ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
425 / 848
第十五章 ウサギに乗った女王様

第424話 レクチェ姉ちゃんをお風呂に誘ったの

しおりを挟む
 ギルドの支部にマルグリットさんを連れていった後、タロウとおいら達はレクチェ姉ちゃんの館へ戻ったの。

「レクチェ姉ちゃん、おいら、この町に別荘を造ろうと思うのだけどかまわないかな?」

 エチゴヤの土地は自前の物のようだし、エチゴヤは正式においらの名前で接収してあるから。
 おいらがどう使おうと勝手ではあるのだけど、ここはマイナイ家の領地だからね。
 勝手に王家が別荘など造ると目障りかも知れないので、一応確認したんだ。

「別荘でございますか?
 はあ、それは別にかまいませんが。
 何か、この町にお気に召すものがございましたか?」

 レクチェ姉ちゃんはこんな田舎じゃ、別荘を建てても面白くないだろうと言ってるの。
 別段風光明媚な土地でもないし、名物と言えるほど美味しいものも無いし。
 そもそも、魔物の領域に面しているだけでも、およそ別荘用地には向いてないんじゃないかって。

「レクチェ姉ちゃん、この町に温泉が湧いていることを知らないの?
 風呂屋が集まっている一帯、あそこ温泉街なんだよ。
 タロウから教えてもらって、エチゴヤが経営してた風呂屋を見て来たけど。
 とっても良い湯加減で、滾々と湧き出しているの。
 おいら、エチゴヤの風呂屋と賭場を取り壊して、別荘にしようと思ってるんだ。」

「温泉ですか?
 そのようなもの、聞いたこともございませんね。
 爺や、何か聞き及んでいますか?」

 レクチェ姉ちゃんは温泉のことを知らなかった様子で、執事のお爺ちゃんに尋ねていたよ。

「姫様がご存じないのも無理がありません。
 何せ、色街のこと故、亡くなった先代も姫様の耳に入れることを憚ったのでしょう。
 あの界隈の事情は、歳若く未婚の娘にお聞かせするような話ではございませんから。」

 あの場所に温泉が湧いたのは百年くらい前のことらしいよ。
 井戸を掘っていたら、突然お湯が噴き出したんだって。
 それを聞いた当時の領主は、今いる館の敷地内でも温泉が湧くかもと思い何ヶ所か試し掘りをしたそうだよ。
 残念ながら、温泉を掘り当てることは出来なかったようだけど。

 最初、領主は温泉を館まで引いて来ようとしたらしいけど、断念したそうなんだ。
 温泉が湧いた場所と領主の館は結構離れていて、その間には建物が密集した街区があるのからね。
 結局、当時の領主は温泉の湧いた一帯を歓楽街にする事にしたらしいの。
 
 この領地を支えているのは砂金から得られる収入で。
 砂金を採取するのはもっぱら他所から来た若い男の人だからね。
 なるべくこの町に定着して砂金採りを続けてもらえるようにと、若い男の人が喜ぶ歓楽街を創ったそうなの。
 もちろん、砂金採りで稼いだお金を巻き上げようとの下心もあったみたいだけどね。
 更に、欲望の捌け口が無いと、砂金採りの男共が町の娘さんに手を出すんじゃないかという心配もあったみたい。
 そんな訳で、温泉が湧いた一帯は『風呂屋』を中心とする歓楽街になったそうだよ。

「ただ、あの一帯も殿が領主になるまではあそこまで無法地帯にはなってなかったのです。
 風呂屋や賭場の数も少なかったし、営業時間も夕方からでした。
 殿が領主を引き継いだ頃、エチゴヤとギルドの者が唆したのです。
 歓楽街を大きくして、砂金採りの連中から有り金全部巻き上げてしまおうと。
 それから十年で、風呂屋や賭場、それと、いかがわしい酒場が増えたのです。
 今じゃ、昼間から悪質な客引きが横行するありさまでして。
 もう、堅気の者が通れる道ではなくなってしまいました。」

