ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
435 / 848
第十五章 ウサギに乗った女王様

第434話 飢えたオオカミの中にいるみたいだって…

しおりを挟む
 街道整備の現場を視察したついでに、辺境の開拓を命じた元騎士達の様子を覗いてみることにしたおいら達。
 その村の一つに立ち寄ると、十四、五歳のお姉さんがたった一人で荒れ果てた農地の草刈りをしてたんだ。
 配給された食糧が減って来たことに危機感を覚えて、農作物を作付けしようと考えたそうだけど。
 開拓村の大人たちは、誰も手伝ってくれないみたい。

 お姉さんから、開拓村の大人たちが如何にダメかを聞いていると。
 村から出て来た悪ガキ達が草刈りの途中のお姉さんを、村の中に連れて行こうしたんだ。
 何か良からぬことを企んでいるようで、お姉さんを無理やり空いてる天幕に連れ込もうとしてるの。
 連中、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべていて、虫酸が奔ったよ。

「タロウ、あのキモい連中、排除してもらえる?
 お姉さんを助けて欲しいの。」

 おいらは、悪ガキ達の排除をタロウに頼むことにしたよ。 
 迂闊においらが手を出すと、前途ある(?)少年の未来を摘み採っちゃうかも知れないから。
 更生の機会は与えてあげないとね。

「あいよ、そんな事だと思ったよ。
 マロンが手を出すとやり過ぎちまうもんな。
 子供のオイタにお灸を据えるに、クリティカル攻撃は流石にな。」

 そんな言葉を返しながら、タロウは、お姉さんを背後に庇う形で悪ガキ達の前に立ち塞がったよ。
 ちゃんと、おいらの意図を察してくれたみたいだね。

「何だ、この貧相な野郎は。
 下賤な民の分際で、貴族の前に立つんじゃねえ。
 そんな最低限の礼儀もわきまえんとは。
 これだから、下賤の生まれの奴は嫌いなんだ。」

「いや、俺だって、自分が高貴な生まれじゃないことは自覚しているけどよ。
 お前らだって、今は俺と同じ平民じゃないか。
 親父が罪を犯して、貴族位を剥奪されたんだろう。
 だいたい、生まれで民のことを下賤と蔑んでいるが。
 俺から言わせてもらえば、お前らの方がよっぽど下賤な人間に見えるぜ。
 か弱い娘を力尽くで手籠めにしようって言うだからな。
 高貴な人間のやることじゃねえよな。」

 民を見下している悪ガキに、タロウは至極真っ当な言葉を返したの。
 でも、図星を指されるとキレる輩もいるもので…。

「言わせておけば…。
 俺達、高貴な血筋の者に対する侮辱、赦してはおけぬぞ。
 おい、この思い上がった平民に、二度とでかい口が利けないようにしてやれ!」

 ガキ大将らしき悪ガキのその言葉を吐くと、悪ガキ共がタロウに襲い掛かってきたんだ。

「全く、すぐに暴力に訴える…。
 どこが高貴な血筋だよ、まんま、野蛮人じゃないか。」

 うん、おいらもそう思う。こいつらには血筋しか誇るモノが無いんだね、哀れな…。
 タロウはため息交じりにそんなセリフを漏らすと、気負うことなく悪ガキ共を迎え撃ったの。

 そして、あっと言う間に片付いた。
 日頃、魔物狩りを続けているタロウに、口ばっかりの悪ガキ共が敵う訳ないよね。
 鎧袖一触だったよ。

      **********

「貴族の身分を笠に着て威張り散らしてれば、誰も逆らえなかっただろうし。
 自分達は強いんだと勘違いしてたのかも知らんが。
 貴族に逆らうとヤバイと思ってるから、誰も逆らわなかっただけで。
 身分差が無くなれば、誰もお前らなんかには従いはしないさ。
 それが分かったら、少しは心を入れ替えて真面目に働くんだな。」

 タロウはポンポンと手についた汚れを掃いながら、地面に転がる悪ガキ共にそんな説教をしていたよ。

「貴様、俺達をこんな目に遭わせてタダでは済まさねえぞ。
 キーン一族派が権勢を取り戻して、貴族に返り咲いた暁には。
 草の根分けてでも貴様を探し出して、その首を刎ねてやるからな。」

 あれだけボコボコにされても、まだ懲りてないの。ある意味、感心しちゃうよ。

「そいつらには、何を言っても無駄よ。
 自分達に都合の悪い現実を受け入れることが出来ないのですもの。
 ヒーナルみたいな愚王を妄信して、国を顧みることが無かった自分達が悪いのに。
 反省するどころか、至極当然なことをしている新王が悪いと決めつけているの。
 キーン一族派なんて愚か者の集団は、もう壊滅しているだろうに。
 新王を廃して、再び貴族に戻れるなんて妄言を本気で口にしているのよ。
 馬鹿に付ける薬はないって、私も諦めているわ。」

 そんな風に、背後から声を掛けたお姉さんにタロウが振り返ると。
 お姉さんは丁寧に頭を下げると。

「私は、ヴァイオレットと申します。
 危ないところを救ってくださり、感謝申し上げます。
 あなたの助けがなければ、私はこのケダモノ共に純潔を奪われていたことでしょう。」

