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第十五章 ウサギに乗った女王様
第417話 おいらも、ソレ、欲しいと思ってたの
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マイナイ伯爵領が接する魔物の領域に森を持つ妖精のローデンさん。
ローデンさんの好意で、数日、『妖精の森』に滞在して、おいら達は魔物の間引きを続けたんだ。
初日に明後日の方向に走り去った『馬鹿』をはじめ、巨大な『陸亀』とかもいたよ。
その日の狩りを終えて、ローデンさんの森で休息をとっている時のこと。
「ローデン、あなたのそのドレス、いつ見ても良いわね。」
ローデンさんが身に纏うドレスを、アルトは羨ましそうに褒めたんだ。
そのドレスって『妖精絹』で出来てるのだと思うけど、キラキラと光沢を放つライトグリーンがとっても綺麗なの。
おいらも良いなって思ってたけど、アルトが物欲しげな様子で話すのが新鮮だったよ。
普段のアルトは、物欲なんて微塵も感じさせないからね。
「そんなことを言ってもあげないわよ。
この『グリーンシルク』は、この辺りでしか採れない貴重なシルクだもの。
この森にいる妖精達が身に纏うドレスを作るのが優先だわ。
…って、普段なら言うところなのですけど。
私の頼みを聞いてくれるのなら、分けてあげても良いわよ。」
そんなことを口にしたローデンさん。
「あっ、それ、おいらも欲しい。
その頼みと言うのが、おいらでも手伝えることなら手伝うよ。」
思わず、おいらも手を上げちゃったよ。
迂闊な人達みたいに、『何でもする』とは言わないけど。
あんな綺麗な布地は見たこと無いから、おいらで出来る事なら手伝う価値はあるものね。
「あら、あなたも欲しいの?
何時もなら、『人間にあげるなんてとんでもない』と断るところだけど。
今回に限って、欲しい人に分けてあげても良いわ。
お手伝いをしてくれるなら。」
その場にいる人間は、オランとタロウを除くと、皆、女の子だもの。
多かれ少なかれキレイなドレスに憧れを持つ年頃だから、全員が手伝うと申し出たの。
シフォン姉ちゃんへのお土産にしたいと言って、タロウも手を上げてたよ。
**********
そして、アルトの積載庫に乗せてもらってやって来たのは、ローデンさんの森を抜けた先にある山だった。
「何、あの山? 不自然な感じで、はげ山になっているのだけど。」
アルトがそんな疑問を口にした通り、鬱蒼と木が茂るその山は一部だけが不自然に禿山になってたの。
「あれね、恨み言を言う訳じゃないけど。
レクチェの父親が魔物の間引きをサボったからああなっちゃったの。」
「私の父が間引きをしなかったからですか。」
「そうよ、魔物が増え過ぎちゃったせいで、魔物の生態系のバランスが狂っちゃったのよ。
それがここ数年顕著でね、このシルクを作るイモムシが大繁殖してるのよ。
あの山の木、葉っぱを全部イモムシに食われて枯れちゃったの。」
ローデンさんの説明では、グリーンシルクはあの山に住むイモムシ(魔物)が作る繭玉から取るらしいの。
魔物の中では最弱クラスで、常に他の魔物の捕食対象になっているのであまり増えないし。
それ故に、グリーンシルクはとても貴重で、森の妖精達みんなに行き渡るほどは採れなかったみたい。
ところが、魔物の間引きをしなったので酔牛とかが増えると、今までは居なかった肉食の魔物が周囲から集まって来たそうなんだ。
そう言えば、ワイバーンとか、ケルベロスとか、普通は人里の近くには出没しないって、アルトも言ってたものね。
「そいつらが、モズとか、トカゲとかの魔物を捕食しちゃったのよ。
トカゲやモズの魔物が、イモムシの繁殖を抑えていたと言うのに。
その結果、捕食者がいなくなったイモムシが大繁殖。」
最初は、ローデンさんも喜んでいたらしいの。
森の妖精みんなにグリーンシルクで出来たドレスを着させてあげることができるから。
ところが喜んだのも束の間、イモムシの繁殖が度を越して山の一部が剥げてしまったんだって。
そんな想像を超える事態に及んで、これはヤバイを思ったらしいよ。
「それじゃ、私達はそのイモムシが蛾になったモノを駆逐すれば良いのかしら?
