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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第354話 女性冒険者誕生!・・・か?

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 そして、冒険者研修を始めて九日目、その日は登録冒険者、女性第一号が出る予定だったの。
 夕方、おいらはトレント本体と『生命の欠片』を回収しに行くかたわら、修了予定のお姉さん達の様子を見に行ったの。

 研修施設に着くと既に研修は終わっていて、今日の修了生に冒険者証と研修中の獲物の分配金が渡されたところだったよ。

 おいらのお目当ては、田舎から仕事を求めてやって来た五人のお姉さん。
 正確には、二人連れと三人組だね。
 別々に管理局の事務所にやって来たんだけど、女性五人でグループを組んで研修に臨んでもらったの。

「あっ、いた、いた。
 お姉さん達、冒険者研修はどうだった? 研修は合格したかな?」

 お目当ての五人を見つけて声を掛けると。

「あっ、小っちゃな女王様だ! 
 女王様、こんにちは。
 はい、五人とも無事に冒険者証を手に入れました。
 それに、こんなに一杯、銀貨をもらいっちゃいました。」

「ホント、こんなに貰えて、助かりました。
 これだけあれば、物騒な安宿じゃなくて、ちゃんとした宿に泊れますし。
 何なら、二人で借家を借りて暮らすことだって出来そうです。
 あの時、管理局の事務所に行って良かったです。」

 二人連れのお姉さんが、銀貨の詰まった袋を掲げて、ホクホク顔で言っていたよ。
 この二人は田舎から駅馬車で着いて、早々に冒険者管理局を尋ねてきたんだったね。
 管理局の入り口前に立てられて看板を見て。

「私達も、何のアテもなく王都へ出て来たのでこの研修は助かりました。
 食事と宿を無償で提供して頂いた上に、稼ぐ術、身を守る術を教えて頂けたのですもの。
 しかも、こうして報酬まで頂いてしまって申し訳ないです。」

「ホント、私達、無茶していたんですね。
 あのまま、仕事を探して町でウロチョロしてたら、絶対悪い奴らのカモになってました。
 街で捕えられた罪人が次々送られて来て、…。
 そいつらの罪状を見てると『強姦未遂』とか、『婦女暴行』とか…。
 捕まった罪人は氷山の一角で、王都にはあんな連中が沢山いるのでしょうから。
 私達がいつ被害者になってもおかしくないってことを思い知らされました。」

「研修中、ガラの悪い冒険者達が、意外に弱いことが分かったのも良かったかも。
 私達をしつこく勧誘してきた連中、ウサギに蹂躙されてたんですよ。
 私達だって倒せたと言うのに、あいつらウサギに噛みつかれてボロボロになってました。
 それで、あいつらが見掛け倒しだって分かったんです。
 もう、冒険者なんて怖くないです。」

 こっちの三人組は、冒険者に囲まれて無理やり『風呂屋』の泡姫さんにさせられそうになってたんだよね。
 間一髪のところで、騎士のお姉さんに助けられたの。
 その時、捕縛した五人が更生措置を受けさせた第一号なんだけど…。
 あいつらもウサギに蹂躙されたのか…。
 まあ、泡姫の勧誘なんてしてる時点で雑魚だとは思ってたけど。

 五人とも、トレントを前にしても怯まないだけの胆力が付いて、もう冒険者なんて怖くないって言ってたよ。 
 実際、冒険者を名乗るならず者の大部分は、見掛け倒しの雑魚なんだけど。
 連中が怖いのは、その実力じゃなくて、殺しを躊躇しないで剣を振って来ることなんだよね。
 それも、かなり安易に。

 だから、この五人組みたいに冒険者を侮り過ぎるのも問題なんだけどね。

      **********

「それで、お姉さん達はこれからどうするつもり?
 冒険者になる? 結構稼げると思うよ。」

 おいらは、五人に今後の進路を尋ねてみたの。

「うーん、冒険者にはならないかな。
 ここに居る五人で、研修が終わったらどうするか相談してたのよ。
 ウサギやトレントを倒すのって、思っていたより難しくないことは分かったけど。」

「ウサギはねえ…。
 研修で狩りの課題だと言われて狩ったけど。
 幾らお金のためとは言え、あのつぶらな瞳を見てたら可哀想で狩れないわ。」

「かと言って、トレントもね。
 研修期間中、男の研修生や管理局のお姉さんに尋ねてみたんだけど。
 日帰りで行ける範囲には、トレントの森ってないそうじゃない。
 トレントを狩るには荷車を引くか、荷馬車に乗って遠出しないとダメだって。
 町や村の近くにトレントの森があるとは限らないそうだし。
 そうすると野宿をしなくちゃいけないからね。」

「そうそう、野宿は嫌ねって、みんなで言ってたのよ。
 虫とか、蛇とか、危ない魔物とかもいそうだし…。
 野盗に襲われる心配もあるから、安心して眠れそうにないわ。
 トレント狩りの道中は、女の子にとって、トレントを倒す以上に難しそうだもの。」

