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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第359話 さあ、お膳立てはできたよ

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 カヌレ姉ちゃんがシフォン姉ちゃんの毒牙にかかった(?)翌日のこと。
 おいらは、その日冒険者研修で狩られたトレント本体と『生命の欠片』を回収に研修施設を訪ねたんだ。
 その帰り道、カヌレお姉ちゃんが玉の輿におさまったか興味があったんで、タロウの所に寄ってみたよ。

 冒険者ギルドの扉を潜ると。

「あっ、女王様、いらっしゃいませ。
 会長に御用ですか?」

 おいらに気付いたギルドのお姉さんが迎えてくれたよ。
 前日、カヌレ姉ちゃんと一緒に採用した五人のうちの一人が…。
 そのお姉さん、何か、前日に比べ血色が良くて顔がテカテカしてた。

「こんにちは。
 そうなんだ、タロウに用があって来たんだけど…。
 お姉さん達、今日、明日は休みじゃなかったっけ?
 もう、住む所は決まったの?」

 このお姉さん達、先ずは住む所を探す必要があるんで、明後日が仕事始めのはずだったの。
 すると、何故かお姉さんは顔を赤らめて…。

「いえ、住む部屋探しは必要無くなったので、今日から働き始める事になりました。
 私達、会長のお屋敷にお世話になることになったんです。
 シフォンお姉さまが勧めてくださって…。」

 どうやら、五人ともタロウの屋敷に定住することになったみたい。
 シフォン姉ちゃんが勧めたようだけど、何故か恥ずかしそうに言葉を濁したよ。
 それ以上の説明は無く、おいらは会長室へ連れて行かれたんだ。

 そう言えば、タロウが会長室にいるって珍しいね。
 いつも、一階のカウンターに陣取って冒険者達がロクでもないことをしないように目を光らせているのに。

 そんなことを考えつつ、会長室を訪ねると。

「あっ、マロン、お前、シフォンに何てモノを渡してくれたんだ。
 『アレ』のせいで…。
 昨日採用したお姉さん達が代わる代わる俺の寝室にやって来て・・・。
 おかげで、一睡もできなかったじゃねえか。」

 タロウはおいらの顔を見るなり、挨拶も抜きで、文句をたれてきたんだ。
 そんなタロウと言えば、目の下にクマを作って、ゲッソリしていたよ。
 どうやら、やつれた姿を人前に晒せないため、会長室に引き籠っていたみたい。

「すみません、会長。
 夕食後、体が火照って、何とか我慢してたのですが…。
 シフォンお姉さまとカヌレのアノ声を聞いたら理性のタガが外れちゃって。
 まさか、他のみんなも会長のもとへ行ってたとは…。」

 憤慨するタロウの言葉を聞いたお姉さん、暗に自分が責められていると思って謝ってたよ。

「いや、悪いのはマロンであって…。
 お姉さんが悪い訳じゃないし、俺もある意味役得だったんだから…。
 非モテの俺があんな経験できるのはこれっきりだろうし…。」

 お姉さんに謝罪されて、タロウはバツの悪い顔をしてた。
 お姉さんも、居心地が悪いようでそそくさと部屋を出て行ったよ。

「良く解からないけど、五人ともタロウのお嫁さんにしちゃうの?」

 一緒に住むと言うのはそう言うことなのかなと思って尋ねると。

「うん?
 シフォンからカヌレを嫁にしろって指示されたから従ったけど。
 他のお姉さん達に関してはそんな指示無かったな。
 シフォンの話だとカヌレは元々嫁の座を狙っていたってことだが。
 他のお姉さんに関しては、『スッポン』にあてられただけだからな。」

 おいらの質問に答えたタロウは、前夜の自分は『大人のオモチャ』の代わりだからって自嘲気味に話していたよ。
 『大人のオモチャ』ってのがどんなモノか分からないけど、今朝起きて食堂で顔をあわせたら…。

「アッハッハ、旦那、昨夜ゆうべは悪かったな。
 まあ、野良犬にでも噛まれたと思って赦しておくれ。
 旦那だって、まんざら嫌と言う訳でもなかったんだろう。
 シフォン姐さんから、たまになら使って良いって言われてるから。
 溜まったら、また使わせて貰うぜ。」

 昨日採用した中で一番サバサバしたお姉さんに肩を叩かれながらそう言われて、タロウはがっくり来たらしいよ。

「ふーん、お嫁さんにする訳でもないのに屋敷に住まわせるの?」

「いや、それが、五人がシフォンに懐いちまってな。
 『シフォンお姉さま』とか呼んで、離れようとしないんだ。
 それで、シフォンの奴、ここに住めば良いって言い出して…。」

