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第十五章 ウサギに乗った女王様
第404話 ワイバーンは撃退したんだけど…
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ウノの町を突如として襲って来たワイバーン。
アルトのイタズラで領主の館に誘導され、マイナイ伯爵の騎士団と交戦状態となったの。
ワイバーンは堅固な石造りの宮殿の窓枠にハマっちゃって、身動きに不自由しているんだけど。
それでも騎士達にはワイバーンを討伐することが難しいみたい。
ワイバーンの毒と炎の攻撃で、三十人程いた騎士は既に半数以下になっちゃったよ。
ワイバーンが『厄災中の厄災』と呼ばれる『火吹き』だったのは、予想外のことだったらしく。
焦ったアルトは、おいらにワイバーンを退治するよう指示したんだ。
そんな訳で、ワイバーンの退治に出て行こうとしてると…。
「おい、爺、どういう事だ。
お前は、ワイバーン討伐が容易いと言っておったが。
騎士達が全く敵わないではないか。
儂の大事な譜代の家臣が、あんなにやられてしまったぞ。
こんなに騎士が減ったら、愚民共が騒ぎを起こした時に鎮圧できんぞ。」
「お言葉ですが、殿。
殿の仰せのように、騎士は皆譜代の家臣ばかりです。
それ故、いずれの者もそれなりに高レベルの者ばかり。
にも関わらず、ワイバーン一匹に太刀打ちできぬとは。
不甲斐ないことこの上ない。
日頃の鍛錬が不足していたとしか思えませぬぞ。」
「ええい、煩い。
過ぎてしまったことをウダウダ言うでないわ。
そんな事より、この場をどう切り抜ければ良いのだ。
何か、知恵を出さぬか!」
お爺ちゃんは、弛み切った騎士達を非難し。
騎士達を甘やかして来た伯爵を白い目で見てたけど。
伯爵は自分に都合の悪い話を逸らして、お爺ちゃんに打開策を示せと無茶振りしたんだ。
おいら、思ったよ。お爺ちゃんに頼らず、少しは自分で考えたらって。
「マロン、あのおバカな会話を聞いていても埒が明かないわ。
さっさと行ってワイバーンを倒しちゃって。」
アルトは呆れた様子で伯爵を見ながら、おいらに指示したの。
**********
『積載庫』から出されてみると、そこは伯爵たちのいる部屋、ワイバーンの真っ正面だった。
「騎士のみんな、下がって。
そいつは、おいらが相手をするよ。」
おいらは騎士達に退避するように呼び掛けたのだけど…。
「こら、娘、いったい何処から入り込んだ。
ここは、領主である儂の部屋だぞ!
勝手に入り込むとはけしからん!」
騎士達はワイバーンの攻撃を防ぐことに必死で、おいらの言葉が耳に届かないみたいだった。
誰も退避してくれないの。
そのうえ、伯爵はしょうも無いことを言ってるし…。
吠える伯爵を無視して、おいらはワイバーンを片付けることにしたよ。
早くしないと、騎士の被害が更に増えちゃうからね。
おいらが愛用の『錆びた包丁』を手にして、ワイバーンに近付いて行くと。
ワイバーンは動きを止めて、警戒するようにおいらをジッと睨んだの。
「流石、厄災と呼ばれるほど上位の魔物ね。
マロンの強さを感じ取ったようだわ。
いきなり火を吐くかも知れないから気を付けなさい。」
おいらの傍らを飛ぶアルトがそんな助言をくれたよ。
魔物は本能的に、自分を脅かす存在を感じ取るみたいだものね。
尚もおいらが近付くと…。
ボワッ!
