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アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第433話 辺境の開拓を命じたはずだけど…

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 さて、マイナイ伯爵家から連れて来たダメな兄弟二人は預けたし。
 街道整備の進捗状況も確認したので、おいらは支局を立ち去ることにしたの。

 そのまま、王都へ戻ろうかと思っていたんだけど。

「せっかくここまで来たのじゃ。
 少し足を延ばして、辺境の開拓を命じた者共の様子を覗いて行けば良いのじゃないか?」

 オランがそんな提案をしたの。
 確かに、ここからなら、すぐの場所に開拓村が二つ、三つ有りそうだね。

 そんな訳でアルトにお願いして辺境の開拓地を探して少し飛んでもらったの。
 街道整備の現場から、西方の魔物の領域に向かってしばらく進むと。
 徒歩だと二、三日かかりそうなところにその開拓地はあったよ。

 元々、村があった場所なんだけど、スタンピード若しくは黒死病のために村が壊滅して放置されてたの。
 おいらは、辺境の村で民の虐殺を行った騎士の家を取り潰して、その家の人達に壊滅した村の復興を命じたの。
 本来なら、死罪に値する行為なんだけど、辺境の再開発に罪を減じたんだ。

 その開拓村の一つが見えたところで、おいら達はアルトの『積載庫』から降ろしてもらったよ。
 そして、オランとタロウ、それに護衛の騎士四人と一緒に村の入り口に向かったの。

 ここは魔物の領域にも近いので、簡素ながらも村は空堀と土塁に囲まれていたよ。
 小さな村だったみたいだし、このくらいの掘と土塁を築くのも大変だっただろうね。
 ここに送られてきた元騎士達は感謝しないといけないね。
 先人達が苦労して築いた掘や土塁のおかげで、魔物から護られているんだから。

 村に面した草原は元々耕作地だったようで、今は草ぼうぼうだけど他の場所に比べて平坦に均されていたよ。

 おいらが周囲の様子を眺めながらウサギの『バニー』を進ませていると、草むらがガサガサとかき分けられて…。

「あら、こんな辺境にお客さんとは珍しい。
 それにしても、ウサギなんてまた凄いモノに乗っているのね。」

 そんな言葉を口にしながら現れたのは、おいらより少し年上のお姉さんだった。
 出会った頃のタロウくらいの年頃に見えるから、十四、五歳かな。
 どうやら、草刈りの最中だったのか、麦わら帽子を被って鎌を手にしてたよ。

 お姉さんはおいらが女王だとは気付いていないみたい。
 むしろ、不審者を見るような目をしていて、少し警戒気味だったよ。
 おいら達、皆が皆、町娘や冒険者みたいな格好をしているし。
 おいらの横を歩いているタロウ以外は全員ウサギに乗ってるときてる。
 普通の町娘がこんな辺境にいるのも不審なら、ウサギに乗っているのも大概だよね。

「驚かせちゃったかな?
 物盗りじゃないから心配しないで良いよ。
 今、畑仕事の最中だったの?」

「見ての通り、畑仕事なんて大そうな事はしてないわ。
 精々、畑の発掘作業ね。
 先ずはこの生い茂った草を刈って、畑だった土壌を露出させないと。
 それから、やっと畑仕事よ。
 土地を耕して、種を蒔いて、収穫できるのは何時のことやら…。
 それまで、配給された食糧が尽きないのを祈るだけね。」

 お姉さんは、渋い顔をしながらそんな返答をしてくれたよ。 
 
「お姉さん、一人で草刈りをしているの?
 大人たちは手伝ってくれないのかな。」

 おいらの問い掛けに、お姉さんはますます渋い顔になって…。

「大人はアテにならないわ。
 ここへ送られて来てから、既に半年近くなるのに…。
 今だに不平不満を言うばかりで、働こうとしないのですもの。
 一言目には、『我々貴族が何でこんな目に遭わないといけないのか』って。
 貴族の義務を蔑ろにして、遊び惚けていたから飛ばされたってのに。
 それが理解できないバカばっかりよ。
 そんな態度だから、女房に逃げられたってのにね。」

 ため息交じりにお姉さんは愚痴を言い始めたよ。
 先日、一番近い町に立ち寄った際に、駐屯している騎士団の師団長から聞いた話では。
 まともに家が揃っている村はまだ無いけど、芋くらいは収穫し始めたとのことだったけど。
 この村はまだそこまでに至ってないのかな?

「配給された食糧を食べて生活しているの?
 農作業も、狩りもしないで?」

「私、父親が不始末をしでかして、ここに流されてきたのよ。
 ありていに言えば、父親が罪人で私は巻き添えになったの。
 自分達の不始末で壊滅した村の跡地を再開拓しろってね。
 とは言え、一から開拓し直す訳だから、当面生活するだけのものは支給されたのよ。
 当面必要な食べ物、衣服、天幕、それに建築資材や農業資材もね。
 王宮のお偉方も気を遣って、手引書まで付けてくれたのよ。
 それを読めば、家も建てられるし、農作物だって作れるわ。
 でも…。」

 お姉さんはおいらが女王だとは気付いてないので、事情を話してくれたの。
 何と、この村は男と子供しかいないらしいよ。

 奥さんは辺境に行くことを拒んで、離婚して実家に帰ったそうなんだ。
 どうやら、ここに送られた家の奥さん方は全員帰る実家があったらしいね。
 ただ、再婚の邪魔だと言って、子供は引き取らなかったらしいの
 罪人の子供が付いていたら、再婚相手を見つけられないって。

