ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第409話 これも魔物狩りをサボっていた報いみたい・・・

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 ギーヴルを倒していたおいらを見て、自分も討伐してみたかったなんて零したジェレ姉ちゃん。
 そんなジェレ姉ちゃんに向かって、アルトは「丁度良かった」なんて言って対岸の空を指差したの。

 そこには…。

「げっ! 何だ、あれは!
 アルト姐さん、まさか、あれと戦えってのか?」

 対岸の空を見上げて、タロウが狼狽してたよ。

「ねえ、アルト、あれ…。
 おいらの見間違えじゃなければ、ワイバーンだよね。
 何か、渡り鳥が集団で渡りをするみたいな数なんだけど・・・。」

 空を埋め尽くすようなワイバーンの群れなんて初めて見たよ。

「ワイバーンがあんなに沢山いるってのもおかしな話ね。
 私もあんな風に群れを成しているワイバーンは見たこと無いわ。
 これも、きっと、あの伯爵が横着をしたせいね。」

「どういうこと?」

「だって、ワイバーンって飛べるのよ。
 ワイバーンにしてみたらウノの町なんてお隣さんみたいなモノよ。
 何十年も町が襲われないなんて有り得ないでしょう、肉食の魔物なんだもの。
 断言することは出来ないけど・・・。
 あれは、つい最近、この近くへやって来たのだと思うわ。」

 おいらの疑問にそんな風に答えたアルト。
 空を真っ黒に染めたワイバーンが新参者だと、アルトが考えた理由はと言うと。

「あのおバカな伯爵、もう何十年も魔物を間引いてなかったって言ってたでしょう。
 そのせいで、魔物が増えすぎちゃったのよ。
 しかも、牛とか、馬とか、ワイバーンが餌にするのに丁度良い魔物がね。
 きっと、この辺りが良い餌場だと嗅ぎ付けてワイバーンが集まって来たのね。」

 そして、領主による魔物狩りが無かったおかげで、我が世の春を謳歌していた土着の魔物を脅かす存在になったみたい。
 『馬鹿』や『酔牛』は、ワイバーンに捕食されるのを逃れてこちらに押し寄せて来たんじゃないかって。
 そして、『馬鹿』や『酔牛』を捕食しにやって来たワイバーンの一匹が、偶々町を見つけて人間を捕食しようとしたのだろうって。

 ワイバーンの群れを放っておくと、早晩、ウノの町はワイバーンの狩場になるかも知れないってアルトは指摘してたよ。

「そんなことになったら、大変じゃん。
 陛下、早速、あいつらをっちゃいましょうよ。
 いやぁ、腕が鳴るなぁ。
 お伽話に出て来るワイバーンと戦えるなんて胸が高鳴る。」

「この娘、ホント、図太いと言うか…。
 臆するってことを知らないのかしら。」

 利き腕をグルングルン回しながら、殺る気満々のジェレ姉ちゃんにアルトも呆れてたよ。

       **********

「アルト姐さん、今更逃げる訳にもいかないから、戦うのは仕方ないけどよ。
 あれ、どうすれば良いんだ? 空飛んでんだぞ。
 俺達を無視して町を襲うかも知れないし。
 あんなに沢山のワイバーンが群れを成して襲って来たら、この人数じゃ太刀打ちできないぜ。」

 こちらに近付いて来るワイバーンの群れを見ながら、タロウが尋ねていたよ。
 まあ、だいたい予想は付くけどね、ギーヴルの時と同じ手を使うんだろうね。

「マロン、騎士が狩った『酔牛すいぎゅう』を十頭ほど残してしまっちゃって。
 私達妖精はお肉は食べないから、詳しくは知らないけど・・・。
 聞くところではとっても美味しいらしいわ。
 後で、みんなで分ければ良いわ。
 そして、残した十頭はワイバーンを引き付ける餌にするの。
 例によって、私がワイバーンを引き寄せて来るから。」

 ギーヴルの時と同じようにアルトがおいらの方へ群れを引き付けて来るんだけど。
 近くまで来れば、酔牛の死体が流す血の匂いの方へ群がるだろうって。
 ルッコラ姉ちゃん達は、酔牛に食い付いた所を討ち取れば良いって。

 そして、おいら、オラン、タロウ、そして、ジェレ姉ちゃんの四人は、『酔牛』に惹かれなかった個体を討伐しろって。
 おいら達を無視して街へ向かおうとする個体がいれば、アルトが撃ち落としてくれるって。

 そんなことを説明すると、アルトはすぐにワイバーンに向かって飛んでった。

 そして。

「ほら、トカゲ、餌はこっちよ!」

 そんな声と共に、群の先頭を飛ぶワイバーンにビリビリをぶつけてたよ。

「ぎいぃーーー!」

 ビリビリを食らってそんな鳴き声を上げたワイバーンは、アルトに向かって猛スピードで飛んで来たよ。
 何か、凄く怒り狂ってるってるように見える。

「マロン、他の娘にお手本を見せてあげなさい。」

 そんな言葉を発しながら凄い速さで飛んできたアルトはおいらの背に身を隠したの。
 アルトを目掛けて最初のワイバーンがおいらに向かって来たよ。
 周りに居たみんなは、おいらが剣を振り易いように、散開して迎え撃つ体制を整えてた。

