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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第353話 第一陣の冒険者研修終了、その結果は?

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 冒険者研修、朝、日の出前に起床して町の掃除をして、午後、狩りの実習をする。
 おいらが視察したのはそれだけだけど、実際は八日間、そればかりをしていた訳ではないよ。

 午前中は、毎朝町の掃除が終わったら朝食になって、その後は鍛錬の時間を設けているんだ。
 そこでは、剣の素振りの他、槍、弓の扱いなんかも教えることになっているの。
 昼食後は、ウサギやトレントを狩り、それを王都へ売りに行くでしょう。
 戻って来たら、夕食まで父ちゃんの講話があるの。
 冒険者の心構えや冒険者が守らないといけない法の説明をしてもらってるの。
 冒険者の心構えは、父ちゃんがジロチョー親分から教えられたことを話してもらってる。

 冒険者研修を始めてすぐに問題も起こったよ。
 おいらも、父ちゃんも、それに計画に加わったみんなも想定外のことが起こったんだ。

 当初、男女各五十人くらいの宿泊施設があれば十分だろうと思っていたんだけど。
 強請りを未遂で捕縛した時みたいな微罪に対して課す更生措置を、当初、冒険者研修と一緒にしたのが拙かったの。
 強請りや『みかじめ料』の強要、更には冒険者同士の喧嘩などで、捕縛される愚か者が想定外に多かったんだ。
 冒険者研修を開始して三日で、宿泊施設のキャパを超えちゃった。

 仕方がないので、研修生と犯罪者の宿泊施設を分けることにしたよ。
 更生措置を受ける犯罪者用に大急ぎで掘っ立て小屋を造ったんだ。
 王都にいる手隙の大工さんを総動員して一日で造ってもらったの。
 掘っ立て小屋と言っても簡素なだけで、堅固な造りの建物だよ。
 窓には頑丈な鉄格子を嵌めたし、重厚な出入口の扉の外側には太い閂が通してあった。
 脱走されたり、女性の部屋に夜這いを掛けられたら困るからね。

 まあ、急ごしらえなんで、脱走対策に建物を頑丈にした以外はいい加減な造りなんだけどね。
 そこそこ広い建物中は、広い一つの土間と隅っこにと共同のトイレがあるだけ。
 その土間に、簡素なベッドが五十台以上、ぎゅうぎゅうに詰めて並べられてたよ。
 大きな土間に鉄格子の小さな窓が幾つかあるだけだから、昼間でも薄暗いんだ。
 いかにも監獄といった感じなの。

 おいら、犯罪者とは言え、ここで一月寝泊まりさせるのはあんまりじゃないかと思ったけど。
 宰相は罪人に対する監獄ならこんなものだと言ってたよ。
 むしろ、研修生と同じ食事を与える分だけ、他の囚人より待遇が良いってくらいだってね。

 そうは言っても、食事はちゃんとしたものを与えないとね、
 一月近く、延々とトレント狩りをさせるのだから、食事位ちゃんとさせないと途中で倒れちゃうからね。

 そうそう、罪を犯して更生措置を課された者には、首から看板をぶら下げさせてるの。
 そこにはその者の名前が記され、『私は、○○の罪を犯して更生措置を課されてます。』と大書されてるんだ。
 就寝時以外は常に首からぶら下げていることが義務付けられてるの。

 この罪を犯した冒険者に対する更生措置は、冒険者研修を受けている研修生たちに衝撃を与えたみたいなんだ。
 首からぶら下げた看板に記された罪状が、『強請り』とか、『強姦未遂』とか、『みかじめ料強要』とか…。
 自分達にも身に覚えのある罪状の者ばかりだったから。

 自分達が今まで当たり前にしてきたことが、罪として裁かれるということを認識させられることになったし。
 罪状を記した看板をぶら下げて町の掃除をさせれるなんて、晒し者のような状態になってしまう。
 更には、薄暗い部屋にすし詰めにされた挙句、一月近くトレント狩りをさせられるんだもの。

 研修生たちは、今まで通りに悪さをしていたら、とんでもない目に遭うと思い知らされたんだ。

       **********

 そして、冒険者研修を開始してから八日目、初めて冒険者研修を修了した人達が出る日を迎えたの。
 冒険者登録の申請受付初日に申請したのは十八人、はてさて、どんな結果になったかと見に来たのだけど。

 因みに、冒険者登録をするためには、八日間の冒険者研修をクリアすることが必要で。
 そのためには、五人組で助力を得ずにトレント狩りに成功することと簡単な試験に合格することが必要なんだ。
 本当に簡単な試験で、設問が二十個あって、冒険者がその行為をしても良いければ〇、ダメなら×を付けるというもの。
 答えは全て×、この設問、冒険者が犯しがちな違法行為を並べただけなんだ。
 強請りとか、喧嘩とか、不良冒険者が良くやることが、違法行為だと注意喚起するだけのものなの。
 それも、研修期間中の講話で説明したことばかりだから、これに〇を付けるようならダメダメだよ。

