ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第448話 一緒にいたいと泣きじゃくるから…

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 王都へ連れて来た二人のうち、マルグリットさんの勤め先はまあ決まったようなので。
 後は、ヴァイオレットお姉さんの仕事を決めないといけないね。

 おいら達が次に訪れたのは王都の入り口にある門番の事務所だよ。

「みんな、お疲れさま。
 俺の留守中、問題はなかったか?
 みんなの言う事を聞かずに暴れる奴とかは居なかったか?」

 タロウはそこで働くギルドの職員に労いの言葉を掛けながら、門番の事務所に入ると。
 何か困ったことは起きていないかを尋ねたの。

「会長、お戻りになられたのですか。お帰りなさい。
 剣等の王都への持ち込み禁止は、すっかり知れ渡っているみたいで。
 王都へ訪れる旅人の間では、ここに剣を預けるのは当然と理解されている様子です。 
 この事務所を開設した当初のように不満を漏らす方は殆ど見られなくなりました。」

 王都への武器の持ち込みを禁止してここで預かることにした当初のこと。
 柄の悪い冒険者を中心に、ごねる者で暴れる者が居たようだけど。
 担当のお姉さん達は全員レベル二十超の猛者だから、簡単に『説得』できたって。
 こぶしで語り合ったらしいよ。

 ここで楯突いた愚か者の末路は、それを目撃した商人や旅人の口コミに乗って各地に伝わったみたい。
 王都への武器を持ち込もうとすると、痛い目に遭うってね。

 それだけじゃくて。

 ちょうどその時。

「よう、ねえちゃん、また来たぜ。
 俺の剣を預かってくれ。」

 冒険者風のお客さんが剣を預けに来たよ。
 すると、カウンターに居た担当のお姉さんが。

「あっ、お久しぶりです。
 また、西の町から商人さんの護衛ですか?
 長旅、お疲れさまです。
 それではお手数ですが、こちらにご記入してください。」

 優し気な笑顔でお客さんを労いながら、受付用紙を差し出したの。

「おおっ、若くてキレイな娘に、顔を覚えてもらえるなんて嬉しいね。
 ここの担当者は、何時も笑顔で迎えてくれるから来るのが楽しみだぜ。
 うちのカカアなんて、仕事から帰ってもお疲れさまの一言もねえんだぜ。
 それに、きちんと保管してくれるから安心して預けられるしな。」

 男は、受付用紙を受け取りながら機嫌良さそうに答えたんだ。

「あら、若くてキレイな娘なんて、お客さん、お上手。
 ここへ来るのが楽しみだと言って頂けて、私も嬉しいです。
 お客様の大切な剣ですから、大切にお預かりするのは当然ですよ。」

「それな! 大事な仕事道具だから、最初は預けるのが心配だったよ。
 でも、一度も紛失されたことも、取り違えられた事も無いからな。
 今じゃ、安心して預けているよ。
 それに、王都じゃ誰も帯剣している者が居ないし。
 剣を持ってなくても、身の危険を感じることはないからな。
 最近じゃ、剣を預けちまった方が身軽で良いと感じてるぜ。」

 このお客さんの言葉通り、大切な剣を責任持って預かってくれると評判になっているみたいで。
 ギルドの事務所に剣を預ける事への抵抗が小さくなっているみたいなの。

 それに王都の中は騎士が頻繁に巡回して、無法者を厳しく取り締まっているので。
 王都では帯剣している者が殆どいないし、暴力沙汰も激減しているの。
 治安が良くなっているから、自衛のために帯剣する必要性も薄れているんだ。
 剣って結構重いからね、このお客さんの言葉通り、預けてしまった方が楽だと思う。

