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第十六章 里帰り、あの人達は…

第465話【閑話】私が日本で学んだことは…

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 さて、辺境の町へ落ち延びて以来、ひっそりと慎ましく暮らしてきた訳だが。
 統計など望むべくもないこの世界で、平均寿命が如何ほどかは分からないものの。
 恐らく平均寿命を超える歳になって、再び私に波が訪れたのだ。

 切っ掛けはアルト殿が、仕掛けたローカルアイドルプロジェクト。
 男性優位のこの世界にあって、美少女ばかりを集めた騎士団を領主に作らせたのだ。
 即席でレベルを上げて領内の治安維持に当たらせると共に、人寄せパンダに使おうとの目論見で。

 歌って踊れる女性騎士団を標榜して、アルト殿は私にプロデュースを手伝えと言って来たのだ。
 騎士の娘達が歌う曲とその振り付け、そして彼女たちがステージで身に纏う衣装を考えろと。
 最初はどんな無茶振りかと思ったよ。
 それ、日本じゃ、一つ一つがプロの仕事で、分業してやるものだぞと。
 だが、実際には日本で流行っていたアイドルの歌や振り付けを教えろと言うもので。
 『ドルヲタ』をしてた私には、そう難しい注文でないことが分かり助かったよ。

 私は、アイドルだけではなく、漫画やアニメも大好物のヲタクでもあり。
 お気に入りのキャラにキワドイ衣装を着せたイラストを描く趣味も持っていたものだから。
 キャンギャルやアイドルの衣装なども、シルエットだけは記憶に残っていたのだ。
 ただ、実際に服など作ったことなどある訳がなく。
 正直なところ、私が描いたいい加減なデザインを基に服が作れるものかと不安であったのだ。

 そんな時。

「このドレス、可愛い!
 それに、これを着ればタロウ君、興奮してむしゃぶりついて来そう。
 この短いスカートなんて着たままでもOKじゃない。
 こんなの高い服、今まで見たこと無いわ。
 お爺ちゃん、これ作るのに協力するから私にも分けてちょうだい。」

 タロウ君と共に遊びに来ていたシフォンさんが、私の描いたデザインに興味を持ったのだ。
 聞くと、シフォンさんは王都で『パパ活』と『美人局』をして生計を立てていたとのことだが。
 古着屋で服を仕入れて来ては、カモを捕まえ易くするため男心をくすぐる改造を施していたそうだ。
 スカートを短くしたり、胸元を大きく開くようにしたりと。

 しかし、この娘、夫のタロウ君が隣にいるのに、悪びれもせずよく言うものだと呆れたよ。
 とは言うものの、シフォンさんは日本のコスプレイヤー顔負けの腕を持っており。
 私の拙いデザイン画から、型紙を起して実際にドレスを作って見せおった。

「あんた、唯の尻軽娘じゃなかったのね。
 意外と使えるじゃない。」

 私の心の声を代弁するかのように、アルト殿が感心しておったよ。

「えへへ、服一つでイケメンのおじさまの財布のひもが緩むんだもん。 
 そのくらい、楽勝ですよ。」

 当のシフォンさんは、そんな身も蓋もない返答をしておったがな。
 
 こうして、私のデザインに基づきシフォンさんが型紙を起し、シフォンさんと耳長族の娘さんが仕立てをする。
 そんな、生産体制を組んで、騎士団の娘達のステージ衣装の製作が始まったのだ。

 その服作りが、意外な方向へ転がることになる。
 きっかけは、アルト殿が町の広場で打った公演。
 その日、司会役を務めたシフォンさんは、『きゃんぎゃる』の服を身に付けていた。
 その服に冒険者ギルドの経営する風呂屋の支配人が目を付けたのだ。
 『きゃんぎゃる』の服を風呂屋の泡姫さんの制服として採用したいと申し出てきおった。
 従来、風呂屋の泡姫さんに制服など無かったのだが。
 『きゃんぎゃる』の服が男心をくすぐると予想して導入することを決めたらしい。
 それから、私はシフォンさんと組んで、泡姫さんや酌婦さん向けの制服を次々と手掛けることになった。
 今では、この国にあるソッチカイ系列に属する風俗嬢の制服は殆ど私とシフォンさんが手掛けたモノになっているようだ。

 おかげで、私の懐はとても温かくなったよ。
 
         **********

 そして、風呂屋の制服を作るうちに、私は風呂屋の支配人と懇意になっていた。
 時折、この町の風呂屋の支配人が用も無しにふらっと立ち寄るようになったのだ。

 支配人と茶飲み話をする中で、風呂屋の経営について色々と聞く機会が増えたよ。 
 私は支配人と風呂屋の経営について話をしながら昔のことを懐かしく思ったものだ。
 コンカツと組んで王都の色街で色々とやらかした頃のことをな。
 