 おいらが、様子を窺っていると。

「あっ、女王様、またいらしたんですか。
 見てくださいよ、これ冒険者証ですぜ。
 俺っち達、全員、冒険者登録が出来やした。」

 『カザミドリ会』の連中からそんな声が掛けられたの。
 声の主の手許を見ると、金属製の薄いカードが銀色に輝いてたよ。

 そのカードには、『冒険者証』の文字と発行元である『冒険者管理局』の文字が予め浮き彫りで記されているの。
 更にその外周部分には、偽造防止のために小洒落た装飾が施されているんだ。
 カードの中央部分は余白になってて、登録者の名前と誕生日、それに通し番号が刻印されるようになってるの。
 毎日夕方、カード作成を依頼した鍛冶屋さんから人を送って貰い、その日の研修修了者の刻印をお願いしたんだ。

「全員、無事に冒険者登録できたんだ。良かったね。
 これからは悪さをしちゃダメだよ。
 五人で力を併せれば、狩りでもなんでも稼げることが分かったでしょう。」

 おいらがお祝いを兼ねてそう伝えると。

「そうそう、俺っち、渡された紙を全然読んでなかったもんだから。
 研修中に倒したウサギやらトレントやらの報酬を渡されて驚きやした。
 見てくださいこの袋、銀貨三千枚以上入ってるんですぜ。
 こんなに稼げるのなら、これからは真面目に狩りでもしようと話してやした。
 ちんけな悪さをしてお縄になったら、割に合わないでやすからね。」

 連中の一人がそんな風に答え、もう悪さはしないって言ってた。

 『カザミドリ会』の連中、銀貨で大きく膨らんだ布袋を手にして嬉しそうにしてたよ。
 今日手渡された銀貨三千枚で、貸家を借りてギルドの大部屋住まいからも脱却するって。
 狩りに出る時に都合が良いので、広い家を五人で借りて共同生活をするつもりらしいよ。
 
 少なくても、この五人組に関してはおいらの思惑通りに誘導されてくれたみたいだよ。

       **********

 そして、問題の田舎から出て来た三人組はというと。

「おい、お前、本当に里に帰るのか?
 俺達は二人は、王都で冒険者をやろうと思ってるんだが…。」

 そんな声のした方を見ると。

「帰るのかも何も、俺は冒険者登録が出来なかったし。
 もう、剣も管理局に渡しちまった。
 そもそも、冒険者をやってけるとは思えねえよ。
 女共でもトレントが狩れると言うのに、俺はケガしてばかりだ。
 田舎じゃ粋がっていたが、自分がとんだ雑魚だと気付かされちまったよ。
 まあ、失敗ばかりしてたのに、銀貨三千枚も手に入ったから御の字だ。
 没収された安物の剣に、田舎との往復の旅費を考えても、十分元は取れたからな。
 田舎に帰って、親父に頭を下げて、これからは堅気に野良仕事でもするよ。」

 最初から文句ばかり言ってたニイチャンは、冒険者登録が出来なかったみたいだね。

 三人組のうち会話に加わっていないもう一人に、おいらは声を掛けてみたんだ。

「どうやら、一人だけ冒険者登録が出来なかったみたいだね。
 真面目に研修を受ければ、誰でも登録できるようにしたはずなんだけど。」

「あいつにとって冒険者ってのは、弱い者を強請ったり、女を食い物にして楽に生きるもんだったんだ。
 だけどよ、女王様がそんな冒険者を厳しく取り締まっているんだろう。
 今日も、あいつが考えていたような冒険者が、いっぱい捕まって送られて来てるもんな。
 あいつもやっと理解したんだ、従来のような冒険者じゃ、食っていけないって。」

 あのニイチャンにとってあるべき冒険者の姿は、おいらが撲滅を目指している冒険者だったからね。
 次々と捕縛されてここに送られてくる罪人の罪状をみて、おいらが本気で取り締まっているとやっと気付いたみたい。
 そして、晒し者にされたり、監獄みたいな掘っ立て小屋に押し込まれたりといった、ならず者冒険者に対する仕打ちを見て。
 従来の冒険者は、もう成り立たないとようやく理解したようなんだ。

 まあ、それで、心を入れ替えて、真っ当な冒険者になろうと前向きになれば良かったんだけど。
 それは二日前のこと。
 あのニイチャン、相変わらずトレントの攻撃を食らってのたうち回っていたらしいの。
 その時、後から入って来た娘さん達の五人組がケガ一つせずにトレントを倒すのを見たらしいよ。
 それで悟ったらしいの、自分が同世代の娘さん以下の雑魚だってことを。
 そこで心が折れちゃって村に帰ると言い出したらしいよ、王都で生きてく自信が無いって。
 で、結局、最後はトレント狩りを放棄して、冒険者登録を辞退したらしいの。
 あれほど取り上げられることに抵抗してた剣を差し出してね。

 まあ、冒険者にならなくても別に良いんだ、堅気に生きていくと改心してくれたのならね。
 
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