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第十五章 ウサギに乗った女王様
第432話 円滑に作業は進んでいるみたいだった
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マイナイ伯爵家を除籍された愚息二人は、ウサギ十匹を乗せた荷車をヒイヒイ言いながら引き摺って来たの。
何とか支局の敷地内まで戻ってくると、料理長の指示で解体作業場の中へ運び込んでたよ。
作業場の近くでしばらく様子を窺っていると。
突然の作業場の裏口が開いて、愚息二人が口を押さえて飛び出して来たよ。
そのまま、土塁の際まで走ると…。
「うげぇ…。」
地面に蹲って、ゲロってたよ。
「ああ、町育ちの者は魔物や動物の解体なんてしたことがありませんからね。
解体作業を手伝わせようとすると、最初は皆、ああなりますね。
田舎育ちだと、動物を絞めて食材にするのは日常茶飯事ですから。
解体作業を見ても、どうってこと無いのですが。
とは言え、動物の解体は出来るようになってもらわないと困りますから。
料理長が一月かけて、徹底的に仕込むのですがね。」
連中、町にいた時には喧嘩なんか日常茶飯事だった癖にちょっとばかり多めの血を見たくらいで情けない。
そんな言葉を呟いて、支局長は呆れた様子で二人を眺めていたよ。
まあ、喧嘩で出た鼻血や擦り傷に滲む血と、解体で出る血では量が違うし、生々しさも違うからね。
おいらは、物心ついた頃には父ちゃんが、鳥とかを目の前で絞めてたから慣れっこになってたけど。
でも、今の支局長の言葉、意味不明の所があるよ。
「ねえ、連中、厨房はあくまで研修でしょう。
一月の研修の後は、土木作業をするんだから。
別に動物の解体が出来なくても困ることは無いんじゃない?」
「ああ、現場作業についても、連中は輪番制で昼食当番があるのですよ。
厨房のスタッフは、昼食の準備のために現場まで付いて行くほどの人員はございませんし。
作業員の昼食を全て現地まで運ぶのも容易ではございません。
ですので、昼食の主菜は食材を現地調達して当番の者が作るのです。」
作業現場は支局から離れているので、作業員が昼食を取るために一々戻って来たら効率が悪いし。
かと言って、現場で昼食を作れるほどの人数は厨房に雇い入れてないそうなの。
更に、毎日、荷馬車に乗せて現場に運ぶのは作業員達だけじゃなくて、工事に必要な資材なんかも多いんだって。
馬車のキャパシティーから見て、とても全員の昼食を運ぶことは出来ないみたい。
そこで、荷馬車で運ぶのは水とパンの実、それに調味料くらいに抑えて、後の食材は現地調達にしたんだって。
とは言え、山野草は素人だと毒草と見分けがつかずに危険だし。
そもそも、若い男の人ばかりなので、肉を食べたがるみたいなの。
なので、昼食当番は最弱の魔物ウサギを狩って捌くところからやらないといけないそうだよ。
まあ、ウサギならその辺中にいるものね。
昼食当番は、作業現場に着くと同時にウサギを狩り始めるそうだよ。
狩って捌くだけじゃなくて、薪を拾ったり、石を集めて炉を組んだりもしないといけないから。
サッサとやらないとお昼ごはんに間に合わなくなるんだって。
血の気の多い連中ばかりだもね。
昼食の準備をしくじってお昼が水とパンだけになろうものなら、昼食当番は袋叩きだね。
だから、最低限、ウサギが狩れることと解体できることは必須なんだって。
まっ、調理の方法や味付けも大事だけど、それも一月の研修で仕込まれるって。
**********
ウサギの解体も終わったようなので、おいらは料理長のもとに行ったの。
「毎日、ウサギばかりじゃ、作業員達も飽きるでしょう。
今日はこれも料理の一品に加えてあげて。」
「おっ、これは酔牛の肉ではございませんか。
しかも、脂の乗った極上部位のロースだ。
こっちには、牛タンもある。
陛下、街道整備で働く者達のためにこのようなお気遣いを賜り感謝致します。
これを用いて、若い者たちに飛びきりの食事を用意して見せましょう。」
おいらが、厨房の作業台の上に酔牛十頭分のお肉を積み上げると。