アルトの懸念通り、ワイバーンはいきなり炎を吐いたの。
これぞまさに業火って感じの猛烈な炎を。
これには、ワイバーンに群がっていた騎士達も慌てて飛び退いてたよ。
迫り来る業火、でも、既においらのスキル『完全回避』は仕事を始めてて…。
襲い来る炎はまるで静止しているように見え。
おいらの体は、意識しないでも勝手に炎の被害範囲から離脱するように動いたよ。
そして、おいらが退避した先は、火を吐くために前へ突き出した首の横。
いつもながら、良い仕事をするね、『完全回避』のスキル。
おいらは目の前にあるワイバーンの首を『錆びた包丁』で軽く斬り付けたんだ。
その瞬間、もう一度『完全回避』のスキルが発動し、おいらの体は斜め後方へ飛び退いたよ。
何故スキルが発動したのか分からず、おやっと首を傾げてると…。
ドバッと血飛沫が上がったの、もちろんワイバーンの首から。
そして、力を失って、バタンと床に打ち付けられたワイバンの頭。
おいらが持つ二種類の『クリティカル』スキルがキッチリ仕事をして、一撃でワイバーンを屠ったみたい。
これで一安心と思ったら…。
「「「ギャーーーーー!」」」
おいらのすぐ隣で、幾つもの悲鳴が聞こえ苦しそうに床で転がる騎士の姿が見られたよ。
転がっているのは三人、全員、ワイバーンの血飛沫を浴びたみたいで。
全身が真っ赤になってた。
そして見ている間にも、露出している腕や首、それに顔の皮膚がキモい感じに爛れてくの。
そう言えば、ワイバーンの血って猛毒だったね。
それで、血飛沫を避けるために『完全回避』が働いたんだ…。
感心している場合じゃなかったよ。
「ゴメン、ゴメン、巻き添えにしちゃったね。
これで治ると思うから、赦してね。」
おいらは、床に転がって苦しむ三人の騎士に『妖精の泉』の水を頭から掛けたんだ。
ワイバーンの血を全て洗い流すために、滝のような水をね。
ワイバーンの血が完全に洗い流されると…。
「おおっ、痛く無くなったぞ。
爛れて、ひん剥けた腕の皮膚が元通りになっている。」
「目が見える、もう痛くもねえ。
俺、突然目が見えなくなっちまって。
もう光を拝むことが出来ねえんじゃないかと思ったぜ。」
「無い、無いぞ…。
髪の毛が無くなっちまった。
血飛沫を頭から被っちまって、痛てえと思ったら…。
髪の毛が全部抜けちまってる。
俺、まだ嫁さんも貰ってねえのに、ツルっ禿げじゃ嫁が来てが無いぜ。」
この騎士、頭皮が毒でやられて、髪が抜けちゃったんだね。
ケガは完全に治ってるはずなんで、そのうち生えてくると思うけど…。
三人共、毒は完全に洗い流せた様子で痛みを訴える人は無かったよ。
無残に爛れていた皮膚は、赤ちゃんみたいにツルツルスベスベになってた。
若干一名、髪が残念なことになった騎士がいたけどね。
そして、おいらは窓枠から首を突っ込んだまま息絶えているワイバーンを『積載庫』にしまったの。
勿論、『生命の欠片』も一緒にね。レベル幾つだったか、楽しみだ。
「き、消えた…。ワイバーンはいったい何処へ行っちまったんだ?」
生き残った騎士達の間からそんな疑問の声が上がってた。
**********
ワイバーンを倒して、この場にいる誰もが安堵していると。
「そんな、錆びだらけの包丁でワイバーンを瞬殺だと…。
娘、お前、いったい何者なのだ。」
空気を読まないことを言う輩が若干一名いたよ。
「殿、その方に失礼な物言いをしてはなりませぬ。」
「うん? 爺はこの娘を知っておるのか?」
「いえ、そちらのお嬢様が何方かは存じ上げませんが。
お召し物がとても上等な品で、おそらく殿の身に付けている物より高価な品かと。
何処ぞの高貴な家のお嬢様かと存じますぞ。
それに、危ないところを救って頂いたのです。
先ずは、感謝の意を伝える方が先でしょう。」
お爺ちゃんは、伯爵よりずっと冷静に物事を見ている様子だったよ。
ただ、伯爵の方はお爺ちゃんに諭されたのを快く思ってないみたい。
「うぐぐ…。」
なんて、不満気な声を上げていたよ。
「先ほどは危ないところをお救い頂き厚く感謝申し上げます。
マイナイ伯爵家の執事を仰せつかっているクローニンと申します。
差し支えなければ、お嬢様の御尊名を伺うことは出来ませんか。」
憮然として黙り込んだ伯爵に代わって、お爺ちゃんが感謝の気持ちを伝えてくれたよ。
「初めましてだね。
おいら、マロン・ド・ポルトゥス。
三ヶ月ほど前にこの国の女王になったんだ。
以後よろしくね。」
おいらが自己紹介すると…。
「貴様が、ヒーナル陛下を弑して玉座を簒奪した逆賊か!
