ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第434話 飢えたオオカミの中にいるみたいだって…

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 街道整備の現場を視察したついでに、辺境の開拓を命じた元騎士達の様子を覗いてみることにしたおいら達。
 その村の一つに立ち寄ると、十四、五歳のお姉さんがたった一人で荒れ果てた農地の草刈りをしてたんだ。
 配給された食糧が減って来たことに危機感を覚えて、農作物を作付けしようと考えたそうだけど。
 開拓村の大人たちは、誰も手伝ってくれないみたい。

 お姉さんから、開拓村の大人たちが如何にダメかを聞いていると。
 村から出て来た悪ガキ達が草刈りの途中のお姉さんを、村の中に連れて行こうしたんだ。
 何か良からぬことを企んでいるようで、お姉さんを無理やり空いてる天幕に連れ込もうとしてるの。
 連中、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべていて、虫酸が奔ったよ。

「タロウ、あのキモい連中、排除してもらえる?
 お姉さんを助けて欲しいの。」

 おいらは、悪ガキ達の排除をタロウに頼むことにしたよ。 
 迂闊においらが手を出すと、前途ある(?)少年の未来を摘み採っちゃうかも知れないから。
 更生の機会は与えてあげないとね。

「あいよ、そんな事だと思ったよ。
 マロンが手を出すとやり過ぎちまうもんな。
 子供のオイタにお灸を据えるに、クリティカル攻撃は流石にな。」

 そんな言葉を返しながら、タロウは、お姉さんを背後に庇う形で悪ガキ達の前に立ち塞がったよ。
 ちゃんと、おいらの意図を察してくれたみたいだね。

「何だ、この貧相な野郎は。
 下賤な民の分際で、貴族の前に立つんじゃねえ。
 そんな最低限の礼儀もわきまえんとは。
 これだから、下賤の生まれの奴は嫌いなんだ。」

「いや、俺だって、自分が高貴な生まれじゃないことは自覚しているけどよ。
 お前らだって、今は俺と同じ平民じゃないか。
 親父が罪を犯して、貴族位を剥奪されたんだろう。
 だいたい、生まれで民のことを下賤と蔑んでいるが。
 俺から言わせてもらえば、お前らの方がよっぽど下賤な人間に見えるぜ。
 か弱い娘を力尽くで手籠めにしようって言うだからな。
 高貴な人間のやることじゃねえよな。」

 民を見下している悪ガキに、タロウは至極真っ当な言葉を返したの。
 でも、図星を指されるとキレる輩もいるもので…。

「言わせておけば…。
 俺達、高貴な血筋の者に対する侮辱、赦してはおけぬぞ。
 おい、この思い上がった平民に、二度とでかい口が利けないようにしてやれ!」

 ガキ大将らしき悪ガキのその言葉を吐くと、悪ガキ共がタロウに襲い掛かってきたんだ。

「全く、すぐに暴力に訴える…。
 どこが高貴な血筋だよ、まんま、野蛮人じゃないか。」

 うん、おいらもそう思う。こいつらには血筋しか誇るモノが無いんだね、哀れな…。
 タロウはため息交じりにそんなセリフを漏らすと、気負うことなく悪ガキ共を迎え撃ったの。

 そして、あっと言う間に片付いた。
 日頃、魔物狩りを続けているタロウに、口ばっかりの悪ガキ共が敵う訳ないよね。
 鎧袖一触だったよ。

      **********

「貴族の身分を笠に着て威張り散らしてれば、誰も逆らえなかっただろうし。
 自分達は強いんだと勘違いしてたのかも知らんが。
 貴族に逆らうとヤバイと思ってるから、誰も逆らわなかっただけで。
 身分差が無くなれば、誰もお前らなんかには従いはしないさ。
 それが分かったら、少しは心を入れ替えて真面目に働くんだな。」

 タロウはポンポンと手についた汚れを掃いながら、地面に転がる悪ガキ共にそんな説教をしていたよ。

「貴様、俺達をこんな目に遭わせてタダでは済まさねえぞ。
 キーン一族派が権勢を取り戻して、貴族に返り咲いた暁には。
 草の根分けてでも貴様を探し出して、その首を刎ねてやるからな。」

 あれだけボコボコにされても、まだ懲りてないの。ある意味、感心しちゃうよ。

「そいつらには、何を言っても無駄よ。
 自分達に都合の悪い現実を受け入れることが出来ないのですもの。
 ヒーナルみたいな愚王を妄信して、国を顧みることが無かった自分達が悪いのに。
 反省するどころか、至極当然なことをしている新王が悪いと決めつけているの。
 キーン一族派なんて愚か者の集団は、もう壊滅しているだろうに。
 新王を廃して、再び貴族に戻れるなんて妄言を本気で口にしているのよ。
 馬鹿に付ける薬はないって、私も諦めているわ。」

 そんな風に、背後から声を掛けたお姉さんにタロウが振り返ると。
 お姉さんは丁寧に頭を下げると。

「私は、ヴァイオレットと申します。
 危ないところを救ってくださり、感謝申し上げます。
 あなたの助けがなければ、私はこのケダモノ共に純潔を奪われていたことでしょう。」

