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第十五章 ウサギに乗った女王様

第395話 『ひまわり会』の支部を訪ねてみると…

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 冒険者ギルドの支部があるという街路の入り口で。
 その街路の雰囲気の悪さに呆気にとられ、足を踏み入れることに躊躇していたら。

「マロンやオランのような幼子にこの中を歩かせるのは、流石にどうかと思うわ。
 ジェレ達にも、ロクでもない男がコバエみたいに寄って来そうだし…。
 良いわ、ギルドまで、また私が連れて行ってあげる。」

 アルトがギルドまで『積載庫』に乗っけてくれることになったよ。
 ギルドに着いたら同時に行動できるように、全員一緒の部屋に詰め込まれたの。

 『積載庫』に乗せられて進むこと程なくして、アルトは重厚な石造りの建物の前で停まったの。
 そこで、おいら達を降ろして正面から堂々と立ち入るのかと思ってたら。
 アルトは高度を上げて、最上階の窓の高さまで昇ると、窓の中を伺い始めたよ。
 幾つかの部屋を順繰りに窓の外から覗いて回り、とある部屋に開いた窓から侵入したんだ。

 その部屋の中では…。

「支部長、先月の収支がまとまりやした。
 この支部が開設して以来の儲けが上がりやしたぜ。」

 男が、支部長と呼んだ小太りの中年音に報告書を手渡してたよ。
 支部長は、報告書をペラペラと捲りながら中身に目を通して…。

「どれどれ、金貸しは順調のようだな。
 『風呂屋』に沈める娘も滞りなく確保しているし…。
 カジノの方も、変わりなしか。
 でもって、この税が取っ払われたモノが儲けが増えた訳か。
 王が替わったか、何だか知らねえが。
 税が廃止されて助かるぜ。
 国に税を納めていた分、領主様、エチゴヤ、うちで山分けできるんだものな。」

「へえ、そうでござんすね。
 誰がバカ正直に税の分を割り引きますかってね。
 税が廃止された事なんて、愚民共には分からないんですから。」

「まあな、告知板に掲示しろと送られてきた御触れ書きはご領主様が握り潰したそうだからな。
 御触れが徹底されてるかなんて、どうせお上には分からないことだ。
 役人が、こんな辺境まで調べに来る訳がないしな。」

 いきなり核心に迫る会話をしていたよ。
 撤廃した税金分のお金は三者で山分けしてたんだね、とんでもない奴らだ。

「何だかなー、まるでラノベのようなご都合主義展開じゃないか。」

 おいらの隣でタロウがまた訳の分からない呟きを漏らしてた。

       **********

「また、絵に描いたような悪党がいたものね。
 これは、キツイお仕置きが必要そうね。」

 アルトが二人の会話に呆れてそんなことを言うと。

「誰だ! 何処にいる?
 隠れてないで姿を現せ!」

 室内を見回して支部長がそんな怒声をあげたんだ。
 「いや、隠れてないから。」って、心の中でツッコミを入れたよ。

「何処に目を付けてるのよ! ここよ! ここ!」

 アルトが天井近くから声を掛けると、下っ端の方が上を見上げて。

「支部長、何やら、あそこに小さな娘が飛んでおりますが…。」
 
 アルトを指差して支部長の声の元を知らせてた。
 こいつ、命拾いしたね、『羽虫』と呼ばなかったよ。

「何だ、珍妙な生き物だな。
 猫くらいの大きさなのに、一丁前に娘の姿をしとるではないか。
 よく見ると、なかなか見目美しい娘だ。
 小さすぎて実用には耐えんが、自慢のタネとして飼うには良いかも知れん。
 おい、お前、あの珍妙な娘をご領主様への貢物にするから捕まえるんだ。」

 無謀にも支部長は、アルトを捕まえて領主への付け届けに使おうなんて言ってるよ。
 こいつは、命をドブに捨てたね…。

「支部長、あんな高いところを飛んでるモノを捕まえるのは無理ですって。
 少し、お待ちください。
 今、下の者に虫取り網でも持って来させますので。」

「誰を虫取り網で捕まえるですって。
 人を虫扱いするんじゃないわよ。」

 バリ! バリ! バリ!

