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第十五章 ウサギに乗った女王様
第398話 ウサギで衆目を集めてみたよ
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バニラ姉ちゃん達にギルドの事は任せておいら達は次に行くことにしたの。
アルトに『ラビ』達を出してもらい、ここからはウサギに乗って移動することにしたよ。
おいらが乗る『バニー』とオランが乗る『ラビ』を先頭に六頭のウサギを連ねて進んで行くと。
何事かと、街往く人は物珍し気に足を止めてた。
因みに、バニーってのは、おいらが冒険者研修の初日にお手本として捕まえたウサギだよ。
ウサギの大量虐殺を目にしてから、怯えちゃっておいらから離れようとしないんだ。
なので、おいらはもっぱらバニーに乗ってるの。
そして、着いたのはこの町で一番最初に訪れた中央広場。
ギルドからほんの少ししか離れてない場所だよ、歩いてもすぐの距離。
「おい、マロン。
次へ行くと言ったからエチゴヤか領主のもとへ乗り込むのかと思えば。
何で広場に戻ってきたんだ、こんな近くに来るのにウサギまで出して?」
ウサギには乗らずに、従者よろしく、おいらの隣を歩いていたタロウが尋ねてきたの。
「ウサギに乗って来たのは、移動するためじゃなくて人目を引くためだもん。
ほら、やじ馬が集まって来たじゃない。」
ウサギの魔物を馬の代わりに使っているなんて、おいら達とハテノ男爵領騎士団くらいだものね。
相当珍しいのだと思うよ、実際、おいら達を遠巻きにして注目してる人が沢山いるもの。
すると、小さな女の子がトテトテと寄って来て…。
「すごい、おおきなウサギさん。
いいなー、あたしものってみたい…。」
さっそく、乗せて欲しいと言われたよ。
「良いよ、乗りな。
広場を一周してあげるよ。」
「えっ、いいの?」
おいらが気安く請け負うと、少女は上目遣いで確認してきたの。
それに、おいらが頷くと…。
「わーい!のっけて!」
少女が嬉しそうに飛びついて来たので、おいらは掬い上げるようにバニーに乗せてあげたよ。
そして、そこそこ広い広場を一周して帰ってくると。
様子を窺っていた子供達が沢山寄って来て、自分も乗せ欲しいとせがんで来たの。
おいらは、子供達を乗せてあげるようにと、近衛の四人に指示したよ。
それから、最初に乗せた少女を地面に降ろすと。
「どう、楽しかった?」
「うん、おねえちゃん、ありがとう。
すっごく、たのしかった。」
少女は満面の笑みを浮かべて喜んでくれたよ。
「何方か存じませんが、うちの娘がご無理を言って申し訳ございません。」
少女のお母さんが人混みから出て来て感謝の言葉を掛けてくれたよ。
「気にしないで良いよ。王都じゃしょっちゅうしていることだから。
それより、これお土産ね。シュガーポットだよ。
その子に何かお菓子でも造って上げて。」
おいらは少女を抱き寄せているお母さんにシュガーポットを一つ差し出したの。
「そんな、見ず知らずの方に頂く訳には参りません。
砂糖なんて、昔と違ってすっかり高価になってしまいました。
おいそれと、他人に差し出すモノではないかと。」
お母さんは、そう答えて受取ろうとしなかったんだ。
「まあ、そんなに遠慮しないで良いから。
今日、ウサギに乗った子達には、一つずつ配ろう思って持って来たんだから。
もし、申し訳ないと思うなら、もう少しここに居て告知板を見ていってちょうだい。」
おいらはお母さんにそう告げると、抱きかかえられてる少女にシュガーポットを渡したの。
これで何か、美味しいものを作ってもらいなさいって言って。
「うぁ、おねえちゃん、ありがとう!」
「あっ、こら!」
嬉しそうに受け取った少女に、お母さんは注意するけど。
手放そうとしない少女から取り上げるのは諦めたみたいだよ。
「あら、随分と気前の良いお嬢ちゃんじゃないかい。
私も娘を連れてきたら、『砂糖』を貰えるかい?」
おいら達のやり取りを見ていたおばちゃんがそう尋ねてきたの。
「もちろん、構わないよ。
シュガーポットはタップリ持って来たから、娘さん連れて来て。
近所のお母さんも誘って来れば良いよ。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないかい。
じゃあ、隣近所に声を掛けて来るよ。」
そう言うと、おばちゃんは娘さんを呼びに広場から出て行ったよ。
そのまま、小さな子をウサギに乗せてはお土産に『シュガーポット』を配っていると。
子供をウサギに乗せると『砂糖』がもらえるとの噂が広まり、中央広場は黒山の人だかりが出来ちゃったよ。
**********
「わーい!お姉ちゃん、ありがとー!
