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第十五章 ウサギに乗った女王様

第360話 ネーブル姉ちゃん達が国に帰ったよ

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 おいらの即位お披露目から一月が過ぎる頃、トアール国との相互不可侵協定も締結できたんだ。
 不可侵協定の協議に臨むため、トアール国からは宰相をはじめ実務権限がある人が揃っていたの。
 こんな機会は滅多にないということで、クロケット宰相は交易に関する協定も持ち掛けてたんだ。

 その辺に関しては、子供のおいらには分からないのでお任せにしておいたよ。
 素人が口を出してもロクな事はないから、プロに任せるのが正解だと思うから。
 ただ、双方の国がお互いに利益になるようにと、一部の大商人だけが得するような協定はダメだとだけはお願いしといた。

 不可侵協定と並行して進めた交易関係の協定も締結できて、クロケット宰相も、トアール国の宰相もホクホク顔だったよ。

 そんな中で、何故かトアール国の王様はご機嫌斜めな様子だったの。

 トアール国の宰相の笑顔が作り笑いじゃなければ、二つの協定はトアール国にも満足のいく内容だったはずだし。
 トアール国の御一行が滞在中は、最上級のおもてなしをするように指示したおいたんだけど。
 
 一体何が気に入らなかったのか、おいらはこっそりモカさんに聞いてみたんだ。

 すると。

「ああ、マロン陛下がお気にされるような事ではございません。
 充分なおもてなしをして頂いてますし。
 協定もどちらか一方を利することなく、バランスの取れたものになっています。
 うちの陛下がご機嫌斜めなのは、ごく個人的なものですよ。
 今回のマロン陛下のお披露目が、結果的にカズヤ殿下の立場を盤石なものにしたものですから。」

 モカさんは笑いながら言ってたよ。
 ネーブル姉ちゃんが、カズヤ殿下に一目惚れしちゃって二人の婚姻を認めることになっちゃったからね。
 モカさんの話では、これを機にカズヤ殿下を正式に王太子とするようにと、宰相が強く進言してるみたいなの。
 具体的には、ここからの帰り、シタニアール国一行もトアール国に立ち寄る事になってるの。
 二人の婚約を正式に協議するためだけど、そこで婚約が公表される予定なんだ。

 で、今、宰相が進言しているのは、婚約の公表に併せてカズヤ殿下の立太子も公表しようと言う案らしいの。
 現状、トアール国で唯一の男性王位継承権者で、大国から妃を迎えるのだから王太子の肩書が無いと格好がつかないって。
 宰相は、国に戻ったら早速トアール国の最有力貴族であるミントさんのお父さんにも相談すると言ってるらしいよ。

 カズト殿下を王太子に据えることが待った無しになったんで、反対している王様はご機嫌斜めらしいね。

        **********

 一方、王様がご機嫌斜めになった事の一端を担ってるネーブル姉ちゃんはと言うと…。

「あー、ズルい、マロンちゃんばかり、可愛いうさちゃんを三匹も飼ってる。」

 おいらが自室で三匹のウサギの毛づくろいをして居ると、羨ましそうな声を上げてたよ。
 ラビの他の二匹はと言うと、一匹はスフレ姉ちゃんが捕まえたウサギ。
 スフレ姉ちゃんが二匹も飼えないって言ったんで貰っておいたの。

 もう一匹は、冒険者研修の時にウサギ狩りのお手本として、おいらが捕まえたウサギだね。
 こっちは、冒険者によるウサギの大量虐殺を見たもんだから、怯えちゃっておいらから離れないんだ。

「欲しい? 一匹あげても良いけど…。」

 流石に部屋の中で飼うには三匹は多過ぎるし、三匹に増えてからラビがヤキモチを焼くんだ。
 もっと、自分をかまって欲しいって。

「えっ、くれるの?
 欲しい! 絶対に欲しい!」

 ちょっと水を向けたら、凄い勢いで食いついて来たよ、ネーブル姉ちゃん。
 何か、おいらと歳の変わらない子供みたいだよ。
 もうすぐカズヤ殿下の所にお嫁に行くんだよね、大丈夫なのかな…。

「でも、ネーブル姉ちゃん、眠っているところを噛み殺されるかもしれないよ。
 これでも一応魔物だから。
 この子達、本能で生きているからね。
 おいらやオランには絶対敵わないと感じているから従順なんだ。」

 おいらやオランが監視していると、他の人にも逆らわないけど。
 おいら達が目を離すと何をするか分からないからね、下剋上を狙うかも知れないし。

「えー、そうなの? 
 気弱そうで普通のウサギと変わらないように見えるけど…。」

 おいらの言葉を聞いてネーブル姉ちゃんはがっかりした様子だった。
 ショボンと沈んじゃったネーブル姉ちゃんを見て気の毒に思ったものだから。

「それじゃ、ネーブル姉ちゃんの成婚祝いにこの子と一緒にこれを上げるよ。
 これなら、この子もネーブル姉ちゃんに逆らえないはずだから。」

 おいらは、スフレ姉ちゃんからもらったウサギの毛づくろいをしながら。
 レベル三十相当の『生命の欠片』を差し出したの。
 トアール国の王様は、スフレ姉ちゃんのことを良く思ってないかも知れないからね。
 少しレベルを上げておいた方が何かと安心かと思って。
 
