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アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第400話 揉み手に愛想笑いって、凄く胡散臭いよ…

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 馬を手に入れてホクホク顔のアルトに、マイナイ伯爵領の騎士達を『積載庫』に収納してもらい。
 今度こそ、おいらは次に行くことにしたんだ。

「おねえちゃん、バイバイ。またあそんでね!」

 おいらに懐いた女の子に見送られて広場から出て行こうとすると。

「女王様、これから、領主の館に乗り込むんですかい?」

 広場に集まった人々の中からそんな問い掛けが聞こえたの。

「うん、領主のところにも行くけど。
 先ずは、エチゴヤだね。
 パンの実は主食だものね、一刻も早く値段を下げさせないと。
 今日これから卸す分だけでも、一つ銅貨五枚に下げさせるよ。」

 領主の館じゃ、時間を取るだろうからね。
 先に領主の館に行ったら、今日中に値下げさせることが出来なくなるかも知れないから。

「明日にでも、パンの実が銅貨十枚で買えるようになるのかい。
 そりゃ助かるよ。
 なんて言ったって、毎日食べるもんだからね。
 期待してるよ。」

 そんな風に期待する声が、彼方此方あちこちから聞こえた来たよ。
 家計を預かる主婦には、パンの実が一つ銅貨四十枚もするのには頭を痛めてただろうからね。

 と言う訳で、広場からほど近いエチゴヤの支店。
 例によってウサギ六匹連ねて移動したら、やじ馬がぞろぞろとついて来たよ。

 エチゴヤの支店の前には、用心棒らしきガラの悪いアンチャンがやる気なさそうに突っ立ってた。
 その前でおいら達がウサギを停めると。

「おい、こら、ここは女子供の来るところじゃないぞ。
 そんな図体のでっかい珍妙なモノを店の前に停められたら商売の邪魔だ。
 さっさと、何処かへ行きやがれ。」

 シッ、シッ、って手の甲で払う仕草をして、おいら達に立ち去るように指示してきたの。

「そういう訳には行かないんだ。
 おいら、この支店に用事があるんだもの。
 それより、アンチャンはここに雇われた用心棒か何か?」

「何だこのガキは?
 ガキがここに用事って、親のお遣いか?
 だが、出直してくるんだな。
 そんな珍妙な生き物をこんな所に放置されたら迷惑だ。
 あんなに野次馬が寄って来ちまったしな。
 用があるなら歩いて来やがれ。」

 アンチャンはおいらの問いに答えようとせず。
 素気すげ無く追い払おうとしたんだ。

「うん? ウサギが邪魔?
 それは心配しないで良いよ。」

 おいらがそう返答してウサギから降りると、すかさずアルトが『積載庫』にしまってくれたよ。
 もちろん、他の五人のウサギもすぐにアルトがしまってくれた。

 周囲に集まった野次馬から「おおっ!」って驚きの声が上がってたよ。

「おいっ! 今オメエらが乗ってた珍妙な生き物。
 いったい何処へ行っちまったんだ。」

 忽然と姿を消したウサギを見てアンチャンは突っ込んで来たけど…。
 おいらはそれを無視して。

「これで文句ないでしょう。
 それより、おいらの質問に答えてよ。
 アンチャンは、ここの用心棒なの? それとも、普通の使用人?」

「何で、俺がそんなことを答えないとならねえんだ。
 俺は、ここの使用人だよ。
 今日は当番で店の警備係をしてるんだ。
 これで良いだろう、用があるならサッサと中に入って済ませるんだな。」 
 
 その返事を聞いて、おいらがジェレ姉ちゃん達に目配せすると…。
 ジェレ姉ちゃんとルッコラ姉ちゃんがすっと前に出て。

「帯剣が許されるのは、警備担当者として役場に届け出がなされた者だけです。
 それ以外の者が、市中で帯剣することは厳禁です。
 法に基づき、その剣は没収させて頂きます。」

 ジェレ姉ちゃんはそう告げると、抵抗する間も与えず剣を没収したよ。
 同時に動いたルッコラ姉ちゃんも、もう一人から剣を取り上げてた。

「おい、テメエら、俺達に喧嘩を売ってんのか!
 いきなり剣を取り上げるたぁ、いってぇ、どんな魂胆だ!」

 問答無用で剣を取り上げられたアンチャン二人。
 頭に血がのぼって、凄い形相でジェレ姉ちゃん達に殴り掛かって来たよ。
 まっ、敵う訳なく、あっと言う間に無力化されちゃったけど。