 なんでも、昨夜、シフォン姉ちゃんが寝室に忍び込んで来たお姉さん達に色々と手解きをしたそうなの。
 それが、お姉さん達には衝撃的だったみたいで、シフォン姉ちゃん、五人に崇拝されちゃったらしいよ。

 ああ、昨夜、カヌレ姉ちゃんを落した時みたいな事をしたんだ…。

 何でもシフォン姉ちゃんは、「時々、一緒にタロウ君遊んでくれれば家賃は要らない。」とか五人に言ったみたい。

          **********

 そんな訳で、前日雇い入れた五人はタロウの家に住むことになったらしい。
 シフォン姉ちゃんの思惑通り、カヌレ姉ちゃんはタロウの第二のお嫁さんになったみたい。

「ところでマロン、この間頼んだ件はどうなっている?
 うちのギルドでも、毎日、冒険者研修を修了する奴らが出て来てるんだ。
 奴ら、せっかく冒険者研修を受けて、少しは真人間に近付いたのに。
 稼ぐすべが無いと元の木阿弥だぜ。
 それに、俺も嫁が増えたんで、少し稼いでおかないと。
 ギルドの給金だけじゃ、心許ないからな。」

 それはおいらの即位お披露目よりも前のこと。
 おいらが冒険者の登録制度を創り、冒険者研修を設けると決めた時に、父ちゃんとタロウから色々と意見を聞いたんだ。
 その時、タロウから受けた提案があったの。
 タロウの望むことは、おいらじゃ難しかったんでアルトに相談してみたんだけど。
 アルトは、ある条件と引き換えに引き受けてくれたの。

「ゴメン、あれ、アルトに任せっきりになってた。
 今晩、アルトが戻って来たら、どうなっているか聞いてみるよ。」

 因みに、それが半月ほど前のことで。
 すっかり忘れてたけど、その時、おいらは大工さんに発注しておいたものもあったんだ。
 もうそろそろ、それも完成するはず。

 ギルドを出て王宮へ戻ると、おいらは宰相のもとを訪ねたの。
 おいらが大工さんに発注したものはどうなっているかって尋ねるために。
 ちょうど完成したところだそうで、おいらに報告しようとしてたんだって。

 その晩、スフレ姉ちゃんの訓練から返って来たアルトに尋ねたところ、頼んでおいたものはもうできているみたい。
 おいらが、冒険者ギルドの件でちょくちょく留守にしていたものだから、知らせる機会が無かったそうだよ。

 と言うことで、翌朝、さっそくアルトに連れて行ってもらうことにしたの。
 おいらとオラン、それにタロウと父ちゃんも連れてね。

「どう、立派な森でしょう。」

 アルトは森を前にして自慢気に言っていたよ。
 王都の東側の門を出て、子供の足でも一時間もかからないような至近距離にその森はあったの。
 おいら達はその森の前で『積載庫』から降ろされたんだけど。

「凄い広い森なのは分かるけど…。
 この森って最初からあった森じゃないの?」

 おいら、アルトに尋ねちゃったよ。だって、何の変哲もない森なんだもの。
 王都は西側には広大な農地が広がり、東側と南側は手付かずの自然が残っていると聞いてたから。
 目の前の森は前からあったモノだと思ったんだけど。
 
 するとアルトは拗ねたような顔をして。

「失礼ね、この辺り一帯はゴツゴツとした岩が多くて低木の一本も生えて無かったのよ。
 岩がちの地面に雑草が生い茂る草原だったの。
 私が『積載庫』の中で苗木を育てて、大木となったところで植林したのよ。」

 何と、目の前の広大は森は人工林だったよ。
 草原から地面の土を丸く抉り取って『積載庫』の中に納めるんだって。
 そうしてできた丸い穴に、苗木を大木まで育てたものを植えたみたい。
 それじゃ、普通は枯れちゃうんだけど、『妖精の泉』の水を与えることで地面に根を這わさせるんだって。
 アルトの『積載庫』、大活躍だね…。

「こっちよ。」

 アルトに先導されて森の中に入ると。
 すぐに広場があって、さらにその先には見慣れた木がもの凄い数林立していたよ。

「これは、全部、トレントの群落ですか?
 こんなだだっ広いトレントの森は見たこと無いのですが。」

 父ちゃんが驚きを隠せない様子で、アルトに尋ねたの。
 広場の向こうに林立するのは、お馴染み三種類のトレント、多分数千ではきかないくらい生えてる。

「イヤね、トレントばかりじゃ、私の別荘にならないじゃない。
 この森の奥の方半分は、普通の森よ。ただし、私のテリトリーだけど。」

 そうこの広大な森の半分は、アルトの別荘、『妖精の森』なんだ。
 アルトはこれからも時折、おいらの所へ様子を見に来ては色々と協力してくれると言ってくれたけど。
 王都の近くは森が無くて落ち着かないと言ってたの。
 森に住まう民である妖精にとっては、森が無い場所は我慢できないらしいの。

