ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第410話 ワイバーン撃退、一番活躍したのは?

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 魔物の領域と人の生活空間を隔てる川に入って、襲い来るワイバーンを撃退しているときのこと。
 背後にざわつく気配を感じて振り返ると、領都ウノを囲む城壁や川岸に野次馬の人だかりができてたよ。

 町の人達、本当に分かっているのかな、襲来したのが厄災とも呼ばれてる魔物だってこと。
 危ないから、丈夫な建物の中に避難してジッとしてて欲しいのに…。

「あら、随分とがギャラリーが増えちゃったわね。
 マロン、これは女王として良いところを見せないとね。」

 おいらの傍らでアルトがそんな呑気な事を言ってたよ。

「いや、アルト、あれは拙いんじゃない。 
 打ち漏らしたワイバーンが町の人を襲ったら大変だよ。
 あれじゃ、カモがネギどころか、鍋まで背負ってるもん。」

「安心して。
 私が、一匹たりともこの川は渡らせないわ。
 マロンは目の前の敵に集中していれば良いの。」

 アルトは一匹も打ち漏らさない自信がある様子で、むしろ、野次馬を歓迎しているようにも見えたよ。
 「新女王の存在感を示す良い機会じゃない。」とか言ってんの。

「アルト姐さん、アレ、持ってるだろう。
 ちょっと貸してくれないか、ノームの爺さんに作らせたでっかい弓。
 考えてみれば、アレを使えばもっと楽に狩れるじゃねえか。
 俺、『必中』のスキルを持ってるし。」

「そう言えば、あんた、『必中』なんてスキル持ってたわね。
 普段、カモ狩りくらいにしか使ってるのを見たこと無いから忘れてたわ。」

 アルトは、タロウのお願いに応えると台車に固定された巨大な弓を『積載庫』から取り出したの。
 もちろん、槍の様な太さの長い矢も一緒にね。

 この弓、ハテノ男爵領のダイヤモンド鉱山を魔物から奪還するためにノーム爺に作らせたものだけど。
 『必中』なんてスキルを持ってる人は殆どいないものだから。
 その時は、魔物の動きを封じた上で使ったんだ。

 それ故、アルトは、空を自在に飛びまくるワイバーンに使おうとは考えもしなかったみたい。

「おっ、これ、左右、上下に動かせるんだ。
 ノーム爺って、ホント、凄げえよな。
 アルト姐さんの無茶振りに応えて、こんなバリスタを考えちまうんだから。」

 タロウは弓を射る方向を変えながら、そんな感想を漏らしてたよ。
 確かに、アルトは何に使うのかも教えずに、ノーム爺が考えた弓を大きくして欲しいと要望しただけだったもんね、
 それを使い勝手まで考えて、アルトの要望通りの物を仕上げるって凄いことなんだろうね。
 さすが、名工揃いの『山の民』の中でも長老と崇められるだけのことはあるって訳だ。

 そして、タロウは太くて長い矢を大弓につがえると。

「おおっ、『必中』のスキルって、ホント、不思議だな。
 射程内に入ると、カメラの自動焦点みたいに『ピピッ』って音が頭に響きやがる。
 よし、キッチリ仕留めて来いよ!」

 そんな言葉と共にタロウは矢を放ったの。
 弓を離れた矢はとんでもない速さで空を舞い、外すことなく一匹のワイバーンを射抜いたよ。
 鋭利な錐みたいな鉄の先端を持つ矢は、見事にワイバーンの頭を貫き一撃で屠ったよ。

「あら、本当に当たったわ。
 あれだけ距離が離れていても撃ち落とせるって、便利なスキルね。
 タロウ、あんたもたまには役に立つじゃない。
 続けてどんどんやっちゃって。」

 空を飛んでるワイバーンを一撃で屠ったタロウに感心しているアルト。
 でも、『たまには』は酷いと思う。アルトって、何時でもタロウを便利に使ってるよね。

      **********

「凄いぜ、あの兄ちゃん。でっかい弓を使ってバンバン撃ち落としているじゃねえか。
 まるで鴨狩りの鴨みてえに次々とワイバーンを狩ってやがる。」

 背後にいる野次馬からそんな声が上がってたよ。
 野次馬の言葉通り、あれからタロウは黙々とワイバーンを狩り続け。
 先頭に立って戦っていたおいらやオランの狩った数を超えて。
 終いには、半数近くをタロウ一人で狩っている状態になったの。

「空飛ぶ魔物相手に、『必中』のスキルなんて役に立たないと思ってたけど。
 あれだけ威力のある弓があれば、随分と便利なスキルに化けるわね。
 ノーム爺が作った弓と『必中』のスキルが揃えば、空飛ぶ魔物なんて怖くないじゃない。」

 おいらの隣に浮かんだアルトがタロウの放つ矢を見てそんな感想を漏らしてた。
 そもそも、弓って猟師さんが鳥を狩るのに使うのが殆どであんまりメジャーな武器じゃないんだ。
 ネックは、扱いの難しさと威力の弱さ。
 以前タロウが言ってたけど、『必中』のスキルを持ってても狙った方向へ飛ばせないと発動しないんだって。
 弓を扱ったことが無いタロウが射てみたら、ヒョロヒョロッと明後日の方向に飛んでポトッて落ちちゃったらしいの。
 それで、普通の弓を扱うのは断念したらしいから。