 アルトが教育に悪いから、おいらやオランにあの通りの光景は見せられないと言ってたけど。
 前の伯爵がそんな状態にしちゃったんだね。 
 
 そんな状況なので、レクチェ姉ちゃんには温泉のことも知らされてなかったんだね。

     **********

「ええと、マロン陛下…。
 そんないかがわしい街区に別荘を建てられるつもりでございますか?
 王家が別荘を構えるのには不適切なのでは…。」

 お爺ちゃんの説明を聞いて、レクチェ姉ちゃんは尋ねてきたよ。

「接収したエチゴヤの風呂屋と賭場は丁度四方を道に囲まれた一区画になってるの。
 区画全体を塀で囲っちゃえば、立地は気にならないよ。
 そんなことよりも、湯量豊富で、湯加減も丁度いい温泉は貴重だもの。」

 おいらがレクチェ姉ちゃんに答えると、それに続けるようにタロウが言ったの。

「さっきの爺さんの話を聞いて納得したんだが。
 マロンが別荘を建てようとしてる区画は歓楽街の入り口に当たるところなんだ。
 多分、最初は町の外れ、歓楽街は奥の方の街区だけだったんだろうが。
 エチゴヤとギルドはこの十年で新たに入り込んだから、手前にあるんだと思う。
 それでひまわり会も、マロンの別荘予定地の前では、いかがわしい商売を廃業したんだ。」

 タロウはその言葉に続けて、テーブルの上に紙を置いて歓楽街の略図を描いたの。
 そして、おいらの別荘予定地と『ひまわり会』が持つ風呂屋や賭場の場所を書き込んだよ。

「見ての通り、エチゴヤとギルドの土地は、堅気の街に面した位置にあって。
 伯爵家が経営している風呂屋と賭場は、奥の方、町外れにあるんだよ。
 それで、ギルドは賭場と酒場は全部廃業した。
 風呂屋も三店舗から一店舗に減らすつもりなんだ。
 それで、空いた土地、マロンの別荘の向かいの区画は健全な商売をしようと思う。
 そしたら、少なくとも今の歓楽街の表部分は、歓楽街じゃなくなるぜ。」

 タロウはそう言って、ギルドの風呂屋と賭場のあった場所の内、エチゴヤの土地の向かいを塗りつぶしたの。
 
「タロウさん、健全な商売とは?
 ひまわり会はその土地で何をしようと思っているのですか?」

「おお、領主さんは思いも寄らないかも知れないが。
 あの場所に、公衆浴場、普通の人向けの風呂屋を造ろうと思うんだ。
 いかがわしいサービスの無い、体の汚れを落とし、体を温める風呂をな。
 マロンが育った町にはあったんだぜ、タダで入れる公衆浴場が。
 ギルドがやるからにはタダって訳にはいかねえが、なるべく安くするつもりだぜ。」

「タロウ、ナイスだよ!
 良い案だと思う、あんなに良い温泉なんだもの。
 町の人にも入ってもらわないと勿体ないもんね。」

 タロウにしては良いことを言うと思ったよ、見直しちゃったよ。
 でも、温泉を知らないレクチェ姉ちゃんには、ピンとこないみたいで。

「はあ? 公衆浴場ですか? 
 どのようなものか、見当もつきませんが…。
 いかがわしい街の風紀が改善するのであれば是非もございません。
 もとより、ギルドの所有する土地でしょうし、自由にされて結構ですよ。」

 あまり関心を示すことなく、そんなことを言ってたよ。

         **********

 そんな訳で…。

「これが温泉ですか。
 体が心から温まって、とても心地良いものですね。
 それに、桶にお湯を入れて部屋で体を拭くのに比べ。
 広い洗い場ですと、体の隅々まで良く洗えてとてもサッパリしますわ。
 今まで、こういった浴場を知らなかったのは損をした気分です。」

 廃業したエチゴヤの風呂屋の浴場にレクチェ姉ちゃんを連れて来たよ。
 百聞は一見に如かず、温泉の良さを知ってもらうためにね。

「ねえ、良いでしょう。
 アルトから教えてもらった話なんだけど。
 お風呂に入って体を清潔に保つと健康にも良いらしいよ。
 皮膚病やシモの病気を予防できるだって。
 シモの病気ってのがどんなものか分からないけどね。
 それだけじゃくて、全身の血行が良くなると疲労も取れると言ってたよ。」

「あら、そうなんですか。
 ますます、今まで知らなかったのが損をした気分です。
 私も浴場が欲しくなりましたわ。
 でも、館まで温泉を引いて来るのは難しいのですよね…。」

