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アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第362話 チンの作品の販売を頼んだよ、他にも色々と…

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 おいらが辺境の街から連れて来た『山の民』のチン。
 チンの工房を訪ねると、作品の販売先を探して欲しいと言われたんだ。

 それで、おいらはすぐに販売先を思い付いたよ。
 ルッコラ姉ちゃんに呼びに行かせて、しばらくチンの工房で待っていると。

「マロン、おまえの護衛騎士がやって来て、すぐに来いと言うから何事かと思えば。
 俺の『ひまわり会』でチンの作品の販売を一手に引き受けろって言うのか。」

「『ひまわり会』?」

「お前が、早くギルドの名称をどうにかしろって言うから変えたんだよ。
 まあ、俺としても、『タクトー会』なんて大悪党の名前を何時までも使いたくは無いからな。」

 そう、『冒険者管理局』の直轄に置きタロウのその運営を任せた冒険者ギルド。
 タクトーと言うのは、七十年程前に冒険者ギルドを創業した稀代のワルの名前なんだ。
 殺し上等の頭のネジが一本外れた男で、敵対するギルドの幹部を次々と血祭りに上げて勢力を伸ばしたみたい。
 そんな人間のクズの名前を何時までも名乗らせておけないので、早めに変更するように言っておいたんだ。

「しかし、『ひまわり会』なんて面白い名前にしたね。」

「何かおかしいか?
 『ひまわり』ってのは常に陽の光の方を向いているってことで。
 俺の生まれ故郷じゃ、正義と自由の象徴として扱われてるんだぜ。
 今まで、不正に塗れてきた冒険者ギルドのイメージを変えようと思ったんだが。」

 おや、タロウにしては珍しく真面なことを言っているね、…でも。

「『ひまわり』って、草原に群生してる植物型の魔物でしょう。
 獲物が近付くと、群落が一斉に体を振って怪しい踊りをするの。
 その踊りを見た者は、何故か引き付けられちゃうんだって。
 それで、フラフラとひまわりの群落に寄って行くと…。
 花の中心に隠された大きな口の鋭い牙で、ガバッと嚙み殺されるそうだよ。
 草原で『ひまわり』の群落に遭遇したら、絶対に近付いたらダメなんだって。」

「何それ、コワイ…。
 それでか、俺がギルドの名称を『ひまわり会』に変更すると宣言したら。
 幹部のお姉さん方がビミョーって顔をしてたのは…。」

 タロウは自信を持って『ひまわり会』って名前を決めたのに周りの反応がイマイチなんで疑問には思ったそうだよ。
 でも、タロウの生まれた『にっぽん』って国では、正義と自由の象徴になってると説明したら。
 相変わら微妙な表情はしていたものの、誰も反対はしなかったみたい。
 きっと、みんな、おかしなモノを正義と自由の象徴にしてるんだなって思っただろうね。

 それは、ともかく。

「話を逸らしちゃってゴメン。
 そう、タロウのギルドでチンの作品を全て買い取って欲しいの。
 もちろん、全部、チンの言い値でね。
 『タクトー会』から引き継いだ資金、監禁されてたお姉ちゃんに慰謝料を支払っても大分残ってたでしょう。」

「ああ、会長のキンベー以下幹部連中はしこたま貯め込んでいたもんな。
 しかし、俺、商売なんてしたことないぜ。」

 おいらが本題を伝えたら、タロウは商売の経験が無いからと難色を示したんだけど…。

「辺境の街のギルドでも店を出して成功してたんだから大丈夫じゃないの。
 一緒に『トレントの木炭』も扱って欲しいんだ。
 この王都では希少な物らしいから、飛ぶように売れると思うよ。
 一袋銀貨千三百枚で売って欲しいのだけど、ギルドの取り分は五百枚ね。」

 タロウにそう告げた後、隣にいるチンに聞こえないようにコッソリ耳打ちしたんだ。

「アルトが言ってたんだ。
 『山の民』って自分の作品に対する評価が厳しいから吹っかけることは無いって。 
 言い値で買っても、その倍の値段で売れるから心配しないで良いってね。
 幸い、ここは港町で交易も盛んだから飛ぶように売れると思うよ。」

 まさか、倍の値段で売れるってチンに聞こえるように言う訳にはいかないからね。

 それに、冒険者ギルドも安定した収入源が必要だろうし。
 チンの作品にしても、トレントの木炭にしても、扱う品はどれも高価なものだから。
 店に前に警備の人を置かないといけないので、冒険者を雇ってあげることが出来ると助言したんだ。
 辺境の街では店の前に騎士を置いてるんだけど、心を入れ替えたなら冒険者にやらせても良いもんね。

「そうだな、冒険者研修のおかげで、カタギになった冒険者も少しずつ増えてるからな。
 毎日狩りじゃ大変だろうから、交代で店の警備をやらせても良いな。
 少しイロを付けて報酬を出せば真面目に働くだろうからな。
 正直、チンの作品がどれだけ売れるか分かんねえが、トレントの木炭は魅力的だな。
 それを独占させてもらえるんだったら赤字にはならんだろう。」

 タロウは、納得した様子でおいらの依頼を引き受けてくれたよ。
 トレントの木炭は、ハテノ男爵領で飛ぶように売れて、傾いた領地の建て直しに一役買っていたもんね。
 タロウはそれを知っているんで、トレントの木炭と抱き合わせならチンの作品を扱っても良いと考えたみたい。