ママ、これで、美味しいクッキー、沢山作って!」
最後にウサギの乗った子供に『シュガーポット』を手渡すと、それを母親に預けておいらに抱き付きて来たよ。
べったりとおいらに引っ付いてるんで、頭をナデナデすると気持ち良さそうに目を細めてた。
近衛騎士四人で手分けをして、子供達をウサギに乗せて遊ばせることしばし。
ウサギに乗せる子も途切れたので、おいらは次の行動に移ることにしたよ。
おいらが最初から陣取っていたのは、実は広場に設置された告知板の前。
けしからんことに、告知板には何のお触れ書きも貼られてなかったよ。
違った、一枚だけ貼られてた。
一年以上前に貼り出された尋ね人の御触れ書き、そう、おいらを捜せって懸賞金付きのヤツ。
おいらはそれを剥がすと、代わりにおいらが出した御触れをオランとタロウの三人で貼り出していったんだ。
「私もやる!」って言って、引っ付いてた女の子もお手伝いしてくれた。
すると…。
「おい、おい、お嬢ちゃん、何をしているんだ。
その告知板は、役場からの御触れ書きを貼るところなんだぞ。
勝手に貼ったり、剥がされたりしちゃ困るよ。
俺が領主様に叱られちまう。」
人の良さそうな兄ちゃんが、おいらに苦情を言ってきたよ。
「うん? お兄ちゃんはお役人さん?」
「俺か? 俺は役人なんて言う大そうなモンじゃないよ。
まあ、一応、ご領主様から雇われてはいるが。
この広場の管理人と言ったところかな。
告知板や露店の管理、それに広場の掃除を仰せつかっている。
まあ、御触れなんてこの五年で一枚だけだけどな。」
「そう、勝手に触っちゃってゴメンね。
でも、おいらが貼ったモノはここに貼らないといけないモノなんだ。
それと、この尋ね人の御触れ書きはもう不要なモノだし。」
おいらの返事を受けて怪訝な顔をした管理人の兄ちゃん。
「どれどれ」なんて呟きながら、おいらが貼った紙に目を向けたよ。
「こっ、これは、王宮から出された御触れ書き?
何だ、この『物品にかかる税の廃止について』ってヤツは…。
もう二月も前に出されてるじゃないか。
じゃあ、この二月、俺達が支払った税は何処へ行っちまったんだ?」
一番端に貼られた御触れ書きを読んで、兄ちゃんはそんな声を上げたんだ。
周囲に集まった沢山の人達にも聞こえる大きな声でね。
「何だって!」
そんな声が聞こえたと思ったら、告知板の前に人が群がってきたよ。
そして…。
「本当だ、もう二月も前に税が撤廃されてるし。
こっちには、税が掛かっていた物品の値段を課税前の水準に戻すよう指示されてるじゃないか。」
「いや、それよりも、こっちの方が重要だぞ。
『パンの実』と『塩』について価格統制をするって書かれてあるじゃないか。
俺達、末端の者への売値で『パンの実』一つ銅貨十枚以上の値で売るのを禁ずると書いてある。
違反したら強制労働だって書いてあるぞ。」
「おい、こっちには、もう、エチゴヤを通して物の売買をする必要無いって。
しかも、エチゴヤは王宮の管理下で、『パンの実』と『塩』だけに商いを絞るだと。
エチゴヤからの卸値も決められているぜ、『パンの実』一つ銅貨五枚だってよ。」
「いったい、どうなってるんだい!
