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アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第367話 その志望動機ってどうなの…

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 アントルメ家の姉妹を近衛騎士に採用することを決めると、さっそくおいらは二人をおいらの部屋に呼んだの。
 宰相とオラン、それにルッコラ姉ちゃんにも同席してもらったよ。

「宰相、近衛騎士の任命権はおいらにあるのは知っているけど。
 役職なんかを決める権限は誰にあるのかな。
 おいらが決めちゃって良いの?」

「はあ、近衛騎士は陛下の直属になりますので、陛下の一存でお決めになられても問題はありません。
 現にヒーナルは、宰相の私には事前に一言も無く、近衛騎士団長を任命していましたので。
 ただ、私としてはその様な重大な人事は一言ご相談いただければと…。」

 決定権はおいらにあるけど、独断専行は余りして欲しくないということだね。
 まあ、子供のおいらが勝手してもロクな事が無いからね。
 ここは、宰相の言葉に従っておくことにするよ。

「それじゃ、近衛騎士団の団長を今日採用したムースお姉さんにしたいのだけど。
 それと、ルッコラ姉ちゃんに加えてジェレ姉ちゃんもおいらの専属護衛騎士にしようと思うの。」

「どういったお考えから、今日採用したばかりのムース嬢を騎士団長にしょうと?」

 おいらが騎士団長の人選を口にすると、宰相がその訳を尋ねて来たの。

「一番の理由は、ムースお姉さんが物事の判断に長けていそうだからかな。
 近衛騎士団の組織作りや管理なんかの頭脳労働も得意そうだしね。
 それと、ムースお姉さんは名門子爵家のご令嬢でしょう。
 多分、明日採用するのは全員平民だろうから、重しとして騎士団長は貴族の方が良いかと。
 貴族の近衛騎士は今のところ二人だけ、何方が適任かと言えば…。」

 おいらは、目の前に座る姉妹を見ながら言葉を濁したんだ。
 おいらの言わんとしている事は宰相にも伝わったようで。

「陛下の仰せの通り、やはり宮廷内の評判を考えると、団長は貴族を充てることが妥当でございましょう。
 それに、団長ともなれば、平時は現場に出るより机仕事の方が主となります故。
 確かに、ムース嬢の方が適任でございましょうな。」

 ジェレ姉ちゃんの方をチラッと見て、これはダメだって顔をした宰相はおいらの意見に賛同してくれたの。

「そんな訳で、ムースお姉さんが今日から近衛騎士団の団長さんね。
 それと、今、おいらの護衛は後ろに控えているルッコラ姉ちゃんだけなんだ。
 宰相から増やすようにと言われてるんで、ジェレ姉ちゃんにお願いするね。
 ルッコラ姉ちゃんとジェレ姉ちゃんは隊長格だよ。」

「恐れながら、陛下に申し上げます。
 私、今日騎士に採用されたばかりで、騎士経験がございません。
 私のような未熟者が騎士団長でよろしいのでしょうか?」

 おいらがムースお姉さんを騎士団長に据えると告げると、本人の方からそれで良いのかと問い返して来たよ。

「良いの、良いの。全員騎士の経験がない人ばかりだもの。
 だって、女性騎士だよ、今まで一人もいなかったんだから、経験なんか問えないよ。
 それに今言ったように、貴族はムースお姉さん達だけだもん。
 ムースお姉さんじゃなければ、ジェレ姉ちゃんに頼むことになるけど…。」

