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第十六章 里帰り、あの人達は…

第455話 ライム姉ちゃんのお心遣い

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 この領地へ来た本当の目的がにっぽん爺に会う事だとぶっちゃけた王后のミントさん。
 余りにぶっ飛んだ目的に、ライム姉ちゃんは唖然としてしまったよ。

「なあ、ライムは陛下が仰る人物に心当たりがあるのか?」

 事情を呑み込めないレモン兄ちゃんが問い掛けると。

「はい、私はマロンちゃんの即位式でウエニアール国に滞在した際に。
 陛下とお茶をご一緒させて頂いて、その場でお話を伺っておりましたので。
 この領地の騎士カズミさんはご存じでしょう。
 彼女のお父さんが、ミント様の言われた方です。」

 ライム姉ちゃんの返事に、レモン兄ちゃんはハッとした表情でカズヤ殿下の顔を見たの。
 そして、…。

「以前、王宮でご挨拶させて頂いた際、初対面の気がしなかったのですが。
 あの時の既視感の理由が、今わかりました。
 王太子殿下は騎士カズミと同じ黒髪ですし、目元、口元が良く似ておられます。
 殿下とカズミは兄妹だったのですか…。」

「何と、私に腹違いの妹が居たのですか。
 それは初耳です。」

 カズヤ殿下はレモン兄ちゃんの言葉に驚いてたよ。そして、カズミさんに関心を持ったみたい。
 きっと、カズヤ殿下が住んでいる王都に、兄か姉が三人いると知ったらもっと驚くだろうね。

「ミント様、こちらにお越しになられた目的は分かりました。
 仰せに従いミント様は、一月の間我が家に滞在したことに致します。
 ですが、くれぐれもトラブルに巻き込まれること無きよう気を付けてください。
 それと、…。」

 ミントさんが事故や事件に巻き込まれると口裏を合わせようが無くなるし。
 そもそも、ハテノ男爵家の責任問題になるから困ると、ライム姉ちゃんは言ってたよ。
 加えて何か言いたそうだったけど、口にして良いモノか躊躇った様子で言葉を途切れさせたの。

 それから、おいらやオラン、それのアルトの顔色を窺って…。

「陛下。カズミさんのお父さんは、かなりのご高齢と伺っています…。
 なので、滅多なことは無いでしょうが、…。
 くれぐれも身籠ることが無いようにお気を付け下さい。
 せっかく、カズヤ殿下が王太子となれたのに、再び悶着が起こりかねませんので。」

 ミントさんは当たり障りのない言葉を選んでいる様子で、詰り詰りに注意したの。
 もし、ここでミントさんがにっぽん爺の子供を授かり、黒髪の子供を産み落とそうものなら。
 カズヤ殿下が王太子の座にあることに異議を唱える人が出て来るって。

「そうね、私としてはもう一人くらい、あの方の子を産みたいのだけど…。
 そんな事をしたら、カズヤの立場が危うくなるものね。
 そこは十分気を付けるわ。
 …っと言っても、こればかりは自分でどうこうできるものでもないし。
 あっ、そうだ、アルト様、シフォンちゃんを出してもらえるかしら。」

 ミントさんは、アルトに向かってシフォン姉ちゃんを『積載庫』から降ろすように頼んだの。
 アルトはミントさんに請われるままにシフォン姉ちゃんをその場に降ろしたよ。

「あっ、ライム様、ご無沙汰しております。
 赤ちゃんが生まれたようで、おめでとうございます。
 これ、私が作ったおむつです。
 よろしければ、使ってください。」

 シフォン姉ちゃんは腰と両足部分にゴムを入れたおむつをドカッと差し出したの。
 いつの間におむつなんて作っていたの。

「あら、これ、良いわね。
 パンツみたいに履かせることが出来るおむつなのね。
 しかも、サイズが沢山あって、成長に合わせて変えられるわ。
 有り難うシフォンさん、これならおむつ替えが楽になりそう。」

 おむつを手に取って、ライム姉ちゃんが喜んでいると。

「それよ、それ!
 シフォンさん、そのゴム、何処から手に入れているの?
 それ、この国ではご禁制の『ゴムの実』から作っているのでしょう。
 私、子種を漏らすことが無いその実の『皮』が欲しいの。
 できれば、あの方を若返らせることが出来る果肉もあれば更に良いのだけど。」

 おむつに使われたゴムを指差して、ミントさんがシフォン姉ちゃんにゴムの実を無心したの。

「ミント様、ゴムの実がご所望なのですか。
 でしたら、アルト様にお願いして頂けますか。
 アルト様が『妖精の森』で栽培しているので。
 私は乾燥させたゴムを分けて頂いてるだけですので。」

 嘘だ! シフォン姉ちゃん、自分が使うためにまるのままのゴムの実を少し貰っているはず。
 ミントさんに上げるのを渋っているのかな、それとも今回は持参してないのか。

「あら、ミント、アレが欲しいの?
 これだけあれば、足りるかしら。」

 アルトは、『ひまわり会』の風呂屋に卸している壺詰めのゴムの実の皮を一壺出してあげたの。

「これは…。
 わっ、凄い、これだけあれば…。
 十日くらいでなくなっちゃう?」

 ぎっしり、詰め込まれたゴムの実の皮に喜びの表情を浮かべたミントさんだけど。
 一日に使用する数から計算すると、滞在中はもたない事が分かり、少ししょんぼりしたんだ。

「あんたねえ、いい歳して、一日幾つ使うつもりなの…。
 ほら、もう一壷出してあげるわ。
 滞在中、それで持たせなさいよ。
 だいたい、あの色事爺はもう六十過ぎよ。
 現役かどうかも怪しいと言うのに。
 そんなに酷使したら、本当に死んじゃうわよ」

