ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第372話 『おぬしも悪よのう』って台詞がピッタリだって…

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 布地の値段が高いと困っているシフォン姉ちゃんの話を聞いたおいらは、以前にこの国では物の値段が何でも高いと耳にしたのを思い出したんだ。
 そのことを尋ねると、シフォン姉ちゃんは布地の値段を聞くまで意識したことが無かったと答えたの。
 なので、おいら達は物の値段を調べに町に繰り出したんだ。

 先ずは、シフォン姉ちゃんのお店の数軒隣に大きな食材商のお店があったから覗いてみたんだ。
 店に入って最初に驚いたのは…。

「何、これ…。
 シュガーポット一つ銀貨三枚って…。
 あっ、ハチミツ壺も、メイプルポットも銀貨三枚じゃない。
 これってボリ過ぎだよ。」

 店に入ってすぐのところに並べてあった三種類の甘味料を見て、おいら、思わず叫んじゃったよ。

「これ、これ、お嬢ちゃん、人聞きの悪いことお言いで無いよ。
 これでも、ギリギリの値段で出してるんだからね。」

 おいらの声を聞きつけて、人の良さそうなおばちゃんが店の奥から出て来て言ったんだ。
 見た目で判断しちゃダメかも知れないけど、嘘を吐くようなおばちゃんに見えなかったの。
 だから、おいらは…。

「何だ、マロン、その疑うような目は。
 俺のギルドの出し値はどれも一つ銅貨五十五枚、トアール国と同じだぜ。」

 おいらが疑惑の目を向けると、タロウは慌てて弁明してきたよ。

「おばちゃん。この兄ちゃんはタロウって言うの。
 『タクトー会』の今の会長なんだ。
 『タクトー会』は今は『ひまわり会』って名前を変えてるけどね。
 タロウは、ここにある甘味料は全部銅貨五十五枚で卸してるって言ってるけど?」

「おや、『タクトー会』のロクでなし、しょっ引かれたと聞いたけど。
 また、随分と若い会長さんになったもんだね。
 しかも、ぱっとみスジもんには見えないじゃないかい。」

 このおばちゃん、ギルドの会長と聞いて即座にスジもんと決めつけたよ。

「ぱっと見も何も、俺はスジもんじゃねえよ。
 一応これでも、役所から送られて来たんだぜ。
 冒険者ギルドをまっとうにしろと命じられてな。
 うちの卸値より大分高いようだが、これでカツカツと言うことは無いだろう。」

 おばちゃんの言葉に、タロウが苦々しい顔をして尋ねると。

「うちも以前は冒険者ギルドからその値段で仕入れてたからね。
 九年前までは、銀貨一枚で売ってたよ。
 だけど…、王様が変わってから『エチゴヤ』から仕入れることになっちまってね。
 うちの仕入れ値は、一つ銀貨二枚半だよ。」

「なんだい、それは。
 その『エチゴヤ』ってのに搾取されるくらいだったら。 
 俺のギルドに買いに来れば良いじゃねえか?」

「そんなこと言ったって、王宮からそう命じられたんだから仕方ないみたいだよ。
 私も雇われだし、大旦那から詳しい経緯は聞かされてないけどね。」

 このおばちゃんは、商いの詳しい事情までは知らないみたいだったの。
 王宮が命じたのだったら、帰って宰相に教えてもらわないといけないと思ってると。

「マロン様、私、知ってます。
 うちの父さんが良く愚痴ってますから。
 前王のヒーナルが甘味に銀貨一枚の税を掛けたんです。
 しかも、税の徴収窓口を自分の息の掛かったエチゴヤに一本化したんですよ。」

 おいらの護衛騎士の一人トルテが事情を説明してくれたの。
 トルテは王都に店を構える商人の娘らしいから、ある程度事情が聴いてるみたいだった。

 何でも、ヒーナルは徴収し易いところから税を取ろうとしたみたいで。
 身の回りの色々な物に税を課したそうなの。
 その際、小さなお店から税を徴収すると、手間が掛かるし、誤魔化されるかもしれないと屁理屈をこねたそうで。
 ヒーナルの子飼いの商人エチゴヤに税の徴収を任せたんだって。
 その結果、多くの品でエチゴヤが仲介に入ることになったらしいの。
 しかも、エチゴヤは税の徴収手数料の名目で、更に値段の上乗せをして卸しているんだって。