 ある日、支配人と話をしていて興が乗った私は、つい、日本のソープのことを口にしてしまった。
 この町の風呂屋にはせっかく個室に風呂が付いているのに、それを活かしたプレイが無いのだ。
 私は、スケベ椅子やマットを使ったプレイが無いのが残念だと漏らしてしまったのだ。
 
 すると、支配人の食いつきは凄いものでな。
 ソープではどんなサービスが行われているのかを詳しく教えてくれと迫って来たのだ。
 まあ、ナイショにするほどのことも無いし、教えてやったのだがな。

 ところで、何度かタロウ君に指摘されたのだが。
 私がこの世界に飛ばされてきたのは十五歳の時、十八歳未満は出入り禁止の場所のことを何故知っているのかと。
 また、私が『ゴムの実』の話をした時に、日本の『ゴム』事情やその扱いに詳しいことにも疑問を投げかけられていた。
 タロウ君は、日本にいた頃の私が『イケイケのリア充野郎』だったのではとの、疑念を持っている様子なのだが。

 実のところ、私は中高一貫の超進学校、それも男子校に通っており。
 リア充どころか女性と交際したことも無かったのだ。
 受験勉強の合間に、好きなアニメや漫画、それに押しのアイドルを見る。
 そんな、寂しいヲタクそのものの生活をしておった。
 もちろん、ソープに限らず十八禁の風俗店など近寄った事すらなかったよ。

 なに? それでは、私の知識はネットで仕入れただけの『知ったか』なのかだと?
 いやいや、私の知識は現役のソープ嬢の直伝によるものだぞ。
 何せ、私は現役ソープ嬢に男にしてもらったのだからな。五歳年上の実の姉に…。

 お前は近親嗜好の変態野郎かって?
 それも違う、私は姉に恋心を抱いたことも無ければ、劣情を抱いたこともない。
 恐らく、姉だってそうだったのだと思う。

 今のタロウ君と『ひまわり会』系の風呂屋の新人泡姫の関係。
 私と姉の関係はまさにそのものだったのだ。

 私は東京の台東区、外国人観光客も多い有名なお寺の裏手で、開業医を営む家に生まれたのだが。
 患者さんは女性ばかり、しかも、診察よりも検査にくる人の方が多かったのだ。
 定期的に検査を受けに来るため、子供の私でも患者さんの顔を覚えるほどに。

 姉は、子供の頃から、人懐っこくて、物怖じしない性格で。
 診療所の待合室に潜り込んでは検査を待つお姉さん達とおしゃべりをしていたのだ。
 そんな姉は、検査待ちで退屈するお姉さん方から可愛がられていたよ。
 感染症のことなどを考えると、本来はダメなのだろうが。
 姉にも医者になって欲しい親父は、患者さんと親しく接する姉の行動を止めることは無かった。

 親父の期待通り、頭脳明晰な姉は医学コースに現役合格を果たしたんだ。
 実家から近いと言うだけの理由で、上野の不忍の池を越えてすぐの所にある大学にね。

 そんな、国内最難関の誉れ高い大学に一発合格した姉なのだが。
 合格発表があったその日のうちに信じられない行動をとりおった。
 何と、親しくなった患者さんが勤めている店でアルバイトを始めたのだよ。
 親父は焦って止めたのだが、姉は頑として言う事を聞かなかった。

 姉は親父に向かって言ったよ。

「この業界に勤める人達が、悪い病気に罹らないように中から啓蒙するのが私の使命です。
 人類最初の職業と言われているのだもの、この仕事を無くすのは無理だと思うわ。
 ならば、勤める人も、お客さんも安心して遊べる環境にする方が良いと思う。」

 と。
 診療所に検査を受けに来る人とコミュニケーションをとるうちに、姉は妙な使命感を持ってしまったようなのだ。
 おりしも、日本では一時影を潜めていた病気が再び急増している時期で…。
 姉は、『ゴム』の正しい着用を声高に叫んでいたよ。 
 
 姉は言っていた。

「着けない方が手っ取り早く稼げるし、お客さんの指名も付きやすいから。
 最近はゴム無しOKにする子が多いらしいけど。
 それは邪道だわ。
 自分も、お客さんもリスクが高まるだけですもの。
 本当のプロは、お客さんに着けたのが分からないようにするのよ。」

 私は姉らしい意見だと思ったものだ。
 姉は、子供の頃からプロのお姉さん方の薫陶を受けていたのだからな。
  
 そんなある日のこと。
 私は周りの目を盗んでネットで不適切な動画を見ておったのだ。
 本来、私の歳では見ることが許されない内容のモノをな。
 まあ、何だ、やりたい盛りの十代半ばの少年がする事だ。
 その時の私の手が、何をしてたかは言うまでもあるまい。