こんな大事な御触れが周知されてないなんて!」
告知板を見た人達からそんな声が上がってたよ。
「それね、マイナイ伯爵が御触れを握り潰してたんだ。
ギルドとエチゴヤも結託しててね。
この二ヵ月間に街の人が払った税は、三者で山分けしてたんだよ。
こいつが言ったよ。」
おいらが町の人達に向けて説明すると。
アルトは、阿吽の呼吸でギルドの元支部長ゴマスリーを『積載庫』から放り出したよ。
**********
「やや、こいつ、領主様の腰巾着の一人、ギルドのゴマスリーじゃねえか。
こいつ、今、どこから出て来たんだ?」
突然、宙から降って来たゴマスリーを見て、そんな声が漏れ聞こえてきたよ。
「そう言えば、さっきの『シュガーポット』も何処から出て来たのかしら」なんて声も囁かれてた。
「驚かして悪い。
俺は冒険者ギルド『ひまわり会』の会長、タロウと言う。
先ずは、ゴマスリーと冒険者共が町の皆に迷惑を掛けたことを深くお詫びする。
ゴマスリーはこの通り、支部長を解任の上、ギルドもクビにした。
この後は、過去の不正を洗い出し、厳正に処罰するつもりだ。
また、悪さをしてた冒険者も、捕らえて厳罰に処するから安心して欲しい。」
タロウはそう切り出すと、『タクトー会』は数々の悪事が露見して役所の管理下に入ったことを説明したの。
その中で、タロウは、ギルドの立て直しのために女王から派遣されてきたことも話したし。
ギルドの名称も『タクトー会』から『ひまわり会』に変更したこともお知らせしてたよ。
高利貸は止めるとか、冒険者の悪事は厳しく取り締まるとか、色々と今後の運営方針も説明してた。
「おい、ゴマスリーの悪党をひっ捕まえるのは有り難いが。
後釜はどうするんだい。
あんた、王都の会長さんなら、すぐに帰っちまうんだろ。
後釜が悪党だったら、元の木阿弥じゃねえか。」
すると、街の人からもっともな心配をする声が聞こえてきたよ。
「おう、それな。
王都から信頼のできる者を連れて来たぜ。
新しい支部長はバニラっていう娘だが。
この町にあるキノクニヤって大店の娘らしいぞ。」
「バニラちゃんなら、知ってるよ。
気立ての良い娘だろう。
キノクニヤの看板娘だったのに。
気の毒に、スケベ領主に目を付けられちまって…。
いつの間にか夜逃げしちまったんだよね。」
バニラ姉ちゃんって、ご近所で評判の娘さんだったんだ。
「でもよ、領主に目を付けられた娘で大丈夫か?
あの領主、ハイエナみてえなヤツだから。
下手したら、力尽くで手籠めにされちまうぞ。」
バニラ姉ちゃんの身を案ずる声が聞こえると…。
「それは心配する必要が無いと思うぞ。
これからエチゴヤと領主の所を回るが、こいつがキツイお仕置きしてくれるはずだから。」
タロウがおいらを指差して言ったの。
「こいつって、このお嬢ちゃんかい?
お嬢ちゃん、まだ十やそこいらだろう。
一体何が出来るって言うんだい。
そもそも、お嬢ちゃんは何モンなのさ?
