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アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第437話 なんて、単純な大人達なんだろ…

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 ヴァイオレットお姉さん姉妹を村から連れ出そうとしたら見つかっちゃって。
 結局、揉め事になっちゃったよ。

 そして、…。

「信じられねえ…。
 親父達が、あんなガキ二人にやられちまうなんて…。
 いつも、あれほど自分のレベルを自慢していたのに。」

 地面に這いつくばった父親達をみて、悪ガキがそんな言葉を漏らしてたよ。
 幾らレベルが高くても、鍛錬しなきゃ意味がないって…。
 業物の剣だって、手入れを怠れば錆び付いちゃうんだよ。

「だから、言わんこっちゃない…。
 この世に中には、絶対に逆らっちゃいけない奴ってのがいるのに。
 あんなバケモノに逆らった日には命が幾つあっても足りないっての。」

 戦いに加わらず、遠巻きに様子を見ていていた元騎士のオッチャンが転がってる仲間を見て呆れてた。
 
「おっさん、あんなガキ二人に何びびってるんだよ。」

「バカ野郎、口の利き方に気を付けねえか。
 あいつらは本物のバケモノだ。
 俺はこの目で見たんだよ。
 あいつらが、たった二人で近衛騎士団を壊滅させたのをよ。
 陰でコソコソ悪口を言うのは良いが。
 命が惜しければ、面と向かって逆らうのはよすんだ。」

 どうやら、この元騎士は、おいらが王宮で暴れたあの日、その現場を目撃していたみたいだね。
 その言葉を聞いて、悪ガキ達は青褪めていたよ。

 おいらは、ジェレ姉ちゃん達に頼んで地面に転がっている者達に『妖精の泉』の水を配ってもらったよ。
 死ぬほどの大怪我をさせた人はいないはずだけど、手足が不自由になると開拓の足手まといになるからね。

 怪我は治ったはずだけど、立ち上がる気力まではないようで、地面にへたり込んでいるこの村の男達。

 でも、しおらしくなったかと言えば…。

「俺達、由緒正しい貴族の血筋を引く我々をこんな辺境に流し。
 あまつさえ、このような狼藉を働くとは…。
 逆賊マロンめ、これで勝ったと思うなよ。
 早晩、志ある貴族が決起して、貴様を打ち倒すであろうぞ。」

「そうだ、そうだ、貴様、王都は掌握したかも知れんが。
 この国には志ある領主貴族も多数いるのだからな。
 今頃、東方の雄マイナイ伯爵辺りが有志を募っているであろうよ。
 貴様が安穏としておらるのも、今だけだ。
 精々、首を洗って待っておるのだな。」

 こう言うのなんて言ったけ? 負け犬の遠吠え?
 起き上がる気力すらないのに、まだ、反抗するつもりなんだね。

 そんな負け惜しみを聞いてアルトが動いたよ。

「うん? マイナイ伯爵って、もしかしてこいつのこと?」

 そんな言葉を口にすると、『積載庫』から前マイナイ伯爵を目の前に出したの。

「ねえ、こいつら、こんなこと言ってるけど。
 あんた、マロンに楯突く気があるの?
 答えによっては、あんたもここに置いていくけど。」

 そして、アルトは前伯爵に尋ねたよ、威嚇を込めてね。

「アルト様、そんな意地悪を言うのはやめてくだされ。
 あんたやマロン陛下には逆らいませんて。
 第一、儂は、もう、隠居した身ではないですか。」

 怯えた様子で、前伯爵はアルトに答えていたよ。

「これは、マイナイ伯爵ではございませんか。
 伯爵、何卒、我等をお助け下さい。
 そこの逆賊マロンは、我らに農民の真似事させようという言うのです。
 由緒正しい貴族の我々に対してですぞ。
 こんな侮辱は赦しておけません。
 今こそ逆賊マロンを討つべく、諸侯に檄を飛ばす時です。」

 どうやら、前伯爵に面識がある者が居たみたいで、そんな懇願をしたの。
 少しは冷静に考えようよ、どうして前伯爵をおいら達が連れていたのかを…。

「勝ち目の無い政争に巻き込まれるなんて、真っ平御免だ。
 ここにいる妖精やマロン陛下に逆らった日には、命が幾つあっても足りんわ。
 お前らも大人しくこの地の開拓をした方が身のためだ。
 もはや、この国にはマロン陛下に逆らおうなんて命知らずはおらんと思うぞ。」

「そんな、東方の雄と言われたマイナイ伯爵がそんな弱気で如何なされる。
 伯爵には、ヒーナル陛下に対する忠義というものが無いのですか!」

 関りたくないって感情が駄々洩れの前伯爵に、尚も決起を訴える声が上がったんだけど。

「馬鹿言うな、元よりヒーナルなんぞに忠義なんか無いわ。
 元はと言えば同格の伯爵ではないか、何で忠誠心なんぞ感じにゃいかんのだ。
 マロン陛下の一族より、ヒーナルの方が儂に都合が良いから支持しておっただけだ。
 何で、ヒーナルなんぞと共倒れにならんといかんのだ。
 マロン陛下は、儂が隠居すれば領地は安堵してくださると約束してくださった。
 幸い、領主を継いだ儂の娘はマロン陛下のお気に召されたようでな。
 娘のおかげで、儂は王都で楽隠居だ。」

 前伯爵はぶっちゃけたよ。
 楽して遊んで暮らせるのであれば、誰が王でも一向に構わないって。 
 滅びたキーン一族に義理立てして、自分まで身を滅ぼす気はさらさらないってね。

