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第十五章 ウサギに乗った女王様

第421話 タロウが発見してくれたのは

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 『牛祭り』の数日後、『ひまわり会』の支部を尋ねると。
 ゲッソリとやつれたタロウが、目の下に隈を作りながら机に向かっていたよ。

「タロウ、この支部の後始末、そんなに大変なの。
 あんまり寝てないんじゃない?
 そんなに根詰めて仕事しないでも良いよ。
 おいらとオランならゆっくりこの町に滞在していても大丈夫だから。
 無理せずに適度に休息を取りながら仕事しなよ。」

 このままじゃ、タロウが倒れるんじゃないかと心配になるよ。

「おお、マロンか。
 いや、これは別に仕事が大変な訳じゃ無くてな。
 連日、姉さん達が眠らせてくれないんだよ。
 明け方まで相手されられるもんだから寝不足でな。」

 なんだ、やっぱり、仕事で徹夜続きなんじゃない。
 バニラ姉ちゃん達、今、アルトの積載庫の『特別席』でタロウと一緒に寝起きしているの。
 夜、ギルドのをしたいとからと言って、アルトに部屋の提供をお願いしたんだ。
 明け方まで会議をする必要があるなんて、やっぱり問題の多い支部だったんだね。

 でも、ちょっと変なんだ。
 バニラ姉ちゃんを始め、お姉ちゃん達はみんな元気で、徹夜疲れしているようには見えないよ。
 それどころか、顔をテカテカさせてとっても血色が良いの。
 
 おいらがそのことを尋ねると。

「ああ、姉さん達は満たされたら、順番に寝てるからな。
 姉さん達は俺一人が相手だけど、俺は姉さん達五人を相手にしてるから寝る間も無いんだ。
 しかも、一旦満足しても、ゾンビみたいに復活してエンドレスだもんな。
 まったく、『異世界チーレム』だなんて、寝ぼけたこと言ってたのは何処の誰だよ。」

「順番に寝てた? 会議だよね?
 会議中に居眠りしているの?
 そんなんだったら、早めにお開きにして翌日に回せば良いじゃない。
 居眠りしてまで、会議しているなんて効率が悪いよ。」

「あっ、いや、会議ってのは建前で…。
 支部の点検の仕事を姉さん達に押し付けた報酬と言うか…。
 その何だ、俺がお詫びに姉さん達にご奉仕している訳で…。」

 おいらの指摘に、タロウが要領を得ない言葉を漏らしていると。

「あら、そんなに眠いのなら、私が目を覚ましてあげましょうか。
 それとも、永遠の眠りを与えてあげた方が良いかしら?
 あんたが爛れた生活をするのは勝手だけど。
 マロンの教育に悪いことは口にするなと常々言ってるのを忘れたのかしら?」

 いつからそこにいたのか、おいらの背後からアルトの声が聞こえたんだ。
 アルトは何だかご機嫌斜めみたい。 

「怖えよ、アルト姐さん。
 だから、マロンに悟られないように言葉を濁してるじゃないか。
 俺だって、幼児相手に十八禁のセリフを吐かないように気を遣ってるんだぜ。」

 タロウは、アルトのビリビリを逃れるべく、必死に抗弁してたよ。
 どうやら、おいらは聞いちゃいけないことを聞いてしまったみたいだね。

       **********

「それでどうなの?
 この支部で、『銀貨引換券』の取り扱いは出来そう?」

 アルトがお冠なので、おいらは話題を変えることにしたの。
 と言うより、これが本題だね。

「おう、不正を働きそうな連中は全部首にしたし。
 この支部には、本部にも内緒で貯め込んでた金がべらぼうに有ったんだよ。
 この支部の幹部連中、前の領主やエチゴヤと結託して大分稼いでいたようでな。
 これなら、銀貨引換券の取り扱いはいけると思うぞ
 不正を取り締まる体制さえ整えれば、支配準備金は十分に有りそうだからな。」

 このタロウの返答が、バニラ姉ちゃん達五人を交えて検討した結果らしいの。
 当面考えているのは、王都とウノの町間だけで銀貨の持ち運びを不要にしようと言う事だから。
 今この支部に備蓄してある銀貨で、支払準備金は十分だろうって事になったらしいよ。

