ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
462 / 848
第十六章 里帰り、あの人達は…

第462話 向こうも順風満帆みたいだね

しおりを挟む
 隣国にあるイナッカ辺境伯領から買付けにやってきている大店の若旦那。
 この町の風呂屋へ通うのが一番の楽しみだなんて、しょうもないことを声を大にして主張してたよ。

「若旦那、久し振りだね。
 商売繁盛みたいだけど、風呂屋通いは程々にした方が良いんじゃない。
 あんまり、風呂屋で散財すると大旦那から大目玉を食らうよ。」

 セーナン兄ちゃんと会話を交わす若旦那に、おいらが声を掛けると。

「おや、マロン嬢ちゃんじゃないか、それにオラン殿下も。
 最近顔を見ないと思っていたが、本当に久しぶりだね。
 しかし、お恥ずかしい会話をきかせちゃったな。
 まさか子供が聞いているとは思わなかったよ。」

 若旦那は、おいら達が話を聞いてたのを知り、バツの悪そうな顔をしてたよ。

「いつも言っておるが、私を街中で『殿下』と呼ぶのはやめて欲しいのじゃ。
 私は、この町の民に自分の素性を明かしたことは無いのじゃから。
 それに、私は既にシタニアール国の王家を離れたので、殿下では無いのじゃ。」

 オランは、初対面で若旦那に素性を言い当てられたの。
 その時、市井の民の暮らしぶりを見聞するために、民に紛れて暮らしていると説明し。
 身分がバレると色々と都合が悪いので、殿下とは呼ぶなと伝えてあったんだ。

「ああ、失礼しました。
 では、従来通りオラン様と呼ばせて頂きます。
 しかし、オラン様が王家を離れたとは聞き及んでいませんが。
 どうかなされたのですか?」

 まあ、王族の出来事なんて重要なこと以外まで民に知らせることも無いだろうから。
 地方の一商人に過ぎない若旦那が知らなくても不思議ではないけどね。
 若旦那も、王族に対して『どうかなされたのですか?』なんて、普通聞く?
 場合によっては、とっても不敬に当たることもあるんじゃない。

「私は、一年程前、正式にマロンの婿になったのじゃ。
 勿論、父上や母上と縁を切った訳では無いのじゃが。
 王族の籍からは抜けたのじゃ。」

 別に答えなくても良いのに、オランが律儀に返答すると…。

「おや、それはおめでとうございます。
 しかし、随分とお早いご結婚ですな。
 貴族様の政略結婚ですら、そのお歳では珍しいでしょう。
 しかも身分違いの婚姻となれば、良く周囲の方々がお許しになりましたな。」

 若旦那、空気読まないな…。
 オランがわざわざ、おいらの身分は隠したと言うのにそこを突くとは。

「若旦那、マロン嬢は特別でござるよ。
 怖い妖精さんが、後見人に付いているでござるからな。
 一国の王とて、妖精さんに逆らうのは無理でござるよ。
 逆に言えばマロン嬢を味方につけておけば。
 妖精さんを味方につけたようなものでござるよ。
 そんじょそこらの政略結婚よりずっと価値があるでござる。」

 こっちは、ちゃんと空気を読んでるね。
 ゼーナン兄ちゃんがもっともらしい事を言ってくれたよ。
 身分を明かしたくないおいら達の意図に気付いたみたいだね。

 まあ、実際、シトラス兄ちゃんが耳長族と婚姻を結んでアルトを味方につけたから。
 シタニアール国の王族は、セーナン兄ちゃんの言う通りの事をしてるんだけど。

      **********

「そう言えば、マロン嬢ちゃんはあの妖精さんの庇護を受けているのでしたな。
 イナッカの領主も、あの妖精さんの逆鱗に触れて首を挿げ替えられたんだっけ。
 確かに、あの妖精さんが二人の結婚を認めろと言えば、誰も逆らえませんね。」

 舞台袖で宙に浮かぶアルトを見て、若旦那は納得してたよ。
 セーナン兄ちゃんの言葉は、若旦那にとって十分な説得力があったみたい。
 現に自分の住む町の領主が、アルトの手で代替わりさせられたからね。

「まっ、そんなところだよ。
 それで、おいら、若旦那に聞きたいことがあったんだ。
 新しい辺境伯は上手く領地を治めているかな。
 耳長族のお嫁さんとは仲良くやってそう?」

