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第十五章 ウサギに乗った女王様
第436話 やっぱりこうなっちゃったよ…
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ヴァイオレットお姉さんの妹ビオラちゃん。
お父さんを置き去りにしてこの村を出て行くと話すと、大喜びで天幕の中に駆けて行ったの。
猫ちゃんを取ってくると言っていたけど、どうやら、お母さんから貰った縫いぐるみで宝物にしているらしい。
ちなみに、ヴァイオレットお姉さんは天幕の中に入らないよ。
この村を出て行こうとしている事をお父さんに気付かれたら拙いからね。
思い入れのある私物は無いのことなので、危ない橋は渡らないことにしたんだ。
衣服等、この姉妹の生活に必要な物はおいらが支給することにしたよ。
ビオラちゃんが、猫の縫いぐるみを取ってくるのを待っていると…。
「おい、ヴァイオレット、お前、ビオラを連れて何処に行く気だ?」
柄の悪いオッサンが、ビオラちゃんの襟首を掴んで天幕から出て来たんだ。
「ごめんなさい、つかまっちゃった。」
ビオラちゃんはショボンとした表情で、ヴァイオレットお姉さん謝ってたよ。
「何処へ行くって…。
ここは陸の孤島、年端のいかない女二人で何処へ行けると言うのですか。
そんな、妄言を言ってないで、ビオラを放してください。
苦しそうじゃないですか。」
ヴァイオレットお姉さんは父親の問い掛けをはぐらかして、乱暴に襟首を掴んでいるビオラちゃんを放せと答えたの。
「惚けるんじゃねえ。ビオラのこの格好を見てみろ。
この村に来てから一度も袖を通してない一張羅に着替えているんだぞ。
何処か、他所へ行こうとしているとしか思えないだろが。」
どうやら、ビオラちゃんが口を割った訳じゃないみたいだね。
ビオラちゃんは、貴族のお嬢様って雰囲気のとても可愛い服に着替えていたよ。
小さくても女の子、お出掛けするならおめかしをした方が良いと思ったみたい。
まさか着替えるとは思ってなかったみたいで、ヴァイオレットお姉さんも服装のことは何も言わなかったんだ。
着替えないで良いって、注意しておけばよかったね。
しかし、困ったね。
ここで正直に話したら、ビオラちゃんを盾にして、姉妹がこの村を出て行くことを妨害されそうだよ。
「ねえ、タロウ、今日はあれ持ってないの?
これ…。」
おいらが手のひらにそれを乗せて差し出すと。
「うん? 何だこれは? 大豆?
あっ、シューティング・ビーンズの種か!
これがどうかしたか?」
もう、察しが悪いんだから…。
「タロウ、便利なスキルを持ってるじゃない。
これで、ビオラちゃんを解放してあげることが出来るんじゃない?」
「あっ、パチンコか!
それなら、何時もこうしてぶら下げてるぞ。」
タロウは、腰に付けたパチンコを手にして、おいらが差し出した種を受け取ったの。
そして、…。
「でもよ、これが当たったとして、…。
いったい、どうやって、あの子を取り戻すんだ?
けっこう距離があるし。
こんなモノじゃ、一瞬痛みを感じるだけだぞ。」
「そこは、おいらに任せておいて。
タロウは、あのオッサンの手を狙ってビオラちゃんを手放させて。
その後、顔でもどこでも良いから、オッサンを怯ませる所に中てて欲しいの。」
「はいよ、まあ、言われた事はしますよ。
後のことは責任持たないからな。」
タロウはおいらの言葉にぞんざいに答えると、無言でパチンコを放ったよ、立て続けに二発。
同時に、おいらはオッサン目掛けて突進したの。
タロウのスキル『必中』はきっちり仕事をして、二発の種は的を違えることなくオッサンの剝き出しの腕を捉えたよ。
「痛てぇ!」
不意に腕に痛みを感じ、オッサンがビオラちゃんの襟首を掴んだ手を放すと。
解放されたビオラちゃんはヴァイオレットお姉さんの方へ駆けだしたの。
「おい、こら待て!
って、痛てぇ! やめろ、痛てぇんだよ!」
オッサンはビオラちゃんを捕まえようとするけど、そうはさせまいとタロウは続けざまにパチンコを放ってくれたよ。
「つかまえた!」
タロウのパチンコのおかげで、おいらは難無くビオラちゃんを確保できたんだ。
おいらは、ビオラちゃんを抱きかかえると、ダッシュでヴァイオレットお姉さんもとに辿り着いたよ。
**********
ビオラちゃんを確保してホッとしていると。
「おっさん、そいつらを捕まえてくれ!
