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第十五章 ウサギに乗った女王様
第427話 ちゃんと仕事は増えているかな?
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おいら達は騎士の詰め所を後にすると、すぐ隣にある大きな商店にお邪魔したんだ。
店の中には、およそ生活に必要なありとあらゆる品が並んでいて、これぞ雑貨屋って雰囲気のお店だったよ。
そこでは、使用人と思しき人が慌ただしく動いていて…。
「旦那、隣村の女衆へ内職に出していた作業着五十着、回収してきました。」
「おう、待っとったぞ。それで、今回出荷分の二百着揃った。
お役人様が受け取りに来るのは今日の夕刻。
何とか、ギリギリ間に合った…。
腸詰め肉も何とか用意できたし…。
おーい、他の品は全部用意できているだろうな。」
「へい、渡されたリスト、全部チェック済みです。
不足しているのは、作業着だけでした。
作業着が揃えば、今日出荷する品の準備は完了です。」
どうやら、街道整備の現場から物資を引き取りに来る日のようで、その準備に右往左往してたみたいだね。
「こんにちは、お邪魔するよ。
繁盛しているみたいだね。」
一段落したのを見計らい、旦那と呼ばれていたおじさんに声を掛けたの。
「おや、あんた、何時ぞやのお嬢ちゃんじゃないかい。
あん時は世話になったね。
お嬢ちゃんが騎士を退治してくれたので助かったよ。」
「おいらのことを覚えていてくれたんだ。」
「この町の恩人を忘れる訳が無いだろう。
私も、あの時、お嬢ちゃんから指示を受けた世話役の一人なんだよ。
騎士団に残されたお金を町の衆に平等に分配しろと言われただろう。
それに、私個人としても以前の騎士には随分とせびり取られたからね。
ほとほと、迷惑していたんだよ。」
おいらは覚えてなかったけど、このおじさんと一度顔をあわせていたみたいだね。
「なんか、とても繁盛しているみたいだね。」
おいらは素性を明かすことなく、それとなく水を向けてみたの。
すると。
「ここから、馬車で二日ほど南に行った辺りで街道整備をしているんだよ。
何でも、女王陛下が寂れてしまった辺境の町や村に活気を取り戻したいと仰せのようでね。
街道整備に必要な物資は出来る限り、工事現場の近くで調達せよと命じてくださったそうなんだ。
現場に一番近い大きな町がここだから、この町から色々と買い上げてくださるんだ。
こんなに大量の物資を買い上げてもらえるなんて、今までなかったからね。
本当に大繁盛で有り難いことだ。
ヒーナル王の治世九年間、重税と恐喝で辛酸を舐めさせられた分を一気に取り戻せそうな勢いだよ。」
おじさんは上機嫌で最近の様子を聞かせてくれたよ。
このおじさん、町の世話役をしていることもあって、物資の取りまとめを任されているらしいよ。
この店が、役所から調達品のリストを渡されて、町の各商人に割りふるらしいの。
ただ、この店がエチゴヤみたいに悪どく中抜きをしないように対策はされているみたい。
渡された調達品リストには、役場の調達価格だけじゃなくて、この店の仲介手数料も示されているらしいの。
そして、同じリストは町の告知板にも掲示されるらしいんだ。
それによって、この店から仕事を受ける商人は幾ら稼ぎがあるか、仲介料は幾らかが分かるらしいの。
仲介手数料は、一律一割だそうだから、良心的だとおじさんは言ってたよ。
「おかげさまで、この町の商人は何処も忙しくて、人手を増やして対応しているんでさぁ。
この十年、不景気で仕事にあぶれた者が多かったんだが、それが一気に解消したぜ。
最近では人手の確保のために、近在の村にも声を掛けて雇い入れてる状況なんだ。
うちも腸詰めや燻製肉を作る作業場の使用人を増やして、フル操業で生産してるよ。
それに現場で着られる作業着なんかは、周りの村にも内職に出して手伝ってもらってる。
現金収入の少ない農村では大歓迎のようで、女衆が我先にと引き受けてくれるそうだ。」
「そう、それは良かった。
これからも、頑張ってね。
それと、村へ出している内職にもちゃんとした手当てを払ってるんでしょうね。
内職の手当てを渋って悪どく儲けたらダメだからね。」
「承知していますよ、女王陛下。
要らぬ欲を出して、エチゴヤのように身を滅ぼしたくないですからね。」
「あれ? おいらは、名乗ってないよね?
