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アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第426話 色々と情けない話を聞かされたよ

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 トアール国にほど近い辺境の町。
 広場で屋台のオッチャンに町の様子を尋ねてたら、駐在している騎士達に会ったよ。
 この町に駐在してる騎士達は真面目に町の治安向上に取り組んでいるみたい。
 屋台のオッチャンからも、悪さをする冒険者が減ったと感謝されてたよ。
 しばらく会話を交わすと、騎士達は町の巡回に戻っていったの。
 おいらは、もう少し詳しく最近の様子を教えてもらうために、騎士の詰め所を訪ねることにしたんだ。

「不正を働いて騎士の身分を剥奪した者達を、この付近の開拓に送り込んだ訳だけど。
 連中、真面目に開拓に取り組んでるかい。
 まさか、逃げ出してなんていないだろうね。」

 詰め所を訪ねて師団長と挨拶を交わしたおいらは、早速本題に入ったの。
 ここに立ち寄った目的の一つがこれを確認するためだもの。
 ヒーナルが黒死病の蔓延を防ぐために、感染者が出た村を住民ごと焼き払っちゃったから。
 そのせいで、この国全体の食糧生産力が落ちているの。
 その対策として、ヒーナルに加担して民衆を虐殺した騎士を辺境の再開発に送り込んだんだ。
 本来なら死罪にするところなんだけど。
 農産物増産のため働いてもらう条件で、お家取り潰しだけで赦してあげたの。
 真面目に働いて農作物の生産を増やしてもらわないと困るんだよ。マジで。
 
「連中、辺境に送られた当初は不満を漏らしてましたが。
 やれ、貴族の血筋の自分達対するこの仕打ちはけしからんとか。
 やれ、何で農作業などしないといけないのかとか。
 ですが、人里離れた土地に置き去りにされて観念したみたいです。
 とにかく、家を建てないことには雨風も凌げませんし。
 周囲には魔物もうろついておりますのでね。
 陛下が連中を辺境に送り届けて数日後には家を建て始めていました。」

 辺境の開拓を命じた元騎士達は、アルトの『積載庫』に乗せて廃村に連れて行ったの。
 スタンピードで潰れた村と黒死病の蔓延防止のために焼き払った村の跡だね。
 元々村だった場所なので、井戸があるから飲み水と炊事洗濯には困らないと思ってね。

 連中は家族を含めて約百人単位で一つの廃村に置いて来たんだ。
 もっとも、お家取り潰しで貴族と騎士の地位を剥奪された挙句、辺境の開拓を命じられた訳だからね。
 ほとんどの奥さんは子供を連れて実家に帰っちゃったよ。
 騎士と一緒について来た妻子は実家もお取り潰しになって、帰る場所の無くなった人ばかりだった。

 開拓村毎に、家を建てるための資材と、生活や農作業に必要な器具や種苗を配給しておいたんだ。
 それと、当面の雨風を凌ぐための天幕と農作物が実るまでの食料もね。

 移動するための馬もお金も渡さなかったから、町や村に出るのも無理だと思うし。
 不平不満を言って働かないと、あっと言う間に生活が破綻してしまう状態に置いて来たんだ。
 今まで、まともに働いたことなんか無かった連中も、すぐにそれに気付いたみたいだよ。

「そう、それで最近はどんな様子かな? 
 開拓地に送り込んで半年過ぎたし、家はだいたい建ったかな?
 農作業なんかもちゃんとしている?
 逃げだした人や亡くなった人はどう。」

「はい、一月に一回は必ず巡回して全員の存在確認は行っていますが。
 今のところ、脱走者はおりません。
 病気や飢えで亡くなった者もおらず、人数の増減はありません。
 家は…、正直難航しておりまして、どの開拓地も完成したのは数軒。
 そこに、身を寄せ合って雑魚寝で生活しています。
 農作業の方は少しはマシですな。
 食糧が減って来たことに焦りを感じた様子で、懸命に農作業に取り組んでおります。
 何とか、栽培の容易な芋は収穫に漕ぎ着けそうです。」
 
 連中を置き去りにした開拓地は、何処も今人が住む町や村から大分離れているんだ。
 ヒーナルの治世下にかなりの村を滅ぼしちゃったからね。
 しかも、辺境部には魔物もちらほらいるときてる。
 王都にいる間、魔物狩りはおろか、訓練もロクにしてなかった連中だもの。
 何処にあるかも分からない人里を探して、物騒な場所を彷徨う気概は無いみたいだね。。 

 一軒の家に雑魚寝をするのが嫌な人達は、引き続き天幕で暮らしているみたい。
 天幕暮らしを続けているのは、主に妻子を連れて来た人らしいよ。

 連中に農作業をさせるに当たっては、手引き本を一緒に置いて来たんだけど。
 ちゃんと芋が収穫できそうだということは、役に立ったみたいだね。
 農作物の栽培に詳しい役人に大急ぎで手引書を書いてもらった甲斐があったよ。