儂は、貴様が女王などとは認めんぞ。
正統なる王家はキーン一族だ。
ポルトゥス家など、我々から貴族の特権を奪った裏切り者ではないか!
やれ勝手に税を賦課してはならない。
やれ職務中は飲酒してはならない。
やれ町娘に手を付けてはならない。
そんなふざけたことばかりぬかしやがって。
儂はウンザリしておったのだ。
ヒーナル陛下はそんな儂らの義憤に応えて決起してくださった。
王侯貴族は意のままに愚民共を従えるもの。
そんな当たり前のことすらわからぬポルトゥス家などに用は無いわ!」
伯爵が凄い剣幕で噛み付いて来たよ。
「殿、口を謹んで下され。
どう贔屓目に見ても、逆賊はヒーナルの方です。
先代はポルトゥス王家の施政方針に従ってこの領地を治めて。
市井の民の間で騒乱の一つも起らなかったでは無いですか。
王権が逆賊ヒーナルに移り、殿がヒーナルに迎合した途端。
市井では不満が爆発し、騒乱が頻発している有り様ですぞ。
どちらの施政が良いかは明らかでございましょう。」
お爺ちゃんは、ヤレヤレって感じで伯爵を諫めたんだけど。
「うるさい、うるさい、うるさい。
それもこれも、ポルトゥス王家が長年に亘って愚民共を甘やかしてきたせいではないか。
愚民共が騒乱を起こしたら騎士を遣わせて鎮圧すれば良いのだ。
騒乱の度に、見せしめとして首謀者の首を刎ねておけば良いだろうが。
そのうち、逆らおうとする愚民共もいなくなることだろうよ。」
伯爵の話を聞いてたら頭が痛くなってきたよ。
思考がキーン一族の連中そっくりだ。
伯爵が一方的に捲し立てるので、話が進まなくてどうしようかと思っていると。
「ねえ、あんた、そんな悠長な事をしていて良いのかしら。
魔物の襲撃は、さっきのワイバーンだけだと思ってるんじゃないでしょうね。」
アルトがそんな物騒な事を言ったんだ。
えっ、何それ? どういうこと?
アルトのイタズラで領主の館に誘導され、マイナイ伯爵の騎士団と交戦状態となったの。
ワイバーンは堅固な石造りの宮殿の窓枠にハマっちゃって、身動きに不自由しているんだけど。
それでも騎士達にはワイバーンを討伐することが難しいみたい。
ワイバーンの毒と炎の攻撃で、三十人程いた騎士は既に半数以下になっちゃったよ。
ワイバーンが『厄災中の厄災』と呼ばれる『火吹き』だったのは、予想外のことだったらしく。
焦ったアルトは、おいらにワイバーンを退治するよう指示したんだ。
そんな訳で、ワイバーンの退治に出て行こうとしてると…。
「おい、爺、どういう事だ。
お前は、ワイバーン討伐が容易いと言っておったが。
騎士達が全く敵わないではないか。
儂の大事な譜代の家臣が、あんなにやられてしまったぞ。
こんなに騎士が減ったら、愚民共が騒ぎを起こした時に鎮圧できんぞ。」
「お言葉ですが、殿。
殿の仰せのように、騎士は皆譜代の家臣ばかりです。
それ故、いずれの者もそれなりに高レベルの者ばかり。
にも関わらず、ワイバーン一匹に太刀打ちできぬとは。
不甲斐ないことこの上ない。
日頃の鍛錬が不足していたとしか思えませぬぞ。」
「ええい、煩い。
過ぎてしまったことをウダウダ言うでないわ。
そんな事より、この場をどう切り抜ければ良いのだ。
何か、知恵を出さぬか!」
お爺ちゃんは、弛み切った騎士達を非難し。
騎士達を甘やかして来た伯爵を白い目で見てたけど。
伯爵は自分に都合の悪い話を逸らして、お爺ちゃんに打開策を示せと無茶振りしたんだ。
おいら、思ったよ。お爺ちゃんに頼らず、少しは自分で考えたらって。
「マロン、あのおバカな会話を聞いていても埒が明かないわ。
さっさと行ってワイバーンを倒しちゃって。」
アルトは呆れた様子で伯爵を見ながら、おいらに指示したの。
**********
『積載庫』から出されてみると、そこは伯爵たちのいる部屋、ワイバーンの真っ正面だった。
「騎士のみんな、下がって。
そいつは、おいらが相手をするよ。」
おいらは騎士達に退避するように呼び掛けたのだけど…。
「こら、娘、いったい何処から入り込んだ。
ここは、領主である儂の部屋だぞ!