 温泉を気に入ったレクチェ姉ちゃんは、自分もお風呂が欲しいと零したの。

「おっ、そう言ってくれると助かるぜ。
 領主様、ものは相談なんだけど…。」

「キャーーー!
 タロウさん、あなた、何でこんな所にいるんですか!
 それに、オラン様も!。」

 タロウは、領主の館で言い損ねたことがあったんだ。
 レクチェ姉ちゃんの言葉を聞いてこれ幸いと声を掛けたよ。
 レクチェ姉ちゃん、パニック起こして、それどころじゃないみたいだけど。

「何でって、俺とオランは、領主様やマロンよりも先に風呂に浸かっていたぞ。
 女の人は着替えに時間が掛かるみたいだからな。
 俺達が一足先に入っていたんだ。」

「そう言う事ではありません。
 私は、領主、それも未婚の女性なのですよ。
 結婚前に旦那様以外の殿方に肌を晒すなんて…。
 そもそも、女王陛下のあられもない姿を覗き見るとは不遜が過ぎます。」

 レクチェ姉ちゃんが、洗い布で胸を隠しながら抗議すると。

「そんな事を言っても、マロンが一緒に入れと言ったんだし。
 マロンとは、もう二年も一緒に混浴の公衆浴場に行ってるからな。
 妹と一緒に風呂に入るようなものだ。
 だいたい、こんなガキんちょに欲情するような変態じゃないって。」

 そう、実はおいらがタロウを一緒にお風呂に誘ったんだ。
 タロウがレクチェ姉ちゃんに頼み忘れた事があると言ったから。
 その内容は、実際にお風呂に入った時に話してもらう方が良いと思ったからね。

 タロウの言葉を聞いたレクチェ姉ちゃんは、おいらを非難するような目で睨んだけど。
 冷静さを取り戻すとタロウに問い掛けたの。

「それで、相談とはいったい、どのような事でしょうか?」

「おう、実はこの隣の街区にひまわり会が経営する『大人の風呂屋』があるんだけどな。
 周り三軒、伯爵家が経営する賭場なんだよ。
 女王陛下の別荘の隣が風呂屋と言うのも何だし。
 奥まったところにある伯爵家の風呂屋と交換してもらえないかと思ってな。」

 ギルドが所有する他二軒の風呂屋と賭場は同じ区画にまとまってたの。
 それを全部潰して公衆浴場にする計画なんだけど。
 一軒だけ飛んだ場所に在って、それがこの敷地の隣なんだ。
 健全な街区のすぐ横に『大人の風呂屋』はよろしくないのではと言う話になったんだ。
 それで、街路の奥まったところに集まっている伯爵家の風呂屋と交換を持ち掛けるつもりだったの。

「領主様が温泉を気に入ったなら、ひまわり会の風呂屋を別邸に使えば良いと思うぞ。
 この隣の街区はひまわり会の風呂屋の他は全て伯爵家が保有する賭場になっている。
 賭場だって今は数が多過ぎだと思うからな。
 風呂屋と一緒に取り壊して、伯爵家の別邸を建てれば良いじゃんか。
 そうすれば、王家と伯爵家の別荘が並んで、向いは健全な公衆浴場。
 この街区の雰囲気も大分よくなると思うぜ。」  

 タロウは、予めおいらと打ち合わせをしておいた計画を持ち掛けたんだ。

「それ良いですね。
 タロウさんのご指摘通り、この歓楽街はウノの町の規模に比して大きすぎです。
 いかがわしいお店は少し減らした方が良いでしょう。
 風呂屋の交換の件は私の権限で承諾いたしました。
 詳細については、館に戻って爺やも交えて相談しましょう。
 そうだ、健全な公衆浴場、なるべく多くの民に利用して欲しいので。
 伯爵家が資金援助しましょう、出来るだけ安く入浴できるようにしてもらえませんか。」

 お湯に波を立てて、いきなり湯船から立ち上がったレクチェ姉ちゃん。
 タロウの正面に進むと、その手を取ってタロウの提案に賛同したんだ。
 レクチェ姉ちゃんは思いの外温泉がお気に召した様子だね。
 ひまわり会が新たに創る公衆浴場にも協力してくれるなんて言ってるの。

 でも良いの? さっき胸を隠していた洗い布、湯船に浮かんでるよ。
 嫁入り前の娘さんが、包み隠すことなく全部タロウに晒しちゃってるけど…。 
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...