そこにいるチビ。ヒーナル陛下を手に掛けた逆賊マロンだ!
俺のヴァイオレットを連れ去ろうとしてるんだ!」
あれれ、放置してきた悪ガキ達、やっと起き上がれたみたいで余計な事を言ってくれたよ。
こいつ、勝手に『俺の』なんて言ってやんの。図々しいにもほどがあるね。
「何だ、逆賊マロンだと…。
ヴァイオレットの奴、ビオラを連れて何処へ行く気かと思えば…。
そのガキがうちの娘を唆したのか。
そんな勝手なことはさせないぞ。
おい、ガキ共、この村の連中をここに集めるんだ。
若い娘が五人も来たと言えば、すぐに集まるさ。
みんな、女日照りで溜まっているからな。」
そんなオッサンの指示を受けて、悪ガキ達は助っ人を呼びに散在する天幕へ走ったよ。
「おい、若い女が来たんだって!
カモがネギを背負ってやってくるたぁ、有り難いぜ。」
「本当にそうだぜ。
何処の頭の軽い娘か知らんが。
こんな田舎まで、俺達の慰み者になるために来てくれるなんてな。」
そんな言葉を口にしながら、中年オヤジ共がわらわらと天幕の中から湧いて出たよ。
オッサンの言葉通り、男共はあっと言う間に集まっちゃった。
昼間っから天幕の中でくだ巻いてないで、畑でも耕していれば良いのに…。
おいらは、仕事もせずに天幕の中に燻ぶっていた大人達に呆れていると。
「どれどれ、おっ、中々のベッピンさん揃いだ。
しかも、今が旬の娘ばかり…。
って、おい、そのガキ二人、マジでヤバいのがいるじゃねえか。
俺は降りるぞ、そんな厄災みたいな奴に関わるのはゴメンだ!」
王都でおいらとオランが暴れたのを目撃していたんだろうか、おいらを目にして引き返した男がいたよ。
「おい、そのガキは一体誰なんだ?」
おいらの素性に気付いてない男がヴァイオレットお姉さんの父親に尋ねたの。
「あのガキが、ヒーナル陛下を手に掛けた逆賊マロンだ。
どうやら、他の娘はマロンの側仕えらしいぞ。
護衛の騎士は一人しか見当たらないし。
あの男さえぶっ殺してしてしまえば、やりたい放題だぜ。
マロンのガキは散々慰み者にした後で首を刎ねてやろう。」
父親がおいら達の素性を話すと。
「そうだな、俺達、高貴な血の者をこんな辺境に押し込めたんだ。
甚振ってこの世の地獄を見せた後に、嬲り殺してやることにするか。
後の娘は俺達の奴隷として壊れるまで飼ってやろうぜ。」
そんなキモい言葉を口走る奴もいたよ。
「おい、マロンのガキは痛めつけても良いが。
他の女共は怪我させるんじゃないぞ。
今日から、俺達の相手をさせるんだからな。
怪我させた奴は、一回お預けだからな!」
そんな言葉を合図に大人たちが襲い掛かって来たよ。
「おねえちゃん、こわい。」
殺気立った様子の大人達を目にしたビオラちゃんが怯えちゃったよ。
ヴァイオレットお姉さんにヒシっと抱き付いていた。
こんな小さな子供を怯えさせたらいけないね、早く安心させてあげないと。
**********
おいらは、襲い掛かってくる男達を迎え撃つためにみんなより数歩、前へ進んだの。
「マロン、一人でやろうとしたらダメなのじゃ。
こんな時は、私も一緒に戦うのじゃ。」
オランがおいらの横に並んで頼もしい言葉を掛けてくれたよ。
「陛下が前に出なくても、私が殺りますよ。」
おいらが、真っ先に前へ出てしまったものだから、ジェレ姉ちゃんがそんな不満を漏らしてた。
「いや、だって、ジェレ姉ちゃん、殺る気満々じゃない。
殺しちゃダメなんだよ、半殺しもね。
こいつ等には辺境の開拓をしてもらわないといけないんだもん。」
おいらはジェレ姉ちゃんが闘おうとするのを制したの。
相手はジェレ姉ちゃん達を無傷で手に入れたい様子で、丸腰で掛かって来るんだもの。
ジェレ姉ちゃんを出したら、過剰防衛だよ。
「けっ、偽女王が良い度胸じゃねえか。
ガキがたった二人で俺達の相手をしようだなんて。
舐めたマネをしてくれるじゃねえか。」
そんな言葉を吐きながら、最初の一人がおいらに殴り掛かって来たよ。
今回はスキルには頼らないことにしたよ。
