ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十六章 里帰り、あの人達は…

第460話 にっぽん爺のお屋敷にお化けが出る?

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 鉱山に向かう人の多さに驚きつつ家に帰ってくると。

「マロンちゃん、お帰りなさい。
 今朝も、トレント狩りに行ってきたのですか。
 精が出ますね。」

 お向かいのにっぽん爺の家の方からそんな声が掛かったの。
 そこにはスフレ姉ちゃんが、眠そうにあくびを噛み潰しながら立っていたよ。

「おはよう、スフレ姉ちゃん。
 凄く眠そうだけど、まさか一晩中門の前で警備をしてたの?
 出掛ける時には、スフレ姉ちゃんが居るのに気付かなかったよ。」

 早朝、狩りに行く時は向かいの門の前には誰も立っていた覚えが無いのだけど…。

「いえいえ、まさか。
 警備を始めたのはついさっきですよ。
 昨日の晩、エクレア団長から呼び出されました。
 何でも、やんごとなき方が、カズミさんのお父さんを訪ねて来たとのことで。
 エクレア団長と共に警備に付けとの指示があったんです。
 なので、昨晩はこちらに泊めて頂いたのですが…。
 よく眠れなかったのです。」

 スフレ姉ちゃんは、そう言うと辺りをキョロキョロと見回し。
 周囲に誰もいないことを確認すると、おいらに近付いて来てこそっと耳打ちしたの。

「昨日は、こちらで豪華な夕食をご馳走になったのですが。
 食事を頂いてからというもの、何故か体が火照って…。
 目も冴えてしまって、寝付けなかったのです。
 それで、ベッドの中でウトウトしていると…。
 お屋敷の中に、異様な叫び声が響いたんですよ。
 女性の悲鳴とも、ケダモノの鳴き声ともつかない異様な声が。
 明け方まで、それが続いたものですから。
 私、気味が悪くて全然眠れなかったんです。」

 最初の声が響いた時、スフレ姉ちゃんは飛び起きて屋敷の中を見回ろうと思ったらしいの。
 すると、同じ部屋で寝ていたクッころさんがそれを押し止めたんだって。

「あの声は気にしなくても結構です。
 良いですか、この屋敷で見聞きしたことは他言無用ですよ。」

 そう告げると、クッころさんは頭まで布団を被って寝ちゃったんだって。
 クッころさんは声の正体を知っている様子なのだけど、スフレ姉ちゃんには教えてもらえず。
 スフレ姉ちゃんは、獣のような声に怯えながら朝まで過ごしたらしいの。

 口止めされてたけど、余りにも怖すぎて誰かに話さずにはいられなかったって。
 スフレ姉ちゃん、にっぽん爺の家がお化け屋敷じゃないかと言って怯えているの。

「ああ、あんた、その話はこの場限りにした方が良いぞ。
 あと数年もすれば、あんたにも声の正体がわかる日が来るだろうよ。
 この場以外では、決して口にしたらダメだぞ。」

 どうやら、声の正体に気付いた人がここにもいたらしい。
 ルッコラ姉ちゃんが、改めてスフレ姉ちゃんに他言無用と釘を刺してたよ。
 今の話を迂闊に漏らすと、首を刎ねられるかも知れないって脅してた。

 その時のルッコラ姉ちゃんの顔がマジだったものだから…。

「すみません、すみません。
 もう絶対にこのことは口にしません。」

 気の弱いスフレ姉ちゃんは怯えながら謝っていたよ。
 いや、ルッコラ姉ちゃんに謝ってもしょうがないから、無関係だし。

     **********

 陽も高くなって、庭でミンメイを遊ばせていると。
 お隣さんの家の玄関扉が開いて…。

「うーん、良く寝た。今日も清々しい朝ね。」

 そんな言葉を口にしながら庭に出て来たシフォン姉ちゃんが、大きく背伸びをしていたよ。

「清々しい朝じゃないでしょう。
 もうお昼だよ、こんな時間まで寝ていたの?
 もしかして、タロウは日課のトレント狩りをサボってまだ寝てるの?」

 お日様が真上にあるのに清々しい朝はないよね。

「あっ、マロンちゃん、オハヨー!
 私にとってはまだ朝よ、だって寝たのは夜が明ける少し前だし。
 マロンちゃんに貰ったスッポン、あれ効いたわ。
 タロウ君なんかケダモノのようになっちゃって。
 私とカヌレちゃん相手に、一晩中ハッスルしてたのよ。
 もちろん、私もケダモノのように乱れちゃった。
 おかげで大満足よ、スッキリ、清々しい気分のなの。」

 うん? ケダモノ?