お肉を手に取った料理長が、そんな返答をして張り切っていたよ。
ロースや牛タンだけじゃなくて、極上のヒレ肉から牛モツに至るまで食べられる部位は全部出したから。
きっと、数日は作業員達にご馳走を振る舞ってくれることだろうね。
言葉通り料理長は腕を振るってくれたようで、酔牛の料理に作業員達は歓喜していたよ。
そして翌日、その今度は街道整備の現場を視察することにしたの。
早起きして作業員達の様子を観察していると、朝食を取るために慌てて食堂に駆け込んでくる者達は居たものの。
現場に向かう荷馬車の出発時刻に遅刻する者は一人もいなかったよ。
この中にも厨房で研修を受けた人達がいるはずなので、研修の効果がちゃんと出ていると考えて良いのかな。
出発時刻はまだ早朝なので、現場に向かう荷馬車の中では荷台の縁を背もたれ代わりに居眠りしている者も多かったよ。
けっこう長い時間荷馬車に揺られて、作業現場に到着した時には東の空に完全に日が昇り、役場の仕事なども始まる時間になってた。
役所仕事なんかの始業時間に合わせて、工事が始められるように早朝から出発したんだね。
「ほら、着いたぞ。
さっさと荷物を持って馬車を降りるんだ。」
馬車が停まると馬に乗って並走してきた騎士がハッパをかけていた。
この現場で今働いている作業員は、五百人弱なんだけど。
十人ずつ分乗した約五十台の荷馬車には、各一人の騎士が並走して付き添って来たの。
勿論、道中の護衛でもあるんだけど、一番の役割は脱走の防止、次に作業中の監視なの。
作業員募集に自発的に応募してきた人達は、監視など要らないのだけど。
現状、作業員の半数以上は、おいらや騎士達が王都で勧誘してきた冒険者崩れだからね。
トシゾー団長以下強面の騎士達が、町を徘徊している若者たちを『懇切丁寧』に勧誘して連れて来たものだから。
本心から納得してこの現場にやって来たかは、はなはだ疑問なんだ。
弱い者イジメしか出来ない、体力も、根性も無い連中だから音を上げて逃げ出すかも知れないし。
たとえ逃げずに現場までやって来たとしても、真面目に働かずにサボってるかも知れない。
そんな懸念が払拭できないので、監視の騎士を多めに配属したんだ。
「見てください、作業員達、キビキビと動いているでしょう。
街道整備に着手してから、三ヶ月目にしてやっとあのように動けるようになりましたよ。
それも、これも、騎士達の協力があってこそです。
我々、技術者だけではああはいきませんでした。」
支局長の言葉通り、荷馬車が停車すると作業員達は資材を担いで整然と荷馬車を降りてたよ。
決められたところに資材を降ろし終わると、今度は各人がツルハシやスコップなどを手にして持ち場に散っていった。
どうやら、一台の荷馬車に分乗している十人が一つの班になっている様子で。
班員が荷馬車から資材を降ろしている間に、現場監督の周りに集まった班長が持ち場を指示されているみたい。
現場監督らしき人が、集まった班長の一人一人に手にした図面を見せながら指示を出していたよ。
「騎士のみんなはそんなにお役に立ってるんだ?」
「ええ、勿論です。
私を始めとしてこの支局の幹部は全員が技術屋です。
図面を引いて、工法を検討して、指示を出すのが仕事ですから。
力にモノを言わすことは苦手な者が多くて…。」
支局長もそうだけど、現場監督をしている人も技術屋さんで荒事は苦手なんだって。
その一方で、この現場に作業員として来た者の多くは、町でならず者をしてたような連中だから。
腕っ節の弱い人を舐めてかかって、直ぐにサボろうとしたみたいだよ。
そんな連中を見つけては、監視役の騎士達が鉄拳制裁を加えていったんだって。
まるで、犬のしつけを見ているようだったって支局長は言ってたけど。
着工した当初は厨房の研修はまだしてなかったんで、騎士の鉄拳制裁が作業員を従順にする唯一の手立てだったみたい。
見せしめを兼ねてサボっている連中を徹底的に痛めつけたら、次第に逆らう愚か者も居なくなって。
最近、やっと、支局長が満足できる水準まで、指示通りの働きが出来るようになったそうだよ。
「そこにいる、お嬢ちゃんは女王さんじゃないすか。