「マイナイ伯爵、そんな…。
 東方の雄と称されたマイナイ伯爵家がそのようなことでは、我々はどうなるのです。」

 前伯爵の言葉を聞いて、みんな、項垂れちゃったよ。
 いや、どうなるって…。さっき、前伯爵が言ってたじゃない、大人しく開拓をしろって。

        **********

 前伯爵の言葉に失望して、その場はシーンとしちゃったの。
 なので、そろそろ村を立ち去ろうと思って。

「それじゃ、ヴァイオレットお姉さんとビオラちゃんはおいらが連れて行くからね。
 二人のことはおいらが責任を持って保護するから、安心してね。」

 おいらは、項垂れてる大人達に向けて宣言したんだ。

「ちょっと、待ってくれ!
 そいつらは、この村でたった二人だけの女なんだ。
 二人を連れて行かれちまったら、この村は男ばっかりになっちまう。
 俺達だってまだ現役なんだぜ、迸る情欲を誰にぶつければ良いんだよ。
 それに、二人に俺達の子供を産ませないと、村が滅びちまうじゃないか。」

 すると、まだ、文句をたれる奴がいたよ。
 まあ、確かに、女の人がいないと子供は出来ないから、五十年もすれば村は滅びるかもね。

 でも。

「オッチャン達、何を言ってるの?
 おいら、この地の再開拓さえすれば、自由に生きて良いと言ったはずだよ。
 この地に農地を復活させて、他の村や町と結ぶ道を整備して。
 収穫した農産物を売って生計を立てていけば良いでしょう。
 他の村と交易が出来て、ここに豊かな村があると知れたら。
 きっと、他の村や町からお嫁さんが来てくれると思うよ。」

 おいらは、一番近い町に駐屯してる騎士から聞いた話をしてあげたよ。
 多くの村は、家こそ十分には建っていないものの、芋くらいは収穫できるくらいに開拓が進んでいるとね。
 全く手付かずなのは、この村くらいではないかと。

 と言うより、あの師団長、この村の報告が無かったね。
 余りに酷いので報告できなかったのか、そもそも見落としていたのか。

「けっ、他の連中は貴族の誇りってもんが無いのか。
 農民の真似事なんか始めちまいやがって。
 自分達が家畜に成り下がるのを良しとしてしまうなんて。」

 とんでもないことを口走る奴がいたよ。
 ヴァイオレットお姉さんが嘆いていたけど、本当に農民を家畜と呼ぶだなんて。

「ふーん、そんなことを言うんだ。
 言っとくけど、物資の支給は最初の一回限りだからね。
 今ある食糧が尽きても、追加の支給は絶対にしないよ。
 そんな心構えなら、五年と言わず、半年後には飢えでこの村は全滅かな。
 そうならないためには、どうしたら良いか、よく考えるんだね。」

 腹が立ったので、冷たく言い放つと。

「おい、最初にここへ連れて来られた時に、役人がそんな事を言ってたが。
 あれは、本当だったのか。
 追加の食料を運んでこないだって。
 それじゃ、我々に飢え死にしろと言うのか。
 おのれ、人は殺さないなどと奇麗ごとを言ってた癖に。
 ていの良い死罪ではないか。」

 いやいや、何でそうなるの。
 ちゃんと、農機具だって、種苗だって支給したじゃない。それも、ご丁寧に手引書付きで。
 ヴァイオレットお姉さんだって、それを見ながら何とかしようとしたのに。
 
「そう、残念だよ。
 首尾よく辺境を復興することが出来た暁には。
 一番功績が認められた者を、この辺りの領主に任じようと思っていたんだけど。
 じゃあ、この村の人達はその権利を放棄するんだね。
 みんながそんな心構えでは、他の村には絶対に勝てないものね。」

 別に思い付きで言った訳じゃないよ。
 この辺りは村が全て滅んじゃって、従来の領主が領有権を放棄しちゃったそうなの。
 領主には領地内の治水、治山や道路整備、治安維持なんかが義務付けられるから。
 人が一人もいない荒野は、領有する分だけ足枷になるんだって。

 それで、騎士の身分を剥奪して辺境の開拓を命じる時に、宰相達と予め相談していたの。
 辺境の再開拓に成功したら、この一帯を一つの領地にして一番功績があった人を領主にしようと。
 もちろん、領主だから、貴族身分だよ。
 ただし、辺境へ送り込んだ者には、誰一人として知らせてないけどね。

「おい、それは本当か?
 村を再興させて、栄えさせることが出来たら。
 貴族に返り咲けるかも知れないってのは。」

「本当だよ。
 でも、かなり競争倍率は高いよ。
 貴族になれるのは、辺境に送り込んだ者達の中でたった一人だからね。
 それに、ここは大分出遅れてるから、追い付くのは大変だろうね。」

 すると、おいらの答えを聞いた大人達の中から。

「おい、お前ら、聞いたか。
 もしかしたら、貴族に返り咲けるかも知れないぞ。
 しかも、広大な所領を持つ領主貴族だ。
 他の村に散った連中に負けてはいられないぜ。
 この村の者達で、領主とその家臣になってやろうぜ。」

 立ち上がって周りのみんなを煽る者が現れたよ。

「そうだな、それに早く村を興して、嫁さんを引っ張ってこないとな。
 そうと決まれば、明日から草ぼうぼうの農地を掘り起こすぞ。」

 …ホント、単純だね。まっ、乗せ易くて良いけど。
 しかし、張り切っている割には今から草刈りに掛かる訳じゃないんだ。

 おいらの後ろでタロウが呟いていたよ。

「この世界でも、『明日から本気出す』かよ。」って。

 一応、大人達が納得したので、おいらはヴァイオレットお姉さんとビオラちゃんを連れて王都へ帰ることにしたよ。
 悪ガキ達がヴァイオレットお姉さんを未練がましく見詰めてたけど、無視することにした。
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