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第十五章 ウサギに乗った女王様

第390話 色々と淘汰されてるところもあるみたい…

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 アルトの都合がつき次第、地方の町に連れて行ってもらうことにしてギルドを後にしようとしたら。

「あっ、ちょっと待った。
 もう一つ、相談があるんだが。」

 席を立とうとしたおいらをタロウが引き留めたんだ。

「うん? まだ何かあるの?」

「おう、実は『風呂屋』の件でな。
 新装開店した『風呂屋』が予想外に好評なんだよ。
 常時満室でお客が溢れる事態になってるんで。
 二号店を出そうと思っているんだ。
 それで、一応マロンの許可を取っておこうと思ってよ。」

「ギルドの経営はタロウに一任しているんだから。
 一々おいらに伺いを立てる必要はないよ。
 ただ、市井の娘さんを借金のカタや脅しで泡姫にするのはダメだよ。
 御触れで禁止にしたのは知っているでしょう。
 それに、それをするとアルトの逆鱗に触れて寿命を縮めることになるし。」

「分かってるよ、俺もそんな命知らずじゃねえよ。
 実はな…。」

 タロウの話では、このところ泡姫として雇って欲しいと訪ねてくるお姉さんが増えているらしいの。
 『風呂屋』を新装開店するに当たり、『蒸し風呂』付きの清潔な部屋でお客さんをもてなすことになり。
 それと同時に、にっぽん爺の指南書に基づく、今までにないサービスを提供することになったでしょう。
 
 そしたらキレイな部屋での濃厚なご奉仕が評判になって連日大賑わいなんだって。
 特に支配人のノネット姉ちゃんなんて、十日後まで予約でびっしりらしよ。
 自分から志願して支配人兼泡姫さんになっただけあって、その献身的なご奉仕はお客さんを虜にしたそうだよ。

 その一方で、『ひまわり会』の風呂屋にお客を取られて閑古鳥が鳴いている風呂屋が出て来たらしいの。
 お客さんを取り戻すために、『ひまわり会』に追随しようとする風呂屋もあるらしいけど。
 『蒸し風呂』を沸かす燃料の問題とかで模倣が難しいらしいんだ。

「うちは、マロンから『トレントの木炭』をタダで卸してもらってるだろう。
 他じゃ、薪なり、木炭なりを買わないといけないんで燃料費がバカにならないんだ。
 うちと同じ入浴料じゃ、採算が合わないらしいぞ。
 しかも、うちには爺さん譲りのテクがあるからな。
 うちには太刀打ちできないと諦めて、暖簾を降ろす風呂屋が増えているんだ。
 店が潰れて行き場を失った泡姫さんがうちで働きたいと訪ねてくるようだぞ。」

 しかし、風呂を沸かすと燃料費で赤字になるって、そんなバカな…、風呂屋だよね?
 風呂屋の看板をぶら下げておいて、今まで風呂が無かったってのも馬鹿げてはいるけど…。

「ふうん、まあ、市井の娘さんを無理やり働かすんじゃなければ良いんじゃない。
 でも、二号店を出せるほど沢山雇って欲しいと来てるんだ?」

「おう、ノネット姉さんからの報告じゃ、五十人以上訪ねて来てるみたいだ。
 ノネット姉さん、一号店同様、泡姫さん三十人くらいの店にしたいそうだから。
 選び放題だと言ってたぜ。
 なるべく若く、見栄えが良くて、やる気があるお姉さんを選りすぐるって言ってたよ。」

 どうやら、今のお店が繁盛していると言う理由だけじゃなくて。
 雇って欲しいと訪ねてくる娘さんが多いものだから、ノネット姉ちゃんが二号店を出したいと提案したみたいだよ。

「幸い、俺が倒したトレントの木炭だけで二店舗分の燃料は十分賄えそうだから。
 運営費用は、一号店と変わらないはずなんだ。
 海沿いに建物を買って改装するのにコストがかかるけど。
 それは、タクトー会の連中が貯め込んでた資金がたんとあるからな。
 新たに雇い入れる姉さん達の研修はシフォンも手伝うと張り切ってたぜ。」

 そう言ったタロウは浮かない顔をしてたよ。

「うん?
 商売繁盛でめでたいのに、浮かない顔をしているね。
 何か、問題でもあるの?」

「いやあ、新人研修を考えると憂鬱でな…。
 毎回、俺が新人の相手をさせられるんだ。
 今の泡姫の姉さん達の時は…。
 ノネット姉さんの合格が出るまで、十日間昼夜問わずぶっ通しで相手をさせられてな。
 世の中が黄ばんで見えたよ。
 また、あの悪夢が繰り返されることになると思うと…。」

 どうやら新人泡姫さんの研修を思い浮かべて憂鬱になってたみたい、相当ハードな仕事なんだね。
 お姉さんの方は一人あたり半日くらいだから良いけど、タロウは三十人を相手したので大変だったみたい。
 タロウは、また訳の分からない愚痴を零してたよ。
 『異世界チーレム』を目指すなんて言ってた過去の自分に説教してやりたいって。