勝手に入り込むとはけしからん!」
騎士達はワイバーンの攻撃を防ぐことに必死で、おいらの言葉が耳に届かないみたいだった。
誰も退避してくれないの。
そのうえ、伯爵はしょうも無いことを言ってるし…。
吠える伯爵を無視して、おいらはワイバーンを片付けることにしたよ。
早くしないと、騎士の被害が更に増えちゃうからね。
おいらが愛用の『錆びた包丁』を手にして、ワイバーンに近付いて行くと。
ワイバーンは動きを止めて、警戒するようにおいらをジッと睨んだの。
「流石、厄災と呼ばれるほど上位の魔物ね。
マロンの強さを感じ取ったようだわ。
いきなり火を吐くかも知れないから気を付けなさい。」
おいらの傍らを飛ぶアルトがそんな助言をくれたよ。
魔物は本能的に、自分を脅かす存在を感じ取るみたいだものね。
尚もおいらが近付くと…。
ボワッ!
アルトの懸念通り、ワイバーンはいきなり炎を吐いたの。
これぞまさに業火って感じの猛烈な炎を。
これには、ワイバーンに群がっていた騎士達も慌てて飛び退いてたよ。
迫り来る業火、でも、既においらのスキル『完全回避』は仕事を始めてて…。
襲い来る炎はまるで静止しているように見え。
おいらの体は、意識しないでも勝手に炎の被害範囲から離脱するように動いたよ。
そして、おいらが退避した先は、火を吐くために前へ突き出した首の横。
いつもながら、良い仕事をするね、『完全回避』のスキル。
おいらは目の前にあるワイバーンの首を『錆びた包丁』で軽く斬り付けたんだ。
その瞬間、もう一度『完全回避』のスキルが発動し、おいらの体は斜め後方へ飛び退いたよ。
何故スキルが発動したのか分からず、おやっと首を傾げてると…。
ドバッと血飛沫が上がったの、もちろんワイバーンの首から。
そして、力を失って、バタンと床に打ち付けられたワイバンの頭。
おいらが持つ二種類の『クリティカル』スキルがキッチリ仕事をして、一撃でワイバーンを屠ったみたい。
これで一安心と思ったら…。
「「「ギャーーーーー!」」」
おいらのすぐ隣で、幾つもの悲鳴が聞こえ苦しそうに床で転がる騎士の姿が見られたよ。
転がっているのは三人、全員、ワイバーンの血飛沫を浴びたみたいで。
全身が真っ赤になってた。
そして見ている間にも、露出している腕や首、それに顔の皮膚がキモい感じに爛れてくの。
そう言えば、ワイバーンの血って猛毒だったね。
それで、血飛沫を避けるために『完全回避』が働いたんだ…。
感心している場合じゃなかったよ。
「ゴメン、ゴメン、巻き添えにしちゃったね。
これで治ると思うから、赦してね。」
おいらは、床に転がって苦しむ三人の騎士に『妖精の泉』の水を頭から掛けたんだ。
ワイバーンの血を全て洗い流すために、滝のような水をね。
ワイバーンの血が完全に洗い流されると…。
「おおっ、痛く無くなったぞ。
爛れて、ひん剥けた腕の皮膚が元通りになっている。」
「目が見える、もう痛くもねえ。
俺、突然目が見えなくなっちまって。
もう光を拝むことが出来ねえんじゃないかと思ったぜ。」
「無い、無いぞ…。
髪の毛が無くなっちまった。
血飛沫を頭から被っちまって、痛てえと思ったら…。
髪の毛が全部抜けちまってる。
俺、まだ嫁さんも貰ってねえのに、ツルっ禿げじゃ嫁が来てが無いぜ。」
この騎士、頭皮が毒でやられて、髪が抜けちゃったんだね。
ケガは完全に治ってるはずなんで、そのうち生えてくると思うけど…。
三人共、毒は完全に洗い流せた様子で痛みを訴える人は無かったよ。
無残に爛れていた皮膚は、赤ちゃんみたいにツルツルスベスベになってた。
若干一名、髪が残念なことになった騎士がいたけどね。
そして、おいらは窓枠から首を突っ込んだまま息絶えているワイバーンを『積載庫』にしまったの。