いつから、分っていたの?」
「最初から分かっていたに決まっているではないですか。
陛下も町人に身をやつして視察に訪れるなんてお人が悪い。
この町の騎士をたった二人で一網打尽にした娘さんのお名前がマロン。
その数か月後に、ヒーナル王を廃して即位されたのが、僅か九歳のマロン女王。
偶然の一致だと思う方が無理があるでしょう。」
おじさんは、さっきまでより少し言葉遣いを正して言ったんだ。
最初から身バレしてやんの…。
おじさんの耳には、不正の限りを尽くしたエチゴヤの末路も届いているらしいよ。
そして、王都から流れて来た商人達の噂では、こんな風に囁かれていたみたい。
新しい女王は慈悲深く民には寛大だけど、民を虐げる貴族やそれと癒着して暴利を貪る商人には苛烈な仕打ちをすると。
そして。
「間違っても、欲をかいてピンハネしようなどとは思いません。
私は、今日、陛下の怖ろしさを身をもって知りましたよ。
いつ何時、町民姿の陛下がひょこっと視察に見えるかわかりませんからね。
欲深い連中は、そんな事、夢にも思ってないでしょうね。」
おじさんは、冗談交じりにそんなことを言ってたよ。
そして、真面目な表所になって。
「ヒーナル王の治世で数多の物品に課された税を撤廃されたこと。
エチゴヤの独占を解いて、自由な商いを認めてくださったこと。
そして、街道整備の物資調達を辺境の町や村で行うと決めてくださったこと。
陛下には感謝しても、しきれないくらいです。
特に、役所の物資調達などは、従来であれば王都の大店に発注されていたものです。
慣例を破って辺境の活性化のために注力してくださったことに敬意を表します。
私も及ばずながら、地元の発展に微力を尽くす所存です。」
おじさんは改めて感謝の言葉を口にすると共に、辺境の活性化に協力することを誓ってくれたよ。
**********
次に訪ねたのは町外れの鍛冶屋さん。
「このバカ野郎!もたもたしてんじゃねえよ!
さっさと型をばらして、バリ取りをするんだ。
そのツルハシが完成しないと、注文の数に足りないんだからな。
もうすぐ、お役人様が引き取りに来ちまうぜ。」
鍛冶屋の工房に入ると、親方らしきお爺さんが若い兄ちゃんにハッパを掛けていたよ。
どうやら、こっちも今日の納品に綱渡りの様子だね。
「親方、こっち、スコップ五つ打ち終りました。
今、下のモンに柄を付けさせていますが、じきに終わります。」
「おう、ご苦労さん。
それが終ったら、今日は終いにして良いぞ。
このところ、忙しくさせちまって悪かったな。」
「何言ってるんですか。
俺達、鍛冶屋は金物を作ってなんぼですよ。
仕事が無くて炉の火が落ちていた半年前に比べたら、遥かにマシですよ。」
仕事に目途が立った中堅の鍛冶職人らしきおじさんが親方とそんな会話を交わしていたよ。
かなり忙しかったみたいだけど、おじさんはむしろやりがいを感じている様子で苦にしてないみたいだった。
「忙しそうだね、お邪魔したら拙いかな?」
おいらが親方に声を掛けると。
「このガキ、何処から入り込みやがった。
ここはガキが遊び来るところじゃねえ。
邪魔だから、サッサと消えな。」
親方にハッパを掛けられて気が立っていたようで、若い兄ちゃんがけんもほろろな言葉を返して来たよ。
すると…。
「痛てぇ…。」
「バカ野郎、この町の恩人に向かってなんて口を利きやがる!