「だから、落ち着いて王都で仕事を探しましょうって事になったの。
 幸い、この研修で貰った報酬で懐は温かいし、焦って探さなくても大丈夫だから。」

 五人で話し合った結果はそんな事らしいよ。
 この五人の考えは結構的を射ていると思う。

 研修じゃ、トレントを倒してすぐにお金に換えられたけど。
 実際には、お姉さん達の推測通り、ここから一番近いトレントの狩場は荷馬車じゃ一日かかるんだ。
 おいら達はアルトの『積載庫』に乗せてもらって飛んで行くから、半日で帰って来るけどね。

 当然荷車を引いて歩くのは無理に等しいよ、『スキルの実』の賞味期限は三日だかね。
 重い荷馬車を引くと歩くより時間が掛かるんで、持って帰ってくるまでに『スキルの実』が腐っちゃうよ。

 しかも、周りに町や村なんかない場所らしいから、お姉さんの推測通り野宿になるしね。
 行くだけでも疲れちゃうんで、集中力が落ちてトレント狩りに手こずるかも知れないんだ。

 だから、研修の結果だけを見て、安易に冒険者になろうと思わないのは正解だと思うよ。

       **********

「それじゃ、お姉さん達に仕事を紹介してあげようか。
 色々と、考えていることがあって、人手が沢山必要なんだ。」

 冒険者にはならず、仕事を探すという五人においらはそんな提案をしたんだ。

「女王様が仕事を紹介してくれるって。
 もしかして、それは王宮勤めか?」

 若い娘さんには王宮勤めって憧れなのかな? 興味津々って感じで食いついて来たよ。
 でも、王宮の仕事って表の仕事は貴族だけで、平民を使うのって下働きだけなんだよね。
 水汲みとか、洗濯とか、調理場の食器洗いとか、重労働ばかりで割の良い仕事じゃないよ。
 掃除ですら、人前に付く場所は貴族の娘さんがしているんだから。

「違う、違う、幾ら女王だからって、王宮勤めを勝手に決めることは出来ないよ。
 この国最大の冒険者ギルドで、『タクトー会』ってのがあるんだけど。
 幹部連中のおイタが過ぎたんで、全員処刑しちゃって、王宮の管理下に置いたんだ。
 そこが人手不足なんで、どうかなと思って。」

 タロウが、人手が足りないってぶうぶう言っているからね。
 適当に採用して良いよって言っといたけど、忙しくて求人まで手が回らないみたいだからね。
 それと、タロウの所には、ひとつ重要な仕事を託したいと思ってるから。

 おいらが冒険者ギルドの仕事を紹介すると、お姉さん達は露骨に嫌な顔をして。

「ええっ、冒険者ギルドですか…。
 冒険者ギルドって言えば、悪の巣窟みたいな所ですよね。
 犯罪者予備軍が、管を巻いているような。」

 そんな不満が漏れ聞こえて来たよ。
 だから、王宮の管理下に置いたって言ってるでしょう。悪の巣窟は掃除済みだよ。

「今のギルド長は、おいらが任命した信頼のおける人だよ。
 タロウって言うんだけど、出入りしている冒険者を厳しく躾けているから安心して良いよ。
 皆にしてもらうのは、冒険者の仕事の管理とかが主だけど。
 それ以外にも、新しい仕事を委託することを検討しているから。
 何をしてもらうかは、タロウと相談して決めてもらうことになるよ。」

 おいらは、タロウと相談して決めた『タクトー会』の初任給も教えてあげたよ。

「銀貨三百枚…。それ、毎月の給金ですよね。
 固定給で、そんなに貰えるんですか。」

 銀貨三百枚という水準は、王宮の下級官吏の初任給から持って来たんだ。
 下級官吏と言っても殆どは貴族の子息だから、市井の給金よりずっと高いよ。
 冒険者ギルドを立て直すために良い人材に来てもらおうってことで、破格の給金にしたんだ。

「そうだよ、ちゃんと七日に一日休みもあるよ。
 一日九時間勤務で、間に一時間休み時間があるから、実質八時間労働だね。
 それを超えたら残業手当も付くから安心して。」

「えっ、残業手当ですか? そんな言葉初めて聞きましたが。 
 そんなものまで貰えるんですか。」

「うん、実は王宮でも聞いたことが無いって宰相が言ってたよ。
 でも、残業手当てを出さないと『ブラック』になるって、タロウが譲らなくて。
 何でも、タロウの父ちゃん、『ブラック企業』って所にお勤めなんだって。
 一緒に住んでいるのに、二年くらい顔を見たことが無いって言ってた。」

 タロウは、『ホワイト』なギルドを目指すなんて意味不明な事を言って意気込んでいたよ。
 『ブラック企業』とか、タロウの言ってる内容は良く理解できなかったけど。
 働いた分の給金は支払うというタロウの主張は納得できたんで、残業手当を認めることにしたんだ。 
 でも、おいら、タロウに言っといたよ、「そんなに長い時間働かせないで、定時で帰るようにしなよ。」って。

 そしたらタロウが言うの、「人を増やしてくれ。」って。
 だから、こうして勧誘しているんだ。
      
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