 タロウに感謝の気持ちを伝えたの。

「気にしなくっても良いさ。
 俺は、そこの人使いの荒いおこちゃまに命じられただけだし。
 それに、俺も、あいつらにはムカついたからな。」

「まあ、謙虚なのですね。
 幾ら軟弱者達とは言え、十人を超える狼藉者を瞬殺するほどお強いのに。
 全く偉ぶって見えない所が素敵です。」

 お姉さんは、顔を赤らめてそんな事を言ってたよ。

「どうやら、あの娘御、危ないところを救われてタロウに惚れてしまったようじゃな。
 これは、あれかのう? 吊り橋効果?」

 お姉さんの表情を目にして、オランがそんな事を呟いていたよ。
 吊り橋効果かどうか知らないけど、タロウのことを五割増しくらい素敵に見えているかも…。

 タロウを見詰めてポッとしている所に水を差すようだけど、おいらも話しを聞かせてもらうよ、
 
「ねえ、ねえ、ヴァイオレットお姉さん。
 こいつ等、普段からお姉さんに酷いことをしようとしているの?」

「この村の情けない姿を晒してしまいましたね。
 見ての通り、ここは辺境で何の娯楽も無いところです。
 こいつ等も、まだ女遊びを覚えるような歳でもないのですが。
 他に無聊を慰める方法が無いせいか、急に色気付いてしまって…。
 この村に娘は私と五歳になる妹しかいないものですから。
 最近、しつこく言い寄られて困ってましたの。」

 言い寄って来るのは悪ガキ達だけじゃないそうだよ。
 さっき、悪ガキ達が言ってたけど、親世代の大人達も言い寄ってくるんだって。
 大人たちは全員奥さんに逃げられて禁欲生活が続いているんで、見境が無くなってるとか言ってた。
 自分の父親みたいな歳のオヤジが、キモい目で見たり、露骨に体を触ってきたりするみたいで。
 飢えたオオカミに狙われてるみたいな、身の危険を感じているそうだよ。

「何だそれ。
 そんなの親父さんに言い付けて。止めさせてもらえば良いじゃないか。
 親父さんなら、自分の娘に手を出そうとする中年オヤジを赦してはおかないだろう。」

 タロウがヴァイオレットお姉さんの話を聞いて、この村の男達に憤慨していると。

「いえ、目下のところ、その父が一番危ないのです。
 家族ですから、どうしても天幕が一緒ですし。
 最近は、毎晩、私の布団に潜り込もうとするものですから…。 
 妹のビオラを間に挟んで防壁として、何とか侵入を防いでいる有り様で…。」

 ヴァイオレットお姉さんが着替えや湯浴みをしている時なんか、鼻息を荒くしてマジマジと見詰めているらしいよ。
 身の危険を感じて、お父さんといる時が一番気が休まらないらしいの。
 昼間はなるべく長い時間畑に居て、湯浴みは父親が寝てからにし、朝は父親より早く起きる。
 そうすることで、父親と一緒に居る時間を減らし、付け入る隙を減らしているらしいの。
 おかげで寝不足気味だと、ボヤいていたよ。

「そんな目に遭っているなら、いっそ、この村から出て行ったら。
 お母さんだって、離婚して付いて来なかったんだから。
 お父さんと縁を切って村から出て行けば良いじゃない。
 そんな思いをしてまで、お父さんと一緒にいる方が良いの?」

 ヴァイオレットお姉さんの話を聞いていて、余りに境遇が酷いものだから。
 縁切りしてこの村を出た方が良いのではと、おいらが尋ねると。

「もう、父には愛想が尽きました。
 ここを出て行きたいのは、山々なのですが。
 実際問題として、この村を出ても行く当てがないのです。
 働くためのツテもありません。
 私は民に酷い仕打ちをして来た罪人の娘です。
 ツテも無しに誰が雇ってくれましょう。
 何よりも、幼い妹を残していく訳にも参りませんから…。」

 ここを出て行っても、悲惨な目に遭う未来しか描けないとヴァイオレットお姉さんは言うんだ。

 それに、人が住む町までは数日かかるし、その間道も整備されてない草原だもの。
 道に迷うくらいなら良いところで、人攫いや魔物に遭遇するかも知れない。
 とても、若い娘さんが一人で旅することが出来る場所じゃないんだ。

 それなら、ここで畑を耕して村を再興させた方が良いと、ヴァイオレットお姉さんは考えているみたい。

「それなら、おいらと一緒に来ない?
 おいらが仕事を紹介してあげるよ。
 もちろん、妹さんも一緒にね。」

「何処の大店の娘さんか知らないけど。
 お嬢ちゃんがお父さんに、私を雇ってと頼んでもウンとは言わないと思うわ。
 何処の馬の骨か分からない娘をはいそうですかと雇う人はいないもの。
 罪人の娘と知られたら尚更ね。」

 一緒に来ないかと誘うとヴァイオレットお姉さんは、おいらを諭すように言ったの。
 おいらが女王だとは知らない訳だし、身なりが町人の娘だもの。
 おいらの親が商売をしていて、そこを紹介するのだと考えるのが自然だね。

「大丈夫だよ、おいらが雇う人を決められるから。
 直ぐに紹介できるのは、近衛騎士か、冒険者管理局の職員かな?
 タロウのところはどう?」

「おう、ギルドはいつも人手不足だからな。
 使える者なら、幾らでも雇い入れるぞ。
 俺の館に下宿すれば、妹も預かることが出来ると思う。」

 おいら達も言葉を聞いて、ヴァイオレットお姉さんは目をパチクリさせてたよ。
 何を言っているのか、理解できないって顔をしてた。  
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