テメエこそ、無駄口叩いてないで言われた仕事をしねえか!」
兄ちゃんの頭に拳骨をくらわして、親方が叱り付けていたよ。
「久しぶりだな、嬢ちゃん。
何時ぞやは、世話になったな。
嬢ちゃんが、ならず者騎士達を一掃してくれたんで。
町は昔の明るさを取り戻したぜ。
騎士から没収した金品の分配も助かったぜ。
あれから、弟子たちにまともな給金が払えるようになったよ。」
どうやら、親方もおいらと面識があったみたい。親方も世話役なのかな。
「ゴメンね、急に訪ねて来て。
忙しいところ、仕事の邪魔しちゃったみたいだね。」
「気にしないで良いぞ。
俺は、今、手隙だからな。
今、やってる仕事は役所からの注文なんだが。
数物だし、鋳物仕事も多いから、俺の出番はあんまり無いんだよ。
ただな、…。」
親方は、さっきの兄ちゃんの方を見ながら言葉を濁したの。
「なんか問題でもあるの?」
「いや、うちは細々と、包丁や鍋釜を作って来たんだがよ。
ここにきて、スコップやらツルハシやらの仕事が舞い込んできて。
それ自体は有り難いことなんだが、いかんせん数が多くてな。」
今まで一点物の仕事ばかりだったのに、量産品を手掛けることになったものだから。
親方とお弟子さんだけじゃ、とても手が回らなくなったらしいの。
それで、町でブラブラしてた若い人や近隣農家の二男、三男を雇い入れたそうなんだ。
鋳物のバリ取りや柄の取り付けくらいには使えるかと思ったと言ってたよ。
でもそれが、とんだ期待外れだったらしくてね。
親方が徒弟として子供の頃から厳しく躾けた弟子と違って、キビキビと働かないようなんだ。
それでも、継ぐ農地がない農家の二男、三男は真面目に仕事を覚えようとするらしいけど。
町で定職に就かずにブラブラしていた若者は、取り敢えず言われた事だけをすれば良いって考えの人が多いようで。
品物の仕上がりなんか気にしない、やっつけ仕事をする人が多いみたい。
その都度、丁寧に指導するんだけど反応はイマイチなんだって。
「そんなのクビにしちゃえば?
おいらが、街道整備の現場に連れて行って、作業員にしちゃっても良いよ。」
「いや、あいつ等は俺が面倒見るぜ。
あいつらだって、最初からあんな半端者じゃなかったんだ。
あいつらが、働く歳になった頃はヒーナル王の悪政で何処も不景気でな。
こんな辺境の町では当然のこと、王都へ出ても仕事なんかありつけなかったんだ。
連中、働く場所が無くて腐っちまったんだよ。
せっかく景気が良くなったんだから、連中に真っ当な仕事を教えてやろうと思ってな。
それも年寄りの仕事だろう。」
親方は言ってたよ、態度の悪い連中も愚王の治世の犠牲者だって。
何とか、更生させてやらないと可哀想だってね。
何年掛かってもいっぱしの仕事が出来るように仕込むと言ってたよ。
「親方、良い人だね。
親方みたいな人がいれば、この町は良くなるね。
何時までも元気に若い人を育ててね。」
「おう、女王陛下にそう言ってもらえると光栄だぜ。
俺、今晩、かかあに女王陛下から労いのお言葉を頂いたって自慢してやる。」
親方はそう言ってニヤッと笑ったんだ。
なに、親方もおいらの素性に気付いていたの?
店の中には、およそ生活に必要なありとあらゆる品が並んでいて、これぞ雑貨屋って雰囲気のお店だったよ。
そこでは、使用人と思しき人が慌ただしく動いていて…。
「旦那、隣村の女衆へ内職に出していた作業着五十着、回収してきました。」
「おう、待っとったぞ。それで、今回出荷分の二百着揃った。
お役人様が受け取りに来るのは今日の夕刻。
何とか、ギリギリ間に合った…。
腸詰め肉も何とか用意できたし…。
おーい、他の品は全部用意できているだろうな。」
「へい、渡されたリスト、全部チェック済みです。
不足しているのは、作業着だけでした。
作業着が揃えば、今日出荷する品の準備は完了です。」
どうやら、街道整備の現場から物資を引き取りに来る日のようで、その準備に右往左往してたみたいだね。
「こんにちは、お邪魔するよ。
繁盛しているみたいだね。」
一段落したのを見計らい、旦那と呼ばれていたおじさんに声を掛けたの。
「おや、あんた、何時ぞやのお嬢ちゃんじゃないかい。
あん時は世話になったね。
お嬢ちゃんが騎士を退治してくれたので助かったよ。」
「おいらのことを覚えていてくれたんだ。」
「この町の恩人を忘れる訳が無いだろう。
私も、あの時、お嬢ちゃんから指示を受けた世話役の一人なんだよ。
騎士団に残されたお金を町の衆に平等に分配しろと言われただろう。
それに、私個人としても以前の騎士には随分とせびり取られたからね。