 そしてワイバーンは、アルト諸共おいらを一飲みにしようと大きな口を開いて襲い掛かってきたよ。
 でも、ギーヴルの時と同様にワイバーンの動作がゆっくりに見えて。
 体が自然に回避行動をとると、絶好の攻撃位置に立ってたよ。
 
「えいっ!」

 目の前を通り過ぎるワイバーンの首を目掛けて剣を振り下ろすと、スパッと頭が刎ね飛んじゃった。
 さすがにビックリだよ、『クリティカル』のおかげか、『山の民』の剣のおかげか。

 おいら、慌ててワイバーンの頭と胴体を『積載庫』にしまったよ。
 ワイバーンの血や肉も全て猛毒らしいから、川の水に混じったら大変だもんね。

「陛下、お見事です!
 陛下ばかり、危険な目に遭わせたら近衛の名が泣きますからね。
 俺も、どんどん、りますよ。
 さあ、こい、俺が相手だ!」

 そんなことを言ったジェレ姉ちゃんは、臨戦態勢で剣を構えてた。

「全く、良く怖くもなく、気勢を上げることができるな。
 俺なんか根がチキンだから、今だってガクブルだぜ。
 頼むぜ、俺には弱いのが当たってくれよ。」

 少し離れたところでは、タロウが腰が引けた感じで剣を握ってたよ。

 そして、次々と襲来するワイバーンの群れ。
 アルトが上手く、群の侵攻を誘導してくれたよ。
 おいらとオランの所へ一番多く飛来するように。
 逆に、戦い慣れてないルッコラ姉ちゃん達三人には余裕を持って戦えるようにね。

「えいっ! やったー!
 初めて空飛ぶ魔物を倒したよ!
 厄災なんて恐れられても、所詮はケモノね。
 餌を目にしたらそれに夢中で、周りを警戒しないんだもの。
 これなら、私でも何とかなったわ。」

 可愛いらしい掛け声を掛けながらワイバーンを屠ったのはトルテ姉ちゃん。
 アルトの思惑通り、酔牛が倒れてる側まで誘導したら、アルトを追うのを止めて酔牛の死体に食い付いたの。
 それから、黙々と酔牛を食んでて全くの無防備になってたよ。
 そこで、コッソリ近付いたトルテ姉ちゃんが、首を狙って剣で斬り付けたんだ。

 レベル二十のトルテ姉ちゃんの剣は、掛け声とは裏腹にムチャクチャ力強く一撃でワイバーンを仕留めたよ。

「ほら、『生命の欠片』を早く取り込みなさい。すぐに次が来るわよ。」

 アルトは、川が毒に汚染されるのを防ぐために、ワイバーンを回収して回ってるんだけど。
 出現した『生命の欠片』をすぐに取り込むように促してた。
 少しでも早くレベルを上げて、楽に戦えるようにとの配慮だね。

「楽勝、楽勝、厄災だなんて言ったって所詮はデカいトカゲじゃないか。
 このくらいなら、俺でも何とかなるぜ。」

 ジェレ姉ちゃんなんて、嬉々としてワイバーンを退治しているんだもの。
 ビックリだよ、隊長職のジェレ姉ちゃんはレベル三十、十以上レベルが上のワイバーンを楽々屠ってるんだもの。

「そんなに楽しそうに、ワイバーンを狩れるなんて羨ましいぜ。
 俺は戦闘民族じゃないからな、血がドバっと出るのは遠慮したいぜ。
 魔物狩りは植物系だけで十分だよ。」

 そんな泣き言を言ってるけど、タロウもきっちりワイバーンを仕留めていたよ。 

 戦い方はそれぞれだけど、全員が怪我をすることなくワイバーンと戦い続けていると。

「おい、見ろよ、あれ!
 凄いぜ、たった七人で、厄災と呼ばれるワイバーンを撃退してるぜ。」

「ああ、さっき、血相を変えて逃げて来たこの町の騎士共とは大違いだ。」

「しっかし、何者だ、あの先頭にいるガキ二人は?
 まだ小っこいのに、他の五人よりたくさんワイバーンを屠ってるじゃないか。」

 背後からそんな声が聞こえてきたんだ。
 何事かと思って一瞬背後を伺うと、ウノの町側の岸辺に野次馬が沢山集まっていたよ。
 街を囲む城壁の上にもズラリと人が並んでた。

 何で、建物の中に避難していてくれないかな。
 これじゃ、絶対にここで阻止しないといけなくなったじゃない。 
 
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