「えっ、こんなにもらっちゃって良いの?
 王族でも女性のレベル持ちはあんまりいないのよ。
 『生命の欠片』って、それほど貴重なモノなのに。」

 スフレ姉ちゃんは差し出された『生命の欠片』を見てビックリしてた。
 以前、クッころさんもそう言ってたね。
 王侯貴族の令嬢は強さよりお淑やかさが重視されるから、レベル持ち、スキル持ちは少ないって。
 女性にレベルを分けるくらいなら、一つでも多く跡取り息子に与えるって。

 平和な時代で他国との戦も無いし、凶暴な魔物の襲来も滅多にないから。
 世間一般では『生命の欠片』は凄く貴重なんだよね。
 おいらの場合アルトにくっついて魔物領域まで行って魔物狩りをしているから。
 つい、貴重品と言う感覚が薄れちがちなんだ。

 それに、『積載庫』のおかげでトレントからでも『生命の欠片』が採れるからね。
 因みに、スフレ姉ちゃんに差し出したのは魔物領域でギーヴルを狩った時のものだよ。

 不良騎士を処刑して回収した『生命の欠片』は、新しい騎士団を創るために使う予定だから。
 おいら、公私混同はしないよ。アレは全部、この国に還元するつもりなんだ。

「うん、他国の王族にお嫁に行くんだからね。
 用心のためにレベルを上げておいた方が良いでしょう。
 レベル三十もあれば、暗殺者なんて怖くないだろうし。
 本能で動くウサギも逆らうことは無いよ。」

「マロンちゃん、有り難う!
 私、良い義妹いもうとを持ったわ、これからも仲良くしましょうね。」

 そう言いながら、ネーブル姉ちゃんはおいらに抱き付いて来たよ。
 そのまま、頬ずりされちゃった…、ホント、子供みたい。
 つい最近、『泥棒ネコ』って言われた気がするけど、まあ良いか。

 そんな訳で、スフレ姉ちゃんから貰ったウサギは里子に出したんだ。
 ウサギにイースターと名付けたネーブル姉ちゃんは、さっそく王宮の裏庭でウサギを乗り回してた。
 無邪気にはしゃぐその姿は本当に子供みたいで、お嫁に行って大丈夫なのかと不安になったよ。
 
      **********

 こうして、おいらの即位お披露目に続く諸々のことが終って、来賓の皆さんは国へ帰ることになったの。
 アルトの『積載庫』にみんなが乗り込む前の見送りの時。

「マロンちゃん、今回はご招待して頂いて有り難うね。
 王家に嫁いでから、こんなにのんびりできたことは無かったの。
 しかも、シフォンちゃんからとても良いモノを貰っちゃったし。
 新婚時代みたいに頑張っちゃったわ。」

 お義母かあさんが、顔をテカらせて満面の笑顔で言ってたよ。
 休暇が堪能出来たようで良かったね。
 オランがおいらに婿入りし、ネーブル姉ちゃんが嫁入りすると王宮がめっきり寂しくなるので。
 もう一人王族を増やそうかと思って頑張ったって言ってたよ、お義母さん。

「マロンちゃん、私も初めてこの国を訪れることが出来て良かったし。
 それなりに休暇を楽しむことも出来た。
 唯一つだけ言いたい、何であんな危険物を后に渡したんだと。
 おかげで毎晩寝不足だし、この歳になってあんなに搾り取られるとは思わなかったぞ。」

 お義父とうさん、このところ少しやつれているように見えたけど寝不足だったんだ。
 何か、この間のタロウみたいだった。

 どうやら、お義母さんにとっては『良いモノ』でも、お義父さんには『危険物』なんだ…。
 シフォン姉ちゃんが渡してたにっぽん爺が書いた本のことだと思うけど。
 タロウやお義父さんにとっては、手放しに喜べる内容の本じゃないみたいだね。
 お義母さん、国に帰ったら王太子妃やシーリン姉ちゃんにもあの本を見せると言ってたけど。
 王太子やシトラス兄ちゃん、大丈夫かな?

「マロン陛下、この度は御即位本当におめでとうございました。
 陛下にお招きいただいたおかげで、とても良い協定を結ぶことが出来ました。
 今後は、ここに揃っている三王家が姻戚関係になる訳でもございますし。
 末永い友好関係を築いていければと祈念しております。
 また、ネーブル姫とカズヤ殿下の婚礼の際は是非ともお運びいただければと存じます。」

 最後に挨拶をしてくれたのは、トアール国の宰相だったの。
 その言葉通り、トアール国にとっても不可侵協定と交易協定は満足のいく形におさまったみたい。

 宰相の挨拶の最中、王様は終始ムスッとした表情を崩さなかったよ。
 これから、トアール国でカズヤ殿下とネーブル姉ちゃんの婚姻の打ち合わせをするそうだけど。
 どんな話になったかは、きっと、アルトがお土産話を聞かせてくれるだろね。

  
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