
 この一言で、私の理性の糸は「プツン!」と音を立てて切れたよ。

 夕食に食べたスッポンのフルコースで悶々としているところに、椅子の下からの刺激もあり。
 正直、私は辛抱堪らなかったのだ。
 すぐさま、私は洗い場の隅に立てかけてあるエアマットを準備したよ。
  
 ちなみにエアマットなのだが、何故洗い場の隅に立てかけてあったかと言うと。
 ここへ引っ越してきた初日、カズミが長湯をし過ぎて湯あたりをしてしまったのだ。
 隻腕の私では、カズミを抱きかかえて移動させることが出来ず。
 仕方がないので、私室の押し入れに隠しておいたエアマットを持って来たのだ。
 洗い場に敷いて、湯あたりがおさまるまで寝かしておいたのだが。

 カズミは、思いの外エアマットを気に入ってしまい。
 非番の日には、日がな一日、温泉に浸かっていることがあるのだ。
 長湯の後にマットの上で寝そべって火照りを冷まし、再び湯に浸かるの繰り返して。

 せめて、私が一緒に入っている時はマットに寝そべるのはやめろと注意するのだが。

「お父さんに見られても何とも思いませんよ。
 このマット、お風呂で火照った体を冷ますのに丁度良いんですよ。
 こうしていると、仕事の疲れが抜けていきます。」

 カズミは取りあおうとしないのだ。
 カズミが何とも思ってなくても、私が目のやり場に困っているのだが。
 
 それはともかくとして。


 マットに場所移した私とミント様の間に、詳細を他人様にお話しするのは不適切な時間が流れ…。


「やはり、本で読んだだけではダメですね。
 あの本の通りには動けませんでしたわ。
 いえ、私がつたないせいもありますが…。
 半分はカズヤ様のせいですね。」

 マットの上、私に寄り添うミント様がそんな事を囁いたよ。

「いえ、ミント様、とても素晴らしかったですよ。
 天にも昇る心地でした。
 ただ、私のせいと言うのが気になりますが。
 何か、気に障ることがございましたか?」

「ほら、カズト様、『様』は抜きですよ。
 ミントとお呼びください。」

 『様』付けで呼んだのがお気に召さないようで、拗ねて見せるミント様。
 私が謝って、改めて『ミント』と呼びかけると。
 ミント様は少し恥じらいの表情を見せて…。

「だって、カズト様がとても逞しくてご立派なのですもの。
 私の方がご奉仕をしようと思っていたのに…。
 自分の役割を忘れて、夢中になってしまいました。」

 小さな声でそう囁いたのだ。
 何度も言うようだが、ミント様はとても四十過ぎとは思えいくらい若々しくて。
 恥じらう姿がとても愛らしかったものだから、思わず強く抱きしめてしまったよ。
 私はとても幸せな気分に浸りながら、しばらくの間マットの上で身を寄せ合っていたのだ。

 ただ…。

「あら、いけない。
 私ったら、お風呂の中ではしたない…。
 つい、カズト様に触れていたら抑えが効かなくなってしまいました。
 どうしましょう、こんなにたくさん…。」

 事後の始末をしていると、我に返ったような呟きがミント様から漏れていたよ。

 アルト殿から、『ゴムの実』の『皮』を沢山もらって来たそうなのだが。
 お風呂場で必要となるは思いもしなかったとのことで、部屋に置いて来たらしい。

 どうやら、ミント様は風呂では私の体を洗うだけのつもりだったらしい。
 特殊な椅子とマットの存在が、ミントさんに予定外の行動をとらせたようだった。
 まさか、家の浴室にこんなものがあるとは思わなかったって呟いていたよ。

「私はもう一人くらい欲しいのですが…。
 きっと、あの王は激怒しますわね。
 そうなると、またぞろカズト様のお命を狙うでしょうし。
 カズヤの立場も悪くなってしまいます。
 カズト様、先程のが当たらないように祈ってくださいね。」

 ミント様はそう言って笑ってたよ。
 そんな、いたずらっ子のような笑みも可愛いのだが、内容はシャレになっていなかった。
 本当、それだけは勘弁して欲しいと思ったよ。 
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