勿論、『生命の欠片』も一緒にね。レベル幾つだったか、楽しみだ。
「き、消えた…。ワイバーンはいったい何処へ行っちまったんだ?」
生き残った騎士達の間からそんな疑問の声が上がってた。
**********
ワイバーンを倒して、この場にいる誰もが安堵していると。
「そんな、錆びだらけの包丁でワイバーンを瞬殺だと…。
娘、お前、いったい何者なのだ。」
空気を読まないことを言う輩が若干一名いたよ。
「殿、その方に失礼な物言いをしてはなりませぬ。」
「うん? 爺はこの娘を知っておるのか?」
「いえ、そちらのお嬢様が何方かは存じ上げませんが。
お召し物がとても上等な品で、おそらく殿の身に付けている物より高価な品かと。
何処ぞの高貴な家のお嬢様かと存じますぞ。
それに、危ないところを救って頂いたのです。
先ずは、感謝の意を伝える方が先でしょう。」
お爺ちゃんは、伯爵よりずっと冷静に物事を見ている様子だったよ。
ただ、伯爵の方はお爺ちゃんに諭されたのを快く思ってないみたい。
「うぐぐ…。」
なんて、不満気な声を上げていたよ。
「先ほどは危ないところをお救い頂き厚く感謝申し上げます。
マイナイ伯爵家の執事を仰せつかっているクローニンと申します。
差し支えなければ、お嬢様の御尊名を伺うことは出来ませんか。」
憮然として黙り込んだ伯爵に代わって、お爺ちゃんが感謝の気持ちを伝えてくれたよ。
「初めましてだね。
おいら、マロン・ド・ポルトゥス。
三ヶ月ほど前にこの国の女王になったんだ。
以後よろしくね。」
おいらが自己紹介すると…。
「貴様が、ヒーナル陛下を弑して玉座を簒奪した逆賊か!
儂は、貴様が女王などとは認めんぞ。
正統なる王家はキーン一族だ。
ポルトゥス家など、我々から貴族の特権を奪った裏切り者ではないか!
やれ勝手に税を賦課してはならない。
やれ職務中は飲酒してはならない。
やれ町娘に手を付けてはならない。
そんなふざけたことばかりぬかしやがって。
儂はウンザリしておったのだ。
ヒーナル陛下はそんな儂らの義憤に応えて決起してくださった。
王侯貴族は意のままに愚民共を従えるもの。
そんな当たり前のことすらわからぬポルトゥス家などに用は無いわ!」
伯爵が凄い剣幕で噛み付いて来たよ。
「殿、口を謹んで下され。
どう贔屓目に見ても、逆賊はヒーナルの方です。
先代はポルトゥス王家の施政方針に従ってこの領地を治めて。
市井の民の間で騒乱の一つも起らなかったでは無いですか。
王権が逆賊ヒーナルに移り、殿がヒーナルに迎合した途端。
市井では不満が爆発し、騒乱が頻発している有り様ですぞ。
どちらの施政が良いかは明らかでございましょう。」
お爺ちゃんは、ヤレヤレって感じで伯爵を諫めたんだけど。
「うるさい、うるさい、うるさい。
それもこれも、ポルトゥス王家が長年に亘って愚民共を甘やかしてきたせいではないか。
愚民共が騒乱を起こしたら騎士を遣わせて鎮圧すれば良いのだ。
騒乱の度に、見せしめとして首謀者の首を刎ねておけば良いだろうが。
そのうち、逆らおうとする愚民共もいなくなることだろうよ。」
伯爵の話を聞いてたら頭が痛くなってきたよ。
思考がキーン一族の連中そっくりだ。
伯爵が一方的に捲し立てるので、話が進まなくてどうしようかと思っていると。
「ねえ、あんた、そんな悠長な事をしていて良いのかしら。
魔物の襲撃は、さっきのワイバーンだけだと思ってるんじゃないでしょうね。」
アルトがそんな物騒な事を言ったんだ。
えっ、何それ? どういうこと?
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