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第十五章 ウサギに乗った女王様

第376話 ずいぶん前に見たような光景だった…

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 王都の広場で露店をひろげていたら、ガラの悪い五人組の男が現れたんだ。
 誰の許しを貰ってこんな所で店をひろげてるんだ、なんて尋ねてきたよ。
 恫喝するような声でね。

 デジャヴだよ…。
 随分前にトアール国の王都でも、こんな風にイチャモン付けられたっけ…。
 だから、おいら、その時と同じ答えを返したんだ。

「誰の許しって、変なことを聞くんだね。
 この広場は自由市場。
 ご禁制のモノじゃなければ、何を売るのも自由なはずだよ。」

 おいらが、今日、何でここで露店なんかしているかと言うと。
 第一に、『砂糖』などの税が廃止されている事、エチゴヤが不当に儲けている事を王都の人々に周知するため。
 だから、わざわざ、お触れ書きが貼られた告知板の横に露店を出しているんだ。
 告知板に気付かない人もいるかも知れないけど、ここで露店を出していれば嫌でも話題になるからね。

 そして、第二に、タロウに王都中の店を回ってもらってるけど、今日から直ぐに王都中の店に品物が行き渡って値が下がる訳じゃないからね。
 露店で直接流すことで、少しでも早く人々に安い品を届けようと思ったの。
 それこそ、今までエチゴヤの悪行に気付かずに放置しちゃったお詫びの意味も兼ねてね。

 でも、もう一つ、目的があったんだ。
 それは、こんな風に、おバカさんを誘き出すため…。

「ガキが何を知ったような事を言ってやがる。
 オメエらがここで売ってるモンは全てエチゴヤが仕切ることになってるんだ。
 この国の王様が、全てエチゴヤを通すように命じたのを知らねえのか。」

 おいら、思ったんだ、お触れを出したところでエチゴヤが素直に従うかってね。
 ガラの悪い連中を雇ってるみたいだから、エチゴヤの独占を崩そうとすれば妨害をするんじゃないかって。
 こんな風に、イチャモンを付けてね。

「そこにある告知板を良く見なよ。
 王宮からのお触れ書きが貼ってあるでしょう。
 そこに何て書いてある?
 もうエチゴヤを通さなくて良いって書いてない?」

 おいらは、すぐ隣に設置されている役所の告知板を指差して答えたの。
 そこで初めて、告知板に気付いた様子で五人ともそちらに視線を傾けていたよ。

 そして、…。

「アニキ、このガキの言う通りですぜ。
 物品に課した税を撤廃したので、エチゴヤを通して仕入れる必要が無いとハッキリ書かれてますわ。
 俺っち、番頭さんからそんな話は一つも聞いてねえっす。」

 五人組の一人が、アニキと呼ばれる一番年嵩の男に伝えると。

「何だこれは、いつの間にこんなモンが貼られたんだ…。
 俺達に一言の相談も無くこんなことを決めやがって。
 今まで散々袖の下を要求してきたくせして、こんな勝手が許されるかってんだ。」

 アニキはお触れ書きに目を通しながらそんな不平を零して、おもむろにお触れ書きを剥ぎ取ったよ。
 こいつ、役所の告知板に貼られたお触れ書きを剥ぎ取るなんてとんでもないな…。

「ほれ、告知板には何も書かかれてないぜ。
 何処から仕入れたのか知らねえが。
 オメエらが並べているのは、エチゴヤが王の命で一手に引き受けている品だ。
 とっとと、店をたたんでここから出て行け。」

 アニキは剥ぎ取ったお触れ書きを破いて丸めながら、おいら達を恫喝したんだ。
 恫喝と言っても、怯むほどのモノじゃないけどね。

「ねえ、オッチャン、『俺達に一言の相談も無く』って言ったけど。
 オッチャンは、そんな相談を受けるくらい偉い人なの?」

 ヒーナルだって一応は王様を僭称してたんだから。
 流石に平民じゃ、エチゴヤの主くらいしかお目通りできなかったんじゃないのかな。
 何で、こいつに相談しないといけないんだ。

「俺か? 俺はエチゴヤの手代で帳場を預かっているモンだ。
 こんな大事な事を決める時は、大旦那と番頭さんと俺を交えて相談するもんなんだがな。
 まあ、御触れ書きなんて無かったんだから関係ない事だぜ。」

 おっ、おいらがガキだと侮っているのか、まともに返答してくれたよ。
 こいつの言葉が嘘じゃないなら、エチゴヤのナンバー三で金庫番ってところかな。
 どうやら、主人の下で実務をしてきた人みたいだね、袖の下の交渉とかの。

「そう、それじゃ、オッチャンの言動はエチゴヤの総意だと思って良いんだね。
 王宮の役人が出したお触れ書きを破り捨てたこととか、おいらを恫喝したこととか。」

「このガキは一体何を言ってるんだ?
 手代の俺が言ってるんだ、大旦那の意を受けてるに決まってるだろうが。
 いいから、つべこべぬかしてねえで、さっさと店終いしねえか。」