 更に、独り立ちできる年齢になった子女も縁切りして、王都に残ったそうだよ。
 平民として生きて行くなら、農地を開拓するより、王都で下働きでもした方がましだって。

 そんな訳で、独り立ちするにはまだ早い子供と男やもめだけの村になったそうだよ。
 で、その元騎士達だけど…。
 このお姉さんが話したように、自分達は由緒正しい貴族だってプライドばかり高いもんだから。
 働こうとせずに、配給された食べ物で食い繋いでいるみたい。
 家だってまだ一軒も建ってなくて、全員が天幕暮らしだって。
 その天幕すら張り方が分からなくて、ここに来た初日は野宿になったそうだよ。

 でも、そんな生活が続けられる訳が無いんだよね。
 おいらは、一年は食べて行けるだけの食料を渡すように指示しておいたけど。
 食べ物って基本腐るものだからね。
 一年も保存できるものと言えば、干し肉とか、魚の干物くらいだよ。
 後は、カラカラに干したパンの実、はちみつ漬けの果物かな。
 贅沢になれた連中が、そんなモノだけで満足できる訳が無いじゃない。

 そもそも、農産物ってすぐに実る訳ないから、そろそろ作付けしないと食糧が尽きちゃうよ。

「運が良いのか、悪いのか…。
 幸い、この村の敷地の中に『パンの木』が無事に残っていたの。
 あれ、一年中、実を付けるし、一本に生る数も多いから。
 五十人くらいなら、十分に食べて行けるわ。
 井戸もあるから、飢え死にする事だけは免れることが出来そうなの。
 ただ、それじゃ、健康に悪いでしょう。
 だから、こうして畑を再生しよう思っているのだけど。
 誰も手伝ってくれないのよ。」

 お姉さんはため息まじりに呟くと、視線を村の方に向けたの。

      **********

 お姉さんの視線の先を辿ると、村の入り口から徒党を組んだ男達が出て来たよ。
 見た目では、お姉さんと同じ年頃の少年達だね。
 こいつら、お姉さん一人に草むしりをさせてないで手伝えば良いのに…。

 そして、近寄って来た男の一人が、馴れ馴れしくお姉さんの肩に手を回すと。

「お前、また、草むしりなんてしてたのか。
 そんな事は、下賤の民のする事で、貴族の子女のする事じゃねえぞ。
 草刈りなんて止めて、これから俺達と良いことしねえか。
 ここには、年頃の女はお前だけだからな。
 タップリと可愛がってやるから、俺達全員の世話をしてくれや。
 親父達もお前を狙っているみたいだぜ。
 お前だって、中年オヤジの慰み者になるより、年の近い俺達の方が良いだろう。」

 下卑た笑いを浮かべながら、そんな勝手なことを言ったんだ。
 しかも、お姉さんと話していたおいら達のことなんて、ガン無視だったよ。
 もしかして、下賤の民のことなんて本当に眼中にないのかな。

「あなた達の相手なんて死んでも御免だわ!
 あなた達みたいなサル以下の頭しかない男の相手なんて冗談じゃない。
 少しでも私の気が引きたいのなら、家くらい建てて見せなさいよ。
 だいたい、私のこの格好を見て草刈りを手伝おうともしない時点で、人格を疑うわ。」

 お姉さんは、男の手をペシッと掃って、はっきりと拒絶したよ。
 
「こいつ、生意気なことをほざきやがって。
 女はお前だけだから、優しくてやろうと思ってたが…。
 こんなじゃじゃ馬は厳しく躾けないとダメみたいだな。
 おい、こいつを拘束して空いてる天幕に連れて行くぞ。
 みんなで、ねっとりと可愛がってやろうじゃないか。
 こいつに自分の立場ってモノを分からせてやろうぜ。」

 手を振り払われた男が逆上して、周りの男達にそんな指示を出したの。
 それに呼応して、男達はお姉さんを拘束しようと近寄るけど。

「あなた達、何処までおバカなのかしら。
 そんな下劣な品性なら、貴族身分を剥奪されても仕方ないわね。
 本来なら、私やあなたの父親は死罪にされても仕方なかったのよ。
 お家も取り潰しで、私達は身一つで放り出されても文句を言えなかったの。
 それを女王陛下が温情で、私達に再起の機会を与えてくださったのよ。
 食べ物だって、農機具だって、種苗だってあるの。
 ここで家を建て、畑を耕し…。
 村を再興させれば、自由に生きて行けるのよ。
 何で、貴族だったことはすっぱり忘れてやり直そうと思わないの。」

 お姉さんは向かってくる男達に対して気丈に言い放ったの。

「ははは、何が、女王陛下の温情だ。
 王侯貴族は民を護るためにあるモノだなんて、戯言を言ってるガキに国が治められる訳ないだろう。
 親父達が言っているぜ、早晩貴族の道理を弁えている同志達が義憤に駆られて立ち上がるってな。
 キーン一族派の貴族が愚かな女王を廃して、政権を取り戻したらすぐに王都へ帰れるから。
 下賤の民の真似事なんてする必要は無いってな。
 俺達は、王都へ帰れるまで適当に時間を潰していれば良いんだよ。
 お前もつべこべ言ってないで、素直に俺達の世話をしていれば良いさ。
 とっとと、空いてる天幕にしけ込もうぜ。」

 その言葉を受けて、今度こそ男達がお姉さんを拘束しようと手足を押さえに掛かったよ。

 ふーん、この村の元騎士達は、自分の子供にそんなことを吹き込んでいるんだ。
 これじゃ、この村の再興は見込みなしだね…。 
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