 その時、突然、私の部屋の扉が開き…。

「和人、そこで芋ようかん買って来たわよ。
 一緒にたべっ…。」

 アルバイトから戻った姉が、地元名物の芋ようかんが入った小箱を手にして固まってたよ。

「姉貴、これはだな…。」

 私はそれ以上何て言って良いのか分からなかったよ。
 およそ、これ以上恥ずかしい姿はないって姿を見られてしまったのだから。
 すると、姉の目がキラリと光り。

「和人も、もうそんな歳なのね。
 別に恥ずかしがることでは無いと思うわ。
 ただね…、それはいけないと思うの。
 明らかに十八歳未満閲覧禁止の動画だし…。
 それ以上に、その動画、色々と問題があると思う。
 知ってる? 児ポ法に抵触する動画は見ているだけでも犯罪なのよ。
 お父さんにチクっちゃおうかな、和人にそんな趣味があるって。」

 姉は、PC上で再生中の動画を指差して、私を脅迫したのだ。
 ただ一つ、私の名誉のために言っておくと、私は断じてロリコンではなかったぞ。
 ただ同級生くらいの歳の女の子に興味があっただけで、それはごく自然な欲求だと思うのだ。
 とは言え、私にやましい所があったのは事実で…。

「姉貴は、俺を脅迫して一体何を要求するするつもりだ?」

 私は、姉の態度から何かの要求があるものだと察してそれを尋ねたのだ。

 それに対する姉の答えが…。

「別に難しい要求をするつもりは無いわ。
 和人にはモルモットになって欲しいだけよ。
 黙って従えば、損はさせないわよ。
 いえ、和人の歳では普通経験できない甘美な気分を味あわせてあげる。
 役得だと思いなさい。」

 その日、私は男になったよ。
 好きでアルバイトを始めた姉は技を磨くことに余念がなく、一流の技を目指してた。
 その日以来、私は毎日にように姉の練習相手になったのだ。
 姉がお店で提供するサービスを全て完璧にマスターするまでずっと。
 そして、毎回、事が済んだ時にふと気づくのだ。
 一体いつの間に着けたのか、しっかりゴムが着いていることに。

 姉は、父の希望した通り、シモの病気を扱う事を専攻に選び。
 大学から帰ると、姉はその日受けた講義の内容を私に話して聞かせたのだ。
 姉はそうすることで知識を整理し、記憶していたのだと思う。
 一戦終えた後に聞かされる話が、それに関わる病の話とはいささか萎えるものがあったよ。

 おかげで、私は十代半ばにして、その方面の知識はかなり豊富になってしまったよ。
 まさか、異世界に来てこんな知識が役に立つ日が来るとは思いもしなかったが。 

       **********

 そんな訳で、私は支配人にアドバイスをしたのだが。
 小道具無しで出来るサービスは良いとして、そうでないものをどうするか。
 スケベ椅子は何とか木製で再現することが出来たのだが。

 マットがいかんともしがたかったのだ。
 しかし、日本のソープにマットは必要不可欠、これがプレイの幅を広げていると言っても過言では無いのだ。
 ここでも、知恵を出したのはシフォンさんだった。

 私と支配人が話をしている最中に、服の仕事で訪ねて来たシフォンさんは興味津々で聞いておったのだ。
 そして。

「ねえ、それ、ゴムの実の皮を膨らまして詰めればいけるんじゃないかしら。
 私の所に在庫があるから試しに作ってみようよ。
 上手くいくようなら、アルト様にお願いして大量に譲ってもらいましょう。」

 その言葉通り、シフォンさんはマットを試作してくれたのだが。
 それだけではなく、タロウ君を相手に実用に耐えられるかの実験もしてしてくれたのだ。
 シフォンさんのそっち方面の好奇心は尽きることが無いようで。
 嫌がるタロウ君を黙らせて、私にマットプレイの手解きを頼んできたのだ。

 私も知人の秘め事を目にするのにはいささか抵抗があったが。
 シフォンさんの熱意に負けて、一から十まで手解きすることになったよ。

 マットが実用に耐えることが実証できたので、辺境の町の風呂屋ではマットプレイを取り入れることになったのだが。
 これが大ヒットで、これを目当てに他の街から訪れる者もいるほどになり。
 今ではこんな辺境の町に、三号店まで風呂屋が増えているのだ。

 この間、全ての泡姫さんに私が手解きすることになり、体も懐も温かくなったのだ。   
 
 シフォンさんのおかげで、私は今まで取り崩す一方だった貯えを大分増やすことが出来たよ。
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