 更に、強靭な肉体を持つ魔物に対して、従来の弓矢では威力不足で討伐するのは難しかったそうだよ。
 なので、魔物狩りに弓矢を使うことは殆ど無くて、一般には『必中』のスキルもゴミ同然と思われてたの。

 でも、ノーム爺が開発した弓は素人でも扱えて、とんでもない威力を発揮するからね。
 これがあれば『必中』のスキルの評価もガラっと変わって来るよ。

 もっとも、この弓が人同士の争いに使われると困るので、アルトは広めるつもりは無いようだけどね。

 それはともかく、タロウがノーム爺の弓を思い出してくれたおかげで、ワイバーンの襲来は思いの外楽に撃退できたの。

 取り敢えず、飛来するワイバーンの姿は見えなくなったので一息つくことができたよ。

「凄いぜ、マロン。
 俺、レベル四十五だってよ。
 レベル三十でも凄いと思ってたのに。
 これじゃ、相当歴史がある王侯貴族並みのレベルだぜ。」

 戦いを終えて自分のレベルを確認したタロウがビックリしてたよ。
 標準的なワイバーンのレベルは四十だと言われてるので。
 レベル四十五になるためには二百五十匹近く討伐しないといけないんだけど。
 タロウが討伐した数は精々五十匹程度、きっとレベルが高い個体が混じってたんだね。

「流石に、あれだけの数を倒した奴には敵わないか。
 俺は、レベル四十三になったぜ。
 それでも凄げえや、今は亡き親父のレベルを超えちまったぜ。」

 ジェレ姉ちゃん、嬉々としてワイバーンと戦ってたからね、三十匹くらいは倒したか。

「マロン陛下、聞いてください、凄いんですよ。
 私、レベル四十二だって。
 こんな高レベルの町娘って、今までいなかったんじゃないですか。」

 トルテ姉ちゃんが嬉しそうに駆け寄って来て言ってた。

「こら、こら、トルテ。
 大好きなマロン陛下に褒めてもらいたい気持ちは分かるけど。
 自分のレベルを人に漏らしたらダメよ。
 レベル目当ての悪い男に命を狙われたらどうするの。
 陛下に報告して気が済んだでしょう。
 もう、絶対に口にしないでね。」

 そんな、トルテ姉ちゃんを幼馴染のタルト姉ちゃんが諫めていたよ。
 丁度、おいらもみんなに注意しようと思っていたところだったんだ。
 川辺にいる町の人達とは大分距離があるから、聞こえてはいないだろうけど。
 安易に自分のレベルを口にしたらダメだってね。

「えへへ、ゴメン、ゴメン。
 つい、マロン陛下に頑張ったことを褒めてもらいたくて…。
 大丈夫だよ、子供の頃からきつく言われてるもの。
 人前でレベルの話はしないって。」

 トルテ姉ちゃんは舌を出して謝ってたよ。
 
「自分のレベルを口に出して言うのは良いことではないが。
 みんな、よく頑張ってくれたのじゃ。
 みんなの働きのおかげで、魔物の襲撃の第一波は凌げたのじゃ。
 全員、無事のようじゃし、それなりのご褒美もあったようで何よりじゃ。
 私からも礼を言わせてもらうのじゃ。」

 全員が集まったところで、オランがみんなを労ってくれたんだ。
 勿論、おいらも労いの言葉を掛けたし、後で特別に恩賞を出すことも約束したよ。 
 
       **********

 ワイバーンを倒し終えて、一旦川岸まで戻ってくると。

「おやまぁ、誰かと思えば女王陛下じゃないかい。
 陛下御自ら、川に入って魔物を退治してくれるとは有り難いね。
 ここの伯爵なんて、とんだ腰抜けで。
 さっき、尻尾を巻いて町に逃げ込んで来たよ。
 陛下の様な、強くて、頼りがいがある人が国を治めてくれるなら安心だね。」

 さっき、町の広場で話を交わしたおばさんが、おいらに気付いて声を掛けてくれたよ。
 気さくに声を掛けてくれるのは嬉しいけど。
 魔物が襲ってきてるのに、こんな所で見物しているのは頂けないね。

「みんな、こんな所で見物してたらダメだよ。
 今回は、おいら達が全部始末したから問題なかったけど。
 もし打ち漏らしがあったら、ここに居る人が襲われたかも知れないからね。
 魔物の襲来があったら、丈夫な建物の中に逃げ込むのが鉄則だよ。」

 おいらが野次馬たちに注意すると。

「おっ、こりゃ、一本取られちまった。
 小っちゃい女王様に諭されるたぁ、大人としちゃ面目ないぜ。
 これからは気を付けることにするよ。」

「いやぁ、でも、あんな魔物の集団を食い止めてるモンがいると聞いたら。
 見物したくもなるってもんぜ。
 俺は吃驚したよ、まだ十やそこいらの子供があんなでっかい魔物を退治してるんだから。
 何の冗談かと思ったぜ。」

 なんて、声が聞こえて来たの。
 全然、反省してない人もいるようだけど。

 
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