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第十五章 ウサギに乗った女王様

第413話 領地の騎士団も世代交代したよ!

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 レクチェ姉ちゃんがマイナイ伯爵を継承した日、その日のうちに騎士の家の者を集めたの。
 レクチェ姉ちゃんは、最初に自分が伯爵家を継承したこと披露すると。
 続いて、ワイバーンと戦って亡くなった騎士の家族に弔意と謝意を伝えたの。
 後ほど、十分な恩賞を授与すると約束してたよ。

 そして、伯爵を置き去りにして我先にと逃げ出した騎士達に対して。

「それに引き換え、あなた達は何と不甲斐無いのですか。
 領地が魔物の襲撃を受けているのに、立ち向かうことなく臆して逃げ帰るとは。
 主君である私の父を見捨てて逃げ出すなど言語道断です。
 あなた方には、隠居を申し付けます。
 そして、後継者には明日から私と共に魔物討伐に向かう事を命じます。
 後継となる者が魔物狩りに同行するのを拒否するならば。
 その時は、お役御免とします。
 永年の忠功に報いるため私財没収は行わないので安心なさい。
 各家、相続順位に関わらず、明日からの魔物討伐に同行すると誓約する者を後継者と認めます。
 今この場で、申し出てください。」

 レクチェ姉ちゃんは不甲斐無い現当主をクビにしたうえで、次期当主に魔物狩りに帯同しなければ家臣の地位を剥奪すると宣告したんだ。
 永年家禄を貰ってきたのに、いざという時に逃げ出すような役立たずは雇っておいても仕方がないしね。

 そして、今、この場で次期当主を決めろと、レクチェ姉ちゃんは迫ったの。
 本来なら、この国では長男が相続順位一位なのだけど。
 魔物狩りに帯同するなら次男でも、三男でも誰でも良いと宣言したんだ。

 そのために、この場には騎士家の当主だけではなく、後継ぎ候補にも来てもらったんだけど。
 誰もが魔物狩りへ行くことに腰が引けている様子で、この場で後継を決めようとはしなかったよ。
 みんな、シーンとしちゃったの。

 そんな騎士家の人達を見て、レクチェ姉ちゃんはため息を吐いて。

「魔物狩りに帯同しようという気概のある方は、誰も居ませんか。
 では、仕方がございません。
 こちらにいる騎士家三十四家は、当家の家臣から除籍することに…。」

 居並ぶ騎士達の放逐を口にしかけたところで。

「お待ちください、レクチェ様。
 兄上が誰も家督を継がないのであれば、私が騎士になります。
 我が家は代々、伯爵家に仕えた騎士の家。
 不甲斐無い父や兄のために放逐されたとなれば、先祖に顔向けができません。」

 そんな言葉と共に進み出て来たのは、レクチェ姉ちゃんと同世代の娘さんだったの。

「あら、ラフラン、あなたが魔物と戦うと申しますか。
 私の幼馴染のラフランは、虫一匹殺せない心優しいお嬢さんだと思いましたが。」

「レクチェ様こそ、幼少の頃から殺生を嫌う心優しい姫様だったのでは?
 レクチェ様が幼い時より、共に先代様より貴族の心構えを聞かされてきたではございませんか。
 無益な殺生はご法度だけど、領民を護るべき時には剣を持って戦わないとならないと。
 女だてらにと父や兄にそしりを受けながらも、磨いて来た剣の腕を今こそお目にかけて見せましょう。」

 このラフランと言う娘さん、レクチェ姉ちゃんとは子供の頃からの遊び仲間らしいの。
 この館に遊びに来ては、レクチェ姉ちゃんと一緒に先代伯爵の薫陶を受けていたみたい。
 ジェレ姉ちゃんみたいに子供の頃から剣の鍛錬をして来たらしいよ。
 アントルメ子爵と違って、ラフラン姉ちゃんの父親は良い顔をしなかったみたいだけど。

「そう、レフランが一緒に戦ってくれるなら心強いわ。
 では、ラフランをあなたの家の当主と認めましょう。
 これは領主である私の決定です。
 誰にも、異論は唱えさせませんわ。
 よろしいですね。」

 レクチェ姉ちゃんが異論は認めないと釘を刺して、その家の人達を睨むと。
 ラフラン姉ちゃんの父兄は苦虫を嚙み潰したような顔をしたけど。
 結局、自分が魔物狩りに行くと名乗り出る兄弟は無く、ラフラン姉ちゃんが家を継ぐことが決まったの。