勝手に御触れ書きを貼ってたみたいだけど…。」
おいらが、引っ付いたままの女の子をナデナデしてると。
一緒に居たお母さんがおいらを見てそんなことを言ってたよ。
「ああ、こいつな。
最近、この国の女王になったんだ。
マロン女王陛下、先々代王の孫だぞ。
確か、第三王子の一人娘?」
何で、最期、疑問文なのかな…。
それはともかく、市井の人々に国王を紹介するのに『こいつ』は無いと思うよ、おいら。
「「「「「女王陛下?」」」」」
ほら、みんな信じてない…。
アルトに『ラビ』達を出してもらい、ここからはウサギに乗って移動することにしたよ。
おいらが乗る『バニー』とオランが乗る『ラビ』を先頭に六頭のウサギを連ねて進んで行くと。
何事かと、街往く人は物珍し気に足を止めてた。
因みに、バニーってのは、おいらが冒険者研修の初日にお手本として捕まえたウサギだよ。
ウサギの大量虐殺を目にしてから、怯えちゃっておいらから離れようとしないんだ。
なので、おいらはもっぱらバニーに乗ってるの。
そして、着いたのはこの町で一番最初に訪れた中央広場。
ギルドからほんの少ししか離れてない場所だよ、歩いてもすぐの距離。
「おい、マロン。
次へ行くと言ったからエチゴヤか領主のもとへ乗り込むのかと思えば。
何で広場に戻ってきたんだ、こんな近くに来るのにウサギまで出して?」
ウサギには乗らずに、従者よろしく、おいらの隣を歩いていたタロウが尋ねてきたの。
「ウサギに乗って来たのは、移動するためじゃなくて人目を引くためだもん。
ほら、やじ馬が集まって来たじゃない。」
ウサギの魔物を馬の代わりに使っているなんて、おいら達とハテノ男爵領騎士団くらいだものね。
相当珍しいのだと思うよ、実際、おいら達を遠巻きにして注目してる人が沢山いるもの。
すると、小さな女の子がトテトテと寄って来て…。
「すごい、おおきなウサギさん。
いいなー、あたしものってみたい…。」
さっそく、乗せて欲しいと言われたよ。
「良いよ、乗りな。
広場を一周してあげるよ。」
「えっ、いいの?」
おいらが気安く請け負うと、少女は上目遣いで確認してきたの。
それに、おいらが頷くと…。
「わーい!のっけて!」
少女が嬉しそうに飛びついて来たので、おいらは掬い上げるようにバニーに乗せてあげたよ。
そして、そこそこ広い広場を一周して帰ってくると。
様子を窺っていた子供達が沢山寄って来て、自分も乗せ欲しいとせがんで来たの。
おいらは、子供達を乗せてあげるようにと、近衛の四人に指示したよ。
それから、最初に乗せた少女を地面に降ろすと。
「どう、楽しかった?」
「うん、おねえちゃん、ありがとう。
すっごく、たのしかった。」
少女は満面の笑みを浮かべて喜んでくれたよ。
「何方か存じませんが、うちの娘がご無理を言って申し訳ございません。」
少女のお母さんが人混みから出て来て感謝の言葉を掛けてくれたよ。
「気にしないで良いよ。王都じゃしょっちゅうしていることだから。
それより、これお土産ね。シュガーポットだよ。
その子に何かお菓子でも造って上げて。」
おいらは少女を抱き寄せているお母さんにシュガーポットを一つ差し出したの。
「そんな、見ず知らずの方に頂く訳には参りません。
砂糖なんて、昔と違ってすっかり高価になってしまいました。
おいそれと、他人に差し出すモノではないかと。」
お母さんは、そう答えて受取ろうとしなかったんだ。
「まあ、そんなに遠慮しないで良いから。
今日、ウサギに乗った子達には、一つずつ配ろう思って持って来たんだから。
もし、申し訳ないと思うなら、もう少しここに居て告知板を見ていってちょうだい。」
おいらはお母さんにそう告げると、抱きかかえられてる少女にシュガーポットを渡したの。
これで何か、美味しいものを作ってもらいなさいって言って。
「うぁ、おねえちゃん、ありがとう!」
「あっ、こら!」
嬉しそうに受け取った少女に、お母さんは注意するけど。
手放そうとしない少女から取り上げるのは諦めたみたいだよ。
「あら、随分と気前の良いお嬢ちゃんじゃないかい。
私も娘を連れてきたら、『砂糖』を貰えるかい?」
おいら達のやり取りを見ていたおばちゃんがそう尋ねてきたの。
「もちろん、構わないよ。
シュガーポットはタップリ持って来たから、娘さん連れて来て。
近所のお母さんも誘って来れば良いよ。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないかい。
じゃあ、隣近所に声を掛けて来るよ。」
そう言うと、おばちゃんは娘さんを呼びに広場から出て行ったよ。
そのまま、小さな子をウサギに乗せてはお土産に『シュガーポット』を配っていると。
子供をウサギに乗せると『砂糖』がもらえるとの噂が広まり、中央広場は黒山の人だかりが出来ちゃったよ。
**********
「わーい!お姉ちゃん、ありがとー!