下手にスキルを発動させたら、こいつらを再起不能にしちゃうからね。
殴り掛かって来た男に対峙したおいらは、『完全回避』のスキルが働く前にこちらから踏み込むと。
おいらに向かってきた拳を手のひらで受けると、そのまま、後へ軽く放り投げたよ。
何時もみたいにデコピンで弾くと、『クリティカル』が発生して拳を粉砕しちゃうからね。
力の乗った拳を軽く受け流すように男を放り投げると、おいらの攻撃とは判定されなかったみたいで。
クリティカルは発生しなかったよ。
でも、レベル七十二にまで上がっているおいらの基礎体力にはビックリで…。
おいらよりはるかにがたいの大きな元騎士の男は、ポンっと空を舞ったの。
「ぐっ!」
男はそんなうめき声を上げて気を失ったよ。
受け身を取ることも出来ずに、思い切り背中を地面に打ち付けたものね。
「私は、普通に殴らせてもらうのじゃ。
マロンほど危険なスキルは持ってないので、安心するのじゃ。」
そんなことを口にしながら、次に襲い掛かって来た者の懐に飛び込んだオラン。
きつい一撃を鳩尾に叩き込んでいたよ。
「おい、このガキ共、舐めてかかるとヤバいぞ。
束になって、叩きのめすんだ。」
そんな号令がかかると、今度は数人ずつ束になって襲い掛かって来たよ。
でも…。
「そんな風に束になって掛かって来ると、手加減が難しくなるよ。
怪我をさせちゃったらゴメンね、後で治してあげるから。」
おいらは予め断りを入れて殴ることにしたよ。
手刀でキレイに腕を折れば、『妖精の泉』の水ですぐに治せるからね。
「マロンは優しいのじゃ。
おぬしら、どうせ敵わぬのじゃ。
痛い目に遭わないうちに引いた方が利口じゃぞ。」
オランが親切に忠告してあげたのに…。
「ガキが何を生意気なことをほざきやがる!」
なんて怒声を上げながら襲い掛かって来るの。
誰一人として耳を貸さないんだもの、まったく、バカばっかり…。
結局、村の男達のほぼ全員を打ちのめすことになっちゃったよ。
お父さんを置き去りにしてこの村を出て行くと話すと、大喜びで天幕の中に駆けて行ったの。
猫ちゃんを取ってくると言っていたけど、どうやら、お母さんから貰った縫いぐるみで宝物にしているらしい。
ちなみに、ヴァイオレットお姉さんは天幕の中に入らないよ。
この村を出て行こうとしている事をお父さんに気付かれたら拙いからね。
思い入れのある私物は無いのことなので、危ない橋は渡らないことにしたんだ。
衣服等、この姉妹の生活に必要な物はおいらが支給することにしたよ。
ビオラちゃんが、猫の縫いぐるみを取ってくるのを待っていると…。
「おい、ヴァイオレット、お前、ビオラを連れて何処に行く気だ?」
柄の悪いオッサンが、ビオラちゃんの襟首を掴んで天幕から出て来たんだ。
「ごめんなさい、つかまっちゃった。」
ビオラちゃんはショボンとした表情で、ヴァイオレットお姉さん謝ってたよ。
「何処へ行くって…。
ここは陸の孤島、年端のいかない女二人で何処へ行けると言うのですか。
そんな、妄言を言ってないで、ビオラを放してください。
苦しそうじゃないですか。」
ヴァイオレットお姉さんは父親の問い掛けをはぐらかして、乱暴に襟首を掴んでいるビオラちゃんを放せと答えたの。
「惚けるんじゃねえ。ビオラのこの格好を見てみろ。
この村に来てから一度も袖を通してない一張羅に着替えているんだぞ。
何処か、他所へ行こうとしているとしか思えないだろが。」
どうやら、ビオラちゃんが口を割った訳じゃないみたいだね。
ビオラちゃんは、貴族のお嬢様って雰囲気のとても可愛い服に着替えていたよ。
小さくても女の子、お出掛けするならおめかしをした方が良いと思ったみたい。
まさか着替えるとは思ってなかったみたいで、ヴァイオレットお姉さんも服装のことは何も言わなかったんだ。
着替えないで良いって、注意しておけばよかったね。
しかし、困ったね。
ここで正直に話したら、ビオラちゃんを盾にして、姉妹がこの村を出て行くことを妨害されそうだよ。
「ねえ、タロウ、今日はあれ持ってないの?