       **********

 ラフラン姉ちゃんが手を上げてからは早かったよ。

「私もやります!
 同じ騎士の家に生まれた子なのに、女は剣など振らんで良いって言われて。
 常々、不満に思っていたんです。
 兄など、自分が跡取りだと威張っている癖に一つも剣の修行などしないのですもの。
 それなら、剣を振ることが好きな私が後を継いだ方がましだと思っていたんです。」

 そんな言葉と共に、もう一人、娘さんが手を上げたかと思ったら、我も我もと手が上がったよ。
 見事に娘さんばっかり。

 クッころさんと愉快な仲間達じゃないけど、この領地にも『騎士を夢見る乙女の会』みたいなのがあったのかな。

「いえ、そんな珍妙な集まりがある訳ございませんでしょう。
 おそらく、あの娘達は幼少の頃に、今は亡き先代に遊んでもらった娘達なのでしょう。
 先代は子供好きでしたので、館に家臣の子女が遊びに来るのを歓待したのです。
 娘ばかりなのは、姫様と遊ぶために館を訪れていた者達だからでしょう。」

 執事のお爺ちゃんに尋ねたら、そんな答えが返った来たよ。
 子供好きの先代が家督を譲ってから遊んでいたのが、レクチェ姉ちゃんの友達だったみたい。
 先代は、遊びに来た子供達にお茶やお菓子を振る舞って、お茶をしながら騎士の物語や領地の昔話を話して聞かせたようなの。
 子供にも理解し易いように『お伽話』のようにして聞かせたみたいだけど、その実、騎士の心構えを教えていたらしいよ。

 一方で、さっきまでの伯爵や騎士達は、九年前にヒーナルが王位に就いた頃に当主になった世代で。
 王侯貴族の特権拡大を謳うヒーナルに傾倒していた連中ばかりだったみたいなの。
 その考えに同調した方が自分達にとって都合が良いからね。

 そして、ヒーナルが騎士に求めた役割は、それまでの魔物駆除や外敵の排除といった本来の役割ではなく。
 自分が課した重税に批判的な民衆を弾圧して、民衆を王侯貴族に従わせる役割だったんだ。

 さっきまでの領主は、魔物狩りを忌避していたこともあって、これ幸いとヒーナルの方針に従っちゃったみたい。
 当然、騎士達もそれまでの教えは捨てて、領主の方針を歓迎したらしいよ。
 魔物退治なんて危ない仕事より、弱い者イジメの方が楽だからね。

 それは、本来、家を継ぐべき若い男の子にも受け継がれちゃったんだ。
 女の子と違って、後継ぎ候補として領主が教育を施すものだから、当然と言ったら当然だよね。
 しかも、国王のヒーナルが騎士を民衆を従わせる道具と喧伝しているのだから。
 世の中のことを知らない子供は、それが正しいと思いこんじゃうよね。

 こうして、騎士の家の中に、見事に全く別の考えを持つ二種類の若い人達が、生成されたらしいよ。
 ヒーナルの愚かな考えに染まった男連中と、従来通りの騎士教育を施された女の子の二種類にね。  

       **********

 レクチェ姉ちゃんは、全ての騎士家に娘さん達の家督相続を認めると、現当主と息子たちには蟄居を命じたよ。
 隠居した現当主や廃嫡した息子たちには、家の中でも大きな顔はさせないと厳しく注意していたよ。

 そして、新たな当主となった騎士の姉ちゃん達を残して帰宅させたの。

「姫様、この者達なのですが…。
 今は亡き先代様の薫陶を受けて領地、領民を護ろうという心意気は大変良いと思います。
 ですが、全員女性の騎士団とは如何なものでしょうか?
 やはり、男と女ではそもそも体力の差が有ります。
 魔物を相手にするとなると、いささか心許ないのではないですか?」

 館に残された顔ぶれを見ながら、執事のお爺ちゃんは不安そうに意見していたよ。
 実際、レクチェ姉ちゃんも、少し不安そうな顔をしてたんだ。
 この顔ぶれで魔物退治が出来るのか心配しているみたいなの。

「それは、心配する必要無いよ。
 全員、この領地と領民を護るために魔物と戦う覚悟があるみたいだからね。
 一番大切なのは、その心構えなんだ。
 それさえあれば、体力や技術なんてどうにでもなるよ。
 現においらの近衛騎士は全員女の人だし、他にも女性騎士だけの領地を知ってるよ。」

 そう、民を抑圧するような騎士を助けてあげようとは思わないけど。
 民を護るために魔物と戦う覚悟があるのなら、幾らでも手助けしちゃうよ。

 幸い、今日は魔物を沢山倒して、いっぱいアレが手に入ったからね。
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