ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第438話 一時の気の迷いじゃダメだって…

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 国の北東部にあるマイナイ伯爵領から、斜めに国を突っ切る形で南西部の辺境へ赴いたおいら達。
 ヴァイオレットお姉さんとビオラちゃんを保護してからは何処へも寄らず、ほぼ一月振りの王宮へ戻ったよ。

 アルトに部屋まで運んでもらっても良かったんだけど。
 一応、公務で地方の視察に行ったのだから、正面から戻らないとダメかなと思ったんだ。
 なので、正面入り口から王宮へ入ると。

「陛下、お帰りなさいませ。
 ご無事でお帰りあそばされ、何よりでございます。」

 おいらの帰還を知らされた宰相が小走りでやって来て、安堵した表情で迎えてくれたよ。
 現状、おいらがたった一人の王族なので、とても心配していたみたい。

「留守中、心配を掛けちゃったみたいで、悪かったね。」

「その様な、お気遣いは無用でございます。
 ご無事でお戻りいただければそれだけで十分でございます。
 して、お出掛けになられた時より、人が増えているようにお見受けしますが…。
 どちらのお方でございましょうか?」

 心配かけたことを詫びると、宰相はおいら達一行を眺めてそんな風に言葉を返してきたの。
 宰相は、おいらが連れて来た人達の素性に関心があるみたい。 

「こっちのおじさんは知っているよね、マイナイ伯爵だった人。
 おいらが視察に行ったら色々と問題を起こしていてね。
 所領を安堵する代わりに隠居してもらったんだ。
 これから、王都の別邸でのんびり暮らしたいと希望したので連れて来たの。」

 マイナイ伯爵領での出来事を概略説明し、レクチェ姉ちゃんから預かって来た書状を宰相に手渡すと。

「そう言う訳なんで、儂は王都で隠居することにしたよ。
 ここにおれば、魔物の襲撃に怯えないで済みそうだしな。
 安心してくれ、儂は政には一切口出しせんと誓うぞ。
 マロン陛下に逆らうほど命知らずでは無いからな。」

 前伯爵が宰相にそんなことを言って、キーン一族派の貴族には近寄らないとも誓っていたよ。

 宰相はおいらの手渡した書状に目を通すと。

「ほう、お嬢様が伯爵位を継ぎましたか。
 それはそれは、長い間、お疲れさまでした。
 どうぞ、これからは王都でゆっくりと体を休めてください。」

 宰相は愛想笑いを浮かべて、前伯爵を労うようなことを言ってたけど。
 その実、キーン一族派の重鎮とみられていた人物が隠居したと聞きホッとした様子だったよ。

 続いて、ヴァイオレットお姉さんとビオラちゃん、それにマルグリットさんを紹介すると。
 宰相は、手続きがあるとのことで、前伯爵を連れて行っちゃった。
 女性三人の処遇は、おいらの好きにすれば良いって。

       **********

 場所をおいらの執務室に移して…。

「私は、そこにいるギルドの会長が仕事を世話してくれると言うから付いて来たのに…。
 まさか、王宮の中まで連れて来られるとは思いもしなかったよ。
 こんな立派な部屋、私は場違いだよ。」

 そんな呟きを漏らしたのは、ウノの町で泡姫をしていたマルグリットさん。
 エチゴヤが経営してた風呂屋が潰れて途方に暮れてたところをタロウがスカウトしてきたの。
 すぐにギルドへ行くものだと思ってたみたいで、落ち着かない様子だったよ。

「ゴメンね、ヴァイオレットお姉さんのお勤め先も一緒に決めちゃいたいからね。
 居心地が悪いかも知れないけど、少し我慢してね。」

「いや、女王様に謝られちゃ、こっちも困っちまうけど…。
 女王様って、変わってるね。
 私ゃ、風呂屋で春をひさいでいた女だよ。
 町の衆の中でも見下すモンがいるのに。
 女王様は、対等に扱ってくれるんだね。」

「うん? だって、おいら、辺境の町で育ったんだよ。
 お金も、食べ物も無くて困ってたことがあるの。
 一年くらい、草原で拾ったモノを食べて何とか生き延びたんだ。
 だから、お金を稼ぐのは大変だって知ってるし。
 頑張って稼いでいる人を見下したりしないよ。」

 シューティング・ビーンズがドロップする『スキルの実』が捨てられて無ければ、おいら、十中八九飢え死にしてたよ。

「おや、女王様、生まれた時から良い暮らしをしてたのかと思ったら。
 随分と酷い暮らしをしてたんだね。
 それじゃ、私の生まれた村の暮らしと変わんないじゃないかい。
 何んにせよ、偉い人が、私ら貧乏人の苦労を知っててくれるのは有り難いね。」

 マルグリットさんは驚きを隠せない様子だったよ。
 今いる王宮の華麗さと、おいらの話しには余りにもギャップがあるもんね。

「先ずは、ヴァイオレットお姉さんの希望を聞いちゃおうか。
 おいらが用意できる働き口は、近衛騎士と冒険者管理局の役人かな。
 それと、タロウが冒険者ギルド『ひまわり会』で雇っても良いって言ってたね。」

 おいらがタロウに水を向けると。

「おう、初対面の時に言ったけど、ひまわり会はいつも人手不足でな。
 真面目に働いてくれる人なら、幾らでも雇いたいんだ。
 ひまわり会に来てくれるのなら歓迎するぜ。
 住居の心配も要らないぞ。
 妹さんと一緒に俺の家に住めば良い、部屋は余っているから。」

 タロウもヴァイオレットお姉さんを快く迎える用意があると伝えたの。

 すると、ヴァイオレットお姉さんはポッと顔を赤らめて…。

「あの、私、差し支えなければ、タロウさんのもとでお勤めできればと…。」

 モジモジとした仕草を見せながら希望を口にしたの。
 あっ、これ、オランが言ってた奴だね。何だっけ? 跳ね橋効果?