聞いてくだせえよ、俺っち、班長に出世したんですぜ。
月々の給金が銀貨三百五十枚に上がりやした。
辺境の街道整備に送られると聞かされた時には、女王さんを恨みましたが。
慣れてみると、ここは良い職場だとわかりやしたぜ。
メシは美味いし、王都に居た時より寝床もずっとキレイだ。
酒と女が無いのがちと寂しいが、その分キッチリ金が貯まるやすしね。
今じゃ、女王さんに感謝しても仕切れねえと思ってやすぜ。」
「あっ、冒険者研修施設で会ったおっちゃんじゃない。
元気そうだね。
この現場を気に入ってくれたようで良かったよ。」
おいらに声を掛けて来たのは、この現場に第一陣として送り込んだ作業員の一人だった。
王都で悪さをして一ヵ月の矯正措置を受けた後、仕事に就くあてがない様子だったのでおいらが勧誘したんだ。
仕事の内容を聞かないで飛び付いたくせして、土木作業だと明かすとブウ垂れていたんだけど…。
どうやら、結果オーライだったみたいだね。
「へい、俺達みたいな半端者がこんなに良い待遇を受けられる働き先は滅多にないですからね。
しかも、働き始めてすぐに給金を上げてもらえるなんて信じられないでげす。
ここに居ればメシと寝床には困らないし、使う場所も無いから金は貯まる。
このままいけば、街道が完成する頃には家が買えるくらいの金が貯まりやす。
そしたら、嫁さんを貰うのも夢じゃないっす。」
「そう、じゃあ、マイホームときれいなお嫁さんが手に入るように頑張ってね。」
「へい、頑張りやす!」
おっちゃんは、ツルハシは肩にかけて急ぎ足で現場に向かって行ったよ。
「彼は、第一陣でここへやって来た者の一人でしたな。
最初から、真面目に働いていたので感心してたのですが…。
第一陣を護衛してきた騎士に聞いたところ。
王都からくる際に、彼がいの一番で荷馬車から逃走しようとしたそうです。
初日から毎日のように、夜陰に乗じて逃走を企てたそうで。
その都度、騎士に捕まり『懇切丁寧』な説得をされたそうです。
『懇切丁寧』な説得の効果があったようで、支局につく頃にはすっかり従順になっていました。」
ああ、なるほど、ここに到着する前から鉄拳制裁を受けていたんだ…。
それで真っ当に働くようになったのなら騎士が『懇切丁寧』な説得を繰り返した甲斐があったね。
何とか支局の敷地内まで戻ってくると、料理長の指示で解体作業場の中へ運び込んでたよ。
作業場の近くでしばらく様子を窺っていると。
突然の作業場の裏口が開いて、愚息二人が口を押さえて飛び出して来たよ。
そのまま、土塁の際まで走ると…。
「うげぇ…。」
地面に蹲って、ゲロってたよ。
「ああ、町育ちの者は魔物や動物の解体なんてしたことがありませんからね。
解体作業を手伝わせようとすると、最初は皆、ああなりますね。
田舎育ちだと、動物を絞めて食材にするのは日常茶飯事ですから。
解体作業を見ても、どうってこと無いのですが。
とは言え、動物の解体は出来るようになってもらわないと困りますから。
料理長が一月かけて、徹底的に仕込むのですがね。」
連中、町にいた時には喧嘩なんか日常茶飯事だった癖にちょっとばかり多めの血を見たくらいで情けない。
そんな言葉を呟いて、支局長は呆れた様子で二人を眺めていたよ。
まあ、喧嘩で出た鼻血や擦り傷に滲む血と、解体で出る血では量が違うし、生々しさも違うからね。
おいらは、物心ついた頃には父ちゃんが、鳥とかを目の前で絞めてたから慣れっこになってたけど。
でも、今の支局長の言葉、意味不明の所があるよ。
「ねえ、連中、厨房はあくまで研修でしょう。
一月の研修の後は、土木作業をするんだから。
別に動物の解体が出来なくても困ることは無いんじゃない?」
「ああ、現場作業についても、連中は輪番制で昼食当番があるのですよ。
厨房のスタッフは、昼食の準備のために現場まで付いて行くほどの人員はございませんし。
作業員の昼食を全て現地まで運ぶのも容易ではございません。
ですので、昼食の主菜は食材を現地調達して当番の者が作るのです。」
作業現場は支局から離れているので、作業員が昼食を取るために一々戻って来たら効率が悪いし。