 タロウに感謝の気持ちを伝えたの。

「気にしなくっても良いさ。
 俺は、そこの人使いの荒いおこちゃまに命じられただけだし。
 それに、俺も、あいつらにはムカついたからな。」

「まあ、謙虚なのですね。
 幾ら軟弱者達とは言え、十人を超える狼藉者を瞬殺するほどお強いのに。
 全く偉ぶって見えない所が素敵です。」

 お姉さんは、顔を赤らめてそんな事を言ってたよ。

「どうやら、あの娘御、危ないところを救われてタロウに惚れてしまったようじゃな。
 これは、あれかのう? 吊り橋効果?」

 お姉さんの表情を目にして、オランがそんな事を呟いていたよ。
 吊り橋効果かどうか知らないけど、タロウのことを五割増しくらい素敵に見えているかも…。

 タロウを見詰めてポッとしている所に水を差すようだけど、おいらも話しを聞かせてもらうよ、
 
「ねえ、ねえ、ヴァイオレットお姉さん。
 こいつ等、普段からお姉さんに酷いことをしようとしているの?」

「この村の情けない姿を晒してしまいましたね。
 見ての通り、ここは辺境で何の娯楽も無いところです。
 こいつ等も、まだ女遊びを覚えるような歳でもないのですが。
 他に無聊を慰める方法が無いせいか、急に色気付いてしまって…。
 この村に娘は私と五歳になる妹しかいないものですから。
 最近、しつこく言い寄られて困ってましたの。」

 言い寄って来るのは悪ガキ達だけじゃないそうだよ。
 さっき、悪ガキ達が言ってたけど、親世代の大人達も言い寄ってくるんだって。
 大人たちは全員奥さんに逃げられて禁欲生活が続いているんで、見境が無くなってるとか言ってた。
 自分の父親みたいな歳のオヤジが、キモい目で見たり、露骨に体を触ってきたりするみたいで。
 飢えたオオカミに狙われてるみたいな、身の危険を感じているそうだよ。

「何だそれ。
 そんなの親父さんに言い付けて。止めさせてもらえば良いじゃないか。
 親父さんなら、自分の娘に手を出そうとする中年オヤジを赦してはおかないだろう。」

 タロウがヴァイオレットお姉さんの話を聞いて、この村の男達に憤慨していると。

「いえ、目下のところ、その父が一番危ないのです。
 家族ですから、どうしても天幕が一緒ですし。
 最近は、毎晩、私の布団に潜り込もうとするものですから…。 
 妹のビオラを間に挟んで防壁として、何とか侵入を防いでいる有り様で…。」

 ヴァイオレットお姉さんが着替えや湯浴みをしている時なんか、鼻息を荒くしてマジマジと見詰めているらしいよ。
 身の危険を感じて、お父さんといる時が一番気が休まらないらしいの。
 昼間はなるべく長い時間畑に居て、湯浴みは父親が寝てからにし、朝は父親より早く起きる。
 そうすることで、父親と一緒に居る時間を減らし、付け入る隙を減らしているらしいの。
 おかげで寝不足気味だと、ボヤいていたよ。

「そんな目に遭っているなら、いっそ、この村から出て行ったら。
 お母さんだって、離婚して付いて来なかったんだから。
 お父さんと縁を切って村から出て行けば良いじゃない。
 そんな思いをしてまで、お父さんと一緒にいる方が良いの?」

 ヴァイオレットお姉さんの話を聞いていて、余りに境遇が酷いものだから。
 縁切りしてこの村を出た方が良いのではと、おいらが尋ねると。

「もう、父には愛想が尽きました。
 ここを出て行きたいのは、山々なのですが。
 実際問題として、この村を出ても行く当てがないのです。
 働くためのツテもありません。
 私は民に酷い仕打ちをして来た罪人の娘です。
 ツテも無しに誰が雇ってくれましょう。
 何よりも、幼い妹を残していく訳にも参りませんから…。」

 ここを出て行っても、悲惨な目に遭う未来しか描けないとヴァイオレットお姉さんは言うんだ。

 それに、人が住む町までは数日かかるし、その間道も整備されてない草原だもの。
 道に迷うくらいなら良いところで、人攫いや魔物に遭遇するかも知れない。
 とても、若い娘さんが一人で旅することが出来る場所じゃないんだ。

 それなら、ここで畑を耕して村を再興させた方が良いと、ヴァイオレットお姉さんは考えているみたい。

「それなら、おいらと一緒に来ない?
 おいらが仕事を紹介してあげるよ。
 もちろん、妹さんも一緒にね。」

「何処の大店の娘さんか知らないけど。
 お嬢ちゃんがお父さんに、私を雇ってと頼んでもウンとは言わないと思うわ。
 何処の馬の骨か分からない娘をはいそうですかと雇う人はいないもの。
 罪人の娘と知られたら尚更ね。」

 一緒に来ないかと誘うとヴァイオレットお姉さんは、おいらを諭すように言ったの。
 おいらが女王だとは知らない訳だし、身なりが町人の娘だもの。
 おいらの親が商売をしていて、そこを紹介するのだと考えるのが自然だね。

「大丈夫だよ、おいらが雇う人を決められるから。
 直ぐに紹介できるのは、近衛騎士か、冒険者管理局の職員かな?
 タロウのところはどう?」

「おう、ギルドはいつも人手不足だからな。
 使える者なら、幾らでも雇い入れるぞ。
 俺の館に下宿すれば、妹も預かることが出来ると思う。」

 おいら達も言葉を聞いて、ヴァイオレットお姉さんは目をパチクリさせてたよ。
 何を言っているのか、理解できないって顔をしてた。  
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

眠り姫な私は王女の地位を剥奪されました。実は眠りながらこの国を護っていたのですけれどね

たつき
ファンタジー
「おまえは王族に相応しくない!今日限りで追放する!」 「お父様!何故ですの!」 「分かり切ってるだろ!おまえがいつも寝ているからだ!」 「お兄様!それは!」 「もういい!今すぐ出て行け!王族の権威を傷つけるな!」 こうして私は王女の身分を剥奪されました。 眠りの世界でこの国を魔物とかから護っていただけですのに。

処理中です...