「マロン、吊り橋効果じゃ。跳ね橋ではないのじゃ。」

 いけね、無意識に口に出してたみたい…。
 オランはおいらに注意すると、そのまま続けてヴァイオレットお姉さんに言ったの。

「ヴァイオレット殿、そなたが冒険者ギルドに勤めるのは止めんのじゃが。
 老婆心ながら言っておくのじゃ、タロウは既婚者なのじゃ。
 しかも、嫁さんは二人もおるし、家には若い娘を多数囲っているのじゃから。
 そなたが割って入るのは、中々厳しいと思うのじゃ。
 それにタロウの家は、妹御の情操教育にも如何なものかと思うのじゃ。
 色々と乱れているように感じられる故に…。」

 オランは、後から知って傷付くよりはなんて呟きながら告げたんだ。
 タロウのプライバシーをいきなり暴露しちゃったよ…。

「オラン、おまえ、何、人聞きの悪いこと言ってるんだよ。
 確かに嫁さんは二人いるけどな、沢山の娘を囲っているってのは濡れ衣だぜ。
 あれは、俺が囲っているんじゃなくて、シフォンが唆しているんだ。
 どちらからと言えば、俺は被害者じゃないか。」

 ヴァイオレットお姉さんに悪い先入観を与えないためにか、タロウは必死に抗弁していたよ。

「えっ、タロウさん、その若さでご結婚されているのですか?
 それも、二人も…。
 他に愛人を沢山囲っているって…。
 タロウさんがそんな色好みの殿方だったなんてショックです。」

 手のひらをあわせた両手で口を覆いながら、ヴァイオレットお姉さんが目を見開いて言ったの。

「ほら、見ろ、オラン。
 引かれちまったじゃないか!」

「いや、ヴァイオレット嬢はタロウに惚れとるようじゃし。
 後で判明して、傷付くと困るのじゃろう。
 まあ、タロウのことを軽蔑するだけならかまわんのじゃが。
 それで、ギルドに居難くなったら困るじゃろう。
 ビオラちゃんを養っていかないといけないのじゃから。」

 抗議するタロウを白い目で見ながら、オランが冷たく言い放ったよ。
 確かに、タロウの家はおいらやオランが訪問するには退廃的過ぎると、アルトが常々言ってるモノね。
 オランが指摘するように、ビオラちゃんの教育に良くないかも知れない。
 
 すると、おいら達の会話を蚊帳の外で聞いていたマルグリットさんがすくっと立ち上がり。
 ヴァイオレットお姉さんの隣にやって来たかと思うと。

「何だ、タロウの旦那、あんた、見かけによらずそっちが強いんだ。
 それなら、私も、旦那の家に世話になろうかね。
 ひまわり会ってのは、この国一の冒険者ギルドなんだろう。
 そこの会長さんに囲ってもらえるなら、生活は安泰だものな。
 なあ、ヴァイオレットお嬢ちゃん、あんたもタロウの所にお世話になろうぜ。
 この旦那、見るからに押しに弱そうだし。
 強気に迫れば、きっともう一人くらい嫁さんにしてくれるよ。」

 ヴァイオレットお姉さんの肩をポンポンと叩きながら、タロウの家にお世話になろうと誘ったの。
 マルグリットさん、良い勘してるね、タロウの押しに弱いとこを見抜いてるなんて。
 第一、シフォン姉ちゃんに気に入られれば、タロウの意思なんてお構いなしにお嫁さんに迎えられそうだよ。

「おい、マルグリット姉さんまで何を言ってるんだ!。
 誤解だ!
 俺は、そんなふしだらな男じゃないぞ!
 嫁はシフォン一人で十分なのに。
 シフォンがカヌレを唆したんだ。」

 タロウは、更に必死になって抗議してたよ。

 そこへ。

「なあ、おぬしら、私は面白可笑しく話を混ぜ返そうと思って言った訳では無いのじゃ。
 ただ、ヴァイオレット殿にタロウが既婚者だと言う事だけを予め伝えておいただけなのじゃ。
 そもそも仕事選びは、ヴァイオレット殿が何をしたいかが大事なのじゃないか。
 タロウへの恋心とは切り離して、冷静に選べば良いと思うのじゃが。」

 ヴァイオレットお姉さんがタロウへの恋心だけで、仕事や住む場所を決めないように。
 そんな配慮でタロウが既婚者だと明かしたと、オランは告げたの。 

「オラン様のおっしゃる通りですね。
 一時の気の迷いで、人生の大切なことを決めてしまうところでした。
 ビオラのこともありますし。
 キチンと仕事の内容を伺って決めることにします。」

 気を取り直したのか、ヴァイオレットお姉さんはそんな返答をしてくれたよ。
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