これ…。」
おいらが手のひらにそれを乗せて差し出すと。
「うん? 何だこれは? 大豆?
あっ、シューティング・ビーンズの種か!
これがどうかしたか?」
もう、察しが悪いんだから…。
「タロウ、便利なスキルを持ってるじゃない。
これで、ビオラちゃんを解放してあげることが出来るんじゃない?」
「あっ、パチンコか!
それなら、何時もこうしてぶら下げてるぞ。」
タロウは、腰に付けたパチンコを手にして、おいらが差し出した種を受け取ったの。
そして、…。
「でもよ、これが当たったとして、…。
いったい、どうやって、あの子を取り戻すんだ?
けっこう距離があるし。
こんなモノじゃ、一瞬痛みを感じるだけだぞ。」
「そこは、おいらに任せておいて。
タロウは、あのオッサンの手を狙ってビオラちゃんを手放させて。
その後、顔でもどこでも良いから、オッサンを怯ませる所に中てて欲しいの。」
「はいよ、まあ、言われた事はしますよ。
後のことは責任持たないからな。」
タロウはおいらの言葉にぞんざいに答えると、無言でパチンコを放ったよ、立て続けに二発。
同時に、おいらはオッサン目掛けて突進したの。
タロウのスキル『必中』はきっちり仕事をして、二発の種は的を違えることなくオッサンの剝き出しの腕を捉えたよ。
「痛てぇ!」
不意に腕に痛みを感じ、オッサンがビオラちゃんの襟首を掴んだ手を放すと。
解放されたビオラちゃんはヴァイオレットお姉さんの方へ駆けだしたの。
「おい、こら待て!
って、痛てぇ! やめろ、痛てぇんだよ!」
オッサンはビオラちゃんを捕まえようとするけど、そうはさせまいとタロウは続けざまにパチンコを放ってくれたよ。
「つかまえた!」
タロウのパチンコのおかげで、おいらは難無くビオラちゃんを確保できたんだ。
おいらは、ビオラちゃんを抱きかかえると、ダッシュでヴァイオレットお姉さんもとに辿り着いたよ。
**********
ビオラちゃんを確保してホッとしていると。
「おっさん、そいつらを捕まえてくれ!
そこにいるチビ。ヒーナル陛下を手に掛けた逆賊マロンだ!
俺のヴァイオレットを連れ去ろうとしてるんだ!」
あれれ、放置してきた悪ガキ達、やっと起き上がれたみたいで余計な事を言ってくれたよ。
こいつ、勝手に『俺の』なんて言ってやんの。図々しいにもほどがあるね。
「何だ、逆賊マロンだと…。
ヴァイオレットの奴、ビオラを連れて何処へ行く気かと思えば…。
そのガキがうちの娘を唆したのか。
そんな勝手なことはさせないぞ。
おい、ガキ共、この村の連中をここに集めるんだ。
若い娘が五人も来たと言えば、すぐに集まるさ。
みんな、女日照りで溜まっているからな。」
そんなオッサンの指示を受けて、悪ガキ達は助っ人を呼びに散在する天幕へ走ったよ。
「おい、若い女が来たんだって!