かと言って、現場で昼食を作れるほどの人数は厨房に雇い入れてないそうなの。
更に、毎日、荷馬車に乗せて現場に運ぶのは作業員達だけじゃなくて、工事に必要な資材なんかも多いんだって。
馬車のキャパシティーから見て、とても全員の昼食を運ぶことは出来ないみたい。
そこで、荷馬車で運ぶのは水とパンの実、それに調味料くらいに抑えて、後の食材は現地調達にしたんだって。
とは言え、山野草は素人だと毒草と見分けがつかずに危険だし。
そもそも、若い男の人ばかりなので、肉を食べたがるみたいなの。
なので、昼食当番は最弱の魔物ウサギを狩って捌くところからやらないといけないそうだよ。
まあ、ウサギならその辺中にいるものね。
昼食当番は、作業現場に着くと同時にウサギを狩り始めるそうだよ。
狩って捌くだけじゃなくて、薪を拾ったり、石を集めて炉を組んだりもしないといけないから。
サッサとやらないとお昼ごはんに間に合わなくなるんだって。
血の気の多い連中ばかりだもね。
昼食の準備をしくじってお昼が水とパンだけになろうものなら、昼食当番は袋叩きだね。
だから、最低限、ウサギが狩れることと解体できることは必須なんだって。
まっ、調理の方法や味付けも大事だけど、それも一月の研修で仕込まれるって。
**********
ウサギの解体も終わったようなので、おいらは料理長のもとに行ったの。
「毎日、ウサギばかりじゃ、作業員達も飽きるでしょう。
今日はこれも料理の一品に加えてあげて。」
「おっ、これは酔牛の肉ではございませんか。
しかも、脂の乗った極上部位のロースだ。
こっちには、牛タンもある。
陛下、街道整備で働く者達のためにこのようなお気遣いを賜り感謝致します。
これを用いて、若い者たちに飛びきりの食事を用意して見せましょう。」
おいらが、厨房の作業台の上に酔牛十頭分のお肉を積み上げると。
お肉を手に取った料理長が、そんな返答をして張り切っていたよ。
ロースや牛タンだけじゃなくて、極上のヒレ肉から牛モツに至るまで食べられる部位は全部出したから。
きっと、数日は作業員達にご馳走を振る舞ってくれることだろうね。
言葉通り料理長は腕を振るってくれたようで、酔牛の料理に作業員達は歓喜していたよ。
そして翌日、その今度は街道整備の現場を視察することにしたの。
早起きして作業員達の様子を観察していると、朝食を取るために慌てて食堂に駆け込んでくる者達は居たものの。
現場に向かう荷馬車の出発時刻に遅刻する者は一人もいなかったよ。
この中にも厨房で研修を受けた人達がいるはずなので、研修の効果がちゃんと出ていると考えて良いのかな。
出発時刻はまだ早朝なので、現場に向かう荷馬車の中では荷台の縁を背もたれ代わりに居眠りしている者も多かったよ。
けっこう長い時間荷馬車に揺られて、作業現場に到着した時には東の空に完全に日が昇り、役場の仕事なども始まる時間になってた。
役所仕事なんかの始業時間に合わせて、工事が始められるように早朝から出発したんだね。
「ほら、着いたぞ。
さっさと荷物を持って馬車を降りるんだ。」
馬車が停まると馬に乗って並走してきた騎士がハッパをかけていた。
この現場で今働いている作業員は、五百人弱なんだけど。
十人ずつ分乗した約五十台の荷馬車には、各一人の騎士が並走して付き添って来たの。
勿論、道中の護衛でもあるんだけど、一番の役割は脱走の防止、次に作業中の監視なの。
作業員募集に自発的に応募してきた人達は、監視など要らないのだけど。
現状、作業員の半数以上は、おいらや騎士達が王都で勧誘してきた冒険者崩れだからね。
トシゾー団長以下強面の騎士達が、町を徘徊している若者たちを『懇切丁寧』に勧誘して連れて来たものだから。
本心から納得してこの現場にやって来たかは、はなはだ疑問なんだ。
弱い者イジメしか出来ない、体力も、根性も無い連中だから音を上げて逃げ出すかも知れないし。
たとえ逃げずに現場までやって来たとしても、真面目に働かずにサボってるかも知れない。
そんな懸念が払拭できないので、監視の騎士を多めに配属したんだ。
「見てください、作業員達、キビキビと動いているでしょう。