「お姉様が騎士団長などとんでもございません。
 一時間どころか、十分も机でじっとしていることが出来ないお姉様にそんな仕事は務まりません。」

 辞退するならジェレ姉ちゃんに振ることになると告げると、ムースお姉さんは慌ててダメ出ししてたよ。

「うん? 俺は騎士団長をしても良いぞ。
 騎士団を率いて魔物退治なんか楽しそうじゃないか。
 どうせ、頭を使う仕事はムースがやってくれるんだろう。」

 端からデスクワークはムースお姉さんに押し付けるつもりで話をするジェレ姉ちゃん。

「いえ、お姉さまに騎士団長をお任せするくらいなら、私が拝命いたします。
 その方が、断然、私の精神衛生上良いに決まっているので。」

 騎士団長を引き受けようと引き受けまいと結局は同じ仕事をやるハメになると悟ったムースお姉さん。
 ジェレ姉ちゃんに団長をやらせた日には、それに加えて色々と尻拭いをする事になると思った様子で。
 そんな事をするくらいなら、自分が騎士団長に就いた方がどれだけ気が楽かと考えたみたい。

「おお、そうか、俺も団長なんて面倒くさそうな役職は要らないからな。
 ムースが引き受けてくれて、大助かりだぜ。」

 ムース姉さんの肩を叩きながらそう言ったジェレ姉ちゃんは、ガハハハって感じで笑ってたよ。

「じゃあ、ムース姉さん、この騎士団の団長を任せたね。
 明日、騎士の選考会をするから同席してね。
 騎士の採用が済んだら、騎士の隊分けとか組織作りをお願いね。」

 近衛騎士団の組織体制はムースお姉さんに丸投げしたよ。
 この人ならそつなくやってくれそうだから。

        **********

 そして、翌日。
 近衛騎士選考会の控え室として用意した王宮の広間には、二百人を超える志願者が集まってたよ。

「凄いのじゃ。
 百人の募集を掛けた時、私は定員割れになるのではと思っていたのじゃ。
 まさか、騎士になりたいと言う女性がこんなに多いとは思わなかったのじゃ。」

 募集人数の倍を上回る志願者が押し掛けたことにオランが目を丸くしてたよ。

「あっ、女王様だ! こんにちは!
 平民でも騎士になれると聞いて、ダメもとで応募しちゃいました。」

「私達、騎士の募集に応募しようと思って、冒険者研修を履修して来たんですよ。
 ほら、ちゃんと冒険者登録証を貰って来ました。」

 おいらが広間を覗いてると、そんな風に声を掛けて来た二人組の娘さん。
 募集のお触れを出した直後、広場で話をした娘さん達だね。
 最初に声を掛けてくれた娘さんは、時々町で見かけると挨拶をしてくれるんだ。 

 二人とも冒険者登録書を掲げて見せてくれたよ。
 募集のお触れ書きには、冒険者登録をしてある人を優遇と書いておいたからね。

「二人共凄いね、冒険者研修を受けてきたんだ。
 大変だったでしょう。」

「はい、最初にウサギに襲い掛かられた時は漏らすかと思いました。
 めっちゃ、怖かったです。」

「ホント、女王様が普段のっているウサちゃんと同じ生き物とは思えませんでした。
 でも、慣れちゃえばウサギは大したこと無いと分かりましたが。
 トレントはマジ、ヤバかったです。何度、殺られると覚悟したことか…。」

 おいらが水を向けると、二人は冒険者研修の苦労話を聞かせてくれたよ。
 それでも、何とか自分達だけでトレントを倒して冒険者研修をクリアしたみたい。

「でも、…。
 騎士募集のお触れ書きで『登録冒険者優遇』って書かれてから。
 冒険者研修を申し込む女の子が増えてるんですよ。
 このところは、常に定員いっぱいで待ちが出来てるみたいです。」

 この二人、応募者全員が冒険者登録証を持っていると、差別化できないんじゃないかと心配してたよ。
 おいらとしては、能力に差が無いのならこの二人は採用しようかと思ってるんだけどね。
 特に一人は、町でちょくちょく声を掛けてくれるから親しみが持てるんだ。

 ということで、面接を始めた訳だけど。

「志望動機ですか?
 そりゃ、やっぱり、給金が良いからです。
 今、不景気で王都ではロクな仕事がありません。
 そのくせ、モノの値段が上がっていて食べていくのが大変なんで…。」

