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第十五章 ウサギに乗った女王様

第397話 新支部長は訳有りだったみたい

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 支部長のゴマスリーとその手下を確保したタロウは、王都から連れて来た五人のお姉さんにウノ支部を任せたの。
 そして、みんなを連れてロビーのある一階へ降りたんだ。

 おいら達がぞろぞろと階段を降っていくと、ロビーにたむろってた連中はギョッとしてたよ。
 そりゃそうだね、訪れた形跡のない人間が多数上階から降りて来るんだもの。
 みんな、ビックリするだろうさ。

 ロビーの中程まで進んだタロウは、アルトにお願いしてゴマスリーを床に放り出してもらったよ。

 オランに足首をへし折られてもがき苦しむゴマスリーを目にして…。

「おっ、お頭! 一体どうしやした!
 おい、テメラ、お頭になんてことをしやがる。」

 今にも掴みかからん勢いで、冒険者の一人が怒声を浴びせて来たよ。

「ええい、騒ぐな、うるさい。
 俺は王都から来たこのギルドの会長、タロウだ。
 ゴマスリーは、俺の指示に背いたので、支部長を解任、解雇した。
 後任の支部長はここに居るバニラに任せた。
 他の四人は、この支部の幹部としてバニラを補佐してもらう。
 これからはこの五人の指示に従うように。」

 タロウは、怒声を放った冒険者を一喝すると、支部の幹部刷新を宣告したんだ。

「何だ、オメエが『タクトー会』の会長だって。
 いきなりやって来て、何吹かしてやがる。
 俺は、そんな事、一言も聞いちゃいないぞ。」

 冒険者はタロウをギルドの会長だと信じていない様子だったよ。

 すると、…。

「ああ、これは、新しい会長様でしたか。
 通知は二月ほど前に頂戴しております。
 ただ、本部から送られてきた指示は支部長は握り潰しておりまして…。
 出入りしている冒険者には一切知らされていなのです。」

 カウンターの奥から出て来た職員らしき男が、タロウに頭を下げて弁明してた。

「おっ、おい、そいつが会長だってのは本当か?」

「はあ、面識がある訳ではございませんが。
 先日来、本部の人事の刷新や新しい経営方針等の通達が届いてまして。
 それがゴマスリー支部長の気に召さなかったようで。
 誰にも漏らすなと言って握り潰してたのです。」

 タロウが会長だと信じられない冒険者に対し、職員はそんな説明をしてたよ。

「まっ、そう言う訳だから。
 今まで通りこのギルドに出入りしたけりゃ、バニラの指示に従えよ。
 バニラ姉さん、俺は、マロンの付き添いで次に行くから。
 後のことは任せて良いか?」

 余りギルドに時間を取る訳には行かないので、ギルドの不正を暴くのは五人に任せる事にしたんだ。

「任せといて。
 手始めに、ギルド内に若い娘が監禁されてないか検める事からだね。
 その後、指示通りに内部の不正を調査をやって…。
 勿論、看板の掛け替えも済ませとくよ。」

 バニラ姉ちゃんは、するべきことを事前にタロウから指示されてたみたい。
 タロウが頷いていたので、ここは任せて次に行こうかと思ってると。

     **********

「誰かと思えば、キノクニヤのお嬢さんじゃございませんか。
 ご無事だったのですね。
 バニラお嬢さんが、ここの支部長をなされるのなら安心です。」

 さっき、タロウに頭を下げてた職員がバニラ姉ちゃんに声を掛けてたよ。
 どうやら、バニラ姉ちゃんのことを知ってるみたい。

「何だ、キノクニヤの娘だって?
 バニラって何処かで聞いたことがある名だと思ったが…。
 オメエ、キノクニヤの娘か。
 ご領主様からのお声掛かりを拒否して逃げ出した不届き者の。」

「誰が、不届き者よ!
 お声掛かりだなんて言って、体よく妾にしようって魂胆じゃないか。
 あんなエロ親父の妾になんか、真っ平御免だってんだ。」

 連れて来た五人は全員東部地区の出身で土地勘があるお姉さんばかりと聞いていたけど。
 どうやら、バニラ姉ちゃんはドンピシャこの町の出身だったんだね。
 しかも、けっこう有力な商人の娘さんみたい。
 訳有りで、この町を飛び出していたようだね。