 あれからイナッカに行く機会が無かったので、少し気になっていたんだ。
 若旦那はイナッカに大きな店を構えているそうだから、少しは情報を持っているかなと思ったの。

 そしたら、若旦那はこんな事を言ってたよ。

「ああ、マロン嬢ちゃんも前領主の首を挿げ替えた件には関りがあるんだっけ。
 前のロクでもない領主を退治した時に、マロン嬢ちゃんも一緒だったと言ってたね。
 あの時、妖精さんが、領主と悪ガキ二人、それに不良騎士共を消し去ってくれただろう。
 おかげで、イナッカの町は随分と暮らし易くなったよ。」

 諸悪の根源だった、領主と正妻の息子二人、それに取り巻きの騎士達をアルトを広場で公開処刑にしたの。
 そして、残った騎士や広場に集まった冒険者達に宣告したんだ。
 耳長族や町の堅気衆に悪さをしたらこんな目に遭わせるってね。

 どうやら、ちゃんと薬が効いているみたい。
 難を逃れた騎士達は、悪さをするのを止めて真面目に領内の警備をするようになったみたい。
 冒険者は相変わらずならず者ばっかりだけど、取り締まりが厳しくなると表立って悪さをする者は減ったし。
 みかじめ料の徴収や高利貸もきつく取り締まられるようになると。
 冒険者共は、蜘蛛の子を散らすようにイナッカの町から居なくなったそうなの。

 ハテノ男爵領みたいに、冒険者の更生までは手掛けてないので真っ当な人間にはならないようだけど。
 シノギがし難くなって、イナッカ辺境伯領に見切りをつけて出て行く冒険者が増えたみたい。

 元から魔物狩りもロクにしないで悪さばかりしてたので、冒険者が居なくなったところで何の実害も無いそうだよ。
 今は、騎士達が魔物狩りをしているので、魔物被害も減っているみたい。
 冒険者が少なくなったので、街の治安がとても良くなったって住民たちは喜んでいるらしい。

 更に若旦那は続けて言ってた。
 
「今の領主様はとても良くやっていると思いますよ。
 騎士を陣頭指揮して、魔物退治や野盗と化した冒険者狩りをしてますし。
 奥様と一緒に街へ出て来ては、民の話に耳を傾けています。」
 
 妾腹で正妻の息子二人に虐められていたのが良かったのかな。
 腰が低くて、全然横柄な態度をとらない領主様ということで、民の評判はとても良いんだって。

 それと、アルトが高レベルの騎士を一人処分した時に、その『生命の欠片』を若領主に渡しているんだ。
 その甲斐あってか、若旦那の言葉によれば、領地の魔物狩りを率先してやっているようだね。
 今まで、領主はおろか騎士ですら、領内の魔物狩りなんてしなかったものだから。
 陣頭に立って魔物を狩る若領主に対する民の好感度はうなぎ上りなんだって。

 夫婦そろって街へ出て来ることもしばしばで、仲睦ましい姿を見せているらしい。
 街に出て来ると、領主夫妻の方から積極的に民に声をかけているみたいだよ。
 「何か、困っていることは無いか」って。
 耳長族のお嫁さんは、その美しい姿と愛想の良さから、町の人々の羨望の的らしいよ。

 そして、何と…。

「つい先日、私がここへ来る前のことですが。
 領主ご夫妻に、お子様がお生まれになりましてね。
 玉のように可愛らしい女の子だとのことですよ。
 何でも、今は女の子でも領主になれるそうで。
 領主様は大喜びらしく、広場で住民に振る舞い酒をしていました。」

 若旦那がイナッカを出て来たのは半月ほど前のことらしく、その頃に領主待望の赤ちゃんが生まれたらしいよ。
 誕生の翌日に世継ぎ誕生との発表があって、町の広場で街の人に料理とお酒が振る舞われてんだって。
 その日の広場は、終日お祭り騒ぎだったみたい。

 三男さん、気弱そうで自信無さ気な人だったけど、今は幸せそうで良かったね。

 そして、イナッカ辺境伯家の跡取りは耳長族になりそうだよ。
 アルトの目論見通りだね。

しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

処理中です...