「さて、お土産も出来たことだし。
 中で用事を済ませようか。」

 おいらは、みんなを率いて支店の扉を潜ったよ。

       **********

 拘束した警備係の二人を引き摺って支店の中に入ると。

「おい、どうした、カチコミか?」

 後ろ手に縛られている警備係の二人を見て、支店の中が騒然としたよ。

「誰でも良い、俺達を助けてくれ。
 こいつら、いきなりやって来て俺達の剣を取り上げやがった。
 しかも、俺達をこんな目に遭わせやがる。」

 捕まえたアンチャンは仲間に助けを求めたんだ。

 それから、ほんの少し時間が経って…。

「何で、こういう連中ってこんなに喧嘩っ早いんだろう。
 冷静に話し合うってことを知らないのかな?」

 そんな呟きを漏らしたおいらの目の前には、ガラの悪い連中が十人ほど転がってたよ。
 余りに軽はずみな行動を取るから、呆れてため息が漏れちゃったよ。

 すると…。

「お客様、うちの使用人が何かご無礼でも致しましたか?」

 愛想笑いを浮かべた中年男が店の奥から現れ、揉み手をしながら尋ねてきたの。

「オッチャンが、ここの支店長かな?
 ちょっと、用があるんだけど?」

「はい、如何にも、私がこの店を預かるオオキニと申します。
 お嬢さんのような幼い子供がご用とは、どういったことでしょうか?」

 オオキニは、愛想笑いを浮かべてるけど、目には警戒の色を浮かべてたよ。目は全然笑ってなかった。

「凄く大事な用があるんだけど、その前に一つ。
 こいつら、何で、堂々と剣をぶら下げてたの?
 許可のない者が剣その他武器を所持することは、二月も前に禁じたはずだけど。
 これは、オッチャンが黙認してたと見なして良いかな。」

「はあ?
 お嬢さん、それは一体何を根拠にそのような事を。
 謂れのない難癖を付けるとなりますと、幾ら幼子とは言え見過ごせませんぞ。
 ご領主様に訴え出て、お嬢さんの親御さんに責任を取ってもらう事になりますよ。」

 おいらの言葉に眼光を鋭くしたオオキニだけど、それでも胡散臭い愛想笑い絶やさずに返答したよ。
 言葉の内容はまんま恫喝だけどね、因縁つけるなら親に責任取らせるぞって。
 でも取り敢えずは、こいつ、堂々と部下に武装させてたのは確定だね。
 剣を持たせて何が悪いのかって態度を取ってるんだもの。

「根拠はこれだよ。
 王都で二ヵ月前に発布された『御触れ』。
 国中の領主と代官に早馬で通信使を出してるんだけどね。
 この町は、荷馬車でも半月で王都から着くんだもの。
 到着してない訳が無いよね。」

 おいらは、さっき広場に貼ったのと同じ『御触れ書き』をオオキニの前に広げて見せたの。

「お嬢さん、何でこれを!
 これは、ご領主様が密かに揉み消したモノ。
 幼子が持っていて良いモノではないはず。」

 流石のオオキニも愛想笑いが消え失せたよ。

「これ、おいらが命じたものだもの。
 と言うことで、ここを訪ねて来た初っ端から犯罪行為を摘発したよ。
 これだけでも、オッチャンはクビに出来るけど…。
 もっと、酷い悪さもしてるよね。
 エチゴヤは、『パンの実』と『塩』の商いだけに制限したのに。
 賭場と風呂屋を経営しているでしょう。
 『パンの実』と『塩』にしたって、法外の値段で販売してるし。」

 おいらは、オオキニに対して『法』や『本店からの指示』に違反している事を指摘したんだ。
 もちろん、ここを訪れた目的の『パンの実』と『塩』の件もね。

「ちょっと待った!
 お嬢さん、一体何モンだ。
 それは市井の者が知らされている内容じゃないぞ。」

「初めましてだね。
 おいら、マロン。
 つい最近、この国の女王になったんだ。
 ついでに言えば、エチゴヤはおいらが接収したから。
 エチゴヤの持ち主でもあるよ。
 当然この支店もおいらのものだよ。」

 問われたから、おいらは身分を明かしたのに…。

 オオキニったら、「へっ?」とか言って、信じられないって顔をしてたよ。
 
 失礼だな…。
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