「うん? バニラ姉さん、王都へ出て来たのって何か訳有りだったのかい?」

「タロウ君には細かい事情は説明してなかったね。
 マイナイ伯爵って奴は、四十過ぎの中年オヤジなんだが…。
 いい歳して、若い娘を漁るのが大好きでな。
 街で気に入った娘がいると、女中奉公しろって命じやがるんだ。
 女中なんて言ってるけど実態は妾で、やらせるのは夜の世話さ。
 運悪く私も目を付けれちまってね。
 嫌だと断ったんだけど、そしたら質の悪い嫌がらせをしてきてよ。
 この町にいると家の商売にも迷惑が掛かるんで、家出したんだよ。」

「それじゃ、ここへ帰って来たら拙いんじゃねえか?
 また、伯爵から妾になれって迫られるんじゃ。
 この町の支部を預けると言った時に断っても良かったんだぜ。」

 タロウがバニラ姉ちゃんを気遣うようなセリフを口にすると…。

「何言ってんだい。
 タロウ君とマロン様、オラン様が乗り込んできたんだよ。
 あのエロ親父が無事で済む訳ないじゃないか。
 タロウ君からウノの街の支部を視察に行くと聞いて。
 もしゴマスリーが役立たずなら、代わりに支部長をやらないか。
 そう言われた時に、私は迷わなかったよ。
 三人がこの町に巣食った悪党共を退治してくれるだろうと思ったから。
 私は、生まれ育ったこの町に愛着があるからね。
 この町の立て直しに協力できるのならとタロウ君の誘いに乗ったんだ。」

 端から、マイナイ伯爵とゴマスリー、それにエチゴヤの支店長の三人が排除されると予想してたんだ。
 三者が結託して悪事を働いてたのは事実みたいだから、実際にそうなりそうだけどね。 

「おい、バニラ、何を勝手なこと言ってるんだ。
 テメエが逃げ出したもんだから。
 拉致って来いと命じられた俺達がお頭からたっぷり絞られたんだぞ。
 俺のアニキなんて、責任取らされてエンコ詰めさせられたんだ。
 どう落とし前つけてくれるんだ。」

「ふーん、あんた、誰だか知らないけど。
 あんたも、親父の店に嫌がらせに来てた口かい。
 分かったよ、じゃあ、落とし前つけてやろうじゃないか。」

 売り言葉に買い言葉じゃないけど、落とし前つけろと迫られたバニラ姉ちゃんは啖呵を切ると。
 ツカツカと男に近付いて…、思い切り股間を蹴り上げたよ。

「ウギャーー!」

 レベル二十もあるバニラ姉ちゃんの強烈な蹴りは、的確に男の股間を蹴り抜いてた。
 悲鳴を上げた男は股間を押さえて床に転がり、悶絶してたよ。

 バニラ姉ちゃんは、床で悶絶してるしてる男から剣と懐剣を取り上げると。
 ズルズルと出入口の所まで引き摺っていったよ。

 そして。
 
「あんたみたいなクズはこのギルドには不要よ。
 二度と、このギルドの扉は潜らせないわ。」

 吐き捨てるようにギルドからの追放を告げて、力任せに外に向かって放り出してた。
 因みに外は石畳で、ギルドの床は外部から五段ほど階段を上ったところにあるの。
 打ちどころが悪ければ死んじゃうかも…。
 
 バニラ姉ちゃんの所業に、その場にいた冒険者連中は皆呆然としてたよ。
 まあ、華奢で小柄なバニラ姉ちゃんが、大柄な男を一撃でのしただけじゃなくて。
 凄い勢いで、外に向かって放り投げていたからね。マジで、男は飛んでったもん。

「ああ、悪いことは言わないから。
 この五人には逆らわない方が良いと思うぞ。
 お前ら、束になって掛かっても絶対に敵わないと思うから。」

 タロウはロビーにいる冒険者達にそんな忠告をしていたよ。
 
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