 そんな事情も各地に伝わっているみたいで、みんな、素直にここへ武器を預けてくれるそうだよ。
 
「王都へ出入りする方の武具をここでお預かりしているのですか。
 これも、ひまわり会が一手に請け負っているのですか?」

「そうだよ。役人がしても良い仕事だけど。
 冒険者にも仕事を与える必要があるからね。
 ひまわり会に委託して、登録済みの冒険者にこの仕事をしてもらっているの。
 但し、お客さんはほぼ全員男の人だからね。
 人当たりの良い女性冒険者に限定するように条件を付けてるけど。」

 形式的には冒険者をひまわり会が採用し、ギルド職員としてこの仕事に就けているんだけどね。
 女性冒険者にとっては貴重な長期契約の依頼だから、とても人気があるらしいよ。
 増員を掛けると、すぐに埋まっちゃうらしい。
 
 その後は、港にある入国管理事務所に併設してるギルドの武器預り所も案内したよ。
 ここでは、武器を預かると同時に『妖精の泉』の水を飲ませて、王都へ流行り病が流入するのを防いでいるの。
 
 そのことをヴァイオレットお姉さんに教えると。

「冒険者ギルドのイメージが変わりました。
 冒険者ギルドって、悪の巣窟ってイメージがあったのですが。
 ひまわり会って、とても世の中に貢献しているんですね。」

「そうだよ、これが父ちゃんとおいらの理想とする冒険者ギルドの姿なんだ。
 まだ、王都にもならず者が屯するギルドはあるし。
 ひまわり会だって、まだ他の町までは目が行き届いてないけどね。
 いつか、この国にある冒険者ギルドを全て真っ当なギルドに変えたいんだ。」

 おいらが、冒険者ギルドについての理想を口にすると…。

「マロンがそんな事を言うもんだから。
 俺は何時も大忙しだぜ。
 マロンの要望に応えるためには幾ら人手があっても足りないんだ。
 ヴァイオレットさんも、ひまわり会に来てくれたら歓迎するぜ。」

 タロウはヤレヤレって表情を見せて、ヴァイオレットお姉さんを勧誘していたよ。

      **********

 そして、一旦王宮にあるおいらの執務室に戻って。

「さて、ヴァイオレットお姉さん、今日案内した中に気に入った仕事はあったかな?
 おいらが紹介できるのは、こんな所なんだけど。」

 ヴァイオレットお姉さんに仕事に就いての希望を尋ねると。

「今日、拝見させて頂いた中ではひまわり会の仕事が一番興味深いのですが。
 タロウさんが、あのような女性にだらしない方だったなんて…。」

 ヴァイオレットお姉さん、タロウに危ないとこを助けられたものだから。
 タロウのことが、実物より数段格好良くに見えちゃったみたいで…。
 今日見て回ったギルドや管理局に勤めるお姉さん方の、タロウに対する接し方を目にして失望したようなの。
 過大評価していた分だけ落胆が大きくて、今は汚らわしいモノを見るような目つきでタロウを見ているよ。

 すると。

「ねえ、おねえちゃん、ここママがいるんでしょう。
 びおら、ママといっしょがいい。
 ままといっしょにおねむしたい。」

 今まで何も言わなかったビオラちゃんが、そんなことを口にしたの。

「ビオラ、ゴメンね。
 ママはもう一緒に住むことは出来ないの。
 ママは家族じゃなくなっちゃったから。」

「なんで? なんで、いっしょにいられないの?」

 ビオラちゃんは、そう言うと泣き出しちゃった。
 そうだよね、ビオラちゃんの歳じゃ、両親が離婚したなんて言っても理解できないよ。
 それに王都へ帰って来たんだもの、お母さんと一緒に住みたいと思うのも当然だね。