カモがネギを背負ってやってくるたぁ、有り難いぜ。」
「本当にそうだぜ。
何処の頭の軽い娘か知らんが。
こんな田舎まで、俺達の慰み者になるために来てくれるなんてな。」
そんな言葉を口にしながら、中年オヤジ共がわらわらと天幕の中から湧いて出たよ。
オッサンの言葉通り、男共はあっと言う間に集まっちゃった。
昼間っから天幕の中でくだ巻いてないで、畑でも耕していれば良いのに…。
おいらは、仕事もせずに天幕の中に燻ぶっていた大人達に呆れていると。
「どれどれ、おっ、中々のベッピンさん揃いだ。
しかも、今が旬の娘ばかり…。
って、おい、そのガキ二人、マジでヤバいのがいるじゃねえか。
俺は降りるぞ、そんな厄災みたいな奴に関わるのはゴメンだ!」
王都でおいらとオランが暴れたのを目撃していたんだろうか、おいらを目にして引き返した男がいたよ。
「おい、そのガキは一体誰なんだ?」
おいらの素性に気付いてない男がヴァイオレットお姉さんの父親に尋ねたの。
「あのガキが、ヒーナル陛下を手に掛けた逆賊マロンだ。
どうやら、他の娘はマロンの側仕えらしいぞ。
護衛の騎士は一人しか見当たらないし。
あの男さえぶっ殺してしてしまえば、やりたい放題だぜ。
マロンのガキは散々慰み者にした後で首を刎ねてやろう。」
父親がおいら達の素性を話すと。
「そうだな、俺達、高貴な血の者をこんな辺境に押し込めたんだ。
甚振ってこの世の地獄を見せた後に、嬲り殺してやることにするか。
後の娘は俺達の奴隷として壊れるまで飼ってやろうぜ。」
そんなキモい言葉を口走る奴もいたよ。
「おい、マロンのガキは痛めつけても良いが。
他の女共は怪我させるんじゃないぞ。
今日から、俺達の相手をさせるんだからな。
怪我させた奴は、一回お預けだからな!」
そんな言葉を合図に大人たちが襲い掛かって来たよ。
「おねえちゃん、こわい。」
殺気立った様子の大人達を目にしたビオラちゃんが怯えちゃったよ。
ヴァイオレットお姉さんにヒシっと抱き付いていた。
こんな小さな子供を怯えさせたらいけないね、早く安心させてあげないと。
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おいらは、襲い掛かってくる男達を迎え撃つためにみんなより数歩、前へ進んだの。
「マロン、一人でやろうとしたらダメなのじゃ。
こんな時は、私も一緒に戦うのじゃ。」
オランがおいらの横に並んで頼もしい言葉を掛けてくれたよ。
「陛下が前に出なくても、私が殺りますよ。」
おいらが、真っ先に前へ出てしまったものだから、ジェレ姉ちゃんがそんな不満を漏らしてた。
「いや、だって、ジェレ姉ちゃん、殺る気満々じゃない。
殺しちゃダメなんだよ、半殺しもね。
こいつ等には辺境の開拓をしてもらわないといけないんだもん。」
おいらはジェレ姉ちゃんが闘おうとするのを制したの。
相手はジェレ姉ちゃん達を無傷で手に入れたい様子で、丸腰で掛かって来るんだもの。
ジェレ姉ちゃんを出したら、過剰防衛だよ。
「けっ、偽女王が良い度胸じゃねえか。
ガキがたった二人で俺達の相手をしようだなんて。
舐めたマネをしてくれるじゃねえか。」
そんな言葉を吐きながら、最初の一人がおいらに殴り掛かって来たよ。
今回はスキルには頼らないことにしたよ。
下手にスキルを発動させたら、こいつらを再起不能にしちゃうからね。
殴り掛かって来た男に対峙したおいらは、『完全回避』のスキルが働く前にこちらから踏み込むと。
おいらに向かってきた拳を手のひらで受けると、そのまま、後へ軽く放り投げたよ。
何時もみたいにデコピンで弾くと、『クリティカル』が発生して拳を粉砕しちゃうからね。
力の乗った拳を軽く受け流すように男を放り投げると、おいらの攻撃とは判定されなかったみたいで。
クリティカルは発生しなかったよ。
でも、レベル七十二にまで上がっているおいらの基礎体力にはビックリで…。
おいらよりはるかにがたいの大きな元騎士の男は、ポンっと空を舞ったの。
「ぐっ!」
男はそんなうめき声を上げて気を失ったよ。
受け身を取ることも出来ずに、思い切り背中を地面に打ち付けたものね。
「私は、普通に殴らせてもらうのじゃ。
マロンほど危険なスキルは持ってないので、安心するのじゃ。」
そんなことを口にしながら、次に襲い掛かって来た者の懐に飛び込んだオラン。
きつい一撃を鳩尾に叩き込んでいたよ。
「おい、このガキ共、舐めてかかるとヤバいぞ。
束になって、叩きのめすんだ。」
そんな号令がかかると、今度は数人ずつ束になって襲い掛かって来たよ。
でも…。
「そんな風に束になって掛かって来ると、手加減が難しくなるよ。
怪我をさせちゃったらゴメンね、後で治してあげるから。」
おいらは予め断りを入れて殴ることにしたよ。
手刀でキレイに腕を折れば、『妖精の泉』の水ですぐに治せるからね。
「マロンは優しいのじゃ。
おぬしら、どうせ敵わぬのじゃ。
痛い目に遭わないうちに引いた方が利口じゃぞ。」
オランが親切に忠告してあげたのに…。
「ガキが何を生意気なことをほざきやがる!」
なんて怒声を上げながら襲い掛かって来るの。
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