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第十五章 ウサギに乗った女王様

第388話 雑草だらけにした訳じゃないよ

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 王宮の最奥にその場所はあったの。
 広い裏庭とは別の小さな坪庭。
 おいらは女王に即位してすぐ、そこをプライベートスペースと指定したの。
 坪庭の手入れは自分でするから、何人たりとも立ち入らないようにとね。
 唯一人、オランを除いて。

「しかし、こ奴ら、凄まじい繫殖力なのじゃ。
 毎日、ほとんどを刈り取っておるのに。
 わずかに刈り逃した個体から、翌日には庭いっぱいに繁殖してるのじゃ。」

 坪庭に茂ったシューティング・ビーンズを狩りながらオランがボヤいてたよ。

「有り難いことだよね。
 こんな小さな庭でも、これだけの『スキルの実』をドロップするんだもの。
 毎日、おいらとオランだけじゃ食べきれないくらい収穫できるもんね。」

 庭の片隅で足元に繁茂した『カタバミ』の魔物を刈りながら、オイラはオランに答えたよ。
 そう、この坪庭では、オイラが持つスキルの『スキルの実』をドロップする魔物を栽培しているの。
 辺境の町を離れる際に、アルトに頼んで苗を運んでもらったんだ。

 『回避率アップ』と『クリティカル発生率アップ』はレベル十で共に発生率百%になって、これ以上アップしないけど。
 『クリティカルダメージ増加』と『金貨収穫量増加』はレベル十からも青天井で上がるみたいだからね。
 何よりも、『積載量増加』はレベル十で、レベル一の『積載庫』に化けてこれからレベル二、レベル三と便利な機能が加わるし。
 それに、おいらの旦那様のオランは取得し始めたばかりで、まだ大してレベルが上がっていないから。
 毎日手に入るように、身近なところで栽培することにしたんだ。

 ただ、おいらの持っているスキルは、巷では役立たずの『ゴミスキル』と言われ見向きもされないスキルで。
 その上、シューティング・ビーンズの落とす『スキルの実』はそのままではとっても苦いの。
 そのため、どれもレベルを上げようとする者はいないんだ。
 レベル十まで上げるととってもお役立ちスキルなのにね。

 おいらの知る限り、シューティング・ビーンズのドロップするスキルの実の美味しい食べ方に気づいたのは一人だけ。
 ハテノ男爵領で騎士をしているスフレ姉ちゃん、食うに困って草原に放置されてた『スキルの実』を拾い食いしたのが切っ掛けだって。
 それもおいらと同じ、結局、食べるに事欠いて切羽詰まらないと見向きもしないものなんだ。

「そう言えば、スフレ姉ちゃん、無事に『積載庫』を取得してハテノ男爵領に帰ったんだよ。
 『積載量増加』のスキルの実は当面見たくも無いって、涙目で言ってたよ。」

「そうじゃのう、あの実は甘酸っぱくて美味しいが…。
 毎日あれを百個以上食べろと言われたら拷問じゃのう。
 あの者は良く頑張ったと思うのじゃ。
 私は、やっとレベル七になったところなのじゃ。
 このペースだと『積載庫』を取得するにはあと六年掛かるのじゃ。」

 オランが言う通り、『積載量増加』のスキルの実は七日ほど追熟させると苦みが消えて甘酸っぱくなるの。
 爽やかな甘みがとても美味しいのだけど、美味しく食べられるのは一日十個が限界だね。
 幾ら美味しくてもそれ以上は拷問だよ。

 オランと一緒に暮らし始めた時、おいらの持つスキルの事はだいたい話したのだけど。
 スキル『積載庫』とスキル『金貨収穫量増加』の事だけは秘密にしておいたの。
 二つとも世の中の常識が覆るほどのスキルだから、誰にも話さないようにアルトに忠告されてたから。

