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第十五章 ウサギに乗った女王様

第419話 魔物狩りの後はお楽しみの…

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 イモムシ狩りを終えた翌朝、おいら達は早々にローデンさんの森をお暇する事にしたの。
 早く帰って、『牛祭り』の準備をしないといけないからね。

「今回は、あなた達が来てくれて助かったわ。
 あのまま、イモムシが増えちゃうと厄介なことになると心配してたの。
 レクチェ達、これから定期的に魔物を間引くならここで野営しなさい。
 ここなら、魔物に襲撃される心配が無いし、怪我も治せるしね。
 アルトもちょくちょくこっちへ来ているなら、偶には顔を見せないよ。」

 帰り際、ローデンさんはレクチェ姉ちゃん達に対し『妖精の森』への立ち入りを許可していたよ。

「ロードデンドロ様、それは大変助かります。
 今回はアルト様が不思議な空間を提供してくださったので快適に過ごせましたが。
 野営となると、正直心許無かったのです。
 魔物の侵入できないこの森を野営地に提供して下さるのなら心強いです。」

 ローデンさんの好意にレクチェ姉ちゃんはとても喜んでいたよ。
 魔物が跋扈する場所に寝泊まりするんじゃ、気が休まらないからね。

「それじゃ、私達、今度は楽器を持って来ます。
 私、これでも、楽器の演奏は結構自信があるんですよ。」

「あら、良いわね。楽しみにしているわ。」

 ローデンさんの森を提供してもらえると聞いて、騎士の姉ちゃんの中からそんな声が上がってた。
 この数日で、妖精さんが歌や踊りが大好きだと良くわかったみたい。
 ローデンさんもそれに期待したみたいだよ。

「ローデン、世話になったわね。
 また、何か手土産でも持って遊びにくるわ。
 そうそう、私、王都の近くに滞在用の森を創ったのよ。
 あなたも引き籠っていないで、遊びに来れば良いわ。」

 去り際にアルトもローデンさんを誘っていたよ。

 こうして、おいら達は無事に魔物の間引きを終えて、魔物の領域を後にしたんだ。

         **********

「姫様、ご無事で何よりです。
 連絡方法がないとは言え、この五日間、何の音沙汰も無いので心配しておりましたぞ。」

 ウノの館に戻ると、執事のお爺ちゃんがそう言ってレクチェ姉ちゃんを迎えてくれたよ。
 お爺ちゃんも理解している通り、一旦魔物の領域へ入ってしまえば連絡手段は無いのだけど。
 やはり相当気を揉んだみたいだよ、魔物の領域に五日間も籠ってたんだものね。
 レクチェ姉ちゃん達、全員初心者なのもさることながら、全員女の子だし。

「爺や、心配を掛けました。
 ですが、所期の目的は果たしました。
 スタンピード寸前でしたが、適正数まで魔物は間引けたと思います。
 魔物の領域に『森』を構える妖精の長ロードデンドロ様からお墨付きを頂きましたので。」

「何と、妖精の長殿にお目に掛かれたのでございますか。
 今は亡き先代様が、良く話しておられました。
 不思議な力を持つ、博識な方だと。
 妖精の長様が、お墨付きをくださったのなら安心ですな。」

 うん? 亡くなった先代(今となっては先々代だけど)は、ローデンさんのことを知ってた?
 なのに、先日までの領主は誓約のことを知らなかったのかな。
 誓約のことを知っていれば、魔物狩りを止めるはずないのだけど…。

「それと、ロードデンドロ様のご好意で今後はその森で野営させて頂ける事になりました。
 凄いのですよ、妖精の森は魔物が侵入することが出来ないのです。
 魔物の領域の真っ只中にあるのに。
 あそこなら、安心して休むことが出来ますわ。」
 
「それは、素晴らしい。
 先代様もおっしゃっておりました、妖精の森はとても気が休まると。
 何でも、長殿の力で魔物の侵入を阻んでいるそうですな。
 おかげで心身ともに十分に回復し、魔物狩りを続けることが出来ると。
 殿は、何時も初日の途中で逃げ出してしまうので長殿に会ったことが無いのです。
 だから、妖精の存在を信じようとしないし。
 ご先祖と妖精の長殿との約束も作り話だと言って、取り合おうとしなかったのです。」