卵を産むのは、イモムシではなく蛾でしょう。」
アルトがローデンさんのお願いを確認すると。
「残念、蛾はもういないの。
あの魔物は不思議な性質があって、一斉に産卵するのよ。
既に今年の産卵時期は終わっちゃって、蛾は殆ど死滅してしまったわ。
あなた達にやって欲しいのは、イモムシの間引きと。
私が採り切れなかった繭玉の採集よ。
羽化する前に、採集しないと拙いの。
この里で必要な繭玉はもう十分以上に採集したから、残りは全部持って行っちゃって。
どうせ、採り切れないでしょうけど。」
グリーンシルクを作るイモムシの魔物(正確には蛾の魔物なんだけど)、寿命は三年くらいと長いらしいの。
今は、一昨年孵化したモノが蛾になって産卵を終えた後で、去年孵化した物が繭になっているんだって。
繭が出来たらサッサと採集してしまうらしいのだけど、今年は多過ぎて採り残しが多いそうだよ。
もうしばらくすると羽化するんで、最悪半分くらいは焼いちゃおうかと思っていたんだって。
採り残しが全部蛾になっちゃうと、三年後には山全体が禿山になっちゃうかもしれないって。
**********
そんな訳で、おいら達は繭玉の採取とイモムシの間引きにやって来たんだ。
鬱蒼とした森の中に足を踏み入れた時に、おいらは思ったの。
こんなに木々が生い茂った中で小さな繭が見つけられるものかと。
でも、そんな心配はなかったよ。
「おい、もしかして、繭ってあれか?」
山に入って間もなく、タロウがソレを指差して自信なさそうにローデンさんに尋ねたの。
タロウが自信なさげなのも頷けるよ、ソレは酔牛がスッポリ入っちゃうくらいの大きさがあるんだもの。
以前、アルトに見せてもらった『妖精絹』の繭玉はおいらの手のひらに五つくらい乗る大きさだったよ。
「そうよ、探すまでも無いでしょう。
考えてみれば、空を飛べない人間に繭玉を採るのは無理ね。
繭玉を採取するのはアルトローゼンに任せて。
人間たちには、イモムシの間引きをしてもらうかしら。」
ローデンさんの言葉通り、探すまでも無かった。
そんな大きな繭玉がそこかしこの木に生っているんだから、嫌でも目に付くよ。
一匹のイモムシが一本の木の葉を独占してたみたいで、一つの木に生っている繭玉は一つだけなの。
繭玉の大きさから想像するにかなり大きなイモムシなのだろうから、きっとたくさん食べたんだろうね。
そう考えると、鬱蒼と木の茂る山が禿山になっちゃうのも頷けるよ。
「おい、繭玉があんなにデカいと言う事は…。
そのイモムシってのは、どんだけデカいんだよ。」
「少しは落ち着くのじゃ。
そう興奮せんでも良いじゃろう。
ほれ、あそこを見るのじゃ、イモムシのお出ましじゃぞ。」
興奮気味のタロウを宥めると、オランは茂みの先に目を向けさせたの。
そして、ガサガサと茂みをかき分ける音がしたかと思うと、姿を現したのは…。
「なんだ、あのイモムシは!