      **********

「それと、陛下が心配されていたキーン一族派の騎士のことですが。
 辺境警備の駐屯地を設けた周囲の村々には、この町から輪番制で騎士を常駐させています。
 辺境警備を命じた騎士が村人に不埒な振る舞いをしないように取り締まると共に。
 連中が、街道沿いの魔物や盗賊の退治をサボっていないか監視しております。」

 キーン一族派の騎士の中で、民の虐殺に関与してない者達は騎士の地位を安堵する代わりに辺境の警備を命じたんだ。
 住民に迷惑を掛けないように、町や村の外に駐屯地を設けて悪化した街道の治安維持を命じたんだ。
 町や村への立ち入りは生活必需品の調達する時のみで、最小限の人数で行うものとしたし。
 その際は住民へ迷惑行為を厳禁としたよ。

 そして、それがちゃんと守られているどうか監視するのもこの町に駐屯している騎士の役割なの。

「適正な運用だと思うよ、これからもよろしくね。
 それで、辺境警備を命じられた騎士達の職務遂行状態はどうかな?」

 おいらの問い掛けに対して、師団長は苦い顔をして…。

「実は、この半年で既に三十名の騎士が落命しております。
 内訳は、魔物・害獣狩りの際に落命した者、十八名。
 盗賊の隠れ家を摘発した際に落命した者、十名。
 それと…。」

 そこまでで、師団長は言い淀んでしまったの。

「それと?」

 おいらの問い掛けに師団長は言い難そうに口を開いたよ。

「実は、村に買い出しに来た際に村の娘を無理やり手籠めにしようとした者が居りまして…。
 私の部下が巡回中に現場に遭遇しまして、その場で斬り捨てたのです。
 騎士たるものが、婦女子に暴行するとはけしからんと。」

 どうやら、おいらの厳命に背いて村で悪さをしようとした不心得者がいたみたい。

「そう、そんな不心得者がいたのは残念だけど。
 村の娘さんを救ってくれた騎士には、有り難うと伝えておいて。
 しかし、この辺りに送り込んだ騎士は約千名、半年で三十人も命を落とすと言うのは少し多いね。
 そんなに強い魔物とか、手強い盗賊とかがいたのかね。」

 おいらが経緯を尋ねると師団長はまたもや困った顔をして。

「いえ、それが、魔物狩りで落命した者は、もちろん熊や狼と言った猛獣に敗れた者もおるのですが…。
 その半数以上は、食糧の確保のためにウサギを狩りを行って返り討ちに遭いまして…。
 本当に情けないです。
 陛下が手懐けてしまう魔物に後れを取るような騎士が少なからずいるとは。
 野盗にしてもそうです。
 野盗にねぐらに押し入ると言うのに、バカ共が長い剣を持ってきおって…。
 狭い室内でロクに剣を振り回す事も出来ずに、槍で刺殺される者が続出しまして。
 連中ときたら、ヒーナルの治世下、ロクに訓練もしなかったものですから。
 戦い方というものが分かっておらんのです。」

 心底呆れたって雰囲気で、状況を説明してくれたよ。
 どうやら、師団長は自分の目の届くところに駐屯している騎士が多数落命したことに負い目を感じているみたい。
 辺境警備の騎士は師団長と指揮系統が別で、師団長が責任を感じる必要は無いのにね。

「まあ、仕方がないよ。 
 騎士と名乗る以上は、鍛錬を欠かして不覚をとるのは自業自得だもの。
 師団長の役目は連中の監視であって、指導じゃないんだから気にしないで。
 所属する駐屯地から死者を出したなら、二の舞いにならないように鍛錬するでしょう。
 反面教師になってくれたと、前向きに考えようよ。」

「陛下の寛大なお言葉に感謝します。
 仰せの通り、これに懲りて鍛錬を始めることに期待しますかな。」

 おいらの言葉に、師団長も肩の荷が下りたような表情をしていたよ。
 監督不行き届きで、おいらに叱責されると思ってたのかな。

       **********

「ところで、この近くの辺境で街道整備を始めたんだけど。
 色々な物資をこの町で調達しているの。
 地元にお金を落して、辺境の町や村を活気づかせようと思ってね。
 街道整備の工事が始まって数か月になるけど、この町に何か変化はあったかな。」

 おいらの質問に師団長は首をひねり…。

「申し訳ございません。
 私、そちらの方は、あまり詳しくはなくて…。
 確かに、このところ、周辺の村からこの町に働きに出て来る者が増えている様子で。
 少し賑やかになったなとは感じていましたが、街道整備などを始めたのですか。
 でしたら、隣にある大店の雑貨商か、町外れにある鍛冶屋の工房を覗いてみたら如何でしょう。
 物資の調達が増えているのなら、その辺りが恩恵を受けていると思いますが。」

 この師団長、景気のことには無頓着の様子で、街道整備をしている事すら知らなかったよ。
 でも、師団長の言葉にも一理ありそうだね。
 この町に恩恵があるかどうかは、大店や鍛冶屋に行って話を聞いてみるのが良いかもしれない。
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