街道整備に着手してから、三ヶ月目にしてやっとあのように動けるようになりましたよ。
それも、これも、騎士達の協力があってこそです。
我々、技術者だけではああはいきませんでした。」
支局長の言葉通り、荷馬車が停車すると作業員達は資材を担いで整然と荷馬車を降りてたよ。
決められたところに資材を降ろし終わると、今度は各人がツルハシやスコップなどを手にして持ち場に散っていった。
どうやら、一台の荷馬車に分乗している十人が一つの班になっている様子で。
班員が荷馬車から資材を降ろしている間に、現場監督の周りに集まった班長が持ち場を指示されているみたい。
現場監督らしき人が、集まった班長の一人一人に手にした図面を見せながら指示を出していたよ。
「騎士のみんなはそんなにお役に立ってるんだ?」
「ええ、勿論です。
私を始めとしてこの支局の幹部は全員が技術屋です。
図面を引いて、工法を検討して、指示を出すのが仕事ですから。
力にモノを言わすことは苦手な者が多くて…。」
支局長もそうだけど、現場監督をしている人も技術屋さんで荒事は苦手なんだって。
その一方で、この現場に作業員として来た者の多くは、町でならず者をしてたような連中だから。
腕っ節の弱い人を舐めてかかって、直ぐにサボろうとしたみたいだよ。
そんな連中を見つけては、監視役の騎士達が鉄拳制裁を加えていったんだって。
まるで、犬のしつけを見ているようだったって支局長は言ってたけど。
着工した当初は厨房の研修はまだしてなかったんで、騎士の鉄拳制裁が作業員を従順にする唯一の手立てだったみたい。
見せしめを兼ねてサボっている連中を徹底的に痛めつけたら、次第に逆らう愚か者も居なくなって。
最近、やっと、支局長が満足できる水準まで、指示通りの働きが出来るようになったそうだよ。
「そこにいる、お嬢ちゃんは女王さんじゃないすか。
聞いてくだせえよ、俺っち、班長に出世したんですぜ。
月々の給金が銀貨三百五十枚に上がりやした。
辺境の街道整備に送られると聞かされた時には、女王さんを恨みましたが。
慣れてみると、ここは良い職場だとわかりやしたぜ。
メシは美味いし、王都に居た時より寝床もずっとキレイだ。
酒と女が無いのがちと寂しいが、その分キッチリ金が貯まるやすしね。
今じゃ、女王さんに感謝しても仕切れねえと思ってやすぜ。」
「あっ、冒険者研修施設で会ったおっちゃんじゃない。
元気そうだね。
この現場を気に入ってくれたようで良かったよ。」
おいらに声を掛けて来たのは、この現場に第一陣として送り込んだ作業員の一人だった。
王都で悪さをして一ヵ月の矯正措置を受けた後、仕事に就くあてがない様子だったのでおいらが勧誘したんだ。
仕事の内容を聞かないで飛び付いたくせして、土木作業だと明かすとブウ垂れていたんだけど…。
どうやら、結果オーライだったみたいだね。
「へい、俺達みたいな半端者がこんなに良い待遇を受けられる働き先は滅多にないですからね。
しかも、働き始めてすぐに給金を上げてもらえるなんて信じられないでげす。
ここに居ればメシと寝床には困らないし、使う場所も無いから金は貯まる。
このままいけば、街道が完成する頃には家が買えるくらいの金が貯まりやす。
そしたら、嫁さんを貰うのも夢じゃないっす。」
「そう、じゃあ、マイホームときれいなお嫁さんが手に入るように頑張ってね。」
「へい、頑張りやす!」
おっちゃんは、ツルハシは肩にかけて急ぎ足で現場に向かって行ったよ。
「彼は、第一陣でここへやって来た者の一人でしたな。
最初から、真面目に働いていたので感心してたのですが…。
第一陣を護衛してきた騎士に聞いたところ。
王都からくる際に、彼がいの一番で荷馬車から逃走しようとしたそうです。
初日から毎日のように、夜陰に乗じて逃走を企てたそうで。
その都度、騎士に捕まり『懇切丁寧』な説得をされたそうです。
『懇切丁寧』な説得の効果があったようで、支局につく頃にはすっかり従順になっていました。」
ああ、なるほど、ここに到着する前から鉄拳制裁を受けていたんだ…。
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