ママ、これで、美味しいクッキー、沢山作って!」
最後にウサギの乗った子供に『シュガーポット』を手渡すと、それを母親に預けておいらに抱き付きて来たよ。
べったりとおいらに引っ付いてるんで、頭をナデナデすると気持ち良さそうに目を細めてた。
近衛騎士四人で手分けをして、子供達をウサギに乗せて遊ばせることしばし。
ウサギに乗せる子も途切れたので、おいらは次の行動に移ることにしたよ。
おいらが最初から陣取っていたのは、実は広場に設置された告知板の前。
けしからんことに、告知板には何のお触れ書きも貼られてなかったよ。
違った、一枚だけ貼られてた。
一年以上前に貼り出された尋ね人の御触れ書き、そう、おいらを捜せって懸賞金付きのヤツ。
おいらはそれを剥がすと、代わりにおいらが出した御触れをオランとタロウの三人で貼り出していったんだ。
「私もやる!」って言って、引っ付いてた女の子もお手伝いしてくれた。
すると…。
「おい、おい、お嬢ちゃん、何をしているんだ。
その告知板は、役場からの御触れ書きを貼るところなんだぞ。
勝手に貼ったり、剥がされたりしちゃ困るよ。
俺が領主様に叱られちまう。」
人の良さそうな兄ちゃんが、おいらに苦情を言ってきたよ。
「うん? お兄ちゃんはお役人さん?」
「俺か? 俺は役人なんて言う大そうなモンじゃないよ。
まあ、一応、ご領主様から雇われてはいるが。
この広場の管理人と言ったところかな。
告知板や露店の管理、それに広場の掃除を仰せつかっている。
まあ、御触れなんてこの五年で一枚だけだけどな。」
「そう、勝手に触っちゃってゴメンね。
でも、おいらが貼ったモノはここに貼らないといけないモノなんだ。
それと、この尋ね人の御触れ書きはもう不要なモノだし。」
おいらの返事を受けて怪訝な顔をした管理人の兄ちゃん。
「どれどれ」なんて呟きながら、おいらが貼った紙に目を向けたよ。
「こっ、これは、王宮から出された御触れ書き?
何だ、この『物品にかかる税の廃止について』ってヤツは…。
もう二月も前に出されてるじゃないか。
じゃあ、この二月、俺達が支払った税は何処へ行っちまったんだ?」
一番端に貼られた御触れ書きを読んで、兄ちゃんはそんな声を上げたんだ。
周囲に集まった沢山の人達にも聞こえる大きな声でね。
「何だって!」
そんな声が聞こえたと思ったら、告知板の前に人が群がってきたよ。
そして…。
「本当だ、もう二月も前に税が撤廃されてるし。
こっちには、税が掛かっていた物品の値段を課税前の水準に戻すよう指示されてるじゃないか。」
「いや、それよりも、こっちの方が重要だぞ。
『パンの実』と『塩』について価格統制をするって書かれてあるじゃないか。
俺達、末端の者への売値で『パンの実』一つ銅貨十枚以上の値で売るのを禁ずると書いてある。
違反したら強制労働だって書いてあるぞ。」
「おい、こっちには、もう、エチゴヤを通して物の売買をする必要無いって。
しかも、エチゴヤは王宮の管理下で、『パンの実』と『塩』だけに商いを絞るだと。
エチゴヤからの卸値も決められているぜ、『パンの実』一つ銅貨五枚だってよ。」
「いったい、どうなってるんだい!