 そんな事だと思ったよ。
 あのオッチャン、自分に都合の良いことしか信じようとしないタイプに見えるもん。

「話は変わりますが、今日の夕刻から『牛祭り』を行おうと思います。
 急なことで手間を掛けますが、大至急支度をしてもらえませんか。
 この町にいる者全てが満腹になる程食べても十分な数の酔牛を仕留めて参りました。
 あと、この館の酒蔵にある酒を、町の民のために提供してください。
 全ての民が思う存分に飲めるだけのお酒を。」

「何と、十年振りの牛祭りですか。
 それは、町の者もさぞかし喜ぶことでしょう。
 分かりました、町の世話役の者達も集めて準備を手伝わせましょう。
 任せてください、過去の記録は残してありますので。
 それを基に酒の準備をする事に致します。
 して、酔牛は何処いずこに?
 大至急調理人に解体させないと間に合いませんぞ。」

 お爺ちゃんはレクチェ姉ちゃんの指示を受けると、酔牛の所在を尋ねてきたの。
 そういえば、おいら達、手ぶらで帰って来たものね。

「それ、私が預かっているわ。
 厨房で出してあげるから、案内しなさい。」

 アルトがいきなり厨房案内しろと言ったものだから、お爺ちゃん戸惑っていたよ。
 この館には、動物の解体場所があってそこで解体して厨房に持ち込むらしいよ。
 動物には、色々と汚いところがあって、厨房で解体するのは拙いらしいの。

 でも、アルトはそんなことお構いなしで、厨房へ連れて行けと言ったの。
 いや、説明くらいすれば良いのに…。

        **********

「この作業台の上で良いかしら?
 悪いけど、皿の上における量じゃないから清潔な布を敷いてくれるかしら。」

 厨房に着くとアルトはお爺ちゃんにそう指示したの。
 お爺ちゃん、要領を得ない顔をしていたけど、黙ってアルトに従ってたよ。
 何と言っても、相手は逆らうと祟ると言う妖精だもんね。

「おい、おい、爺さん、どうなってるんだ。
 厨房は俺達、料理人の戦場だぞ。
 いきなり、大勢で押し掛けて仕事の邪魔をするのはやめてもらえないか。」

 お爺ちゃんの指示を受けた人がテーブルに布を敷いていると、料理長らしき人がやって来てお爺ちゃんに苦情を言ってたよ。
 でも、アルトはそんなのお構いなしで、布を敷いた作業台の上にソレを積み上げたんだ。

「うおっ! 何だ、この量の肉は!」

 作業台から零れ落ちんばかり酔牛の肉を積み上げたアルト。
 余りの量の多さに、料理長は後ずさっていたよ。
 傍に居たら肉が崩れ落ちて来て埋もれちゃいそうだもんね。

 料理長は落ち着きを取り戻すと作業台に出来た肉の山から一塊の肉を手に取り。

「これは凄げえや。どうやら、一流の包丁人が捌いたようだな。
 こんなに綺麗に捌かれた肉を見たのは初めてだぜ。
 これを見ると、俺なんかまだまだだって思い知らされるぜ。
 おっ、こっちは牛タンに、牛レバーもあるじゃねえか。」

 一人合点をしてる料理長、それ、『積載庫』の加工機能が勝手に働いただけなんだけど。

「料理長、そのお肉は私達が魔境の領域で間引いた酔牛のお肉です。
 急な事で申し訳ございませんが。
 今日、夕刻からその肉を使って『牛祭り』を催したいと思います。
 町の民を喜ばすために、美味しい料理をふんだんに作ってください。
 肉が足りなければ、まだまだ、沢山ありますから。」

 レクチェ姉ちゃんの指示に従い、さっそく準備に取り掛かる厨房の人達。
 料理長の指示で作業台の上の肉が片付けられると、その後二回、アルトは同じくらいの肉を出していたよ。
 それでも、アルトの『積載庫』の中には、まだかなりの量のお肉が残っているみたい。