 おいらが女王になって、オランがお婿さんになってくれると決まったので、二つのスキルの秘密を打ち明けたよ。
 そして、オランにもスキルを取得してもらうことにしたの。
 オランには、無理せず美味しく食べられる程度でスキルの取得をするように言ってあるんだ。

 おいらは、父ちゃんが行方不明になってお金も食べるモノも無かったんで。
 シューティング・ビーンズの狩場に放置されていた『ゴミスキル』の実ばかり食べてたから、三年で取得できたけど。
 普通に食事をしていて、食後のデザートやおやつに食べるのだとそんなに沢山は食べられないからね。
 六年で取得できれば上々だと思うよ、その時でもオランはまだ十八歳だもの。

 オランとそんな会話を交わしながらスキルの実を収穫していると…。

「マロン様、こんな所にいらしたのですか。
 礼儀作法のお勉強の時間ですよって…。
 何ですか? この雑草だらけのお庭は?
 今直ぐ庭師に草取りをするよう命じて参ります。」

 側仕えのプティーは、草だらけの坪庭を見て庭師を呼びに行こうとしたんだ。
 知らなければ、ここに生えているのが魔物だとは思わないだろし、無理もない反応だね。

「ストーップ、プティー姉。
 庭師を呼んじゃダメ!
 プティー姉には言い忘れていたね。
 ここは禁足地にしていて、おいらとオラン以外立ち入り禁止にしてるんだ。
 プティー姉はおいらに側仕えだし、親戚だから教えておくね。
 ここに生えているのは雑草じゃないよ。
 おいらの持ってるスキルの『実』を落す魔物なの。
 絶対に秘密だからね。」

 プティーは命懸けでおいらを護ってくれたパターツさんの娘さんだし。
 一月側に仕えてもらって信頼できると思ったんで、スキルの秘密を明かすことにしたんだ。
 いつも、側に居る人に秘密にしておくのは難しいしからね。

「はあぁ…、何やら大切な話のようですが。
 礼儀作法の先生を待たせていますので、お勉強の後にしませんか?
 マロン様、土塗れになってますので、先にお召し替えをしませんと。」

 プティーから話は後にするようにと言われたちゃった。
 着替えの時間が必要なので、ますます礼儀作法の先生を待たすことになるからって。

       **********

 おいらの苦手な礼儀作法の勉強を終えて。

「マロン様、大分様になってきましたね。
 普段からそのように振る舞って頂ければ良いのですが…。
 マロン様は民に親しみを持たれるようにと、あえて市井の民の様に振る舞っているご様子。
 それについては、差し出がましいことは申しませんので。
 何卒、公の場では礼儀作法に則った振る舞いを心掛けてくださいね。」

 一緒に礼儀作法の教授を受けたプティーが、おいらの振る舞いを褒めてくれた。
 おいらとしてはかなり無理をしてるんだけど、それなりに見られる体裁になったみたいだね。

「有り難う。
 キーン一族派だった貴族の前でボロが出ないように頑張るよ。
 あいつら、おいらのことを良く思ってないからね。
 揚げ足を取られないようにしないと。」

 別においらは一族の仇討ちをした訳じゃないから、派閥なんてどうでも良いんだ。
 有能で真面目に働いてくれるなら、キーン一族派でも平等に遇するつもりだったんだけど。
 所詮、楽して贅沢な暮らしがしたいと言うヒーナルに従った貴族だから…。
 能力も、やる気もない奴らばかりだったし、不正行為もボロボロと発覚するものだから。
 結果として、ことごとく降格することになったの。

 それを逆恨みして、ことある毎に『市井育ちの女王は品が無い』と吹聴しているみたいなんだ。
 宰相はそんな話が漏れ聞こえることを憂慮していてね。
 公の場では、威厳を保ち、品のある振る舞いをするようにと注意されてるんだ。
 面倒くさいね…。