「ねえ、シフォン姉ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど…。
 昨夜、獣の鳴き声なような声を出してた?」

 さっきのスフレ姉ちゃんの話が気になったのでちょっと尋ねてみたの。
 もしかして、声の主はシフォン姉ちゃんかも知れないから。

「あら、恥かしい。
 アノ声、マロンちゃんちまで聞こえちゃった?
 アルト様に注意されてたのよね、近所迷惑になるような声は出すなって。」

「うんにゃ、おいらの家には聞こえてないと思うよ。
 一緒に寝てた、オランやミンメイも目を覚ました様子は無かったもん。
 もちろん、おいらも朝までぐっすりだったし。
 ただね…。」

 それから、おいらは、今朝スフレ姉ちゃんから聞いた話を教えたんだ。
 もしかしたら、シフォン姉ちゃんの声に怯えていたのかもって。

「イヤね。
 流石の私でも、向かいの家にまで届くような声は出さない…。
 と思うわ、多分…。」

 シフォン姉ちゃんは、自信無さ気に否定すると。
 今のお屋敷は鉱山住宅と違って分厚い石の壁で出来ていて遮音性が高く。
 更に、家と家との間に広い庭があるので声が届く訳ないと言ったの。

 シフォン姉ちゃんは言ってたよ。
 そもそも、おいらの家に届いていない声が、道を挟んだ向かいのにっぽん爺の家まで届く訳ないって。

「でも、そのケダモノのような声には心当たりがあるわ。
 お爺ちゃんも中々やるわね、あの歳で朝まで頑張れるなんて…。
 マロンちゃん、あなたも大人になれば分かるわ。
 大人になると、人は時としてケダモノになるのよ。」

 シフォン姉ちゃんは答えをはぐらかしたけど、声の主は誰だか分かったよ。
 にっぽん爺が関わっているのだから、十中八九、ミントさんだね。
 にっぽん爺が何かを頑張ったから、ミントさんがケダモノのようになったんだ。

 きっと、にっぽん爺が何をしてミントさんをケダモノに変えたかを漏らしたらダメなんだね。
 下手をすれば首が飛ぶほど、触れてはいけないタブーなんだ。

      **********

 夕刻、おいらはミンメイと散歩を兼ねて買い物に出かけることにしたんだ。
 門扉を開けて道へ出ると…。

「殿下、行き先は告げられない、護衛も不要と言われても困ります。
 皇太子殿下にもしものことがあれば国の一大事。
 ひいては、ハテノ男爵家にも咎が及んでしまいます。
 私達護衛の騎士もお供させて頂きます。」

 クッころさんがそう言って、出掛けようとするカズヤ殿下を通せん坊してたの。

「いえ、護衛は結構、この平穏な町でどんな危険があると言うのですか。
 これから向かう所は、ご婦人を伴なっていてはいささか不都合なところなのです。
 騎士クレーム、昨夜の嬌声はあなたの耳にも届いたでしょう。
 一晩中聞かされたアノ声のせいで、これ以上理性を保っていられないのです。
 正直言って、私は切羽詰まってます。
 あなたや私の妹、ともすると、幼子のような騎士スフレにすら手を出しかねないほど。
 ですから、ここは見なかったことにして、私を通してくださいませんか。」

 スフレ姉ちゃんを怯えさせたケダモノの鳴き声は、色々と問題を起しているようだね。
 どうやら、カズヤ殿下は女性を連れてはいけない場所に行こうとしているみたい。
 カズヤ殿下の切実な訴えを耳にしたクッころさん。
 カズヤ殿下を正面に見据えていた視線を、やや下に向けたんだけど。
 次の瞬間、クッころさんは顔を真っ赤にして俯いちゃったよ。

「ねえ、カズヤ殿下。
 何処へ行くのか知らないけど。
 エクレア姉ちゃんだと何か拙いなら、タロウに護衛を頼んだら。
 タロウなら暴漢に後れを取ることは無いと思うよ。
 一人じゃ心配なら、父ちゃんにも護衛を頼んであげるよ。」

 二人共困っている様子なので、おいらが助け舟を出してあげたんだ。
 タロウは一人でワイバーンを倒せるような猛者だし。
 人相手にも場数を踏んでいるので護衛としては申し分ないって教えてあげたの。

「余り人を伴ないたくは無いのですが…。
 やむをえませんね。」

 カズヤ殿下は気乗りしないようだけど、それでも出掛けないという選択肢は無いようで。
 渋々タロウに護衛を頼むことを承諾したんだ。

 そんな訳で、タロウに護衛を頼みに行ったのだけど…。

「何々、アノ声にあてられちゃったの。
 スッポンのフルコースにアノ声じゃ辛かったでしょうね。
 しかも、近くに美女が三人も居るのにお手付きできないんじゃ。
 ヘビの生殺しよね。
 いいわ、タロウ君を護衛につけてあげる。
 それと、私、お店に顔が利くから従者の控え室付きの特別室を開けさせるわ。」

 おいらの依頼を聞いて返答したのは、タロウじゃなくてシフォン姉ちゃんだった。
 カズヤ殿下の話を聞くと、シフォン姉ちゃんはすぐに目的地が分かったみたい。
 「あっ、ギルドの風呂屋に行きたいのね。」って言い当ててた。

 何でも、従者付きのお客なんてこの五十年いなかったんで、営業に使ってない部屋があるんだって。
 メンテや掃除は欠かしていないので、すぐに使えるはずだと言ってたよ。
 シフォン姉ちゃんが、にっぽん爺と組んで泡姫さんの研修をするのに使っていたらしいの。 
 今日出勤しているで評判の良いは指名でいっぱいだろうから、非番の娘で一番良い娘を用意させるとか言ってたよ。

 シフォン姉ちゃん、どんだけ顔が利くんだろう…。
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