 とか…。

「今、王都に若い娘を採用してくれる仕事場なんて見つかりませんよ。
 それこそ、甘い話に引っ掛かると、いかがわしい仕事をするハメになるくらいに。」

 とか、志望動機が王都では職が無いからという娘さんが多かったの。
 仕事があっても給金が安くて暮らしていくのが大変だって。
 『騎士になりたかった』と言う素朴な志望動機が余りに少ないので、おいらは宰相に尋ねてみたんだ。

「ねえ、宰相、王都ってそんなに景気が悪いの?
 税金はヒーナルが増税する前に戻してくれたんだよね。
 それなのに、王都のみんなの生活が苦しいってどういう訳?」

 すると…。

「はい、私達もヒーナルの課した余りの重税にかねてより批判的だったものですから。
 陛下の命を受けたその日のうちにご指示に従いました。
 ヒーナルが課した新税は廃止し、従来からの税はヒーナルが簒奪を行うより前の水準に戻しました。
 ですが…。
 ヒーナルが在位中、一部の商人達と癒着して、色々難癖をつけてそれら商人の競合相手を潰したのです。
 結果、独占的な地位を手をした一部の商人達がものの値を吊り上げ、他方で雇い人の給金を減らすありさまで…。
 税を元に戻しただけでは、いかんともしがたい状況でして。」

 宰相は言い難そうに説明してくれたよ。
 もちろん、それらの商人達は、ヒーナルを始めキーン一族派に多額の袖の下をばら撒いていたらしいの。
 とんでもない奴らだね、市井の人々を食い物にしてやりたい放題だ。
 この問題はどうにかしないといけないね。

 それはさておき…。
 仕事が無いから騎士を志望したとする娘さんにも同情する点はあるけど、騎士に対する熱意が無い人は流石にね…。

 そして。

「騎士の志望動機ですか?
 もちろん、マロン陛下をお護りするためです。
 私、マロン陛下が大好きなんです。
 可愛いマロン陛下がこんな小っちゃいのに頑張って女王をしているのです。
 護ってあげたいと思っちゃいますよ。
 私、お触れ書きを見て、絶対に騎士になるって決めたんです。」

 そう力説したのは、さっき控え室で話をした二人の片割れ、街でよく声を掛けてくれる娘さん。
 食い入るように答える表情は、にっぽん爺が組織した『親衛隊』に通じるものがあってなんか怖い。
 どうやら、この娘さんの頭の中ではおいらは愛でる対象のようだよ。
 
「ふむ、陛下に対する言葉遣いが気安いですが。
 言葉遣いは、今後、直させれば良いでしょう。
 どうやら、この者が今までの志願者の中では一番忠誠心が見られますな。
 この者は採用でよろしいかと。」

 忠誠心とはちょっと違うような気が…。
 とは言え、宰相はお気に召したようだし、おいらを護りたいと言う言葉に嘘は無さそうだから合格で良いか。

「志望動機ですか?
 もちろん、マロン陛下をお護りするためです。
 それと、私のツレがマロン陛下大好き過ぎて…。
 目を離すと暴走するかも知れませんので心配でしたものですから。」

 そんな答えをくれたのは、控え室で話した二人のもう片方。
 志望動機がムースお姉さんみたい…。
 何か、さっきの娘さんを採用するなら、このお姉さんもセットで採用しておいた方が良い気がする。

 そんな感じで全員の面接を終え・・・。
 王都全体が職不足だとの事なので、予定より多めに採用することにしたよ。
 お触れ書きを読んで、『冒険者登録証』を取得して来た人はその熱意をかって採用することにしたんだ。
 仕事が無いからって、トレント狩りまでしてくるのは見上げたものだからね。

 採用人数は百人程度の予定に対して、百五十人を超えちゃったけど。
 ヒーナルの治世に比べれば騎士は二千人以上減ってるから予算面は大丈夫だって、宰相は言ってた。
 もちろん、あの二人も採用したよ。

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