      **********

 タロウが納得してくれたので。

「タロウの冒険者ギルドでチンの作品を全部買い取ってくれるって。
 辺境の街と同じように、全部言い値で買い取るようにお願いしている。
 冒険者ギルドに持って行ってら、その場で買い取ってくれるよ。
 もちろん、即金でね。」

 おいらは、タロウのギルドで作品を引き取ることをチンに告げたんだ。

 その言葉を耳にしてチンは相好を崩し。

「アイヤー、それ、助かるネ。
 選別無しで、言い値買取は有り難いアルヨ。
 値引き、商品選別、面倒アルネ。
 安心するヨロシ、良心的な値段で卸すアル。
 『山の民』、信用第一、ぼったくりはしないアルヨ。」

 ニコニコと笑みを浮かべて言ったんだ。
 言っている事は至極真っ当なのに、こいつが言うと胡散臭く聞こえるのはどうしてだろう…。

 チンの作品を買い取ることが決まると、タロウはギルドへ戻ろうとしてたんだ。

「あっ、タロウ、ギルドにもう一つ依頼したいことがあるんだ。
 一緒にギルドまで行くから少し待ってて。」

「何だ、まだなんか用件があるのか…。
 俺も、あんまりギルドを留守にする訳にはいかないから手短に済ませてくれ。」

 まだ、ギルドに出入りしている冒険者の全てが冒険者研修を受けた訳じゃなく。
 ならず者みたいな冒険者がギルドに出入りしてるんで、あんまり留守には出来ないんだって。
 タロウの留守中にギルドの中で不届きな事をする輩がいるかもと思うと心配なんだって。
 タロウも随分とギルドの会長だって自覚が出て来たようだね。

「分かった、すぐに済ますから待っていて。
 ねえ、チン、鉄製の頑丈な金庫って作れるかな。
 大きさは、人の背丈より高くて、人が二十人位入れる金庫。
 もちろん、ちょっとやそっとじゃ壊せない頑丈な鍵が付いてるヤツ。」

 おいらがチンに一つ依頼すると、チンは呆れた表情になり。

「嬢ちゃん、そんなごついもん、何に使うアル?
 作れと言われれば、作れるアルガ…。
 そんなの嬢ちゃん以外運べないアルヨ。」

「何に使うかはナイショ。
 大丈夫、設置したら動かさないから。
 むしろ、泥棒が入っても絶対に持ってけないようなモノを作って欲しいんだ。」

「それで良いなら、出来るアルヨ。
 ただ、鉄を沢山使うし、高くつくアルヨ。
 銀貨で二千枚くらいなるアル。
 それで良いアルカ?」

 チンが依頼を承諾してくれたので、一月以内に作って欲しいとお願いしたよ。
 その数は四つ。

 そして、タロウと一緒にギルドの執務室まで行って。

「タロウ、王宮からの正式な依頼だよ。
 このギルドに、王都の門番を依頼するよ。
 王都にある三つの門と港の入り口に門番を置いて欲しの。
 依頼期間は一年、不祥事を起こさなければ翌年も自動更新ね。
 門番には女の人を充ててね。」

 おいらが、タロウに用件を告げると。

「門番か、そう言えば王都には門番はいなかったな。
 と言うより、俺、辺境の街意外で門番なんか見たこと無いぜ。
 そう言うのは役人がやるモンなんじゃないのか?」

「タロウの言う通り、おいらもあの町以外じゃ門番なんか見たこと無いんだ。
 それで、宰相に尋ねたら、この国でも門番は一般的じゃないみたい。
 田舎の貴族の領地で野盗が出没するような町じゃ、門番を置いてることがあるみたいだけどね。
 どうせ、前例が無いんなら、役人じゃなくて冒険者ギルドに委託しても良いかと思ってね。
 市井の人々に対する冒険者の印象を良くする一環だよ。」

 カタギな冒険者が増えたら、それを人々に目に見える形で示しさないと。
 冒険者にしても、カタギになれば良い仕事を貰えると示せば、更生しようという気にもなるだろうしね。

「しかし、門番がなんで女性限定なんだ?
 普通、そう言う仕事って男がやるもんだろう。
 荒事になるかもしれないんだから。」

「それがね、門番にして欲しい一番の仕事は不審者の侵入を防ぐことじゃないんだ。
 それをするには、厳つい男の人より、人当たりの良い女の人の方が良いの。
 無用な軋轢を生まないためにね。」

 おいらはそう切り出すと、やって欲しいことをもう少し詳細に説明したんだ。

「なるほど、それで、さっきの金庫の話になるのか。
 それなら、可愛い姉ちゃんにやってもらった方が角が立たないな。
 それで、この間からマロンが連れてくる新人冒険者は女性ばっかりだったんだ。
 はなから、これをさせるつもりだったんだな。」

「そういうこと。
 どう、引き受けてくれるかな。」

 おいら、このところ、冒険者研修の施設にトレント本体と『生命の欠片』を回収に行くついでに。
 研修修了者にお姉さんがいたら、タロウのギルドにお勤めしないかと勧誘していたんだ。
 冒険者じゃなくて、ギルドの正規の職員としてね。
 収入が不安定な冒険者稼業より、安定収入がある方が良いってことで、ほとんどが勧誘に乗ってくれたよ。

「分かった、そう言うことなら、引き受けたぜ。」

 タロウが承諾してくれたんで、冒険者管理局で正式な書類の取り交わしをするように指示しておいたよ。
 後は、父ちゃんが話を詰めてくれる段取りになってるんだ。

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