まるで、モ〇ラじゃねえか!」
そんな叫び声をあげるタロウ、だからモス〇って何よ。
とは言え、タロウが驚くのは無理もなかったの。
昨日倒した酔牛よりもまだ大きなイモムシが現れたんだもの。
でも、騎士のお姉さん達の反応は、タロウとは少し違ってて…。
「なにあれ、気持ち悪い。
あんなグロテスクな魔物と戦うの?」
恐怖とは別の感情で腰が引けてたよ。
正直、おいらもそっちの方が共感できるかな。
「それが、グリーンシルクを吐くイモムシよ。
そいつら、縄張り意識が強いから、侵入者を排除しようとするの。
実際は、最弱の魔物の一つだから、返り討ちに遭ってるのですけどね。」
ローデンさんの言葉通り、所詮はイモムシ、ぷよぷよの体だもんね。
図体はデカいけど、剣で斬り付けたら一撃で仕留められると思うよ。
ローデンさんの好意で、数日、『妖精の森』に滞在して、おいら達は魔物の間引きを続けたんだ。
初日に明後日の方向に走り去った『馬鹿』をはじめ、巨大な『陸亀』とかもいたよ。
その日の狩りを終えて、ローデンさんの森で休息をとっている時のこと。
「ローデン、あなたのそのドレス、いつ見ても良いわね。」
ローデンさんが身に纏うドレスを、アルトは羨ましそうに褒めたんだ。
そのドレスって『妖精絹』で出来てるのだと思うけど、キラキラと光沢を放つライトグリーンがとっても綺麗なの。
おいらも良いなって思ってたけど、アルトが物欲しげな様子で話すのが新鮮だったよ。
普段のアルトは、物欲なんて微塵も感じさせないからね。
「そんなことを言ってもあげないわよ。
この『グリーンシルク』は、この辺りでしか採れない貴重なシルクだもの。
この森にいる妖精達が身に纏うドレスを作るのが優先だわ。
…って、普段なら言うところなのですけど。
私の頼みを聞いてくれるのなら、分けてあげても良いわよ。」
そんなことを口にしたローデンさん。
「あっ、それ、おいらも欲しい。
その頼みと言うのが、おいらでも手伝えることなら手伝うよ。」
思わず、おいらも手を上げちゃったよ。
迂闊な人達みたいに、『何でもする』とは言わないけど。
あんな綺麗な布地は見たこと無いから、おいらで出来る事なら手伝う価値はあるものね。
「あら、あなたも欲しいの?
何時もなら、『人間にあげるなんてとんでもない』と断るところだけど。
今回に限って、欲しい人に分けてあげても良いわ。
お手伝いをしてくれるなら。」
その場にいる人間は、オランとタロウを除くと、皆、女の子だもの。
多かれ少なかれキレイなドレスに憧れを持つ年頃だから、全員が手伝うと申し出たの。
シフォン姉ちゃんへのお土産にしたいと言って、タロウも手を上げてたよ。
**********
そして、アルトの積載庫に乗せてもらってやって来たのは、ローデンさんの森を抜けた先にある山だった。
「何、あの山? 不自然な感じで、はげ山になっているのだけど。」
アルトがそんな疑問を口にした通り、鬱蒼と木が茂るその山は一部だけが不自然に禿山になってたの。
「あれね、恨み言を言う訳じゃないけど。
レクチェの父親が魔物の間引きをサボったからああなっちゃったの。」
「私の父が間引きをしなかったからですか。」
「そうよ、魔物が増え過ぎちゃったせいで、魔物の生態系のバランスが狂っちゃったのよ。
それがここ数年顕著でね、このシルクを作るイモムシが大繁殖してるのよ。
あの山の木、葉っぱを全部イモムシに食われて枯れちゃったの。」
ローデンさんの説明では、グリーンシルクはあの山に住むイモムシ(魔物)が作る繭玉から取るらしいの。
魔物の中では最弱クラスで、常に他の魔物の捕食対象になっているのであまり増えないし。
それ故に、グリーンシルクはとても貴重で、森の妖精達みんなに行き渡るほどは採れなかったみたい。
ところが、魔物の間引きをしなったので酔牛とかが増えると、今までは居なかった肉食の魔物が周囲から集まって来たそうなんだ。
そう言えば、ワイバーンとか、ケルベロスとか、普通は人里の近くには出没しないって、アルトも言ってたものね。
「そいつらが、モズとか、トカゲとかの魔物を捕食しちゃったのよ。
トカゲやモズの魔物が、イモムシの繁殖を抑えていたと言うのに。
その結果、捕食者がいなくなったイモムシが大繁殖。」
最初は、ローデンさんも喜んでいたらしいの。
森の妖精みんなにグリーンシルクで出来たドレスを着させてあげることができるから。
ところが喜んだのも束の間、イモムシの繁殖が度を越して山の一部が剥げてしまったんだって。
そんな想像を超える事態に及んで、これはヤバイを思ったらしいよ。
「それじゃ、私達はそのイモムシが蛾になったモノを駆逐すれば良いのかしら?
