ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第355話 タロウの所へ連れて行くと…

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 冒険者研修を修了したお姉さん達五人に、タクトー会に勤めることを勧めてみたよ。
 冒険者ギルドってイメージ最悪だから、お姉さん達も最初は渋ってたけど。
 月々銀貨三百枚の給金に加え残業手当まで付くと説明すると、お姉さん達は俄然前向きになってくれたんだ。
 そんなお姉さん達を連れて、おいらは『タクトー会』を訪ねたの。

 『タクトー会』の本部に入ると。

「こら、おまえ等、なに昼間っからこんな所にたむろっているんだ。
 依頼をこなせって、口を酸っぱくして言っているだろうが。」

 タロウが、典型的なダメ冒険者もどきの尻を叩いていたよ。

「いや、旦那、そんなことを言われてもなあ。
 俺達、今まで『みかじめ料』の徴収で、小遣い銭をもらって食って来たからな。
 ウサギ狩りなんてやったことがありませんぜ。
 かと言って、この歳になってドブ攫いなんてしてたら、堅気の連中に舐められちまうし。
 だいたい、このギルドの一番の収入源の『みかじめ料』を金輪際やめろだなんて無茶も良い所ですぜ。
 それじゃ、俺達にどうやって食っていけって言うんですかい。」

 いかにもならず者って言葉が返って来たものだから、タロウは頭を抱えていたよ。

「そうか、分かった。
 俺は、暴力は嫌いなんだが仕方がねえな…。」

 そう言うと、タロウはいきなりたむろっている一人の腹に拳を入れたんだ。

「うごっ!」

 悲鳴にもならないうめき声をあげると床で悶絶する中年男。
 すると。

「テメエ!
 お上に送られて来たってことで、下手に出てれば調子こきやがって。
 もう勘弁できねえぞ。」

 その仲間が、剣を手にしてタロウに襲い掛かったよ。

「こいつら、すぐに殺しに来るから嫌になるんだよ。
 この血の気の多さはどうにかならんのかね。」

 タロウはそんな愚痴を漏らしながら、襲い掛かってきた連中を素手で殴り倒していたよ。
 タロウも何度か修羅場を潜り抜けたおかげで、チンピラには臆すことが無くなったね。

 その場にたむろっていた六人全員を殴り飛ばしたタロウは、何故か腰につけている縄で全員を縛り上げたんだ。
 そして。

「悪いが、誰かこいつらを『冒険者管理局』の事務所へ連れて行ってくれ。
 こいつ等に、『冒険者研修』を受けさせるんだ。
 そうすりゃ、少しは性根を叩き直せるかも知れないからな。」

 どうやら、こんな事が日常茶飯事なものだから、捕縛用の縄を常に腰につけているようだね。
 冒険者登録の受付を始めた初日から、タロウはこうして『冒険者研修』の受講者を連れて来てくれるんだ。
 おかげで、『冒険者研修』は閑古鳥が鳴くことが無くて助かってるよ。

「そいつらが、今日の冒険者登録の申請者かな。
 それなら、おいらが帰り道に管理局に渡しておくけど。」

 どうせ帰り道だし、護衛のルッコラ姉ちゃんも付いているから、連行も楽だしね。

「おう、マロン、助かるわ。
 みんな、色々と忙しいから。
 こんな出来損ないの相手をしてる時間が勿体なくてな。」

 相変わらずタロウは遠慮が無いね、こいつ絶対においらを女王だと思ってないよ。

「気にしなくて良いよ。どうせ帰り道に管理局の前を通るから。
 それより、このギルドに勤めても良いって言ってくれた人を連れて来たよ。
 人手を増やして欲しいって言ってたでしょう。」

 おいらが、就職希望者を連れて来たことを告げると。

「おおっ、そいつは助かるぜ。
 後ろにいる五人がそうなのか。」

 そう言って、タロウの表情がパッと明るくなったよ。
 さっきまで冒険者を相手にして、ウンザリした様子だったのにね。

      **********

「このお姉さん達、今日、冒険者研修を終えたんだ。
 冒険者登録した女性第一号だよ。」

 おいらが連れて来た五人を紹介すると。

「おお、俺はマロンからこのギルドを任されているタロウって者だ。
 しっかし、あのカリキュラム、女の人でもクリアできたのか。
 それは、頼もしいな。
 でも、良いのか?
 ここに勤めるより、冒険者をしていた方が稼げるだろうが。」

 タロウはお姉さん達の真意を確かめるようにそんなことを尋ねて来たよ。
 タロウは『にっぽん』というところからやって来て、二年もしないで銀貨何十万枚も稼いで豪邸を手に入れたモノね。
 アルトに連れられて、一年以上毎日トレントを狩っていたから凄い稼ぎになったんだ。

「ウサギは可愛いから狩るのが忍びないし、トレントは狩場が遠くて狩りに行くのが大変そうだし。
 それを気にしないなら、確かに冒険者は稼げるでしょうけど。
 私達はなんかイヤだなって思って、他の仕事を探そうと思ってたんです。
 そしたら、女王様がこちらを紹介してくださったのです。」