 早く露店をたたむように急かすけど、そう言う訳にはいかないよ。

「オッチャン、お触れ書きはもう沢山の人が目にしているんだよ。
 今更破り捨てたところで、エチゴヤの独占が解かれた事はすぐに広まっちゃうよ。」

「本当に小賢しいガキだな。
 良いか、大人には大人のやり方ってモノがあるんだ。
 そんなのは、お上に苦情が行かねえようにしちまえば良いんだよ。
 色々とやり様はあらぁな。」

 手代がそう言うと、手下の四人が剣を抜いて…。

「おい、オメエら、今日ここで見聞きしたことは誰にもしゃべるんじゃねえぞ。
 もし、役人にチクるような事をしてみろ、一生お天道様を拝めねえようにしてやるからな。」

 いきなり、周囲にいたお客さんを恫喝したんだ。
 実際問題、こんな所で脅したところで、誰が喋ったかなんてわからないし。
 役人に垂れ込んだ人がいたとして、一々探し出して制裁を加えることなんてできないんだけど。
 とは言え、強面の連中が剣を振りかざして脅して見せれば、みんなヤバいと思って口を噤むんだろうね。

「ねえ、オッチャン、その人達はエチゴヤの雇い人だよね。
 五人とも剣を持っているけど。
 所持の許可は取っているの?
 もっとも、所持に許可があっても街中では布袋に入れて持ち歩かないといけないし。
 人前で剣を抜いて脅迫するなんてのは以ての外だよ。」

「いったいこのガキは何なんだ。
 さっきから、小賢しいことばかりほざきやがって…。
 そんなこった、知ったこっちゃねえよ。」

 予想通り剣は不法所持なんだね、しかも、抜剣して他人を脅しているから重犯罪者だ。

「ありがとう、だいたい、聞きたいことは聞けたよ。
 おいら達は、このまま露店を続けるから。
 邪魔なら、力尽くで排除すれば良いよ。」

 おいらは手代を挑発してみたよ、手出ししてくれるかも知れないから。

 案の定、手代は顔を怒りで真っ赤にして…。

「このガキ、俺達を舐めてんのか。
 ガキを痛めつけるのもなんだから、穏便に済ませてやろうと思ってたが。
 そんな舐めた態度取られたら、ガキだからと言って見逃す訳にはいかねえぜ。」

 おいらに向かって怒鳴り付けると、手代は目の前に陳列された『シュガーポット』の山を蹴り倒そうとしたんだ。

「オッチャン、人の商品を足蹴にしたらダメだよ。」

 おいらは『シュガーポット』の山の前に立ち塞がると、蹴りを入れて来た手代の足を軽く手で払ったよ。
 その瞬間、足首の辺りから『ボキッ』って音がして、足首から先が変な方向に折れ曲がっちゃった。

「うぐっ!」

 手代は声にならない悲鳴を上げると、足首を押さえて地面に転がったよ。

「あっ! アニキ!
 テメエ、アニキに何するんだ!」

 手代が打ちのめされたのは見た手下四人の中からそんな声が上がると。
 四人は手にした剣を振りかざして、おいらに襲い掛かって来たんだ。
 こいつら、沸点が低すぎるよ…。

「そなた等、誰に向かって剣を向けているのじゃ。
 この大うつけ共が…。」

 オランが心底呆れた様子でぼやきながら、おいらを庇うように前へ出てくれたよ。
 もっとも…。

「陛下に向かって剣を向けるとは何事だ!
 全員、弑逆罪で死罪になる覚悟はあるんだろうな!」

 ジェレ姉ちゃんが叱り飛ばしながら、あっという間に四人をのしちゃった。
 しょっちゅう街に出ては不良冒険者を退治しているとは聞いてたけど、手慣れたもんだったよ。

         **********

「ねえ、女王さん…。
 ここに転がされてるならず者みたいなモンは何なんだい。」

 『シュガーポット』を買いに来たおばちゃんが足元に転がる連中を見て尋ねてきたよ。
 エチゴヤの手代以下五人を打ちのめすと、おいらは露店を続けたんだ。
 在庫はまだまだいっぱいあるし、なるべく沢山の王都の民に分けてあげたいからね。

 その間、五人は縄で縛り上げて転がしてあるの。まっ、見せしめだネ。

「こいつら、エチゴヤの連中だよ。
 一番偉そうなのが手代だって。
 まだ、『砂糖』とかを独占し続けるつもりみたいでね。
 この露店が気に入らないって、営業妨害して来たから返り討ちにしたんだ。
 女王のおいらに剣を向けるなんて、命知らずだね。」

 おいらは、告知板のお触れ書きを指差しながら事情を説明したよ。
 勿論、お触れ書きは新しいモノを張り直してあるよ。
 こんなこともあろうかと、『積載庫』に予備を入れてあったからね。

「おや、こいつらが元凶のエチゴヤの回し者かい?
 女王陛下に剣を向けるなんてけしからん奴らだね。
 しっかし、エチゴヤって、随分と悪さをしてたんだね。」

 エチゴヤが色々と悪さをしていたと言う噂は以前からあったみたいだけど。
 色々な物の流れを独占して、上前を撥ねていたことまでは知らなかった人が多かったみたいだよ。

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