卵を産むのは、イモムシではなく蛾でしょう。」
アルトがローデンさんのお願いを確認すると。
「残念、蛾はもういないの。
あの魔物は不思議な性質があって、一斉に産卵するのよ。
既に今年の産卵時期は終わっちゃって、蛾は殆ど死滅してしまったわ。
あなた達にやって欲しいのは、イモムシの間引きと。
私が採り切れなかった繭玉の採集よ。
羽化する前に、採集しないと拙いの。
この里で必要な繭玉はもう十分以上に採集したから、残りは全部持って行っちゃって。
どうせ、採り切れないでしょうけど。」
グリーンシルクを作るイモムシの魔物(正確には蛾の魔物なんだけど)、寿命は三年くらいと長いらしいの。
今は、一昨年孵化したモノが蛾になって産卵を終えた後で、去年孵化した物が繭になっているんだって。
繭が出来たらサッサと採集してしまうらしいのだけど、今年は多過ぎて採り残しが多いそうだよ。
もうしばらくすると羽化するんで、最悪半分くらいは焼いちゃおうかと思っていたんだって。
採り残しが全部蛾になっちゃうと、三年後には山全体が禿山になっちゃうかもしれないって。
**********
そんな訳で、おいら達は繭玉の採取とイモムシの間引きにやって来たんだ。
鬱蒼とした森の中に足を踏み入れた時に、おいらは思ったの。
こんなに木々が生い茂った中で小さな繭が見つけられるものかと。
でも、そんな心配はなかったよ。
「おい、もしかして、繭ってあれか?」
山に入って間もなく、タロウがソレを指差して自信なさそうにローデンさんに尋ねたの。
タロウが自信なさげなのも頷けるよ、ソレは酔牛がスッポリ入っちゃうくらいの大きさがあるんだもの。
以前、アルトに見せてもらった『妖精絹』の繭玉はおいらの手のひらに五つくらい乗る大きさだったよ。
「そうよ、探すまでも無いでしょう。
考えてみれば、空を飛べない人間に繭玉を採るのは無理ね。
繭玉を採取するのはアルトローゼンに任せて。
人間たちには、イモムシの間引きをしてもらうかしら。」
ローデンさんの言葉通り、探すまでも無かった。
そんな大きな繭玉がそこかしこの木に生っているんだから、嫌でも目に付くよ。
一匹のイモムシが一本の木の葉を独占してたみたいで、一つの木に生っている繭玉は一つだけなの。
繭玉の大きさから想像するにかなり大きなイモムシなのだろうから、きっとたくさん食べたんだろうね。
そう考えると、鬱蒼と木の茂る山が禿山になっちゃうのも頷けるよ。
「おい、繭玉があんなにデカいと言う事は…。
そのイモムシってのは、どんだけデカいんだよ。」
「少しは落ち着くのじゃ。
そう興奮せんでも良いじゃろう。
ほれ、あそこを見るのじゃ、イモムシのお出ましじゃぞ。」
興奮気味のタロウを宥めると、オランは茂みの先に目を向けさせたの。
そして、ガサガサと茂みをかき分ける音がしたかと思うと、姿を現したのは…。
「なんだ、あのイモムシは!
まるで、モ〇ラじゃねえか!」
そんな叫び声をあげるタロウ、だからモス〇って何よ。
とは言え、タロウが驚くのは無理もなかったの。
昨日倒した酔牛よりもまだ大きなイモムシが現れたんだもの。
でも、騎士のお姉さん達の反応は、タロウとは少し違ってて…。
「なにあれ、気持ち悪い。
あんなグロテスクな魔物と戦うの?」
恐怖とは別の感情で腰が引けてたよ。
正直、おいらもそっちの方が共感できるかな。
「それが、グリーンシルクを吐くイモムシよ。
そいつら、縄張り意識が強いから、侵入者を排除しようとするの。
実際は、最弱の魔物の一つだから、返り討ちに遭ってるのですけどね。」
ローデンさんの言葉通り、所詮はイモムシ、ぷよぷよの体だもんね。
図体はデカいけど、剣で斬り付けたら一撃で仕留められると思うよ。
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