 ヴァイオレットお姉さんは、泣きじゃくるビオラちゃんに困った顔をしてたけど。
 おいらは、部屋に宰相を呼んであることを頼んだんだ。

 ビオラちゃんは中々泣き止まず、しばらくヴァイオレットお姉さんの仕事の話は中断してたの。
 やがて、宰相が部屋に戻って来くると…。

「宰相様、こちらにビオラとヴァイオレットがお邪魔しているのですか?」

 そんな言葉を口にしながら、中年に差し掛かろうかって年齢のご婦人が部屋に入って来たの。

 それを耳にした途端、ビオラちゃんは泣き顔で声がした方向を探り。

「ま、ままー!」

 ご婦人に向かってペタペタと懸命に走って、飛びついたよ。

「ビオラ、元気で良かった…。」

 そう言いながら、ご婦人はビオラちゃんをヒシっと抱き留めたの。
 そう、このご婦人はビオラちゃんのお母さん。

「陛下、どうして母を…。」

「うん? ビオラちゃんが寂しがっていたからね。
 やっぱり、母娘は一緒に居た方が良いでしょう。」

「でも、母は父と離縁して実家に戻りました。
 母の実家では、罪人の娘は引き取れないとのことで。
 私とビオラは父に付いて行くしかなかったのです。
 母の実家がビオラを引き取ってくれるはずがありません。」

 まあ、確かに、民を虐殺した大罪人で、謀反人ヒーナルに与し、お家取り潰しになった愚か者の娘だものね。
 お母さんの実家じゃ、対面が悪くて引き取りたくは無いだろうね。

 でも。

「お母さんの実家が、ビオラちゃんを引き取るんじゃないよ。
 ヴァイオレットお姉さんがお母さんを引き取るの。」

「それはいったい?」

「ヴァイオレットお姉さんは、お父さんと縁切りしてここへやって来たのだけど。
 書面で正式に、お父さんと離縁して、今後一切接触を持たないことを届け出て欲しいんだ。
 宰相に聞いたら、そんな書面があるみたい。 絶縁状? …はちょっと違うか。
 そのうえで、ヴァイオレットお姉さんを当主に家の再興を許すよ。
 但し、今までの家とは縁を切ったことを示すために、屋敷は別の所にしてもらうよ。
 お取り潰しにして空き家になっている屋敷が幾つもあるから、一つ用意するよ。」

 そう、厳しく罰したかったのは愚かな騎士達で、必ずしも家族まで巻き添えにする必要は無かったんだ。
 ただ、子供は親の背中を見て育つと言うし、愚かな騎士の子供はやっぱり愚かなことが多いからね。
 実際、ヴァイオレットお姉さんの居た村では、愚かな子供ばかりだったものね。
 あんな愚か者にかける情けは持ち合わせて無いから、一家で辺境に送って正解だと思ったよ。

 ヴァイオレットお姉さんは、愚かな連中ばかりのあの村で一人畑を作ろうと努力してた人だから。
 おいらが見込んで連れて来たんだし、貴族に戻しても問題ないと思ったよ。

「ねえ、ビオラちゃんのお母さん。
 ヴァイオレットお姉さんを近衛騎士団で召し抱えて。
 お家を再興させようと思うんだけど。
 戻って来て、二人と一緒に暮らしてもらえないかな。」

 まあ、貴族家を再興させるとなると冒険者ギルドって訳にはいかないからね。

「子供二人を捨てて実家に戻った私を、ヴァイオレットが赦してくれるのであれば。
 私は、子供二人と共に暮らしたいと望みます。
 まだ幼いビオラのことをずっと気に病んでいたのです。」

 お母さんは期待通りの返事をしてくれたので、後はヴァイオレットお姉さん次第だね。

「ヴァイオレットお姉さん、お母さんはああ言っているけど。
 どうする、受け入れるのなら、近衛騎士団でムース団長の補佐をしてもらうよ。」

「陛下、有り難うございます。
 お言葉に甘えさせて頂きます。
 この御恩は一生忘れません。
 陛下のため、民のために尽くすことを誓います。」

 おいらの提案を受け入れてくれたヴァイオレットお姉さん。
 おいらが頷くと、おかあさんとビオラちゃんに抱き付いてた。
 
 連れて来た二人の勤め先が無事に決まって良かったよ。
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