ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第445話 色々と口コミで広まっているらしいよ

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 買取係のお姉さんの不用意な一言で、タロウに惚けていたヴァイオレットお姉さんが冷静になったよ。
 タロウの本質を見抜いたみたいで、軽蔑の眼を向けてた。

 タロウは濡れ衣だと叫んで、甚だ不本意って顔をしてたけど。
 タロウを庇う者は誰も無く、タロウの言い分はスルーして次に行くことにしたよ。

 そして、やって来た冒険者ギルド『ひまわり会』の本部。
 その一画にあるギルドの直販所に足を向けると。

「あっ、会長、良い所にお帰りになられました。
 今、こちらのお客様から、まとまった数量の木炭をご注文いただきまして。
 在庫が無いものですから、ご注文をお受けして良いものかと思案していたのです。
 木炭の補充はすぐに出来ますか。」

 見ると、この辺では見慣れない服装をした商人が、カウンター越しに座っていたよ。
 買取所で聞かされた通り、トレントの木炭は底を突いていたようで。
 ここを担当するお姉さんは、お客さんへの対応に苦慮してたみたい。

「おう、長いこと留守にしちまって悪かったな。
 トレントの木炭は、今補充できるから注文を受けて差し支えないぞ。
 注文が増えてるようだし、何時もの倍くらい仕入れておくよ。」

 タロウはそう返答をすると、店舗の裏にあるストックヤードに向かったの。
 そこには、袋詰めされたトレントの木炭が数えるほどしかなく…。
 かなり広い倉庫スペースがガランとしてたよ。

 タロウはガランとしたストックヤードを眺めて焦りの色を見せると。

「あらりゃ、こいつはマジでヤバかったな。
 帰ってくるのが一日遅ければ在庫切れを起しちまうところだったぜ。
 おかしいな、長期に留守するってんで、多めに仕入れたつもりだったのに。」

 そう呟いて、おいらに木炭を出してくれと頼んできたの。

「タロウ、何時もの倍って、前回も何時もの倍卸したよね。
 それは前回と同じで良いってこと?
 それとも前回の倍で、従来の四倍ってことかな?」

「おう、従来の四倍置いて行ってくれ。
 どうやら、大分注文が増えているみたいだし。
 幸いギルドには、在庫を抱える資金の余裕があるからな。」

 タロウの要望を受け入れて、何時もの四倍に当たるトレントの木炭を『積載庫』から出したら。
 そこそこ広いストックヤードが、いっぱいになったよ。
 山積みになった木炭を見て、これだけあれば一月は持つだろうとタロウはホッとした表情を見せてた。

 木炭の直販所から立ち去ろうしたら。

「いやあ、会長さん、助かりましたよ。
 ここに来れば、トレントの木炭を幾らでも手に入れることが出来ると耳にして。
 一月も船に揺られてここまで来たと言うに。
 在庫の関係で要望に沿えないと言われたもんですから、目の前が真っ暗になりました。
 サニアール国から遠路遥々やって来て、手ぶらじゃ帰れませんからね。
 あなたがお戻りになるまで待つ必要があるかと、覚悟してたんですよ。」

 さっき、担当のお姉さんと商談していた商人がタロウにそんな声を掛けたの。
 この人は、西の隣国から一月も掛けて仕入れに来てくれたみたい。
 火力がとても強くて火持ちの良いトレントの木炭は、貴重品で何処でも手に入る代物ではないらしいの。
 そもそもトレントは、狩れる者が少ない上、人里近くには生息していないものだからね。
 無尽蔵に売れるのは、こことトアール国のハテノ男爵領くらいだもの。

 仕入れ担当のタロウが、いつ帰るか分からないと聞かされたもんだから。
 商人さんは、滞在費が嵩むのを心配していたんだって。

       **********

 木炭の代金を受け取ると、次に向かったのはひまわり会が経営する風呂屋。

 繁華街を抜けて、海沿いに建物が建つ一画にやってくると…。
 お行儀よく並ぶ人の列があったよ。
 この辺りは繁華街から外れていて、いつも木炭を届けに来る時は人通りが閑散としているんだ。
 何の行列かと思って目を凝らすと、並んでいるのは男の人ばかりで行列の最後の人は看板を持っていたよ。
 その看板には、『ここが最後尾です。泡のお風呂ひまわり』と書かれてた。

「ねえ、ニイチャン、これは何の列なの?」

 最後尾の看板を持っている二十歳くらいのお兄さんに尋ねると。

「あっ、これはその何だ…。
 ちょっと、お嬢ちゃんに聞かせるのは早いかな…。
 そうだ、俺に聞くより、家に帰ってお父ちゃんに聞いてみれば良い。」

 お兄さんは困った顔になり、そんな言葉で誤魔化したの。

「あっ、悪いな答え難いことを尋ねちまって。
 なあ、ここ風呂に入りに来たお客さんの列だろう?
 風呂屋は、女王の命で日没後からじゃないと営業できないはずなんだが。
 何で、こんな日が高いうちから並んでいるんだ。
 それに、何だい、その看板は?」