 それで、今回、おいらのお願いを聞いてくれる引き換えが、アルトのテリトリーを好きなように設けることだったの。
 この森、アルトが長をする『妖精の森』みたいに妖精が沢山いる訳じゃないけど。
 アルトの結界に護られていてアルトの許可が無いと入れないんだ。
 実は、それ、今回のおいらのお願いに好都合なんだけどね。

        **********

 それで、おいらのお願いというのは。
 冒険者が真っ当に稼げるように、トレントの森を王都の近くに作ってもらうことだったの。
 せっかく冒険者研修をしてトレント狩りが出来るようになっても。
 肝心のトレントが王都から馬車で一日以上かかるところにしか生えてないんじゃ、狩りに行く者は少ないだろうからね。
 それじゃ、宝の持ち腐れになっちゃうし、狩りに行かずに冒険者ギルドにたむろってんじゃ元の木阿弥にもなりかねない。

 タロウの故郷じゃ、『小人閑居して不善を為なす』と言う諺があるらしいの。
 しょうもない人間が暇していると、ろくなことをしないって意味らしいけど。
 それって、冒険者にもピッタリ当てはまるよね。
 冒険者ギルドにたむろってると、ロクでもないことをしでかすのが目に見えるようだもん。
 それで、近場に稼ぐことが出来る狩場を設けた方が良いって、タロウが強く主張したんだ。

 そんな訳で、アルトの森を作るのと引き換えにトレントの狩場を作ってもらったの。

 出来上がったトレントの森を目にして、タロウは満足そうだったよ。
 自分でも毎朝、ギルドに出勤する前にトレント狩りをするなんて意気込んでた。
 お嫁さんが増えたから稼がないといけないって。

 トレントの狩場の運用の仕方も決まっているの。
 狩場は、管理局に登録した冒険者なら誰でも無料で利用できることにするんだ。
 但し、アルトのテリトリーだから、許可のない人は結界で弾かれちゃう。
 そこで、アルトの許可をもらった『タロウのギルドの職員』が毎日何往復か馬車で森まで送り届けるの。
 馬車に乗せて結界を通過させるんだって、アルトは許可した者が一緒なら可能だというから。
 アルトの結界があるのは、とっても都合が良いんだ。
 ここ、王都から近いから戦う力のない人が迷い込んだら大変だもの、特に子供なんかがね。
 
 当然、馬車で送迎される冒険者は、大量の『シュガーポット』などや『スキルの実』は持ち運べないから。
 森の中に『タロウのギルド』の買取所を設けることにしたよ。
 冒険者は送迎の馬車を降りると、そこで荷車を借りてトレントを狩るの。
 収穫物を荷車に載せて馬車の停留所まで戻ってくると、そこにある買取所で買い取ってもらう仕組みなんだ。

 それで、買取所だけど。

「じゃあ、アルトが平らに均してくれたこの場所に置くね。
 これ、昨日完成したばかりなんだ。」

 おいらは『積載庫』の中から買取所を出したよ、木造二階建のそこそこ立派な建物。
 大工さんに、地面に固定しない形で造ってもらって『積載庫』に積んで持って来たの。

「こりゃ、随分と本格的な建物を造ったな。
 俺、工事現場に置いてある四角のプレハブ事務所をイメージして頼んだんだけど…。
 まさか、こんなでっかい建物を持ってくるとは思わなかったぞ。」

 現れた建物を目にして、タロウがそんな風に驚いてたよ。
 この建物、やっぱり、タロウに頼まれていたもので。
 タロウの故郷では完成した建物を現場に設置して使うって聞いたんだ。
 なんでも、トラックとか言う荷車で運搬するんだって。
 そんなモノが出来ないかと頼まれて、大工さんに造ってもらったんだけど、何か違っていたみたい。

 因みに、買取り対象は『シュガーポット』などトレントに生る『実』と『スキルの実』だけだよ。
 トレントの本体は買い取り対象外、だって現状、何処の国でもトレント本体は放置されちゃうものだもの。

 『トレント本体』と未結晶の『生命の欠片』は、資源としておいらが有り難く活用させてもらうことにするよ。 

 これで、冒険者の育成、更生の仕組みに加えて、冒険者が稼ぐすべも作ったよ。
 後は、どれだけの冒険者が心を入れ替えてくれるかだね。

 父ちゃんとタロウの手腕に期待だね!
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