ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
400 / 848
第十五章 ウサギに乗った女王様

第400話 揉み手に愛想笑いって、凄く胡散臭いよ…

しおりを挟む
 馬を手に入れてホクホク顔のアルトに、マイナイ伯爵領の騎士達を『積載庫』に収納してもらい。
 今度こそ、おいらは次に行くことにしたんだ。

「おねえちゃん、バイバイ。またあそんでね!」

 おいらに懐いた女の子に見送られて広場から出て行こうとすると。

「女王様、これから、領主の館に乗り込むんですかい?」

 広場に集まった人々の中からそんな問い掛けが聞こえたの。

「うん、領主のところにも行くけど。
 先ずは、エチゴヤだね。
 パンの実は主食だものね、一刻も早く値段を下げさせないと。
 今日これから卸す分だけでも、一つ銅貨五枚に下げさせるよ。」

 領主の館じゃ、時間を取るだろうからね。
 先に領主の館に行ったら、今日中に値下げさせることが出来なくなるかも知れないから。

「明日にでも、パンの実が銅貨十枚で買えるようになるのかい。
 そりゃ助かるよ。
 なんて言ったって、毎日食べるもんだからね。
 期待してるよ。」

 そんな風に期待する声が、彼方此方あちこちから聞こえた来たよ。
 家計を預かる主婦には、パンの実が一つ銅貨四十枚もするのには頭を痛めてただろうからね。

 と言う訳で、広場からほど近いエチゴヤの支店。
 例によってウサギ六匹連ねて移動したら、やじ馬がぞろぞろとついて来たよ。

 エチゴヤの支店の前には、用心棒らしきガラの悪いアンチャンがやる気なさそうに突っ立ってた。
 その前でおいら達がウサギを停めると。

「おい、こら、ここは女子供の来るところじゃないぞ。
 そんな図体のでっかい珍妙なモノを店の前に停められたら商売の邪魔だ。
 さっさと、何処かへ行きやがれ。」

 シッ、シッ、って手の甲で払う仕草をして、おいら達に立ち去るように指示してきたの。

「そういう訳には行かないんだ。
 おいら、この支店に用事があるんだもの。
 それより、アンチャンはここに雇われた用心棒か何か?」

「何だこのガキは?
 ガキがここに用事って、親のお遣いか?
 だが、出直してくるんだな。
 そんな珍妙な生き物をこんな所に放置されたら迷惑だ。
 あんなに野次馬が寄って来ちまったしな。
 用があるなら歩いて来やがれ。」

 アンチャンはおいらの問いに答えようとせず。
 素気すげ無く追い払おうとしたんだ。

「うん? ウサギが邪魔?
 それは心配しないで良いよ。」

 おいらがそう返答してウサギから降りると、すかさずアルトが『積載庫』にしまってくれたよ。
 もちろん、他の五人のウサギもすぐにアルトがしまってくれた。

 周囲に集まった野次馬から「おおっ!」って驚きの声が上がってたよ。

「おいっ! 今オメエらが乗ってた珍妙な生き物。
 いったい何処へ行っちまったんだ。」

 忽然と姿を消したウサギを見てアンチャンは突っ込んで来たけど…。
 おいらはそれを無視して。

「これで文句ないでしょう。
 それより、おいらの質問に答えてよ。
 アンチャンは、ここの用心棒なの? それとも、普通の使用人?」

「何で、俺がそんなことを答えないとならねえんだ。
 俺は、ここの使用人だよ。
 今日は当番で店の警備係をしてるんだ。
 これで良いだろう、用があるならサッサと中に入って済ませるんだな。」 
 
 その返事を聞いて、おいらがジェレ姉ちゃん達に目配せすると…。
 ジェレ姉ちゃんとルッコラ姉ちゃんがすっと前に出て。

「帯剣が許されるのは、警備担当者として役場に届け出がなされた者だけです。
 それ以外の者が、市中で帯剣することは厳禁です。
 法に基づき、その剣は没収させて頂きます。」

 ジェレ姉ちゃんはそう告げると、抵抗する間も与えず剣を没収したよ。
 同時に動いたルッコラ姉ちゃんも、もう一人から剣を取り上げてた。

「おい、テメエら、俺達に喧嘩を売ってんのか!
 いきなり剣を取り上げるたぁ、いってぇ、どんな魂胆だ!」

 問答無用で剣を取り上げられたアンチャン二人。
 頭に血がのぼって、凄い形相でジェレ姉ちゃん達に殴り掛かって来たよ。
 まっ、敵う訳なく、あっと言う間に無力化されちゃったけど。