「なにそれ、宰相には税をヒーナルが王になる前の状態に戻すようにと命じたし。
 宰相は、ヒーナルが新たに課した税は全て廃止したって言ってたよ。
 何で、元の値段に戻ってないの。」

 おいらが税が上乗せになったまま放置されてることに憤慨していると。

「父さんが、税が下がって生活が楽になるって言ってたから。
 宰相さんはちゃんとやってると思いますよ。
 多分、みんな、商品に税が掛けられてることを見落としているんじゃ。
 仕入れてる方が、税が無くなったんだから値を下げて欲しいと要求しないと。
 強欲なエチゴヤが自分から値を下げるなんて言う訳ないですから。」

 トルテは続けてこんなことも言ってたよ。
 もしかしたら、エチゴヤを恐れて声を上げられないのかも知れないって。
 エチゴヤの人って、スジもんみたい人ばかりらしいよ。
 自分が目を付けられるのを恐れて、誰かが声を上げるのを待っているんじゃないかってね。

「そっちのお嬢ちゃんの言うことはもっともらしいね。
 うちも大旦那も利に聡いし、税が上乗せになっていることくらい気付いているさね。
 エチゴヤに楯突いて嫌がらせをされるのを恐れてるんじゃないかい。」

 トルテの話を聞いて、おばちゃんがそんな憶測を漏らしたの。

「なら、俺のギルドに仕入れに来れば良いじゃないか。
 もう、税が撤廃されたならエチゴヤから仕入れる必要はないだろう。
 『ひまわり会』なら、どれも銅貨五十五枚で卸すぜ。
 大旦那にそう伝えといてくれよ。」

「そうかい、じゃあ、一応そう伝えておくよ。
 今まで『タクトー会』も『エチゴヤ』とつるんでいたから。
 あんたが会長になる前は、卸してくれなかったのかもしれないしね。
 ただ…、そうなるとエチゴヤが黙っているかどうか…。」

 タロウは、もうエチゴヤから仕入れる必要がないのだから直接ギルドから仕入れるように勧めたの。
 でも、おばちゃんは浮かない顔で言葉を濁したんだ。

       **********

「まだ、何か問題があるの?」

 冴えない表情のおばちゃんに、おいらが尋ねると。

「いやね。うちが楯突いたと、エチゴヤから難癖付けられないかと心配でね。
 奴ら、スジもんみたい連中をいっぱい雇ってるんでね。
 どんな、嫌がらせをしてくるかわからないし…。
 直接的な嫌がらせよりも、もっとえげつないことをされるかも知れないしね。」

 そう言っておばちゃんはおいら達を別の売り場に案内したの。

「なにこれ…。
 お塩がこの量で、銅貨三十枚もするの?
 ここ、海の際でしょう。
 何で、海のないハテノ男爵領の三倍もするの。」

 そこで見た塩の値段にシフォン姉ちゃんが呆れていたよ。

「そうだよな、塩なんて目の前の海で幾らでも採れるだろうし。
 運送の手間が掛かるハテノ男爵領より高いってのはおかしいよな。」

 タロウもシフォン姉ちゃんと同じ感想を漏らしてた。

「これも、さっき、そっちの嬢ちゃんが言ってたことと同じさね。
 以前は、同じ量で銅貨十枚もしなかったよ。
 『塩』も王宮の命で、エチゴヤから仕入れることになったんだよ。
 そのせいでこんな値段になっちまった。
 うちの仕入れ値は銅貨二十五枚だから儲けなんか無いよ。」

 おばちゃんが何を心配しているか、おいらにも分かったよ。
 塩は冒険者ギルドの領分じゃないもんね。

「この近くにある塩田の塩、今はエチゴヤが全て仕切ってるんだね。
 甘味料を直接冒険者ギルドから買って、安く売ったら。
 きっとエチゴヤは怒るんだろうね。
 そしたら塩を売って貰えなくなるかもしれない。
 それが心配なんだね。」

 多分『塩』だけじゃないね、エチゴヤが独占しているモノって他にもいっぱいあるんだろうね。
 機嫌を損ねて仕入れが止まったら、商売が成り立たないくらいに。

「『エチゴヤ』って…、おぬしも悪よのうってセリフがピッタリだな…。
 やってることも、名前も…。
 何処の世界でも権力者と癒着した商人ってロクな事をしねえな。」
 
 タロウがまた何か言ってたよ…。

 でも、おいら達はもっとびっくりな話を耳にする事になったんだ。
 
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