 お姉さんの一人が、おいらに話した事とほぼ同じ内容をタロウに説明してた。
 野宿は絶対にしたくないと、力説していたよ。

「それに、冒険者の仕事って若いうちしか出来ないような気がして。
 歳をとって体力が衰えたら、続けられないんじゃないかって。」

 別のお姉さんはそんなことも言ってたよ。

「まあ、確かに若い女の人の野宿は物騒だからな。
 俺はアルト姐さんに連れて行ってもらえたから、冒険者を続けられたが。
 野宿をしながら狩りをやれと言われたら、早々に逃げ出してたと思うわ。
 それに、歳をとると冒険者は辛いかも知れないな。
 採集が中心なら狩りよりは長く続けられるだろが。
 それでも野山を歩き回らないといけないからな。
 そう言うことなら、ここで働いてもらえると有り難いぜ。」

 タロウはお姉さん達の言葉に納得したようで、歓迎してくれたんだ。

「ところで、ここに転がっている人達なのですが…。」

 お姉さんの一人が、足元に転がっている冒険者を見ながらタロウに尋ねたの。

「おう、さっきはみっともないところを晒しちまって申し訳ないな。
 俺がこのギルドを任されてから、心を入れ替えて働けと口を酸っぱくして言ってるんだが。
 口で言っても分かんねえ奴が多くてよ。
 こうして少しお灸を据えてから、冒険者研修に送って性根を叩き直してもらってるんだ。」

「タロウさん、見かけによらずお強いのですね。
 こう言っては失礼ですが、何か頼りない感じで…。
 とても強いようには見えないんですが。」

 本当に失礼だよね、確かにタロウって線が細くて、ちょっと頼りなさげに見えるけど…。
 何度も修羅場を潜って以前ほどビビりじゃなくなっているし、レベルだって三十を超えて滅茶苦茶強くなってるからね。

「俺、そんなに強くねえぞ。
 それに、俺、根がチキンだから、荒事は苦手なんだ。
 俺が強いと言うより、こいつらが弱いだけだな。
 まあ、それなりに強ければ、狩りでも何でもやって稼げるからな。
 町の人相手に『みかじめ料』をせびるしか能がない輩なんて、見かけだけだよ。」

 謙虚なのか、本当にそう思っているのかはわからないけど、タロウは控え目な答えを返したの。

「でも、そんな人を冒険者研修に送って、性根を叩き直すって。
 そんな事が可能なのですか?
 もう除名してしまって、このギルドへ出入り禁止にした方が良いんじゃ。」

 足元に転がる冒険者を呆れ顔で見ながら、そんなことを口にしたお姉さんもいたよ。

「それが、冒険者ギルドの本来の役目だからな。
 これは、そこにいる女王様、マロンの受け売りだけど。
 冒険者ギルドってのは、元々冒険者を束ねて管理するために創られたモノなんだってさ。
 こいつを除名しちまったら、どこで悪さをするか分からねえからな。
 冒険者を野放しにして街中で悪さをしないように、首に鈴をつけて飼い慣らすのがギルドの仕事なんだ。
 マロンが冒険者の登録制度を創って研修を施してくれるから、少しはやり易くなったと思うよ。」

 タロウが言う通り、本来冒険者ギルドは冒険者を管理するための組織なんだよね。
 数多いる冒険者を役所が一々管理するのでは目が届かないから、ギルドに冒険者を統率させようとしたの。
 役所を冒険者ギルドを監視、監督することで、冒険者を間接的に統率しようとしたんだね。

 それがいつの間にか、冒険者ギルド自体がならず者の集団と化してしまって。
 更には、国の監査や指導も形骸化しちゃって制御不能に陥ってしまったんだ。
 中には冒険者ギルドが、監視役の貴族に賄賂を贈って、便宜を図ってもらうことも横行してたの。
 悪事を目溢ししてもらったり、悪事に加担させたりって事まで起きる始末だったみたい。

 それは何処の国でも一緒で、トアール国でもギルドと貴族の癒着がみられたし、この国でもそうだった。
 『タクトー会』と癒着してた貴族が、捕らえたタクトー会の幹部を解放するように圧力を掛けて来たものね。
 おいらは、即行でその貴族を取り潰したけど。

 タロウは、冒険者研修開始初日から、冒険者を送り込んでくれたけど。
 前日、初日に連れて来た連中が研修を修了しているんだ。

「みんなも経験したと思うけど。
 冒険者研修って、結構大変だったろう。
 俺が初日に送り込んだ十人も昨日研修を修了して、無事冒険者証を貰って来たが。
 すっかり、真人間になっていたぜ。
 ここに出入りしている冒険者を全員研修に送り込む予定なんだが。
 かなりの数が更生出来るんじゃないかと思ってるよ。」

 最初に研修を終えた十人は、かなりの効果があったらしいよ。
 前日話を聞いた田舎から出て来た三人組と同様、罪人と一緒にしたのが効いたみたい。
 今までお目溢ししてもらえたような罪で次々と捕らえられてくる冒険者を目の当たりにしたからね。
 明日の我が身に映ったらしく、これからは堅気に生きないと拙いと悟ったみたいだよ。

 何せ、不良冒険者を更生させることが出来るのなら目論見通りだね。
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