 虫扱いされたことが勘気に触れたようで、アルトは問答無用で下っ端にビリビリを食らわせたよ。

「ギャアーーー!」

 ビリビリを食らった下っ端は、その場で崩れ落ちて、プスプスと煙を上げてた。
 そっか、直接羽虫と言わなくても、虫と同等に扱ったらアウトなんだ。

「さてと、下っ端は片付けちゃったけど。
 あんたを裁くのは、私じゃないわ。」

 アルトは支部長の目線の高さまで降下すると、おいら達を部屋に出したんだ。  

「なんだ、お前ら、いったい何時、何処から入って来た?」

 突如目の前に現れた、おいら達に面食らった様子で支部長は尋ねてきたよ。

「何処からでも良いじゃねえか。
 それより、あんたがここの支部長かい。
 たしか、ゴマスリーだったかな?」

「いかにも、俺様が、ここを仕切っているゴマスリーだ。
 勝手にぞろぞろと俺の部屋に入り込みやがって。
 テメー等、いったい何モンだ。」

「ああ、俺な、タロウってモンだ。
 三ヶ月ほど前にタクトー会の会長になったからよろしくな。
 因みに、今は『ひまわり会』って改称しているんだぜ。
 新調した看板を送ったはずなのに、付け替えていないんだな。
 困るぜ、そんなことじゃ。」

「はあ? オメエみてえな若造がこのギルドの会長だって?」

 ゴマスリーは、タロウが会長だと信じていない様子だったよ。

        **********

「どうやら、信じられない様子だな。
 でも、嘘じゃないんだ。
 俺もどんな無茶振りかと思うが、女王様のご指名なんでな。
 このギルドが役所の管理下に置かれたのは知ってるだろう。
 三ヵ月前に通知したものな。」

 タロウが掻い摘んで、自分がギルドの会長で間違いないと話すと。

「それで、お偉い会長さんがこんな田舎まで何の用だい。
 役場から送られてきたんだったら、本部でふんぞり返ってれば良いだろう。
 現場の事は、現場に任せてな。
 この支部のことには、口出ししないで貰おうか。」

 ゴマスリーは、タロウを侮っている様子で、そんな不遜なことを言ってたよ。
 まだ年若いタロウを、役所が送り込んで来たお飾りだと思っているみたい。

「そんな訳にはいかないんだ。
 こうして直接確認しないと、俺の指示通りやっているか分からないからな。
 現にお前みたいに、一つも指示に従っていない奴がいるし…。
 だいたい、看板から付け替えてないって、いったい何なんだ。」

 タロウは、最初に看板を『ひまわり会』に付け替えろと命じると。
 娘を借金のカタに取ることや無理やり泡姫をさせることは、二ヶ月も前に禁じたとか。
 ギルドで扱う物品について、税が課される前の値段で取引するように指示したはずだとか。
 更には、冒険者研修を受けさせるべく、出入の冒険者を計画的に王都に送るように指示したんだけど。
 指示を出してもう二月になるのに、ウノからは誰一人として送られて来てないとか。
 そんなことをあげつらい、タロウはゴマスリーを非難してたよ。

「ええい、うるさいガキだ。
 最近、訳の分からない指示が送られてくるのはテメエの仕業か。
 テメエの言う通りにしたら、まるでカタギじゃないか。
 そんな、お行儀の良い冒険者なんて、カタギに舐められちまうだろうが。
 テメエには冒険者の矜持ってものが分かんねえのか。
 だいたい、『タクトー会』っていう泣く子も黙る名前があるってのに。
 『ひまわり会』なんてお花畑なモンを名乗れるかってんだ。」

 タロウの非難を受けたゴマスリーは、逆ギレしたように言い返したんだ。

「いや、ならず者の矜持って言われてもな…。
 反社の矜持なんて、ゴミ箱にでもポイしとけよ。
 冒険者ってのは、そもそもはカタギだろうが。
 少し協調性が無いだけで。」

 そのあんまりの言い分にタロウは目を点にしてボヤいてたよ。

 居直ったゴマスリーを見てタロウは処置無しと思ったんだろうね。

「お前が、どんな考えを持っていても良いが。
 俺の指示に従えないと言うなら、支部長はクビだ。
 勿論、ギルドも辞めてもらうぞ。」

 ゴマスリーに向かって最終通告ともいえる言葉を突き付けたよ。

 すると、ゴマスリーは…。

「オメエみてえな、若僧に従うなんて真っ平御免だぜ。
 いいぜ、それなら、この支部は『ひまわり会』なんてふざけたギルドから独立するぜ。
 俺には、マイナイ伯爵が付いてるんだ。 
 今この時点から、ここが新生『タクトー会』の本部だ。
 それが分かったらとっとと出て行きやがれ!」

 なるほど、こいつ、広域ギルド『ひまわり会』から独立しても、経営が成り立つと思っているんだ。
 よっぽど、マイナイ伯爵と癒着してるんだね。

 でも…、こいつを見てると『虎の威を借る狐』って言葉がしっくりくる気がする。
 何か、小者臭がプンプンするんだよね。
 さっさと切られる、トカゲの尻尾になりそうな…。
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