 それはともかく、礼儀作法の勉強が済んだのでスキルの話をする事にしたの。

 プティーを私室に招き入れ人払いを済ませると。

「さっきの庭に生えてたのは植物型の魔物なんだけど。
 おいらが持っているスキルの『実』をドロップする魔物なの。
 これが、その『スキルの実』だよ。」

 おいらは、テーブルの上に四種類の『スキルの実』を並べたの。
 『回避率アップ』、『クリティカル発生率アップ』、『クリティカル・ダメージ増加』、「積載量増加』の四種類。
 『金貨収穫量増加』は出さなかったよ、狩りをしない人には関係ないスキルだからね。

「あら、とても甘い香りですね。
 どれも、美味しそうですわ。」

 テーブルの上に並べたのは、七日間追熟させた食べ頃の物で良い香りがしてたよ。
 因みに、おいらが持っているレベル一の『積載庫』じゃ、時間の操作はできないから。
 寝室のキャビネットの中に壺を並べて追熟させてるんだ、しっかり施錠してね。
 食べ頃になったら『積載庫』に保管してるの。

「美味しそうでしょう。
 でも、それ、巷ではとっても苦いと言われているんだよ。
 食べ方にちょっとした工夫がいるのだけど、知られていないの。
 でも、知られていないもっと大切なことは、そのスキルの効能なんだ。
 世間では『ゴミスキル』と言われていて。
 箸にも棒にも掛からないスキルだと思われてるんだけどね。
 実は…。」

 おいらは、四つのスキルの効果を説明したよ。
 何で、巷では『ゴミスキル』と呼ばれているか、その理由もね。

「何ですか、その反則技。
 相手からの攻撃は完全に回避するとか。
 攻撃が全て致命的なダメージを与えるなんて…。
 どうりで、最強と言われたキーン一族の当主が簡単に討ち取られた訳です。
 私、不思議に思っていたのですよ。
 私と変わらない歳のマロン様がどうやってキーン一族を退けたのかと。
 多くの手勢を引き連れていた訳でもないのに。」

 『完全回避』と『クリティカル』スキル二種の説明をしたところで、プティーはイカサマだと言って呆れてたよ。

「でも、一番インチキ臭いのは『積載量増加』のスキルだよ。
 レベル十になるまでは、全く何の効果も無いの。
 だから、誰もスキルを育てようとしないんだ。
 でも、レベル十になるとスキルが化けるんだ。
 『積載庫』って謎のスキルに。」

 おいらは、『積載庫』の説明をしてモノを出し入れして見せたの。

「凄い…。
 言葉に出来ないくらい凄いです。
 何ですか、その膨大な海水を保管できるとか。
 海水を塩と真水に分けられるとか。
 そんなの人に知られたら大事じゃないですか。」

「そう、だから、厳重に秘密にしているんだよ。
 このことを知っているのは、おいらが信頼できる人だけだよ。
 オラン、父ちゃん、ミンミン姉ちゃん、タロウ、シフォン姉ちゃん。
 プティー姉が六人目だね。
 悪い人に漏れると拙い情報だって分かるでしょう。
 だから、秘密にしてね。」

「こんな事、口が裂けても言えませんよ。
 アルト様から授けられた『妖精の不思議空間』だと言って。
 周囲を煙に巻いてるのは正解だと思います。
 マロン様の側仕えとして、絶対に他言する事はないと誓います。」

「そう、有り難う。
 じゃあ、プティー姉も共犯になってね。
 これを食べて、今日から一日十個づつがノルマね。
 毎日食べ続ければ十年もしないで『積載庫』が取得できるよ。」

 おいらは、四種類のスキルの実を十個ずつテーブルの上に並べたの。
 この国には、まだ、おいらが女王になったことに不満を持つ貴族がいるみたいだしね。
 おいらの側に仕えていると危ない目にも合うかも知れないから。 
 護身のためにも、おいらと同じスキルを覚えてもらった方が良いと思ったんだ。

「マロン様、お気遣い有り難うございます。
 私、頑張ってスキルを育てますね。」

 おいらの考えを話すと、プティー姉はそう言って喜んでくれたよ。
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