 取り敢えず、この王都での『風呂屋』の営業は『ひまわり会』が一人勝ちになっている事は分かったよ。

    **********

 風呂屋の話が終って今度こそ帰ろうと、ギルドのロビーまで出て来ると。
 何か、ロビーにいる冒険者が増えている気がしたんだ。

 確かに、最初にこのギルドの扉を潜った時は、ならず者冒険者が昼間から仕事もせずに管を巻いてたんだけど。
 娘さん達に乱暴してた冒険者やおいら達に襲い掛かって来た冒険者を摘発して、死罪にしちゃったし。
 その後もロビーにたむろってた冒険者をタロウが無理やり冒険者研修に放り込んだから。

 『ひまわり会』に限って言えば、昼間はみんな狩りに出ていてロビーは閑散としてたんだ。
 また昼間から働かないで遊んでる冒険者が増えたのかなと思っていると。

「あっ、女王様、その説はお世話になりやした。
 あれから、俺っち達、ならず者稼業からはすっぱり足を洗いやした。
 今じゃ、毎日、狩りで稼いで。
 ギルドの大部屋暮らしから抜け出すことが出来たっす。」、

 見覚えのあるニイチャンが声を掛けてきたんだ。
 『風向きを見ながら上手く世渡りする』がモットーの『カザミドリ会』ってギルドに所属する冒険者だよ。
 王都の広場に『冒険者登録制度』のお触れを出した時、偶々告知板の側にいたの。
 おいらが不良冒険者の取り締まりをマジでやると知り、空気を読んで制度開始初日に冒険者登録をしに来たよ。
 小者臭がプンプンするけど、世渡りは上手そうな五人組なんだ。

「あれ、他のギルドに所属している冒険者がいるとは珍しいね。
 『銀貨引換券』でも引き換えに来たの?」

「いえ、ちゃいますねん。
 俺っち達、何日か前からこのギルドに身をよせているっす。
 『カザミドリ会』はオヤジがギルドの看板を降ろしちまったもんですから。
 何処に身を寄せるか思案したんでやんすが。
 女王様が贔屓にしてるここが一番風向きが良いと思いやして。」

 『カザミドリ会』は所属する冒険者の少ない零細ギルドで、賭場と風呂屋の営業がシノギだったそうだけど。
 この一月で風呂屋のお客さんが激減しちゃたそうなんだ。
 風呂屋で働く泡姫さんにお客がつかない日が増えて、とうとう暖簾を降ろしたんだって。
 ・・・どっかで聞いた話だね。

 そしたら、ギルドのシノギが賭場しか無くなちゃったそうで。      
 風向きに敏感なギルド長は、先の展望が無いと言って、傷が浅いうちにギルドを閉めることにしたらしいの。
 さすが、『風向きを見ながら上手く世渡りする』がモットーのギルドだね。

 そして、この五人は寄らば大樹と『ひまわり会』を選んだらしいよ。
 ギルド長の薫陶か、類友かは知らないけど、息をするように風向きを読むみたい。

「あれ、おまえ等、今日はもう上がったのか?」

 タロウが五人組に声を掛けると。

「若大将、お疲れさんです。
 若大将じゃないんですから、トレントを一日十体も狩れませんって。
 俺っち達小市民は、一日一体も狩りゃあ十分な稼ぎですって。
 これだって、十年も続けりゃ嫁を貰ったうえで立派な家が建ちますぜ。」

 どうやら、この五人はもう狩りを終えて帰って来たみたい。
 無理をせずに、自分のペースで稼ぐのは良いことだと思うよ。
 どうやら、この五人なりに生活設計はしているみたいだしね。
 少し前までならず者稼業をしていたと思えば、十分更生しているよ。

「そうなのか、お疲れさん。
 しかし、この一月で随分とギルドに出入りする冒険者が増えたものだ。
 またぞろ、昼間からロビーがいっぱいになるとは思わなかったぜ。
 まあ、ギルドのロビーでの飲酒や賭博は禁止したし。
 それさえ守れば、早上がりしても一向に差し支えないけどな。」

 タロウがロビーの中を見回しながら言ったんだ。

「若大将、普通は一日中狩りをするなんて無理っす。
 半日で帰って来れば、このくらいの頭数にはなるっしょ。
 俺っちが知ってるだけでも、『ホウマツ会』と『マッショー会』の連中が合流してるんすから。」

 どうやら、この一月で『カザミドリ会』以外にも看板を降ろした冒険者ギルドがあるみたい。
 そこにいた冒険者がここに集まって来た様子だね。

 トレントの森を独占している事とか、王宮の直轄になっている事とか。
 そんなところが、更生した冒険者を引き付けているみたいだよ。
 『銀貨引換券』とか『貸金庫』とかやっているのもこのギルドだけだもんね。
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