「さて、お土産も出来たことだし。
 中で用事を済ませようか。」

 おいらは、みんなを率いて支店の扉を潜ったよ。

       **********

 拘束した警備係の二人を引き摺って支店の中に入ると。

「おい、どうした、カチコミか?」

 後ろ手に縛られている警備係の二人を見て、支店の中が騒然としたよ。

「誰でも良い、俺達を助けてくれ。
 こいつら、いきなりやって来て俺達の剣を取り上げやがった。
 しかも、俺達をこんな目に遭わせやがる。」

 捕まえたアンチャンは仲間に助けを求めたんだ。

 それから、ほんの少し時間が経って…。

「何で、こういう連中ってこんなに喧嘩っ早いんだろう。
 冷静に話し合うってことを知らないのかな?」

 そんな呟きを漏らしたおいらの目の前には、ガラの悪い連中が十人ほど転がってたよ。
 余りに軽はずみな行動を取るから、呆れてため息が漏れちゃったよ。

 すると…。

「お客様、うちの使用人が何かご無礼でも致しましたか?」

 愛想笑いを浮かべた中年男が店の奥から現れ、揉み手をしながら尋ねてきたの。

「オッチャンが、ここの支店長かな?
 ちょっと、用があるんだけど?」

「はい、如何にも、私がこの店を預かるオオキニと申します。
 お嬢さんのような幼い子供がご用とは、どういったことでしょうか?」

 オオキニは、愛想笑いを浮かべてるけど、目には警戒の色を浮かべてたよ。目は全然笑ってなかった。

「凄く大事な用があるんだけど、その前に一つ。
 こいつら、何で、堂々と剣をぶら下げてたの?
 許可のない者が剣その他武器を所持することは、二月も前に禁じたはずだけど。
 これは、オッチャンが黙認してたと見なして良いかな。」

「はあ?
 お嬢さん、それは一体何を根拠にそのような事を。
 謂れのない難癖を付けるとなりますと、幾ら幼子とは言え見過ごせませんぞ。
 ご領主様に訴え出て、お嬢さんの親御さんに責任を取ってもらう事になりますよ。」

 おいらの言葉に眼光を鋭くしたオオキニだけど、それでも胡散臭い愛想笑い絶やさずに返答したよ。
 言葉の内容はまんま恫喝だけどね、因縁つけるなら親に責任取らせるぞって。
 でも取り敢えずは、こいつ、堂々と部下に武装させてたのは確定だね。
 剣を持たせて何が悪いのかって態度を取ってるんだもの。

「根拠はこれだよ。
 王都で二ヵ月前に発布された『御触れ』。
 国中の領主と代官に早馬で通信使を出してるんだけどね。
 この町は、荷馬車でも半月で王都から着くんだもの。
 到着してない訳が無いよね。」

 おいらは、さっき広場に貼ったのと同じ『御触れ書き』をオオキニの前に広げて見せたの。

「お嬢さん、何でこれを!
 これは、ご領主様が密かに揉み消したモノ。
 幼子が持っていて良いモノではないはず。」

 流石のオオキニも愛想笑いが消え失せたよ。

「これ、おいらが命じたものだもの。
 と言うことで、ここを訪ねて来た初っ端から犯罪行為を摘発したよ。
 これだけでも、オッチャンはクビに出来るけど…。
 もっと、酷い悪さもしてるよね。
 エチゴヤは、『パンの実』と『塩』の商いだけに制限したのに。
 賭場と風呂屋を経営しているでしょう。
 『パンの実』と『塩』にしたって、法外の値段で販売してるし。」

 おいらは、オオキニに対して『法』や『本店からの指示』に違反している事を指摘したんだ。
 もちろん、ここを訪れた目的の『パンの実』と『塩』の件もね。

「ちょっと待った!
 お嬢さん、一体何モンだ。
 それは市井の者が知らされている内容じゃないぞ。」

「初めましてだね。
 おいら、マロン。
 つい最近、この国の女王になったんだ。
 ついでに言えば、エチゴヤはおいらが接収したから。
 エチゴヤの持ち主でもあるよ。
 当然この支店もおいらのものだよ。」

 問われたから、おいらは身分を明かしたのに…。

 オオキニったら、「へっ?」とか言って、信じられないって顔をしてたよ。
 
 失礼だな…。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...