「そんな訳で、マロン、預けてあるアレを出してもらえるか。」

 タロウの依頼に応えておいら達は、事務所の奥にある外壁に面してない部屋の一つに場所を移したの。

「ここに置けばいいんだね。」

 タロウの指示で積載庫から出したのは、山の民チンに作ってもらった巨大な金庫。
 今いる部屋のほぼ半分の面積が金庫で埋まっちゃったよ。
 部屋の扉よりはるかに大きいから、『積載庫』抜きには持ち込み不可能なんだ。
 それが、銀貨を保管しておく金庫。
 持ち出しも破壊も出来ない分厚い鉄製の金庫で、頑丈な扉には複雑な鍵が二つも付いてるの。
 これなら外部からの侵入者が盗み出すことは出来ないから、後は内部の不心得者に用心すれば良いの。

 金庫の設置が終ると、お姉ちゃん達がさっそく建物に分散して貯め込んであった銀貨を運び込んでいたよ。

「それで、マロン、ギルドの経営について報告があるんだが。
 この支部が経営してた高利貸は廃業して、法外な利息を取っていた客に金を返すことにしたよ。
 それと、賭場も閉めた、賭場で稼いだ金は返還しようがないので今後の支部の運営に使おうと思ってる。
 ぼったくりの酒場も閉めて、ガラの悪い従業員は全員首にした。
 あと残るは風呂屋なんだがな…。」

 タロウは、この支部が手掛けていたあこぎなシノギの後始末を報告してくれたんだけど。
 途中で言葉を区切るとアルトの方へ視線を向けたの。
 アルト、おいらの前で『風呂屋』の話をするのを快く思ってないからね。

「あんた、風呂屋のことなんて、子供に聞かせる話じゃないでしょう。
 そんなの一々、マロンに報告しなくても良いでしょうが。」

 アルトは目の前にバチバチと火花を上げる青白い光の玉を浮かべると、予想通りの言葉を口にしたよ。
 そして、風呂屋のことはタロウの責任で決めればそれで良いって言ってた。

「アルト姐さん、その物騒なモノはしまってくれよ。
 風呂屋で何をしてるかなんて、マロンの前じゃ口にしないから勘弁してくれ。
 俺、昨日、この支部が経営する風呂屋を視察に行って凄い発見をしたんだ。
 これは、マロンに報告しないといけないと思ったんだよ。」

 タロウは、アルトの出した禍々しい光の玉に怯えて、後退りながらそんなことを言ったの。

「凄い発見? 何それ?」

 アルトより先においらがタロウに尋ねると。

「おお、それがな、この町の『風呂屋』は本当に風呂屋だったんだよ。」

「あんた、何訳の分からないこと言っているの?
 本当に風呂屋って、風呂屋に本当も嘘も無いでしょうが?」

 アルトは、タロウの言わんとしている事が理解できずにそんな疑問を投げかけたんだ。
 だけど、おいらは、すぐにピンと来たよ。

「タロウ、ここの『風呂屋』は本当にお風呂があるの?」

 王都じゃ真水が貴重なんで、風呂屋を名乗っているのにお風呂が無いんだ。
 なんちゃって、風呂屋。
 本当は、『娼館』って言うらしいけど、余り人前で口にする言葉じゃないらしくて。
 遠回しに『風呂屋』と呼んだのが定着しちゃたらしいの。

 タロウは、ひまわり会が王都で経営してる風呂屋が余りに不衛生だったので。
 泡姫さんの待遇改善を兼ねて、王都の風呂屋で初のお風呂を造ったんだ。
 とは言え、貴重な真水を無駄にすることは出来ないので、仕方なく蒸し風呂にしたの。
 そのタロウが本当の風呂屋と言うのだから…。

「おう、ちゃんと浴槽付きの風呂があるんだよ。
 しかも、天然温泉。
 それでよ、エチゴヤも二軒並んで風呂屋を経営してるんだ。
 二軒併せると結構な広さでな。
 エチゴヤはマロンの名で接収してあるから、風呂屋もマロンのものだろう。
 マロンが何かに使うんじゃないかと思って報告したんだよ。」

 タロウ、ナイスだよ!
 王宮においら達専用のお風呂場を造ったけど、辺境の町のほど潤沢にお湯を使うことは出来なくて。
 お湯の量に合わせて浴槽を造ったから、浴槽もそれなりの広さで物足りなかったんだ。
 温泉が湧いているのならお湯を贅沢に使えるし、みんなで一緒に入れる広い浴槽も造れるかも。

 さっそく、エチゴヤが経営してた風呂屋に行ってみようっと。
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