こんな大事な御触れが周知されてないなんて!」
告知板を見た人達からそんな声が上がってたよ。
「それね、マイナイ伯爵が御触れを握り潰してたんだ。
ギルドとエチゴヤも結託しててね。
この二ヵ月間に街の人が払った税は、三者で山分けしてたんだよ。
こいつが言ったよ。」
おいらが町の人達に向けて説明すると。
アルトは、阿吽の呼吸でギルドの元支部長ゴマスリーを『積載庫』から放り出したよ。
**********
「やや、こいつ、領主様の腰巾着の一人、ギルドのゴマスリーじゃねえか。
こいつ、今、どこから出て来たんだ?」
突然、宙から降って来たゴマスリーを見て、そんな声が漏れ聞こえてきたよ。
「そう言えば、さっきの『シュガーポット』も何処から出て来たのかしら」なんて声も囁かれてた。
「驚かして悪い。
俺は冒険者ギルド『ひまわり会』の会長、タロウと言う。
先ずは、ゴマスリーと冒険者共が町の皆に迷惑を掛けたことを深くお詫びする。
ゴマスリーはこの通り、支部長を解任の上、ギルドもクビにした。
この後は、過去の不正を洗い出し、厳正に処罰するつもりだ。
また、悪さをしてた冒険者も、捕らえて厳罰に処するから安心して欲しい。」
タロウはそう切り出すと、『タクトー会』は数々の悪事が露見して役所の管理下に入ったことを説明したの。
その中で、タロウは、ギルドの立て直しのために女王から派遣されてきたことも話したし。
ギルドの名称も『タクトー会』から『ひまわり会』に変更したこともお知らせしてたよ。
高利貸は止めるとか、冒険者の悪事は厳しく取り締まるとか、色々と今後の運営方針も説明してた。
「おい、ゴマスリーの悪党をひっ捕まえるのは有り難いが。
後釜はどうするんだい。
あんた、王都の会長さんなら、すぐに帰っちまうんだろ。
後釜が悪党だったら、元の木阿弥じゃねえか。」
すると、街の人からもっともな心配をする声が聞こえてきたよ。
「おう、それな。
王都から信頼のできる者を連れて来たぜ。
新しい支部長はバニラっていう娘だが。
この町にあるキノクニヤって大店の娘らしいぞ。」
「バニラちゃんなら、知ってるよ。
気立ての良い娘だろう。
キノクニヤの看板娘だったのに。
気の毒に、スケベ領主に目を付けられちまって…。
いつの間にか夜逃げしちまったんだよね。」
バニラ姉ちゃんって、ご近所で評判の娘さんだったんだ。
「でもよ、領主に目を付けられた娘で大丈夫か?
あの領主、ハイエナみてえなヤツだから。
下手したら、力尽くで手籠めにされちまうぞ。」
バニラ姉ちゃんの身を案ずる声が聞こえると…。
「それは心配する必要が無いと思うぞ。
これからエチゴヤと領主の所を回るが、こいつがキツイお仕置きしてくれるはずだから。」
タロウがおいらを指差して言ったの。
「こいつって、このお嬢ちゃんかい?
お嬢ちゃん、まだ十やそこいらだろう。
一体何が出来るって言うんだい。
そもそも、お嬢ちゃんは何モンなのさ?
勝手に御触れ書きを貼ってたみたいだけど…。」
おいらが、引っ付いたままの女の子をナデナデしてると。
一緒に居たお母さんがおいらを見てそんなことを言ってたよ。
「ああ、こいつな。
最近、この国の女王になったんだ。
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何で、最期、疑問文なのかな…。
それはともかく、市井の人々に国王を紹介するのに『こいつ』は無いと思うよ、おいら。
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