「あら、私としたことが…。
 少し、がっつき過ぎたかも知れませんわね。
 カズト様が体を壊さないように程々にしておきます。
 時に、ご相談なのですが…。
 カズト様もお歳なので、少し元気がないかも知れません。
 出来れば『皮』だけではなく、『果肉』入りの実もご所望できませんか?」

 それ、良いの? 王后陛下自ら、禁を犯して。
 ゴムの実の果肉は、この国ではご禁制の品だよね。

「ホントに、もう…。
 ほら、これだけよ。
 それ、常習性があって危ないから、一日一つまでにしておきなさいよ。」

 アルトは、呆れたようでため息を吐いてたけど。
 結局、布袋入りのゴムの実を一袋手渡していたよ。
 なんだかんだ言っても、アルトって甘いよね。

        **********

 取り敢えず、ミントさんの話が一段落した様子なので。

「ライム姉ちゃん、パターツさんとグラッセの爺ちゃんは居るかな。
 二人にお客さんを連れて来たんだけど。」

 グラッセ爺ちゃんは、今、ダイヤモンド鉱山の経営を手伝っているはず。
 それと、パターツさんはトレントの木炭の管理をしているんだ。
 以前はアルトが雇っていたんだけど、財政に余裕が出来たとのことで男爵家が召し抱えたらしいの。

「はい、今日も通常通り出仕していますので。
 それぞれの事務室にいるかと…。」

 ライム姉ちゃんが返事をすると、レモン兄ちゃんが呼びに行ってくれたよ。
 その間、おいらはプティー姉を『積載庫』から降ろしてもらったんだ。

「えっと、マロン様…。
 急に母に会えと言われても戸惑ってしまいます。
 マロン様、辺境の町で温泉に浸かるとおっしゃられただけで。
 こちらで母に会わせるとは言ってらっしゃいませんでした。」

 まあ、ビックリさせようと思って、わざと言わなかったんだけどね。
 プティー姉としては、赤子の時に生き別れて長らく別々に暮らしていたから。
 母親だと言われても実感が湧かないみたいなの。
 でも、せっかく再会できたのだから、機会があるなら会った方が良いと思うんだ。

「ライム様、お呼びとのことでしたので、参りました。
 何方か、私とお父様に来客とか…。
 えっ、あなた、プティーニなの?」

 レモン兄ちゃんに従ってやって来たパターツさんとグラッセ爺ちゃん。
 応接室に入ってライム姉ちゃんに話しかける途中で、プティー姉に気付いたの。

「はい、お母様、ご無沙汰しております。
 それに、お爺様も。
 お元気そうなお顔を拝見できて嬉しいです。」 

「私もプティーニの顔が見られて嬉しいわ。
 でも、こんな遠くまでどうしたの?」

「はい、実は、歳が近くて、血縁があるということで。
 マロン様の側仕えとして王宮に採用されました。
 今回は、マロン様がご休暇を取られまして。
 辺境の町へ里帰りされるとのことで、同行させて頂きました。」

「まあ、そうでしたの。
 ご休暇と言う事は、しばらくあの町に滞在するのですか。」

 母娘で挨拶を交わした後、そんな会話が持たれていたんだ。
 邪魔しちゃ悪いと思いつつも。

「おいら、一月の休みをもらったんだ。
 これから二十日ほど辺境の町に残した家でのんびりする予定なの。
 それで、プティー姉だけど。
 パターツさんさえよければ、この町に留まって一緒に過ごせば良いと思うんだ。」

 おいらが二人の会話に割って入ると。

「いえ、私はマロン様のお側仕えですから。
 辺境の町へお供します。
 それに、母も仕事がありますので。
 日中見知らぬ町に一人残されても、正直困ります。」

 確かに、パターツさんはお休みという訳では無いし、日中は暇を持て余しちゃうよね。

「では、こうしましょう。
 パターツさん、あなたにマロン陛下一行のお世話を命じます。
 マロン陛下、空き家になっていた家で過ごすのは何かと大変でしょう。
 パターツさんを連れて行って、お手伝いさんとして使ってください。
 たしか、大きなお屋敷で部屋には余裕がありましたでしょう。」

 ライム姉ちゃんが気を利かせてくれたよ。
 パターツさんとプティー姉が一緒に過ごせるように、パターツさんをおいらに付けてくれたよ。
 それと、グラッセ爺ちゃんにはダイヤモンド鉱山の監査を命じていたの。
 現場に任せきりになっているので、そろそろ不正が無いかチェックする必要があるってね。
 良い機会なので、おいら達と一緒にアルトに乗っけて行って貰えって。

「それは、助かるよ。
 父ちゃんの奥さん三人は、赤ちゃんを抱えているからね。
 家族だけじゃなく、護衛の騎士やプティー姉も居るからゴハンの準備とか大変だったの。
 部屋は心配しないで、無駄に広くて空いてる部屋が沢山あるから。」
 
 そんな訳で、パターツさんとグラッセ爺ちゃんにもおいらに家に滞在してもらう事になったんだ。

 話が済むと、ミントさんはすぐにでも辺境の町に行こうと急かしていたけど。

 その日は、ライム姉ちゃんのお言葉に甘えて屋敷に泊めてもらう事になったよ。
 夕ご飯に招待したいと言われたら、断る訳にはいかないものね。 

 それに、パターツさんも、グラッセ爺ちゃんも出掛ける準備があるからね。
 留守中の仕事の引継ぎも必要だろうし。

 懐かしの我が家に帰るのは、翌日の朝になったんだ。
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