 しばらくすると、町から手伝いの人も来て『肉祭り』で振る舞う料理の準備が進んだの。
 それと同時に、町の広場では会場の設営が行われていたらしいよ。
 十年前までは恒例行事だったので、町内の世話役をしてる人達は設営の手配をやり慣れているみたい。

       **********

 そして、夕刻。

「昨日、父が領主を引退し、新たにマイナイ伯爵を襲名したレクチェです。
 父が領主在任中、魔物狩りをしなかったため、恒例の牛祭りを途絶えさせてしまいました。
 楽しみにされていた方には残念な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。
 本日は、私の伯爵襲名披露も兼ねて、今まで以上に盛大な肉祭りを催したいと思います。
 皆さん、お酒もたっぷり用意しましたので、心行くまで飲んで騒いでくださいね。
 そして、今後は年二回、この祭りを催す予定にしていますので。
 是非、楽しみにしていてください。
 では、乾杯!」

 レクチェ姉ちゃんが広場に設えられた演台に昇り、お祭り開催の挨拶に続けて乾杯の音頭を取ると。

「「「「「「カンパーイ!」」」」」

 町の広場に乾杯の唱和が響いたよ。
 それに続いて、料理を振る舞うテーブルやその場で肉を焼いている屋台に、我先にと人が集まったの。

 もちろん、おいら達もそれに混じってご相伴に与かったんだ。

「あれ、女王様じゃないかい、また会ったね。
 今日は、町の衆に紛れてお祭りを楽しんでいるんかい。
 あんたは、全然偉ぶってなくて良いね。
 この国で一番偉いと言うのに。
 この領地の領主様も、レクチェ様に代替わりして一安心だよ。
 前の領主は威張ってばかりでロクなことしなかったからね。
 この先、どうなっていくかが楽しみだよ。」

 おいらが焼きたての牛タン塩焼きを頬張っていると、前に世間話を交わしたオバチャンが声を掛けてくれたんだ。
 ほろ酔い気分で、お酒の入った器を手にして楽しそうにしてたよ。 

「おっ、女王様までいたんだ。
 城壁の上から見せてもらったよ、ワイバーンを退治するところ。
 さすが、女王様だ、小っちゃいのに強いんだな。
 女王様がいなかったら、この町はどうなっていたことか。
 ホント、有り難いぜ。」

 オバチャンと会話していると、今度は見知らぬおじさんがやって来て感謝の言葉を掛けてくれたよ。
 そのうち、おいらに気付く人が増えて人だかりが出来ちゃったよ。

 口々に、感謝の言葉を掛けてくれたんだ。
 ワイバーンから町を護った事だけじゃなくて、エチゴヤや冒険者ギルドをとっちめたことなんかもね。

 気付くと、おいらのすぐ近くにいるレクチェ姉ちゃんの周りにも人だかりができていたよ。

「若領主様、牛祭りを復活してくれて有り難うございます。
 前の領主様は、領主に就任するなり肉祭りを止めちまって。
 町の者達は皆ガッカリしてたんです。
 この祭りは昔から続いて来たもので、楽しみにしている者は多かったし。
 この祭りが無くなってから、町の活気も無くなっちまった気がしてたんですよ。
 祭りが復活したとなれば、きっと町も活気を取り戻しますよ。」

 多分、町の活気が無くなったのは、税が重くなったり、エチゴヤが税以上に値上げをしたせいだと思うけどね。
 それで、町の人の生活がだいぶ苦しくなったみたいだからね。
 偶々、牛祭りをやらなくなった時期が、それらと重なってるからそんな風に感じたんだろうね。

 町の人はみんな、お酒と料理を手にして祭りの間中ずっと盛り上がってたよ。
 おいらが育った辺境の町には、こんな賑やかなお祭りは無かったので凄く新鮮だった。
 そして、復活させることが出来て良かったと心の底から思ったの。

 レクチェ姉ちゃんには、これからもずっと『牛祭り』を続けて欲しいね。
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