ほとほと、迷惑していたんだよ。」
おいらは覚えてなかったけど、このおじさんと一度顔をあわせていたみたいだね。
「なんか、とても繁盛しているみたいだね。」
おいらは素性を明かすことなく、それとなく水を向けてみたの。
すると。
「ここから、馬車で二日ほど南に行った辺りで街道整備をしているんだよ。
何でも、女王陛下が寂れてしまった辺境の町や村に活気を取り戻したいと仰せのようでね。
街道整備に必要な物資は出来る限り、工事現場の近くで調達せよと命じてくださったそうなんだ。
現場に一番近い大きな町がここだから、この町から色々と買い上げてくださるんだ。
こんなに大量の物資を買い上げてもらえるなんて、今までなかったからね。
本当に大繁盛で有り難いことだ。
ヒーナル王の治世九年間、重税と恐喝で辛酸を舐めさせられた分を一気に取り戻せそうな勢いだよ。」
おじさんは上機嫌で最近の様子を聞かせてくれたよ。
このおじさん、町の世話役をしていることもあって、物資の取りまとめを任されているらしいよ。
この店が、役所から調達品のリストを渡されて、町の各商人に割りふるらしいの。
ただ、この店がエチゴヤみたいに悪どく中抜きをしないように対策はされているみたい。
渡された調達品リストには、役場の調達価格だけじゃなくて、この店の仲介手数料も示されているらしいの。
そして、同じリストは町の告知板にも掲示されるらしいんだ。
それによって、この店から仕事を受ける商人は幾ら稼ぎがあるか、仲介料は幾らかが分かるらしいの。
仲介手数料は、一律一割だそうだから、良心的だとおじさんは言ってたよ。
「おかげさまで、この町の商人は何処も忙しくて、人手を増やして対応しているんでさぁ。
この十年、不景気で仕事にあぶれた者が多かったんだが、それが一気に解消したぜ。
最近では人手の確保のために、近在の村にも声を掛けて雇い入れてる状況なんだ。
うちも腸詰めや燻製肉を作る作業場の使用人を増やして、フル操業で生産してるよ。
それに現場で着られる作業着なんかは、周りの村にも内職に出して手伝ってもらってる。
現金収入の少ない農村では大歓迎のようで、女衆が我先にと引き受けてくれるそうだ。」
「そう、それは良かった。
これからも、頑張ってね。
それと、村へ出している内職にもちゃんとした手当てを払ってるんでしょうね。
内職の手当てを渋って悪どく儲けたらダメだからね。」
「承知していますよ、女王陛下。
要らぬ欲を出して、エチゴヤのように身を滅ぼしたくないですからね。」
「あれ? おいらは、名乗ってないよね?
いつから、分っていたの?」
「最初から分かっていたに決まっているではないですか。
陛下も町人に身をやつして視察に訪れるなんてお人が悪い。
この町の騎士をたった二人で一網打尽にした娘さんのお名前がマロン。
その数か月後に、ヒーナル王を廃して即位されたのが、僅か九歳のマロン女王。
偶然の一致だと思う方が無理があるでしょう。」
おじさんは、さっきまでより少し言葉遣いを正して言ったんだ。
最初から身バレしてやんの…。
おじさんの耳には、不正の限りを尽くしたエチゴヤの末路も届いているらしいよ。
そして、王都から流れて来た商人達の噂では、こんな風に囁かれていたみたい。
新しい女王は慈悲深く民には寛大だけど、民を虐げる貴族やそれと癒着して暴利を貪る商人には苛烈な仕打ちをすると。
そして。
「間違っても、欲をかいてピンハネしようなどとは思いません。
私は、今日、陛下の怖ろしさを身をもって知りましたよ。
いつ何時、町民姿の陛下がひょこっと視察に見えるかわかりませんからね。
欲深い連中は、そんな事、夢にも思ってないでしょうね。」
おじさんは、冗談交じりにそんなことを言ってたよ。
そして、真面目な表所になって。
「ヒーナル王の治世で数多の物品に課された税を撤廃されたこと。
エチゴヤの独占を解いて、自由な商いを認めてくださったこと。
そして、街道整備の物資調達を辺境の町や村で行うと決めてくださったこと。
陛下には感謝しても、しきれないくらいです。
特に、役所の物資調達などは、従来であれば王都の大店に発注されていたものです。
慣例を破って辺境の活性化のために注力してくださったことに敬意を表します。
私も及ばずながら、地元の発展に微力を尽くす所存です。」
おじさんは改めて感謝の言葉を口にすると共に、辺境の活性化に協力することを誓ってくれたよ。
**********
次に訪ねたのは町外れの鍛冶屋さん。
「このバカ野郎!もたもたしてんじゃねえよ!