 おいらに代わってタロウがお兄さんに尋ねると。

「これは当日フリの客の列なんだよ。
 ひまわり会の風呂屋は二軒とも大人気でな。
 指名予約無しだと、この時間から並ばないと客になれないんだ。
 何でも、この看板は割り込みによるトラブルがあったので作られたらしいぜ。」

 何でも一見さんは予約をすることが出来なくて、こうして並ぶしかないらしいの。
 元々は、二店舗あるギルドの風呂屋、それぞれに列があったらしいけど。
 どちらに並ぶかで、待ち時間に大きな差が出来たり。
 列に割り込む人がいて、取っ組み合いの喧嘩が起こったりしたらしいの。
 それで、二店舗のお客さんを一列に並ばせて、最後の人に看板を持たせることにしたみたい。
 開店時間になったら、係の人が先頭の人から空いてるお店へ誘導しているんだって。

 「これは凄い列だな…。
  これじゃ、三号店の出店も考えないといけないかも知れんな。」

 お客さんの列を目にしてタロウはそんなことを呟いていたよ。

     **********

 風呂屋の裏手に回って、設置された木炭倉庫を訪ねると。

「困ったわね。
 タロウ君が帰ってこないと、明日から営業できないわ。」

 倉庫では残り少なくなったトレントの木炭を見て、支配人のノネット姉ちゃんがため息を吐いてた。

「ノネット姉さん、久し振り。大分繁盛しているみたいじゃないか。
 悪かったな、長いこと留守にしちまって。」

「タロウ君、ようやっと帰って来たの。
 本当よ、一カ月も留守にするなんて困った子ね。
 蒸し風呂のための木炭が底を突いちゃって。
 明日から休業しないといけないかと、ヒヤヒヤものだったわ。」

「そりゃ、本当に悪かった。
 でも、もう大丈夫だぜ。
 さっきトレントを二十本以上狩って来たからな。
 マロン、さっき預けたトレント、木炭にして出してくれないか。」

 さっきタロウが狩ったトレントの木炭を指示された場所に積み上げると。
 ノネット姉ちゃんはタロウにガバッて抱き付くと、ほっぺたにチュウをして…。

「タロウ君てば、やっぱり、頼りになるわ。
 パッと見、頼りなさそうな雰囲気なのに、やる時はやるって。
 出来る男は、やっぱり違うわね。」

 タロウをべた褒めしたよ。

「ノネット姉さん、そう言うのは良いから…。
 それより、大分繁盛しているようだな。
 道に開店待ちの行列が出来ているのはビックリしたぜ。」

「ああ、あれね。
 このところ、異国からの船乗りが急に増えてね。
 本部の方も木炭の売れ行きが良くて、てんやわんやみたいだけど。
 寄港する船が増えれば、船乗りも増えるからね。
 しかも、あっちも元気な殿方ばかりだもの。
 長い航海、禁欲生活して来たんだから、風呂屋のお客が増えるのも仕方ないわ。」

 ギルドの風呂屋じゃ、地元のお馴染みさんは大概次回の予約をして帰るらしいの。
 一見のお客さんは、田舎から王都へ仕事を探しに来たおのぼりさんか商人らしいよ。
 そして、最近急に増えたのは異国から来る船の船乗りさんらしい。

「うちの風呂屋は評判が良いからね。
 病気持ちの泡姫さんは一人もいないし。
 シフォンお姉さま譲りの秘伝の技があるからね。
 シフォンお姉さまの合格が出ないと、お客を取れない事にしてるから。
 お客さんは、どの泡姫さんに当たっても満足してもらえるし。
 王都の宿や酒場の店員も、客に尋ねられたらうちを紹介してくれるらしいわ。」

 船乗りさんや商人達は、口コミでひまわり会の風呂屋の評判を耳にしてやって来るらしいの。
 中には、サニアール国やウニアール国で噂を聞いてやって来た人までいるらしいよ。
 商人や船乗りさんの口コミって恐るべしだね。

 そして、しばらく王都に滞在する船乗りや商人は、殆どが次回の予約をして帰るらしい。

「おかげで、私なんか、向こう二カ月まで予約でいっぱいなの。
 休みも取れなければ、一見のチェリー君を摘まむ暇すらないのよ。」

 支配人兼泡姫さんのノネット姉ちゃんは、自分から志願してその立場になった人だから。
 仕事熱心で、お客さんから大人気らしいよ。

 そうそう、ノネット姉ちゃん、言ってた。
 商人や船乗りさんの他に一見さんと言えば、王都で大人になったばかりの若い男の人がいるらしいの。
 なんでも、『筆』をおろしに来ると言ってたけど…。 筆? おろすモノなの?
 ノネット姉ちゃんはそんな男の人をチェリー君って言ってたけど、大好物なんだって。
 何か、言葉が色々おかしいよ。 若い男の人がサクランボで、大好物って、なにそれ?
 
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