さっさと型をばらして、バリ取りをするんだ。
そのツルハシが完成しないと、注文の数に足りないんだからな。
もうすぐ、お役人様が引き取りに来ちまうぜ。」
鍛冶屋の工房に入ると、親方らしきお爺さんが若い兄ちゃんにハッパを掛けていたよ。
どうやら、こっちも今日の納品に綱渡りの様子だね。
「親方、こっち、スコップ五つ打ち終りました。
今、下のモンに柄を付けさせていますが、じきに終わります。」
「おう、ご苦労さん。
それが終ったら、今日は終いにして良いぞ。
このところ、忙しくさせちまって悪かったな。」
「何言ってるんですか。
俺達、鍛冶屋は金物を作ってなんぼですよ。
仕事が無くて炉の火が落ちていた半年前に比べたら、遥かにマシですよ。」
仕事に目途が立った中堅の鍛冶職人らしきおじさんが親方とそんな会話を交わしていたよ。
かなり忙しかったみたいだけど、おじさんはむしろやりがいを感じている様子で苦にしてないみたいだった。
「忙しそうだね、お邪魔したら拙いかな?」
おいらが親方に声を掛けると。
「このガキ、何処から入り込みやがった。
ここはガキが遊び来るところじゃねえ。
邪魔だから、サッサと消えな。」
親方にハッパを掛けられて気が立っていたようで、若い兄ちゃんがけんもほろろな言葉を返して来たよ。
すると…。
「痛てぇ…。」
「バカ野郎、この町の恩人に向かってなんて口を利きやがる!
テメエこそ、無駄口叩いてないで言われた仕事をしねえか!」
兄ちゃんの頭に拳骨をくらわして、親方が叱り付けていたよ。
「久しぶりだな、嬢ちゃん。
何時ぞやは、世話になったな。
嬢ちゃんが、ならず者騎士達を一掃してくれたんで。
町は昔の明るさを取り戻したぜ。
騎士から没収した金品の分配も助かったぜ。
あれから、弟子たちにまともな給金が払えるようになったよ。」
どうやら、親方もおいらと面識があったみたい。親方も世話役なのかな。
「ゴメンね、急に訪ねて来て。
忙しいところ、仕事の邪魔しちゃったみたいだね。」
「気にしないで良いぞ。
俺は、今、手隙だからな。
今、やってる仕事は役所からの注文なんだが。
数物だし、鋳物仕事も多いから、俺の出番はあんまり無いんだよ。
ただな、…。」
親方は、さっきの兄ちゃんの方を見ながら言葉を濁したの。
「なんか問題でもあるの?」
「いや、うちは細々と、包丁や鍋釜を作って来たんだがよ。
ここにきて、スコップやらツルハシやらの仕事が舞い込んできて。
それ自体は有り難いことなんだが、いかんせん数が多くてな。」
今まで一点物の仕事ばかりだったのに、量産品を手掛けることになったものだから。
親方とお弟子さんだけじゃ、とても手が回らなくなったらしいの。
それで、町でブラブラしてた若い人や近隣農家の二男、三男を雇い入れたそうなんだ。
鋳物のバリ取りや柄の取り付けくらいには使えるかと思ったと言ってたよ。
でもそれが、とんだ期待外れだったらしくてね。
親方が徒弟として子供の頃から厳しく躾けた弟子と違って、キビキビと働かないようなんだ。
それでも、継ぐ農地がない農家の二男、三男は真面目に仕事を覚えようとするらしいけど。
町で定職に就かずにブラブラしていた若者は、取り敢えず言われた事だけをすれば良いって考えの人が多いようで。
品物の仕上がりなんか気にしない、やっつけ仕事をする人が多いみたい。
その都度、丁寧に指導するんだけど反応はイマイチなんだって。
「そんなのクビにしちゃえば?
おいらが、街道整備の現場に連れて行って、作業員にしちゃっても良いよ。」
「いや、あいつ等は俺が面倒見るぜ。
あいつらだって、最初からあんな半端者じゃなかったんだ。
あいつらが、働く歳になった頃はヒーナル王の悪政で何処も不景気でな。
こんな辺境の町では当然のこと、王都へ出ても仕事なんかありつけなかったんだ。
連中、働く場所が無くて腐っちまったんだよ。
せっかく景気が良くなったんだから、連中に真っ当な仕事を教えてやろうと思ってな。
それも年寄りの仕事だろう。」
親方は言ってたよ、態度の悪い連中も愚王の治世の犠牲者だって。
何とか、更生させてやらないと可哀想だってね。
何年掛かってもいっぱしの仕事が出来るように仕込むと言ってたよ。
「親方、良い人だね。
親方みたいな人がいれば、この町は良くなるね。
何時までも元気に若い人を育ててね。」
「おう、女王陛下にそう言ってもらえると光栄だぜ。
俺、今晩、かかあに女王陛下から労いのお言葉を頂いたって自慢してやる。」
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